魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
93 受けとめられた約束
「なんか久々だなー、ここ」
「え、そうなんですか?」
「おー、じじいに最初鍛えられた時になー」
「クレアとゆっくり話したい気持ちは仕方ないだろうが、そろそろ始めるぞ」
「ちょっ、レオンさん?!」
ロイドとクレア、そしてレオンはゲイン盗賊団との戦いの後に使っていたフェブル山脈中腹にある山小屋に来ていた。
ロイドの魔力操作の訓練の為なのだが、何故クレアまで居るかというと、試験場で盗み聞きしていたクレアが見つかった後の話によるものだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「クレア、なんでいんの?」
目元まで赤くしたクレアの登場に疑問をぶつけるロイドだが、クレアは見つかった事での苦笑いを辞めてロイドと、そしてレオンを見る。
「すみません、すごい魔力反応があったんで戻ってきました」
「あー……ん?」
言われてみれば当然の内容に、しかしだからこそロイドは首を傾げた。
「今更だけど、結構派手に暴れたよな」
おまけに天井には穴が。なのに、来たのがクレアだけ。
もっと教師なりが騒いでもおかしくないレベルだったと不思議に思うロイドに、リンドブルムが答える。
「ここは強力な防音と魔力遮断の機能があるからね。余程の感知能力じゃないと気付かれないよ」
「あー、なるほど」
そう言えばカインとの戦いでも何も言われなかったなと納得すると同時に、レオンとクレアの感知能力の鋭さに内心で舌を巻く。
「先輩、レオンさん……」
納得しているロイドを他所に、クレアは静かに、しかし力がこもったような声音で話し始める。
「私も手伝います……いえ、手伝わせてください!」
「クレア……」
試験場に響く声に、ロイドとレオンは目を丸くする。
「クレア、これは俺の都合が「俺達な」…俺達の都合が大半な上に、危険な事だ」
レオンの言葉に割って入るロイドに、しっかりと聞き入れて訂正するレオン。
そんな普段の2人からでは考えられない様子に驚くでもなく、クレアは一言。
「知りません」
「……クレア?」
「あー……」
ばっさり切り捨てるクレアに、レオンは小さく首を傾げ、ロイドは悟ったように天を仰いだ。
「レオンさんが個人的都合で、先輩は身内の為に、ですよね。だったら私は、やりたいからやります」
「いや、」
「レオンさん、私は邪魔ですか?」
これで結構クレアを可愛がっているレオンは、危険だと言葉を重ねようとしてーーしかしクレアは取り合わずに斬り込む。
その普段の柔らかな対応からは想像出来ないクレアに、レオンは戸惑う。
「……おいクソガキ、クレアが怖い」
「あれであいつはかなり頑固なんだよクソじじい。諦めろ」
小声で話す師弟に、クレアはさらに詰める。距離ごと。
「レオンさん、辛かったんですよね。それを晴らすの、先輩は手伝いたいんですよね」
ずんずんと歩み寄り、そして照れ屋な2人がなかなか出来ないストレート言い方をするクレアに、師弟はぐっと詰まりながらつい一歩後退る。
「だったら私も手伝います。2人とも、大切な人だから」
ロイドは言うまでもなく、レオンも自分を可愛がってくれているのは気付いていた。
そして、ロイドを鍛え、なんだかんだで信頼されている彼を尊敬もしている。
何より、ロイドがレオンの為に命を懸けるという。ならば、当然私も手伝うと彼女は迷いすらせずに決めていた。
そんな圧力に声を詰まらせるレオン。ついでに直接的な好意の言葉という流れ弾に同じく押し黙るロイド。
正直、ロイドに反論は無い。元後輩にして今では相棒のように思っている彼女の頑固さは、少なくともこの世界ではロイドが誰よりも知っている。
それにこれは身勝手な意見ではあるが、彼女と一緒になら1人でやるよりももっと険しい困難も乗り越えられると思えるのだ。
それがどんな感情から来ている気持ちなのかはロイド自身自覚はないまでも、そうした気持ち自体は確かにあった。
対してレオンも半分諦めていた。
聞き分けの良い素直な子だと思っていたクレアの頑固すぎる一面に面食らった部分はあるが、こうして伝えられる言葉には嘘も虚栄も感じない。
そして、今まで彼女がロイドと共にある為に強さを求めて努力している事も知っているし、ポテンシャルと努力に伴い身につけた力も非凡である事も。
ならば、きっと彼女の助けは力になるし、彼女の強く嘘のない意志を無碍にするのも違うと思っていた。
「むむ……」
だが、沈黙する2人の意思をクレアは読み違える。まだ躊躇っている、と思ったのだ。
「なんですか?仲間外れですか。レオンさんにとって私はいらない子ですか」
「え、っとだな、クレア……?」
「先輩もですか、そうですか。レオンさんの事大好きですもんね。私なんかよりも大好きなんですもんね」
「やめろクレア、今すぐに訂正しろ」
お願いしてダメなら頷かせる作戦に出たクレア。
向けられた矛先の予想外の鋭さに怯む師弟。
「私は前世から先輩と居たのに、レオンさんをとるんですか?」
「やめろ、なんかその話と並べて話すとより気分が悪くなる」
なんかBなLに聞こえかねない言い回しに、ロイドが本当に気分が悪そうに顔色を悪くする。そのジャンルを否定する気はないが、自分が絡むのは別だった。
だが、言っている内に勢いが止まらなくなったーー暴走を始めたクレアは止まらない。
「いつも楽しそうに掛け合いしてますしね!」
「いやそんな漫才みたいに。どー考えても言い争ってね?」
漫才かはともかく、言い争いよりはじゃれ合ってるようにしか見えない。
「私は、前世からこんなに先輩のこと好きなのに!」
「いやだから、そーじゃなくて……って、んん?」
「んん?じゃないですよ!聞いてるんですか?!だから、私は前世から……あ」
言われた内容と口にした内容に気付いて言葉を途切れさせる2人。一拍、ボッと2人の顔が赤くなる。
「ちっ、ちち違いますよ!先輩としてですからね!」
「わ、分かってるっての!てか紛らしい言い方すんなよな如月!」
明らかに手遅れな誤魔化しをするクレアと、動揺から前世の名前で呼んじゃうロイド。
そんななんとも入りにくい空気を作る2人に、古代から生きた2人は遠い目をする。
「……私は何を見せられてるんだい?」
「……それについては、謝ろう」
地味に相容れなかった2人を若干歩み寄らせた桃色空間に、しかし感謝する気も起きない。
そして、空気を変えるようにーー白い肌をこれでもかと赤くしてる時点で変わりようはないがーークレアは自棄気味に叫ぶ。
「とにかくっ!レオンさん、先輩、私も手伝いますからねっ!」
「あ、あぁ、頼む。ありがとうクレア」
「お、おー。よろしくな、クレア」
即決即断のレオンと、決めたら早いロイドの2人がどもりながら頷く。リンドブルムなどは普段ならからかいに走るだろうが、しかし今は流石に控えた。
「あ、てか手伝うのに条件があるわ」
「あ、はい、私も勝手に手伝うとは言え条件があります」
やっと話かまとまった、と思いきや思い出したように揃ってレオンに振り返るロイドとクレア。
なんだ?と視線でその条件を問うレオンに、2人は口を開く。
「『不死』が解けても、寿命くらいは全うしろよ」
「『不死』じゃなくなっても、自分で命は絶たないでくださいね」
異口同音でそれぞれの言いたいように同時に話す2人に、しかしレオンの耳はしっかりそれらを聞き取る。
――ソフィアのもとに……
そう言ったレオンの想いは否定しない。が、すぐにでも自らを殺して、となると話は違う。そう言っているのだ。
それを聞いて、レオンは本当に一瞬だけ目を瞑る。
――レオン、私の分も生きて
今でも鮮明に思い出せる、最愛の最期の言葉。
正直に言えば持て余しそうになった事もあった。最愛の気持ちを守る為に、時に歯を食いしばらなければならない事もあった。
だが、今。
こうして出口の見えない道の先が見え、そして2人の言葉を聞いてーーやっと、心からその言葉を受け取る事が出来たと思える。
「……当然だ。なんせ、」
――俺は、あいつの分も生きるんだから。
そう、本当の意味で、心から。口に出来た気がした。
「え、そうなんですか?」
「おー、じじいに最初鍛えられた時になー」
「クレアとゆっくり話したい気持ちは仕方ないだろうが、そろそろ始めるぞ」
「ちょっ、レオンさん?!」
ロイドとクレア、そしてレオンはゲイン盗賊団との戦いの後に使っていたフェブル山脈中腹にある山小屋に来ていた。
ロイドの魔力操作の訓練の為なのだが、何故クレアまで居るかというと、試験場で盗み聞きしていたクレアが見つかった後の話によるものだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「クレア、なんでいんの?」
目元まで赤くしたクレアの登場に疑問をぶつけるロイドだが、クレアは見つかった事での苦笑いを辞めてロイドと、そしてレオンを見る。
「すみません、すごい魔力反応があったんで戻ってきました」
「あー……ん?」
言われてみれば当然の内容に、しかしだからこそロイドは首を傾げた。
「今更だけど、結構派手に暴れたよな」
おまけに天井には穴が。なのに、来たのがクレアだけ。
もっと教師なりが騒いでもおかしくないレベルだったと不思議に思うロイドに、リンドブルムが答える。
「ここは強力な防音と魔力遮断の機能があるからね。余程の感知能力じゃないと気付かれないよ」
「あー、なるほど」
そう言えばカインとの戦いでも何も言われなかったなと納得すると同時に、レオンとクレアの感知能力の鋭さに内心で舌を巻く。
「先輩、レオンさん……」
納得しているロイドを他所に、クレアは静かに、しかし力がこもったような声音で話し始める。
「私も手伝います……いえ、手伝わせてください!」
「クレア……」
試験場に響く声に、ロイドとレオンは目を丸くする。
「クレア、これは俺の都合が「俺達な」…俺達の都合が大半な上に、危険な事だ」
レオンの言葉に割って入るロイドに、しっかりと聞き入れて訂正するレオン。
そんな普段の2人からでは考えられない様子に驚くでもなく、クレアは一言。
「知りません」
「……クレア?」
「あー……」
ばっさり切り捨てるクレアに、レオンは小さく首を傾げ、ロイドは悟ったように天を仰いだ。
「レオンさんが個人的都合で、先輩は身内の為に、ですよね。だったら私は、やりたいからやります」
「いや、」
「レオンさん、私は邪魔ですか?」
これで結構クレアを可愛がっているレオンは、危険だと言葉を重ねようとしてーーしかしクレアは取り合わずに斬り込む。
その普段の柔らかな対応からは想像出来ないクレアに、レオンは戸惑う。
「……おいクソガキ、クレアが怖い」
「あれであいつはかなり頑固なんだよクソじじい。諦めろ」
小声で話す師弟に、クレアはさらに詰める。距離ごと。
「レオンさん、辛かったんですよね。それを晴らすの、先輩は手伝いたいんですよね」
ずんずんと歩み寄り、そして照れ屋な2人がなかなか出来ないストレート言い方をするクレアに、師弟はぐっと詰まりながらつい一歩後退る。
「だったら私も手伝います。2人とも、大切な人だから」
ロイドは言うまでもなく、レオンも自分を可愛がってくれているのは気付いていた。
そして、ロイドを鍛え、なんだかんだで信頼されている彼を尊敬もしている。
何より、ロイドがレオンの為に命を懸けるという。ならば、当然私も手伝うと彼女は迷いすらせずに決めていた。
そんな圧力に声を詰まらせるレオン。ついでに直接的な好意の言葉という流れ弾に同じく押し黙るロイド。
正直、ロイドに反論は無い。元後輩にして今では相棒のように思っている彼女の頑固さは、少なくともこの世界ではロイドが誰よりも知っている。
それにこれは身勝手な意見ではあるが、彼女と一緒になら1人でやるよりももっと険しい困難も乗り越えられると思えるのだ。
それがどんな感情から来ている気持ちなのかはロイド自身自覚はないまでも、そうした気持ち自体は確かにあった。
対してレオンも半分諦めていた。
聞き分けの良い素直な子だと思っていたクレアの頑固すぎる一面に面食らった部分はあるが、こうして伝えられる言葉には嘘も虚栄も感じない。
そして、今まで彼女がロイドと共にある為に強さを求めて努力している事も知っているし、ポテンシャルと努力に伴い身につけた力も非凡である事も。
ならば、きっと彼女の助けは力になるし、彼女の強く嘘のない意志を無碍にするのも違うと思っていた。
「むむ……」
だが、沈黙する2人の意思をクレアは読み違える。まだ躊躇っている、と思ったのだ。
「なんですか?仲間外れですか。レオンさんにとって私はいらない子ですか」
「え、っとだな、クレア……?」
「先輩もですか、そうですか。レオンさんの事大好きですもんね。私なんかよりも大好きなんですもんね」
「やめろクレア、今すぐに訂正しろ」
お願いしてダメなら頷かせる作戦に出たクレア。
向けられた矛先の予想外の鋭さに怯む師弟。
「私は前世から先輩と居たのに、レオンさんをとるんですか?」
「やめろ、なんかその話と並べて話すとより気分が悪くなる」
なんかBなLに聞こえかねない言い回しに、ロイドが本当に気分が悪そうに顔色を悪くする。そのジャンルを否定する気はないが、自分が絡むのは別だった。
だが、言っている内に勢いが止まらなくなったーー暴走を始めたクレアは止まらない。
「いつも楽しそうに掛け合いしてますしね!」
「いやそんな漫才みたいに。どー考えても言い争ってね?」
漫才かはともかく、言い争いよりはじゃれ合ってるようにしか見えない。
「私は、前世からこんなに先輩のこと好きなのに!」
「いやだから、そーじゃなくて……って、んん?」
「んん?じゃないですよ!聞いてるんですか?!だから、私は前世から……あ」
言われた内容と口にした内容に気付いて言葉を途切れさせる2人。一拍、ボッと2人の顔が赤くなる。
「ちっ、ちち違いますよ!先輩としてですからね!」
「わ、分かってるっての!てか紛らしい言い方すんなよな如月!」
明らかに手遅れな誤魔化しをするクレアと、動揺から前世の名前で呼んじゃうロイド。
そんななんとも入りにくい空気を作る2人に、古代から生きた2人は遠い目をする。
「……私は何を見せられてるんだい?」
「……それについては、謝ろう」
地味に相容れなかった2人を若干歩み寄らせた桃色空間に、しかし感謝する気も起きない。
そして、空気を変えるようにーー白い肌をこれでもかと赤くしてる時点で変わりようはないがーークレアは自棄気味に叫ぶ。
「とにかくっ!レオンさん、先輩、私も手伝いますからねっ!」
「あ、あぁ、頼む。ありがとうクレア」
「お、おー。よろしくな、クレア」
即決即断のレオンと、決めたら早いロイドの2人がどもりながら頷く。リンドブルムなどは普段ならからかいに走るだろうが、しかし今は流石に控えた。
「あ、てか手伝うのに条件があるわ」
「あ、はい、私も勝手に手伝うとは言え条件があります」
やっと話かまとまった、と思いきや思い出したように揃ってレオンに振り返るロイドとクレア。
なんだ?と視線でその条件を問うレオンに、2人は口を開く。
「『不死』が解けても、寿命くらいは全うしろよ」
「『不死』じゃなくなっても、自分で命は絶たないでくださいね」
異口同音でそれぞれの言いたいように同時に話す2人に、しかしレオンの耳はしっかりそれらを聞き取る。
――ソフィアのもとに……
そう言ったレオンの想いは否定しない。が、すぐにでも自らを殺して、となると話は違う。そう言っているのだ。
それを聞いて、レオンは本当に一瞬だけ目を瞑る。
――レオン、私の分も生きて
今でも鮮明に思い出せる、最愛の最期の言葉。
正直に言えば持て余しそうになった事もあった。最愛の気持ちを守る為に、時に歯を食いしばらなければならない事もあった。
だが、今。
こうして出口の見えない道の先が見え、そして2人の言葉を聞いてーーやっと、心からその言葉を受け取る事が出来たと思える。
「……当然だ。なんせ、」
――俺は、あいつの分も生きるんだから。
そう、本当の意味で、心から。口に出来た気がした。
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6
コメント
みどりぃ
修正しました!ありがとうございますっ!
330284 ( ^∀^)
「『不死』か解けても」 不死が です!