魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
73 魔族
魔族。
シーズニア大陸の北に位置し、フェブル山脈でエイルリア王国とディンバー帝国とを仕切られた形で存在する魔国ジャヌリアに住む種族だ。
他種族に比べても強靭な肉体と膨大な魔力を有する魔族は、交配能力は人族などに比べて低い為に数こそ少ないものの、その強さから危険視されている存在でもある。
「……は?まぞく?」
「ちょっと、まぞくって……あの魔族?」
だが、過去の大戦により長く人族の歴史から消えていた魔族は、現在の人族――特に子供達には書物の中の存在とも言えるほど縁のないものとなっていた。
それ故に、まるで理解出来ないように目を丸くするロイドとエミリー。
「あぁ、一部の動きが活発になっているな。今すぐという事はないが、そう遠くない内に来ると見ていいだろう」
そんな子供達に構わず、レオンはさらりと告げる。
レオンの言葉に、驚きつつもやはり実感がないのかロイド達は言葉も出ない。
「そうですか。全く、まだまだ内輪揉めしていると思ってましたのに……」
「何か原因があるのだろうな」
溜息をこぼすシルビアに、レオンは淡々と述べる。
そこでやっと我に返ったのか、ロイドがレオンに向かって問いかけた。
「ちょい待った。説明してくれ。魔族が来る?一部ってのは魔国の総意じゃねーって事か?原因ってなんだ?」
「少しは自分で考えたらどうだ?片っ端から聞いて、子供じゃあるまいし」
「うるせぇクソじじい。ノーヒントで分かるか」
はぁ、と溜息混じりに突き返すレオンに、ロイドは青筋を浮かべる。
「ふふ、レオンさんったら。どちらにせよ説明するつもりでしたでしょうに」
「何の話だ」
しかし、シルビアの言葉でレオンは顔を背けて呆けたような言葉で濁す。 どうやらロイドに対する条件反射のようなセリフが出ただけで、最初から説明するつもりだったようだ。
「ほほー……つまり、よっぽど俺の頼みを素直に聞きたくねーんだな……?」
「当然だろう。なんだ?優しくして欲しかったのか?甘えたガキだな」
シルビアの言葉を曲解してさらに青筋を増やすロイドに、レオンは構わず煽る。
だが、それを見ていたルーガスとシルビアはロイドに反して浮かべるのは微笑ましそうな、嬉しそうな表情。
「ふむ、ロイド。師匠がこうして遊び心を持てる相手がお前だという事だろう」
「そうよロイド。言ってしまえばあなたとじゃれあいたいと言う事よ?」
そんなウィンディア夫妻の言葉を聞いて、ロイドは目を丸くして、
「え、きもっ」
「死ぬ程遺憾だが、同感だクソガキ」
レオンと揃ってそれはそれは嫌そうな表情を浮かべた。レオンに至っては不死なのに死ぬ程嫌だったらしい。
だが、そんな表情を浮かべた2人の視線にも夫妻は優しく微笑むばかりだ。
仮にも『死神』として地上最強といっても過言ではないレオン相手にここまでずかずかと踏み込んだ事が言えるのはロイドを除いてこの2人くらいだろう。
「ちっ……まぁいい。一度しか言わんからなクソガキ」
「ボケて同じこと何回も言われるよりマシだクソじじい」
そんないつもの会話を枕詞に、レオンが説明をしていく。
魔族とは言え言ってしまえば魔国の住民だ。
魔国という国のトップとして魔王が君臨している。
だが、人族の王と違い、魔族の王には明確な継承方法があった。
それが『魔王の魔力』である。
魔族が王に選ぶ基準は基本的には強さだ。力そこが物を言う、を地で行く種族の魔族は、強いものに従うという習慣や価値観を持つ。
そして、魔術によるものか、魔王が引き継がれる際にその魔力の大部分を継承するようになったのだ。
だが、
「その魔王の魔力は、封印されており継承出来ない」
「封印……?」
「まずは置いておけ。まず一通り聞けクソガキ」
それにより、魔王という絶対王者が存在しなくなった魔国は、我こそが魔王だと名乗る強者達によって対立、派閥が分かれていった。
そして、その無数にある派閥のひとつが、ここ最近人族に対して活発に活動しているという。
「あー……つまり、自称魔王の1人が攻めてきそーだってことか」
「そういうことね。びっくりしたじゃない、いきなり全面戦争でも起きるのかと思ったわ」
理解力には優れているロイドとエミリーは納得したように頷く。
そして、エミリーが安心したように息をこぼし、ロイドは考えるように腕を組んでから言葉を続ける。
「……その人族に攻め始めた原因ってのは?あと、その派閥ってのの勢力は?」
「知らん」
そんなロイドの問いをレオンは一言で切り捨てる。
だが、これにロイドは反抗するでも言及するでもなく「そーか」と頷く。
つまり、原因はレオンでさえ分からない、という事が分かった。
レオンの地獄耳や移動速度等から来る情報収集能力はロイドもよく知っている。
その上で分からない、というのなら恐らくどう調べても判明させるのは困難だという事だろう。
であれば、あれこれ考えるより攻めてくる事への対策に注力した方が良いと判断したのだ。
また、勢力も分からないと言う。
これはレオンが調べられないはずがないとロイドは考えた。
それでも明言しなかったのは、勢力が変動しているのではないかと予想。
例えば侵攻に向けていまだに増えている、という可能性などだ。
また、レオンの性格からしてあり得そうな選択肢はもう一つ。
どうでもいいから、だ。
確かに原因を考えた所で、もう動き出しているのならどうしようもない。
そして勢力もレオンが脅威と判断しないレベルなら同じく興味を持つに至らない可能性もある。
だが、それらの場合であればつまりそれほどの脅威ではないということ。
だったら、それこそ気にする必要もない。――もっとも、あくまで彼目線の話であり、一般的な者からすれは脅威に他ならない可能性もあるが。
「んじゃ、とりあえずは準備しながら来るの待ち?」
「そうだな」
確認といったロイドの言葉にレオンが頷く。
「ところで、勇者はどうするんでしょうか?」
ここで、黙って聞いていたクレアがふと思ったように疑問を口にした。
その言葉に、ロイドとエミリーが「あー」と思い出したように声をもらす。
勇者とは魔族との戦いにて重用する為の存在だ。
戦力としての活躍はもちろん、人々の希望としての象徴としての役割もある。
そんな勇者が、魔国との国家間での戦いではないとは言え、魔族との戦いに参戦しないという事はないだろう。
だが同時に、コウにそれ程までの力があるかと言われれば首を縦に振る事は難しい。
将来的にはともかく、今現状の戦力としては学生にしてはマシ、という程でしかないのだ。
それならば、率直に言えば足手まといではないか、というのがクレアの言葉である。
「今回は経験してもらう、という形になるだろう」
「初陣、とか経験を積む、とかって言い回しで後方に立つ事になるでしょうね」
それに答えるのはルーガスとシルビア。
参戦はするが前線には立たせない。つまり、勇者は魔族との戦いに赴くが、戦いの邪魔にはならないような配置をするということ。 そして市民へはシルビアが発言したように伝えるのだろう。
「ふーん。まぁあんなヤツの事なんてどうでもいいわ」
「ふふっ、エミリー?言葉遣い」
それを聞いたエミリーが肩をすくめながら言うと、シルビアが言葉少なくエミリーへと微笑みかける。
それにビクっとしてほほほ、とらしくない笑いをもらすエミリー。もちろん誤魔化せるはずもないが。
「まぁでも丁度良かったわ。学園も行かんでいいし」
それに助け舟を出すつもりでロイドが口を開く。
実際本当にそう思っているからの発言でもあった。
ここウィンディア領はエイルリア王国領において、最もフェブル山脈に近い領地だ。
つまりそれはフェブル山脈越しに位置する魔国ジャヌリアとも近い事を意味する。
例え魔族が王都を目指して動いたとしても、相手が崖のような山脈を飛んて迂回でもしない限り、歩いて往来出来る数少ない出入口があるのはウィンディア領のすぐ近く。
ならば必然的に魔族か最初に訪れるのはここウィンディア領となるのだ。
「クソガキ、魔族は飛べる」
「オレだって飛べるわクソじじい………え?そゆこと?マジ?」
だが、ここでレオンが簡潔な言葉を投げつける。
思わず反論したロイドだが、会話の流れから推察してちょっと一時的に飛べる、という意味ではないと察したロイドが目を丸くした。
「全員ではないが、魔力の多い魔族ならフェブル山脈の崖くらいなら降りれるだろう」
フェブル山脈の高さはそこらの山とは比較にならない高さだ。
さらには切り立った崖に生息する魔物も居るらしく、飛翔型の大型魔物でさえそうそう近寄る事はない。
膨大な魔力と古代技術である風魔術を持ち合わせて、現代魔法では実現されていない『飛行』を可能とするロイドであっても、その高さから着地まで魔力は保たない。 ましてや魔物の相手をしていれば言わずもがな。
それを、上位の一部とは言え魔族は突破出来るというのだ。
「マジか。んじゃ防衛範囲広くなるな……人足りんのかそれ?」
フェブル山脈の切り立った崖ではなくなだらかになっており、徒歩で行き来が可能な箇所はエイルリア王国ではウィンディア領のすぐ近くのみ。
だが、崖に面した箇所には少ないが他にも村や町がある。
それらの防衛を、しかも数は少ないとは言え強力な魔族相手に可能な人員。
それが、どれだけ存在するのか。
「ロイド、心配いらん。そのあたりは王にも話してある。しばし騎士を護衛に向けるそうだ」
それに答えるのはルーガス。
騎士の強さが分からないロイドは大丈夫なのか?と疑問を抱いたが、あのルーガスが心配の必要がないと言うのではあればそうなのだろうと飲み込んだ。
だが逆に言えば、それだけの戦力を王都から切り離す、という事にもなる。
「んじゃ俺は学園に戻った方がいいんかね?」
微力ながらウィンディア領の防衛にあたる、という気持ちだったロイド。
だが、ある程度鍛えたつもりの自身を微力と思う程の戦力がここにはある。
であれば、王都で力を振るうべきかと聞くロイド。
だが、それに答えたのはルーガスではなく、レオンだった。
「今のお前では何処に居ても大した役にも立たん。お前は俺と行く所がある」
シーズニア大陸の北に位置し、フェブル山脈でエイルリア王国とディンバー帝国とを仕切られた形で存在する魔国ジャヌリアに住む種族だ。
他種族に比べても強靭な肉体と膨大な魔力を有する魔族は、交配能力は人族などに比べて低い為に数こそ少ないものの、その強さから危険視されている存在でもある。
「……は?まぞく?」
「ちょっと、まぞくって……あの魔族?」
だが、過去の大戦により長く人族の歴史から消えていた魔族は、現在の人族――特に子供達には書物の中の存在とも言えるほど縁のないものとなっていた。
それ故に、まるで理解出来ないように目を丸くするロイドとエミリー。
「あぁ、一部の動きが活発になっているな。今すぐという事はないが、そう遠くない内に来ると見ていいだろう」
そんな子供達に構わず、レオンはさらりと告げる。
レオンの言葉に、驚きつつもやはり実感がないのかロイド達は言葉も出ない。
「そうですか。全く、まだまだ内輪揉めしていると思ってましたのに……」
「何か原因があるのだろうな」
溜息をこぼすシルビアに、レオンは淡々と述べる。
そこでやっと我に返ったのか、ロイドがレオンに向かって問いかけた。
「ちょい待った。説明してくれ。魔族が来る?一部ってのは魔国の総意じゃねーって事か?原因ってなんだ?」
「少しは自分で考えたらどうだ?片っ端から聞いて、子供じゃあるまいし」
「うるせぇクソじじい。ノーヒントで分かるか」
はぁ、と溜息混じりに突き返すレオンに、ロイドは青筋を浮かべる。
「ふふ、レオンさんったら。どちらにせよ説明するつもりでしたでしょうに」
「何の話だ」
しかし、シルビアの言葉でレオンは顔を背けて呆けたような言葉で濁す。 どうやらロイドに対する条件反射のようなセリフが出ただけで、最初から説明するつもりだったようだ。
「ほほー……つまり、よっぽど俺の頼みを素直に聞きたくねーんだな……?」
「当然だろう。なんだ?優しくして欲しかったのか?甘えたガキだな」
シルビアの言葉を曲解してさらに青筋を増やすロイドに、レオンは構わず煽る。
だが、それを見ていたルーガスとシルビアはロイドに反して浮かべるのは微笑ましそうな、嬉しそうな表情。
「ふむ、ロイド。師匠がこうして遊び心を持てる相手がお前だという事だろう」
「そうよロイド。言ってしまえばあなたとじゃれあいたいと言う事よ?」
そんなウィンディア夫妻の言葉を聞いて、ロイドは目を丸くして、
「え、きもっ」
「死ぬ程遺憾だが、同感だクソガキ」
レオンと揃ってそれはそれは嫌そうな表情を浮かべた。レオンに至っては不死なのに死ぬ程嫌だったらしい。
だが、そんな表情を浮かべた2人の視線にも夫妻は優しく微笑むばかりだ。
仮にも『死神』として地上最強といっても過言ではないレオン相手にここまでずかずかと踏み込んだ事が言えるのはロイドを除いてこの2人くらいだろう。
「ちっ……まぁいい。一度しか言わんからなクソガキ」
「ボケて同じこと何回も言われるよりマシだクソじじい」
そんないつもの会話を枕詞に、レオンが説明をしていく。
魔族とは言え言ってしまえば魔国の住民だ。
魔国という国のトップとして魔王が君臨している。
だが、人族の王と違い、魔族の王には明確な継承方法があった。
それが『魔王の魔力』である。
魔族が王に選ぶ基準は基本的には強さだ。力そこが物を言う、を地で行く種族の魔族は、強いものに従うという習慣や価値観を持つ。
そして、魔術によるものか、魔王が引き継がれる際にその魔力の大部分を継承するようになったのだ。
だが、
「その魔王の魔力は、封印されており継承出来ない」
「封印……?」
「まずは置いておけ。まず一通り聞けクソガキ」
それにより、魔王という絶対王者が存在しなくなった魔国は、我こそが魔王だと名乗る強者達によって対立、派閥が分かれていった。
そして、その無数にある派閥のひとつが、ここ最近人族に対して活発に活動しているという。
「あー……つまり、自称魔王の1人が攻めてきそーだってことか」
「そういうことね。びっくりしたじゃない、いきなり全面戦争でも起きるのかと思ったわ」
理解力には優れているロイドとエミリーは納得したように頷く。
そして、エミリーが安心したように息をこぼし、ロイドは考えるように腕を組んでから言葉を続ける。
「……その人族に攻め始めた原因ってのは?あと、その派閥ってのの勢力は?」
「知らん」
そんなロイドの問いをレオンは一言で切り捨てる。
だが、これにロイドは反抗するでも言及するでもなく「そーか」と頷く。
つまり、原因はレオンでさえ分からない、という事が分かった。
レオンの地獄耳や移動速度等から来る情報収集能力はロイドもよく知っている。
その上で分からない、というのなら恐らくどう調べても判明させるのは困難だという事だろう。
であれば、あれこれ考えるより攻めてくる事への対策に注力した方が良いと判断したのだ。
また、勢力も分からないと言う。
これはレオンが調べられないはずがないとロイドは考えた。
それでも明言しなかったのは、勢力が変動しているのではないかと予想。
例えば侵攻に向けていまだに増えている、という可能性などだ。
また、レオンの性格からしてあり得そうな選択肢はもう一つ。
どうでもいいから、だ。
確かに原因を考えた所で、もう動き出しているのならどうしようもない。
そして勢力もレオンが脅威と判断しないレベルなら同じく興味を持つに至らない可能性もある。
だが、それらの場合であればつまりそれほどの脅威ではないということ。
だったら、それこそ気にする必要もない。――もっとも、あくまで彼目線の話であり、一般的な者からすれは脅威に他ならない可能性もあるが。
「んじゃ、とりあえずは準備しながら来るの待ち?」
「そうだな」
確認といったロイドの言葉にレオンが頷く。
「ところで、勇者はどうするんでしょうか?」
ここで、黙って聞いていたクレアがふと思ったように疑問を口にした。
その言葉に、ロイドとエミリーが「あー」と思い出したように声をもらす。
勇者とは魔族との戦いにて重用する為の存在だ。
戦力としての活躍はもちろん、人々の希望としての象徴としての役割もある。
そんな勇者が、魔国との国家間での戦いではないとは言え、魔族との戦いに参戦しないという事はないだろう。
だが同時に、コウにそれ程までの力があるかと言われれば首を縦に振る事は難しい。
将来的にはともかく、今現状の戦力としては学生にしてはマシ、という程でしかないのだ。
それならば、率直に言えば足手まといではないか、というのがクレアの言葉である。
「今回は経験してもらう、という形になるだろう」
「初陣、とか経験を積む、とかって言い回しで後方に立つ事になるでしょうね」
それに答えるのはルーガスとシルビア。
参戦はするが前線には立たせない。つまり、勇者は魔族との戦いに赴くが、戦いの邪魔にはならないような配置をするということ。 そして市民へはシルビアが発言したように伝えるのだろう。
「ふーん。まぁあんなヤツの事なんてどうでもいいわ」
「ふふっ、エミリー?言葉遣い」
それを聞いたエミリーが肩をすくめながら言うと、シルビアが言葉少なくエミリーへと微笑みかける。
それにビクっとしてほほほ、とらしくない笑いをもらすエミリー。もちろん誤魔化せるはずもないが。
「まぁでも丁度良かったわ。学園も行かんでいいし」
それに助け舟を出すつもりでロイドが口を開く。
実際本当にそう思っているからの発言でもあった。
ここウィンディア領はエイルリア王国領において、最もフェブル山脈に近い領地だ。
つまりそれはフェブル山脈越しに位置する魔国ジャヌリアとも近い事を意味する。
例え魔族が王都を目指して動いたとしても、相手が崖のような山脈を飛んて迂回でもしない限り、歩いて往来出来る数少ない出入口があるのはウィンディア領のすぐ近く。
ならば必然的に魔族か最初に訪れるのはここウィンディア領となるのだ。
「クソガキ、魔族は飛べる」
「オレだって飛べるわクソじじい………え?そゆこと?マジ?」
だが、ここでレオンが簡潔な言葉を投げつける。
思わず反論したロイドだが、会話の流れから推察してちょっと一時的に飛べる、という意味ではないと察したロイドが目を丸くした。
「全員ではないが、魔力の多い魔族ならフェブル山脈の崖くらいなら降りれるだろう」
フェブル山脈の高さはそこらの山とは比較にならない高さだ。
さらには切り立った崖に生息する魔物も居るらしく、飛翔型の大型魔物でさえそうそう近寄る事はない。
膨大な魔力と古代技術である風魔術を持ち合わせて、現代魔法では実現されていない『飛行』を可能とするロイドであっても、その高さから着地まで魔力は保たない。 ましてや魔物の相手をしていれば言わずもがな。
それを、上位の一部とは言え魔族は突破出来るというのだ。
「マジか。んじゃ防衛範囲広くなるな……人足りんのかそれ?」
フェブル山脈の切り立った崖ではなくなだらかになっており、徒歩で行き来が可能な箇所はエイルリア王国ではウィンディア領のすぐ近くのみ。
だが、崖に面した箇所には少ないが他にも村や町がある。
それらの防衛を、しかも数は少ないとは言え強力な魔族相手に可能な人員。
それが、どれだけ存在するのか。
「ロイド、心配いらん。そのあたりは王にも話してある。しばし騎士を護衛に向けるそうだ」
それに答えるのはルーガス。
騎士の強さが分からないロイドは大丈夫なのか?と疑問を抱いたが、あのルーガスが心配の必要がないと言うのではあればそうなのだろうと飲み込んだ。
だが逆に言えば、それだけの戦力を王都から切り離す、という事にもなる。
「んじゃ俺は学園に戻った方がいいんかね?」
微力ながらウィンディア領の防衛にあたる、という気持ちだったロイド。
だが、ある程度鍛えたつもりの自身を微力と思う程の戦力がここにはある。
であれば、王都で力を振るうべきかと聞くロイド。
だが、それに答えたのはルーガスではなく、レオンだった。
「今のお前では何処に居ても大した役にも立たん。お前は俺と行く所がある」
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