魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
54 カイン対エミリー
「試合開始ぃー!」
――ドカァアン!!
試合開始の宣言直後、カインとエミリーの中間で炎が爆ぜる。
お互いに無詠唱で放った『火球』がぶつかり合ったのだ。
『おおっと、いきなり凄まじいぶつかり合いだぁー!』
ノエルの実況が掻き消される勢いで爆発音が連続して校庭に響き渡る。
様子見といった風に両者は試合開始から一歩も動く事なく無詠唱で『火球』を放ち続け、それをお互いに相殺し合っていた。
「ふわぁ、すごいねぇ」
「2人とも攻めまくる戦い方だしなー」
もっとも、様子見にしては激しすぎる攻防に、ラピスは感嘆の声をあげ、ロイドは気怠げにーーしかし目を細めてしっかりと戦いを見ていた。
「なぁ、エミリーは風は使わねぇのか?」
そんな2人にグランが問いかける。
エミリーは『風の妖精』とさえ揶揄される程に風魔法の操作が卓越している。
だが、今は火魔法のみを行使しており、その二つ名の由来でもある舞うような優雅さはなく、ただ破壊力を前面に押し出した戦い方だ。
そのグランの質問に、ロイドは数拍置いて口を開く。
「……使う余裕がないんだろーな」
「……なるほど」
「そうなの?」
ロイドの言葉にグランは頷き、ラピスは首を傾げた。
「多分なー。カインの火魔法って、アホみたいに『重い』んだよ。だから、少しでも押し合いが崩れたら一気に畳み掛けられかねんのよ」
「そうなんだ……エミリーさん、大丈夫かな?」
『重い』とは魔力の込められている量だ。
カインは王族として膨大な魔力をその身に宿している。
その魔力を惜しげもなく魔法に注ぎ込んでおり、それがただの初級魔法を格段に厄介なものにしている。
そんな厄介な魔法が弾幕のごとく降り注ぐのだ。
風への切り替えのタイムラグや、下手な回避といった下手な対応をすればそれだけで押し切られかねない。
「……ふん、ウィンディアはこれだから厄介だ。風の一族でありながら火で俺の魔法を防ぎきるとはな」
「いえ、必死ですよ?」
「よく言う」
カインはそう呟くと、『火球』の弾幕を解除し、即座に次の一手を放った。
「『火柱』!」
「っ!」
エミリーの上空から降り注ぐ一本の火の柱。
それをエミリーはバックステップでギリギリ回避した。
「良い反応だな」
「っく…!」
だが、それを見越していたかのようにエミリーの背後に回り込んだカインが剣を横薙ぎに振るう。
エミリーは咄嗟に剣と体の間に剣を挟むように持ち上げて防ぐが、体勢も悪く踏ん張りも効かなかった事もあり、豪快に吹き飛ばされてしまう。
(速いっ!ロイドの高速移動並みだわ……!)
エミリーは吹き飛ばされる中で強引に地面を蹴り、自分からさらに吹き飛ばされる形で勢いを強くする。
そうしてカインから距離を作りつつ、カインの高速移動の速度に舌を巻いた。
「逃すと思うか?」
エミリーを追うようにカインが駆け出す。
その際、カインの足元で小さな爆発が見えた。
(!……そういう事ね)
凄まじい速度で迫るカインを見据えつつ、エミリーは高速移動の方法を理解した。
エミリーは居なかったので知らないが、これはグリフォンとの戦いでも見せたカインの移動方法だ。
足元で小さな『火球』を炸裂させる事で反動を利用して跳んだり移動したりする技術。
であれば、急な方向転換は不可能だとエミリーは判断する。
そして、そのエミリーの思考はカインも至っていた。
「そう、あまり器用には曲がれん。だがな、それまでに終わらせればいい」
そう言ったカインはすでにエミリーへと迫っていた。
空中に身を投げ出すようにして移動していたエミリーでは回避は不可能。このまま一気に押し切る、とカインは追いかけつつ剣に火を纏わせる。
『纏火』。火を武器や肉体に纏わせる魔法だ。
ちなみに、体に纏わせるのは魔力コントロールがなければその炎で身を焼く事になるし、武器も肉体よりは耐えるもののあまりに下手すぎると武器が熱で歪む事もある。
だが、コントロール出来れば斬撃に『焼く』という攻撃を上乗せするだけでなく、コントロール次第では『爆発』を加える事も出来る、優れた攻撃魔法となる。
そして、カインがこの程度の制御が出来ないはずもなく。
斬撃の瞬間に爆発させる事で凶悪な一撃をエミリーに叩き込まんとその剣を振り下ろした。
「殿下、そう簡単にはいきませんわ」
だが、その剣は空を斬る事となる。
空中に投げ出されていたエミリーが、まるで風に吹かれる木の葉のようにするりと空中でカインの剣を回避したのだ。
「っ……なるほど、これが『風の妖精』か」
「その名前は恥ずかしいのでやめて下さると嬉しいのですが」
カインはそう言いながら返す剣でエミリーを追うように剣を横薙ぎに振るう。
だが、エミリーはそれさえもするりと回避し、さらにはカインの背後へと回り込んだ。
「ちっ、厄介な……」
それでもカインはエミリーが剣を振るよりも早く、体を反転させながら無理矢理剣を引き戻してエミリーへと振るう。
が、それさえもエミリーはふわりと回避した。
『な、なんという動きだぁー!エミリーさん、空中だろうと構わずひらひらと攻撃を躱していくー!』
『……『突風』の連続使用による移動法だな』
ガイアスはエミリーの動きを見抜いて解説した。
そう、これこそがエミリーが『風の妖精』と呼ばれる所以。
『突風』という初級風魔法を無詠唱で連続発動する事で、空中だろうとお構いなしに移動する事が可能なのだ。
さらに、『突風』の強弱を絶妙にコントロールする事で、緩急のある移動で相手を翻弄し、捉え所のない動きはまるで風そのもの。
だが、初級魔法とはいえそれ程までに連続で発動すれば魔力変換が風一辺倒になり、火魔法の行使が出来なくなるという欠点があった。
「ーー『炎砲』!」
1年前までは。
「くっ…!」
まるで極太のレーザーのように迫る炎をカインは目を瞠りながらも『纏火』を施した剣をぶつけて相殺する。
が、その隙をつくように発動速度重視の初級火魔法『火球』を無数に放った。
「あ、やっぱストレス溜まってたんだな」
「?……あー、そゆこと」
それを見たロイドの呟きに一拍置いてグランが頷く。
エミリーは初手でカインが使った『火球』の弾幕をやり返したかったのだろうとロイドは推測したのだ。
事実それは正解であり、エミリーは一方的に後手に回らざるを得なかった展開をやり返したく思っていたりする。
「やっぱ便利なんだよなぁ、初級魔法」
「だよなー。俺も苦手だわ、あれ相手すんの」
今度はグランの言葉にロイドが頷く。
魔法師はどうしても”威力”に注視しがちだ。 最たる例はディンバー帝国である。
ディンバー帝国魔法師団長という国内最高の魔法師を示す。それをルビィは最も高火力の魔法を放てるという理由でその地位に就いていた。
だが、実際に戦闘を行う上で、重要なのはそこではない。 上の例を挙げれば、革命元リーダーのギランが『強い』と評価したのはルビィではなく副魔法師団長のサファイだ。
その理由としては魔法の使い方にある。
ただ高火力の魔法を放つだけなら対策はいくらでもとれるのだ。 それをどう使うか。また、低威力であろうと使い方次第で優位に立つ方法はいくらでもある。
「そもそも、大型の魔物相手じゃないのに、そんなに威力なこだわる理由が分からんわ」
ロイドが溜息混じりに言葉を続けた。
そして、それこそが高火力の魔法だけに拘る魔法師の根本的な間違いであるだろう。
人間はいくら身体強化したとは言え耐久力に限りがある。
であれば、タメが長く『不必要なまでに』高火力の魔法を使わなくても、人間相手ならば十分な殺傷力を備えたタメの短い初級魔法をしこたま打ち込んだ方がよほど適していると言える。
勿論高度な防御能力を有した相手など、状況や相手次第ではあるのだが、基本的には上級魔法より初級や中級の組み立てが対人戦では鍵となり得るのだ。
「まぁあの2人はそんな事分かってるんだろうけどな」
「だなー。あんな威力でかなりの高速戦闘してるし」
そして、それはカインもエミリーも理解している。
だからこそのカインの『火球』であり、発動すれば安定して威力を維持した上で剣を振るうだけで力を発揮する『纏火』であり。
そしてエミリーの『突風』の連続使用や『火球』の弾幕なのてある。
「けどまぁ、あーだこーだ言って、手詰まりになったら……」
「あぁ、ゴリ押しも必要になるんだよな」
ロイドの言葉をグランが引き継ぐ。
そして、2人の言葉を証明するかのように、カインが『纏火』で『火球』を弾きながらも魔力を練り上げていき、
「――……『火桜』ァ!!」
自身最大の魔法を解き放った。
――ドカァアン!!
試合開始の宣言直後、カインとエミリーの中間で炎が爆ぜる。
お互いに無詠唱で放った『火球』がぶつかり合ったのだ。
『おおっと、いきなり凄まじいぶつかり合いだぁー!』
ノエルの実況が掻き消される勢いで爆発音が連続して校庭に響き渡る。
様子見といった風に両者は試合開始から一歩も動く事なく無詠唱で『火球』を放ち続け、それをお互いに相殺し合っていた。
「ふわぁ、すごいねぇ」
「2人とも攻めまくる戦い方だしなー」
もっとも、様子見にしては激しすぎる攻防に、ラピスは感嘆の声をあげ、ロイドは気怠げにーーしかし目を細めてしっかりと戦いを見ていた。
「なぁ、エミリーは風は使わねぇのか?」
そんな2人にグランが問いかける。
エミリーは『風の妖精』とさえ揶揄される程に風魔法の操作が卓越している。
だが、今は火魔法のみを行使しており、その二つ名の由来でもある舞うような優雅さはなく、ただ破壊力を前面に押し出した戦い方だ。
そのグランの質問に、ロイドは数拍置いて口を開く。
「……使う余裕がないんだろーな」
「……なるほど」
「そうなの?」
ロイドの言葉にグランは頷き、ラピスは首を傾げた。
「多分なー。カインの火魔法って、アホみたいに『重い』んだよ。だから、少しでも押し合いが崩れたら一気に畳み掛けられかねんのよ」
「そうなんだ……エミリーさん、大丈夫かな?」
『重い』とは魔力の込められている量だ。
カインは王族として膨大な魔力をその身に宿している。
その魔力を惜しげもなく魔法に注ぎ込んでおり、それがただの初級魔法を格段に厄介なものにしている。
そんな厄介な魔法が弾幕のごとく降り注ぐのだ。
風への切り替えのタイムラグや、下手な回避といった下手な対応をすればそれだけで押し切られかねない。
「……ふん、ウィンディアはこれだから厄介だ。風の一族でありながら火で俺の魔法を防ぎきるとはな」
「いえ、必死ですよ?」
「よく言う」
カインはそう呟くと、『火球』の弾幕を解除し、即座に次の一手を放った。
「『火柱』!」
「っ!」
エミリーの上空から降り注ぐ一本の火の柱。
それをエミリーはバックステップでギリギリ回避した。
「良い反応だな」
「っく…!」
だが、それを見越していたかのようにエミリーの背後に回り込んだカインが剣を横薙ぎに振るう。
エミリーは咄嗟に剣と体の間に剣を挟むように持ち上げて防ぐが、体勢も悪く踏ん張りも効かなかった事もあり、豪快に吹き飛ばされてしまう。
(速いっ!ロイドの高速移動並みだわ……!)
エミリーは吹き飛ばされる中で強引に地面を蹴り、自分からさらに吹き飛ばされる形で勢いを強くする。
そうしてカインから距離を作りつつ、カインの高速移動の速度に舌を巻いた。
「逃すと思うか?」
エミリーを追うようにカインが駆け出す。
その際、カインの足元で小さな爆発が見えた。
(!……そういう事ね)
凄まじい速度で迫るカインを見据えつつ、エミリーは高速移動の方法を理解した。
エミリーは居なかったので知らないが、これはグリフォンとの戦いでも見せたカインの移動方法だ。
足元で小さな『火球』を炸裂させる事で反動を利用して跳んだり移動したりする技術。
であれば、急な方向転換は不可能だとエミリーは判断する。
そして、そのエミリーの思考はカインも至っていた。
「そう、あまり器用には曲がれん。だがな、それまでに終わらせればいい」
そう言ったカインはすでにエミリーへと迫っていた。
空中に身を投げ出すようにして移動していたエミリーでは回避は不可能。このまま一気に押し切る、とカインは追いかけつつ剣に火を纏わせる。
『纏火』。火を武器や肉体に纏わせる魔法だ。
ちなみに、体に纏わせるのは魔力コントロールがなければその炎で身を焼く事になるし、武器も肉体よりは耐えるもののあまりに下手すぎると武器が熱で歪む事もある。
だが、コントロール出来れば斬撃に『焼く』という攻撃を上乗せするだけでなく、コントロール次第では『爆発』を加える事も出来る、優れた攻撃魔法となる。
そして、カインがこの程度の制御が出来ないはずもなく。
斬撃の瞬間に爆発させる事で凶悪な一撃をエミリーに叩き込まんとその剣を振り下ろした。
「殿下、そう簡単にはいきませんわ」
だが、その剣は空を斬る事となる。
空中に投げ出されていたエミリーが、まるで風に吹かれる木の葉のようにするりと空中でカインの剣を回避したのだ。
「っ……なるほど、これが『風の妖精』か」
「その名前は恥ずかしいのでやめて下さると嬉しいのですが」
カインはそう言いながら返す剣でエミリーを追うように剣を横薙ぎに振るう。
だが、エミリーはそれさえもするりと回避し、さらにはカインの背後へと回り込んだ。
「ちっ、厄介な……」
それでもカインはエミリーが剣を振るよりも早く、体を反転させながら無理矢理剣を引き戻してエミリーへと振るう。
が、それさえもエミリーはふわりと回避した。
『な、なんという動きだぁー!エミリーさん、空中だろうと構わずひらひらと攻撃を躱していくー!』
『……『突風』の連続使用による移動法だな』
ガイアスはエミリーの動きを見抜いて解説した。
そう、これこそがエミリーが『風の妖精』と呼ばれる所以。
『突風』という初級風魔法を無詠唱で連続発動する事で、空中だろうとお構いなしに移動する事が可能なのだ。
さらに、『突風』の強弱を絶妙にコントロールする事で、緩急のある移動で相手を翻弄し、捉え所のない動きはまるで風そのもの。
だが、初級魔法とはいえそれ程までに連続で発動すれば魔力変換が風一辺倒になり、火魔法の行使が出来なくなるという欠点があった。
「ーー『炎砲』!」
1年前までは。
「くっ…!」
まるで極太のレーザーのように迫る炎をカインは目を瞠りながらも『纏火』を施した剣をぶつけて相殺する。
が、その隙をつくように発動速度重視の初級火魔法『火球』を無数に放った。
「あ、やっぱストレス溜まってたんだな」
「?……あー、そゆこと」
それを見たロイドの呟きに一拍置いてグランが頷く。
エミリーは初手でカインが使った『火球』の弾幕をやり返したかったのだろうとロイドは推測したのだ。
事実それは正解であり、エミリーは一方的に後手に回らざるを得なかった展開をやり返したく思っていたりする。
「やっぱ便利なんだよなぁ、初級魔法」
「だよなー。俺も苦手だわ、あれ相手すんの」
今度はグランの言葉にロイドが頷く。
魔法師はどうしても”威力”に注視しがちだ。 最たる例はディンバー帝国である。
ディンバー帝国魔法師団長という国内最高の魔法師を示す。それをルビィは最も高火力の魔法を放てるという理由でその地位に就いていた。
だが、実際に戦闘を行う上で、重要なのはそこではない。 上の例を挙げれば、革命元リーダーのギランが『強い』と評価したのはルビィではなく副魔法師団長のサファイだ。
その理由としては魔法の使い方にある。
ただ高火力の魔法を放つだけなら対策はいくらでもとれるのだ。 それをどう使うか。また、低威力であろうと使い方次第で優位に立つ方法はいくらでもある。
「そもそも、大型の魔物相手じゃないのに、そんなに威力なこだわる理由が分からんわ」
ロイドが溜息混じりに言葉を続けた。
そして、それこそが高火力の魔法だけに拘る魔法師の根本的な間違いであるだろう。
人間はいくら身体強化したとは言え耐久力に限りがある。
であれば、タメが長く『不必要なまでに』高火力の魔法を使わなくても、人間相手ならば十分な殺傷力を備えたタメの短い初級魔法をしこたま打ち込んだ方がよほど適していると言える。
勿論高度な防御能力を有した相手など、状況や相手次第ではあるのだが、基本的には上級魔法より初級や中級の組み立てが対人戦では鍵となり得るのだ。
「まぁあの2人はそんな事分かってるんだろうけどな」
「だなー。あんな威力でかなりの高速戦闘してるし」
そして、それはカインもエミリーも理解している。
だからこそのカインの『火球』であり、発動すれば安定して威力を維持した上で剣を振るうだけで力を発揮する『纏火』であり。
そしてエミリーの『突風』の連続使用や『火球』の弾幕なのてある。
「けどまぁ、あーだこーだ言って、手詰まりになったら……」
「あぁ、ゴリ押しも必要になるんだよな」
ロイドの言葉をグランが引き継ぐ。
そして、2人の言葉を証明するかのように、カインが『纏火』で『火球』を弾きながらも魔力を練り上げていき、
「――……『火桜』ァ!!」
自身最大の魔法を解き放った。
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