魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

43 有名人?

「ど、どーしたんだ?お前ら…」

 ロイド、エミリー、グラン、カインは、実験戦闘の行われる中庭で模擬戦闘を繰り返していた。

 あれからルースドを引き渡し、ラピスを保健室へと届けて一息ついていたのだが、そうなった彼らの脳裏にフィンクの顔が過ったのだ。
 
 とは言え、拐われたばかりのラピスを置いていく訳にもいかないと一緒に保健室に居たのだが、ラピスは本当に大丈夫そうに笑って、いってきて良いと言っていた。
 それでもと残っていたのだが、それからラピスが寝付いたのを見届けた一行。

 さらには戻ってきたブロズとニューマンが、ラピスを見ておくと申し出た。
 ちなみにニューマンを向かわせた手紙を持っていた生徒だが、彼の姿は見当たらなかった。

 恐らくはここの生徒ではなく、ルースドに雇われた1人だと推察された。
 が、残念ながらその痕跡を辿る事は出来なかった。

 もっとも、ルースドを裁くにあたり、芋づる式で見つかる可能性は高いが。

 ともあれ、現状出来る事はなく、さらには実力面でも信用出来るニューマンが見てくれるという。
 目を合わせた面々は頷き、そのまま中庭へと向かいこうして訓練していたのである。
 
 その必死さにたまたま通りがかったガイアスは頬を引きつらせて問いかける。

「いや、ちょっと鍛える必要がありまして!」
「先生もなんか気になる事あったら言って下さい!」
「お、おう……じゃあまぁ、とりあえず追い込みすぎだろ。一回休め…」

 4人は汗だくになり攻撃も魔力の薄いものとなっている。
 かなり魔力を消費しているのが分かった。
 
 どんだけ追い込んでんだ、と内心呟くガイアスの言葉に少しずつ冷静になった4人は深呼吸をしてその場に腰を下ろした。

「……だなー、ちょっと焦ってたわ」
「そうね、ちょっと慌てちゃったわ」
「だな!いやぁちょっとビビりすぎたわ!」
「全く。と言いたいが、ちょっとは俺もそうだな…」
「いやちょっとか?」

 ガイアスは呆れたように呟きつつ、近付いて腰を下ろした。
 そして、タバコに火をつけて口を開く。

「んで、一体どうしたんだよ?」
「先生、タバコくせーよ」
「うるっせ。いんだよ」
「……まぁ見なかった事にしよう」

 ジト目のロイドと目を瞑るカインを見て、ガイアスはニッと笑ってうまそうに煙を肺に満たす。

「ぷはぁー……んで、どーしたんだよ?急にこんな」
「いや、兄が来るみたいで」
「兄……?って兄ってお前、フィンクがか!?」
「あれ?知ってるんですか?」

 目を剥くガイアスにロイドは首を傾げる。
 ガイアスはタバコの灰が落ちるのも構わずしばし固まっていたーーよく見たら少し震えていたが、思い出したようにタバコに口をつけて肺に紫煙を満たして言う。

「ふぅ〜……そりゃ知ってる。というか有名人だぞ」
「はぁ。あれですか?『神童』でですか?」

 兄フィンクの二つ名を口にするも、ガイアスは首を振る。

「違う。いや、それもあるが、この学園では違う」
「というと?」
「あぁ、ヤツはな。入学して数ヶ月で卒業した生徒でな」

 いわく、ウィーン学園において本来一等級ずつしか昇格出来ない昇格試験。
 これは制度の問題だけではなく一等級ごとの難易度の差が大きい事から実力面からもそう決められている。
 だがフィンクはそれを覆した。

 試験を受ける者にしか伝えられないはずの試験場に紛れ込み、教師に気付かれず受験者として出場。
 そしてその実力をもって、文句なしの合格を叩き出したのだ。

「試験の資格がないから無効だとの声もあったけど、その情報収集能力とあっさりと合格した文句なしの実力が評価されて合格。んで過去最短タイの期間で卒業したってワケだ」
「兄さん……」
「……なんだか恥ずかしいわ」

 苦笑いで話すガイアスに、呆れた表情のロイドと顔を押さえて俯くエミリー。
 その横でグランとカインが首を傾げている。

「最短タイ……って同じ期間で卒業した人が他にもいるってことか?」
「俺もフィンクの話は聞いたが、他に居るのは知らなかった」
「ん?あー、ルーガスだよ」
「「え?」」

 疑問をぶつけるグランとカインに、苦笑いを深めて答えるガイアス。
 その言葉に、ロイドとエミリーは固まった。

「だから、この学園では『ウィンディア』は色々有名と言うか……ワケありというか…」
「あー……」
「……お父さん」

 後半は小さい声で呟くガイアスだが、しっかりと聞こえていたウィンディア姉弟は言葉少なく俯いた。
 そんな姉弟にガイアスは笑う。

「まぁお前達はまだ大人しいから最近は先生達も安心してるよ。良かったな」
「……本当に安心していいものなのか…」

 ガイアスの言葉にグランがボソリと呟き、カインも微妙な表情で黙り込む。
 それに気付かなかったガイアスや姉弟だが、グランとカインはチラッとロイドへ視線を向けた。

 ロイドはこの魔法学園において唯一の『魔法適正なし』の生徒である。
 そして確認されている限りでは、現在唯一の『魔術師』であり、情報を制限されているがそれでも話題の人である『国崩し』当人である。
 さらには希少な力である神力の使い手であり、幻と言われる空間魔術の使い手。
 
 これらが知られれば下手をすれば国単位での大騒ぎになりかねないし、そうなれば父兄とは比べ物にならない話題のタネになるだろう。
 そう考えているカインとグランは、しかし言葉を飲み込んだ。

「そんなワケで、フィンクが来るってならちょっと騒ぐ先生や生徒もいるかも知れんな」
「そうですか」

 そんなことを考えているカインとグランを他所に、ロイドは面倒そうに溜息をついている。
 お前も人のこと言えなくなりかねないんだぞ、とか自覚あんのかこいつ、とか思ってる2人。
 
 そんな彼らの耳に何やら騒がしい様子の声が聞こえてきた。

「校庭でアイフリード生徒会長がケンカしてるらしい!」
「はぁ?!誰とだよ?!」
「俺も知らんけど、かなり強いみたいだぞ!」
「いやけどよ、生徒会長の敵じゃないだろ」
「いやむしろ押されてるって聞いたぞ?」
「ウソだろ?!」
「マジだって!先生達もすげぇ慌てたし、何者なんだろうな」

 複数の生徒達がバタバタと走りながら話す声に、ロイド達は顔を見合わせる。

 来るの早えよ。
 そう内心で全員が呟きながら、重たすぎる腰をどうにか持ち上げるのであった。

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