魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
36 対光魔法
「光魔法……ね」
「そーそー。出さずに負けを認めてくれるならいいけどな」
ロイドの言葉にコウは噛み締めるように沈黙してから口を開く。
「……だが、ここで撃てば周りに被害が出るだろう」
「多分大丈夫じゃね?……ガイアス先生―っ」
「あぁ、問題ないぞ」
ロイドはコウに目を向けたままガイアスの名前を叫ぶと、いつから居たのか生徒に混じって立つガイアスが頷く。
そして、手に持つ魔法陣の描かれた用紙を地面に放り投げ、魔力を込める。
――ヒュオウッ
すると、観客となっている生徒達の少し内側、ロイド達を囲むように風が渦巻く。実践戦闘でも使われている『風壁』だ。
「か、風で防げるものか!」
「大丈夫だぞ、これかなり魔力込めてるから」
ガイアスの言葉にコウはまだ何か言おうと言葉を探しているようだが、何も見つからないのか言葉が出てこない。
その様子にロイドは怪訝そうに口を開く。
「……お前、光魔法使えねーの?」
「つ、使える!ただ、制御がまだできないだけだ!」
ロイドの言葉にコウは噛みつくように答える。
なるほど、単に恥ずかしかったのか、と予想しつつ内心どうでも良いので話を進める。
「ならまぁ降参する?続ける?」
「続けるさ!もういい、せっかく気を遣ってたというのに、怪我しても知らないからね!」
「ん?……あー、そこね。全然いいよ」
ロイドはヤケクソに叫ぶコウに納得しつつ頷く。
つまりコウは人を殺してしまうのが怖いのだろう、とロイドは確信に近い予想を立てる。
ある意味当然の事だ。まともな日本人であろうコウが人殺しに抵抗が無いはずがない。
「く…!なら見せてやるよ!後悔するなよっ!」
「おー、後悔せんよーに頑張るわ」
ロイドは適当に頷きつつも、その眼に宿る光を鋭くしていく。そして魔力を更に練り上げていった。
「……なんて魔力…!」
「あれが、恥さらし…?」
生徒達は一様にして声を失ったように沈黙していた。時より呆然と漏れ出すような声が聞こえる。
高まる魔力がそうさせているかのように、ロイドの髪や服が緩やかに揺れる。
その高まる魔力は威圧にも似た圧力を伴っており、それが『恥さらし』と分かっていても目を離す事が出来ない。
ロイドの溢れる魔力に共鳴するかの如く煌く碧の瞳に惹かれるように、誰もがただ、『勇者』ではなく『恥さらし』を見ていた。
ちなみに、髪や服が揺らいでいるのはロイドが風魔術を発動したからだが。
それでも、ここに至るまで適当に戦っていたロイドが、ついに本気になったのは事実だった。
「行くよ!」
「来い」
宣言するコウに、今度はロイドもしっかりとした口調で返す。
(光魔法……あん時は手も足も出なかったけど、どこまでやれるかね)
以前、ディンバー帝国においての戦いで、ロイドは光魔法を扱うジルバと戦っていた。
と言っても特殊なスキルにより模倣していただけで、本家の光魔法適正者には劣るそれではあったが。
だがそれでも、その時ロイドはなす術もなく一方的にやられた。
それを、今のロイドが戦えばどれだけ通用するか。
あれからさらに強くなった自覚はある。
レオンとの戦いで再び強くなろうと火がついたロイドはこの機会に確かめたくなったのだ。
「『光弾』!」
コウから放たれる光の砲弾。
大体10センチほどの球状の光がコウから無数に発射される。
「――…!」
それをロイドは詠唱が終わったタイミングで横に駆け出した事で回避する。
相手は光だ。放たれてから回避しても間に合わないと判断したのだ。
「ちっ、『光弾』!」
それを追撃するように次々と放たれる光の砲弾を、ロイドはコウの周りを円を描くように走る事で回避していく。
単にコウが狙いを定めるのが下手というのも否めないが、ロイドは風を使って爆発的な加速しており、更にはたまに追い風も混ぜ込む事で緩急をつけて狙いを絞りにくくしていた。
「逃げてばかりか!」
「さぁな」
「ちっ、――『光弾』…」
当たらない事に焦れてか叫ぶコウに、ロイドは返事だけして回避に専念する。
なかなか当たらない事に苛立ちを覚えつつも、コウは発動させた『光弾』を全て発射させたので再び発動し直そうとする。
「ふっ!」
「んなっ!」
その僅かな隙をついてロイドは風の弾丸をコウへと放つ。
圧縮された風は音速にも近い速度でコウへと迫り、そして撃ち抜いた。
「っ、ごふぁ!」
「次だ」
身体強化越しでも凄まじい衝撃に襲われたコウは大きくのけ反る。
その隙にロイドは風をどんどん集めていった。
「っちぃ!『光雨』!」
コウは体勢を整えながら光魔法を発動させた。
コウの手から放たれた光の塊。
それが頭上へと舞い上がったかと思えば、そこから拡散さて小さな光弾を無数に撃ち下ろしてくる。
光の雨に晒されたロイドは、しかし集めた巨大な風のうねりを魔力で圧縮させて頭上に展開させる。
「何っ!?」
「いくら光魔法とは言え、1発1発が軽すぎなんだよ」
「…っ!」
その莫大な魔力が込められた風は小さな光の雨を防ぎ切る。
そして、その風の下を這うような高さで駆けるロイド。
まさか無傷で抜けられるとは思わなかったコウは慌てて無詠唱の『光弾』を放つが、詠唱をしなかった事で1つしか発動出来なかったそれを、ロイドは風を纏った短剣で弾き飛ばす。
「よし…!」
「バカなっ?!」
実を言うと半分勘で振るった短剣が当たり、内心テンションの上がるロイド。
だが、コウからすれば現在使える光魔法を全て防がれたという事実に変わりはない。
「ふぅ……勝負あり、か?」
「………!」
そのままロイドが迫っているというのに一瞬呆けたコウに、ロイドは短剣をコウの首に突き付ける。
誰がどう見てもロイドの勝ちという状態だ。
痛い程の沈黙が校庭に流れる。
そんな中、コウは悔しそうに歯を食いしばって数秒。
目線を下――短剣に向けたまま、小さく口を開いた。
「…………降参だ…」
「はいよ」
小さな声に、しかし静かな校庭では十分聞こえるコウの言葉に、しかし生徒達は歓声はおろか無言のまま短剣を下ろすロイドを見ていた。
ロイドは気怠気に返すと、踵を返してその場を後にする。
「よぉ、どうだった?」
「あー、まぁ練習と実験にはなったなー」
「お疲れ様です、先輩」
「時間かけすぎじゃないのあんた?」
「さすがロイドくんだね!」
ロイドを迎えるのはグラン、クレア、エミリー、ラピスの4人。
そこに混じりながら静かな校庭を歩いて立ち去るロイドは、ちらりと目線を後ろに向ける。
項垂れるコウに歩み寄る女子生徒の姿。その奥の校舎の端に寄りかかっていたカインと目が合う。
一瞬目が合った後、カインは視線を切って校舎へと歩き始めた。それを見てロイドも4人へと振り返る。
「よーし、ほいじゃ腹減ったから食堂行こーで」
「お、いいね。間違いなく今なら空いてるぜ!」
「結構な人数が見に来てましたしね」
「そうね。丁度いいわ」
そうして校庭を去るロイド達は、女子生徒に囲まれたコウから暗く淀んだ視線を向けられている事に気付く事はなかった。
「そーそー。出さずに負けを認めてくれるならいいけどな」
ロイドの言葉にコウは噛み締めるように沈黙してから口を開く。
「……だが、ここで撃てば周りに被害が出るだろう」
「多分大丈夫じゃね?……ガイアス先生―っ」
「あぁ、問題ないぞ」
ロイドはコウに目を向けたままガイアスの名前を叫ぶと、いつから居たのか生徒に混じって立つガイアスが頷く。
そして、手に持つ魔法陣の描かれた用紙を地面に放り投げ、魔力を込める。
――ヒュオウッ
すると、観客となっている生徒達の少し内側、ロイド達を囲むように風が渦巻く。実践戦闘でも使われている『風壁』だ。
「か、風で防げるものか!」
「大丈夫だぞ、これかなり魔力込めてるから」
ガイアスの言葉にコウはまだ何か言おうと言葉を探しているようだが、何も見つからないのか言葉が出てこない。
その様子にロイドは怪訝そうに口を開く。
「……お前、光魔法使えねーの?」
「つ、使える!ただ、制御がまだできないだけだ!」
ロイドの言葉にコウは噛みつくように答える。
なるほど、単に恥ずかしかったのか、と予想しつつ内心どうでも良いので話を進める。
「ならまぁ降参する?続ける?」
「続けるさ!もういい、せっかく気を遣ってたというのに、怪我しても知らないからね!」
「ん?……あー、そこね。全然いいよ」
ロイドはヤケクソに叫ぶコウに納得しつつ頷く。
つまりコウは人を殺してしまうのが怖いのだろう、とロイドは確信に近い予想を立てる。
ある意味当然の事だ。まともな日本人であろうコウが人殺しに抵抗が無いはずがない。
「く…!なら見せてやるよ!後悔するなよっ!」
「おー、後悔せんよーに頑張るわ」
ロイドは適当に頷きつつも、その眼に宿る光を鋭くしていく。そして魔力を更に練り上げていった。
「……なんて魔力…!」
「あれが、恥さらし…?」
生徒達は一様にして声を失ったように沈黙していた。時より呆然と漏れ出すような声が聞こえる。
高まる魔力がそうさせているかのように、ロイドの髪や服が緩やかに揺れる。
その高まる魔力は威圧にも似た圧力を伴っており、それが『恥さらし』と分かっていても目を離す事が出来ない。
ロイドの溢れる魔力に共鳴するかの如く煌く碧の瞳に惹かれるように、誰もがただ、『勇者』ではなく『恥さらし』を見ていた。
ちなみに、髪や服が揺らいでいるのはロイドが風魔術を発動したからだが。
それでも、ここに至るまで適当に戦っていたロイドが、ついに本気になったのは事実だった。
「行くよ!」
「来い」
宣言するコウに、今度はロイドもしっかりとした口調で返す。
(光魔法……あん時は手も足も出なかったけど、どこまでやれるかね)
以前、ディンバー帝国においての戦いで、ロイドは光魔法を扱うジルバと戦っていた。
と言っても特殊なスキルにより模倣していただけで、本家の光魔法適正者には劣るそれではあったが。
だがそれでも、その時ロイドはなす術もなく一方的にやられた。
それを、今のロイドが戦えばどれだけ通用するか。
あれからさらに強くなった自覚はある。
レオンとの戦いで再び強くなろうと火がついたロイドはこの機会に確かめたくなったのだ。
「『光弾』!」
コウから放たれる光の砲弾。
大体10センチほどの球状の光がコウから無数に発射される。
「――…!」
それをロイドは詠唱が終わったタイミングで横に駆け出した事で回避する。
相手は光だ。放たれてから回避しても間に合わないと判断したのだ。
「ちっ、『光弾』!」
それを追撃するように次々と放たれる光の砲弾を、ロイドはコウの周りを円を描くように走る事で回避していく。
単にコウが狙いを定めるのが下手というのも否めないが、ロイドは風を使って爆発的な加速しており、更にはたまに追い風も混ぜ込む事で緩急をつけて狙いを絞りにくくしていた。
「逃げてばかりか!」
「さぁな」
「ちっ、――『光弾』…」
当たらない事に焦れてか叫ぶコウに、ロイドは返事だけして回避に専念する。
なかなか当たらない事に苛立ちを覚えつつも、コウは発動させた『光弾』を全て発射させたので再び発動し直そうとする。
「ふっ!」
「んなっ!」
その僅かな隙をついてロイドは風の弾丸をコウへと放つ。
圧縮された風は音速にも近い速度でコウへと迫り、そして撃ち抜いた。
「っ、ごふぁ!」
「次だ」
身体強化越しでも凄まじい衝撃に襲われたコウは大きくのけ反る。
その隙にロイドは風をどんどん集めていった。
「っちぃ!『光雨』!」
コウは体勢を整えながら光魔法を発動させた。
コウの手から放たれた光の塊。
それが頭上へと舞い上がったかと思えば、そこから拡散さて小さな光弾を無数に撃ち下ろしてくる。
光の雨に晒されたロイドは、しかし集めた巨大な風のうねりを魔力で圧縮させて頭上に展開させる。
「何っ!?」
「いくら光魔法とは言え、1発1発が軽すぎなんだよ」
「…っ!」
その莫大な魔力が込められた風は小さな光の雨を防ぎ切る。
そして、その風の下を這うような高さで駆けるロイド。
まさか無傷で抜けられるとは思わなかったコウは慌てて無詠唱の『光弾』を放つが、詠唱をしなかった事で1つしか発動出来なかったそれを、ロイドは風を纏った短剣で弾き飛ばす。
「よし…!」
「バカなっ?!」
実を言うと半分勘で振るった短剣が当たり、内心テンションの上がるロイド。
だが、コウからすれば現在使える光魔法を全て防がれたという事実に変わりはない。
「ふぅ……勝負あり、か?」
「………!」
そのままロイドが迫っているというのに一瞬呆けたコウに、ロイドは短剣をコウの首に突き付ける。
誰がどう見てもロイドの勝ちという状態だ。
痛い程の沈黙が校庭に流れる。
そんな中、コウは悔しそうに歯を食いしばって数秒。
目線を下――短剣に向けたまま、小さく口を開いた。
「…………降参だ…」
「はいよ」
小さな声に、しかし静かな校庭では十分聞こえるコウの言葉に、しかし生徒達は歓声はおろか無言のまま短剣を下ろすロイドを見ていた。
ロイドは気怠気に返すと、踵を返してその場を後にする。
「よぉ、どうだった?」
「あー、まぁ練習と実験にはなったなー」
「お疲れ様です、先輩」
「時間かけすぎじゃないのあんた?」
「さすがロイドくんだね!」
ロイドを迎えるのはグラン、クレア、エミリー、ラピスの4人。
そこに混じりながら静かな校庭を歩いて立ち去るロイドは、ちらりと目線を後ろに向ける。
項垂れるコウに歩み寄る女子生徒の姿。その奥の校舎の端に寄りかかっていたカインと目が合う。
一瞬目が合った後、カインは視線を切って校舎へと歩き始めた。それを見てロイドも4人へと振り返る。
「よーし、ほいじゃ腹減ったから食堂行こーで」
「お、いいね。間違いなく今なら空いてるぜ!」
「結構な人数が見に来てましたしね」
「そうね。丁度いいわ」
そうして校庭を去るロイド達は、女子生徒に囲まれたコウから暗く淀んだ視線を向けられている事に気付く事はなかった。
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コメント
330284 ( ^∀^)
すみません、多分なんですけど『光だ』てミスですか?