魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

35 ロイド対コウ

「コウくん頑張ってぇ〜!」
「いけぇコウ!恥さらしをボコボコにしてやれ!」

 黄色い声援や罵声が響く校庭で、ロイドとコウは武器を構えて向かい合う。

 ロイドは先程までの雰囲気を一変させ、静かな眼差しでコウを見据えている。
 その視線を受けるコウは、余裕の現れか、頬を少し緩めてロイドを見ていた。

「……どうしたのかな?来ないのかい?」
「ん?んじゃまぁ行こっかね」

 しばしの沈黙の後、コウの言葉でロイドはすっと走り出す。
 
 軽快な足音を立てて走るロイドに、コウはタイミングを合わせるように剣をすっと後ろに引いた。
 そして、向かってくるロイドに合わせて剣を叩き込む。

――ギィイインッ

 甲高くも衝突の激しさが伝わるような音を立てて剣と短剣2本がぶつかり合う。
 その音に掻き消されるように、喧騒の音量が少し静かになった。

「今日は逃げないんだね!」
「おー、もう良いんだよ。普通にやるわ」

 弾かれ合った2人だが、今度はコウが素早く距離を詰める。
 両手でしっかりと剣を握り脇を締めて、隙の少ない素早い剣を無数に繰り出すコウ。
 その鋭くも素直な剣筋を、ロイドは回避する事もなく、また一歩も退がる事なく短剣で捌いていった。

「ふっ、逃げるだけじゃなく殻に篭るように守るのも上手いみたいだね!」
「マジ?いやぁ良い練習になるわ。ありがとさん」
「……ふ、ふふっ。いつまでその強がりがもつかな?」

 そう言いつつ挑発に頬がひきつるコウ。もしこれが挑発ではなくただの感想だと知ればどんな反応をしただろうか。
 しかしそれは見る事は叶わず、しばしの打ち合いの末、コウが先に後ろに跳躍して距離をとった。
 
 ロイドが追わずにコウを見据えていると、コウはぶつぶつと詠唱をしてバッと手をロイドに翳す。

「『火球』!」

 そうしてコウの手から展開された魔法陣より、火球が無数にロイドへと放たれる。
 ロイドはそれをまたも足を止めたまま短剣で全て弾いていくと、

「隙ありだよっ!」

 その火球の弾幕から現れたコウが上段に振りかぶった剣を振り下ろしていた。

「お前がな」
「ご…っ?!」

 だが、大きく振りかぶった事でガラ空きになった胴体にロイドが素早く蹴りを放った。いわゆるヤクザキックである。
 それにより後ろに吹き飛ばされるコウ。
 
 軽く宙を浮きつつ飛んでいくコウを追うようにロイドは駆け出す。
 そして、追いつくやいなや走る速度そのままに、同じ場所にもう一度蹴りを叩き込んだ。

「っがは…!」

 唾を散らして吹き飛び、今度は水平に飛んで背中からどさりと着地するコウ。
 今度はロイドは追撃はせずに、まっすぐに立ってコウを見下ろす。
 
 それを見ていた周囲の学生は、先程までの喧騒はどこへやら、痛い程の沈黙が漂っていた。

「俺の勝ちでいい?」
「っふ、ふざけるな、まだだ!」

 ロイドの問いに、コウは弾かれるように立ち上がる。
 汚れた制服を払うこともせず、息を切らせてロイドを睨みつけた。

「前回で油断させていきなり攻めてくるなんて、卑怯な手段だな!……でもこれならどうだい?」

 てゆーか最初からしろよ、と合わせて身体強化を使わなかったロイドが内心で吐き捨てる。
 大方、身体強化なしでも圧倒出来る自信があったのだろうが、そうもいかなくなって使ったのだろうと予想しながら。

 そんな事を考えている内に、コウは詠唱破棄で身体強化を発動させる。
 明らかに高まった力強さや存在感、魔力の感じを見るに、やはり勇者というだけあってか魔力量は多いようで、かなりの強化がされたようだ。

「やっとか……これで気を遣わんで済むわ」

 それを見たロイドは聞こえないくらいの音量で呟きつつ、だらんと下げていた短剣を持つ両手をすっと持ち上げて構えた。
 身体強化なしでは思わぬ大怪我をしかねない、とロイドなりに神経をつかっていたのだ。

「行くよ!」

 別にわざわざ言わんで来いよ、と内心で返事をしつつ、突っ込んでくるコウの剣を短剣2本をクロスして受け止める。
 が、腕を叩く衝撃に、ロイドは目を丸くする。

「おっ…!」
「はははっ、吹き飛びなよ!」

 想像を超えた威力。
 コウは言葉に合わせて更に力を込め、ついにロイドは弾かれるように吹き飛ばされる。
 ロイドは空中で後方宙返りの要領で体勢を立て直して足から着地するが、着地と同時に追撃をしようと迫るコウの剣撃に晒される。

「よ、よし、いけぇコウ!」
「頑張ってぇ〜!」

 それを見た生徒達から再び声援が飛ぶ。
 その声に力をもらうかのように徐々に加速するコウの剣撃に、ロイドはその場でとはいかず、後ろに退がりながら短剣で捌いていく。

「いつまでもつかな!?」
「いや、もうそんなにもたん」
「はあははっ!素直だね!早く降参したら怪我せずにすむよ?」

 コウの攻撃に混じる声に、ロイドは少し悔しそうに返すと、高笑いするコウを置き去りにするように大きくバックステップして溜息をつく。

「はぁ…これじゃじじいに勝てる訳ないか……まぁこれからだこれから」
「……何のことか知らないけど、これ以上やるなら怪我するよ?」

 ロイドの悔しそうな言葉にコウは首を傾げるが、ロイドは首を横に振る。

「ん?まぁいいや。勇者さん、こっからは怪我しないように気をつけてなー」
「はははっ、何を言ってるんだい?得意の嘘も焦ってるのか随分下手になったよ…う、だね…?」

 笑うコウは、しかし尻すぼみになるように言葉の勢いを失っていく。
 その言葉と反比例するように高まる、ロイドの魔力を肌で感じたからだ。
  
 身体魔術『身体強化』。
 コウの勇者として持つ高い魔力、それすら大きく上回るロイドの膨大な魔力による強化は、魔力感知が下手なコウをして分かる程の威圧を放つ。

「……う、嘘だろ…?」
「なんだこの魔力は…?!」

 周囲の学生の中にも魔力感知が出来る生徒はいる。
 それらは高まるロイドの魔力に先程までとは一変、驚愕の表情を浮かべることとなる。

「よし、次はこっちからいくぞー」
「……くっ!」

 ロイドは先程までとは比べ物にならない速度で駆け出す。
 そのまま突き出した短剣をコウはかろうじて剣で防いだ。

「ぐううぅっ!」

 半分勘でかろうじて防いだものの、その一撃の重さに食いしばった歯から苦しそうな声が漏れ出す。
 その一撃すら、受けるように誘導した囮の一撃だと知れば、どういう顔をするかロイドは少し気になったりするが、かろうじて自重した。
 
 そして囮と言うからには当然だが次がある。
 ロイドの武器は短剣2本。威力は剣より劣れど連続攻撃や回転数といった速さは桁違いの武器。
 もっとも、その威力ですら身体魔術によって強化されたロイドのそれは高い威力を誇る。

「っ、く、くそっ、速い!」
「ありがとさん」

 次々と絶え間なく繰り出される短剣に、コウは剣と縦にしながら退がる事で被弾から逃れる。
 まるで先程退がらされた分をお返しするように、ロイドはコウを押し込むように攻め続ける。

 ここで余談となるが、ロイドはレオンとの戦いで自己鍛錬に火が着いていた。
 その為、一撃目のコウの反応でまともにやったら練習にならないと判断したので、すぐに身体強化を弱めていたりする。

「っはぁ、はぁっ、はぁ!」
「よっと」

 そして、それが最初に立っていた場所まで戻ったところで、コウが『部分強化』をしたのか、鋭く後方に跳んで間合いから離れた。
 息を激しく切らせて肩を揺らすコウに、ロイドは始まった時のように静かな眼差しと呼吸で構え直す。

「…なぜだっ、何故君が魔法を使える?!」
「今更だろ。あれだ、魔法具って事になってるだろ?」

 魔法適正がないはずのロイドの身体強化に信じられないように叫ぶコウに、ロイドはあしらうように適当にーー本当に適当に返しつつ、待つように構えたまま動かない。

「ふざけるな!おかしいだろう!しかも適正が100近い僕の身体強化より強いだなんてあり得るはずがない!」
「そんなにか。うわぁ、勇者ってだけあってすげぇな…」
「それが、何故!?補助具の域を出ない魔法具じゃおかしな話だ!答えろ!」

 ロイドの感想に取り合わずに問いかけるコウ。
 
 いつの間にか静かになった校庭に響き渡る声は、周囲の生徒も同じ気持ちだったのだろう。
 聞き耳を立てるように痛い程の沈黙が周囲を支配していた。

 視線や意識が集まるロイドは、しかしそれを意に介していないように飄々とした表情を浮かべて一言。

「んー、内緒?」
「お、お前ぇ!」
「は、恥さらしのくせに生意気だぞ!」
「そうよそうよ!」
「それよかさーー」

 気の抜けるような声音で言うロイドに激昂するコウや周囲の生徒達。
 先程の沈黙が一転して騒がしくなる中、ロイドは外野に構わずコウだけを見て口を開く。

「――光魔法、使った方がいんでない?」

コメント

  • k-猫派

    最後のセリフ誤字かな、、?いんでないって、めっちゃ台無しやーん笑笑

    1
  • サトゥー

    スカッとして来た

    2
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