魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

15 森の番人

 王都からゆっくり歩いても3時間とかからない距離。走れば一般人であろうと1時間ほどだろうか。
 そこにあるのがスァース大森林である。

 もっとも、大森林と呼べる規模の広さはすでになく、長く続いた伐採などで森は小さくなっている。昔の名残で大森林と呼ばれてはいるが。
 
 そしてそれに比例するように魔物の脅威度も落ちていた。
 
 餌場の減少などにより去った魔物が居る点も理由だろうが、魔物は魔力を取り込んで強くなる性質がある。 その源である魔力が木々の伐採などにより減少した事が大きな要因だ。

 とは言え、それでも危険が全く無い訳ではない。
 
 王都から近いという事で王都の冒険者ギルドが管理している土地ではあるが、そう遠くない位置に村や町もある。
 そこに住む住民に被害が及ばないように定期的に間引きを行うのだ。

 絶滅させないのは冒険者ギルドの都合で、それにより管理の仕事も任される事となっている。
 その都合というのは新人冒険者の練習にうってつけ、という事だ。
 
 その性質上、ある程度慣れた冒険者達は大した稼ぎにもならないスァース大森林には行く事など殆どない。

 だが、今日は違った。

「うぉ…やっぱでけぇな……ルースドさんよ、ほんとに良いんだな?」

 数人の中級程度の冒険者が森の最奥、少し背の高い丘の麓でそれを見上げていた。

「あ…あぁ、頼む。やってくれ」

 そしてそれに混じって1人の男子学生が息を飲みつつも頷き、冒険者達に指示をしている。
 丁度時を同じくして学園で捜索の指示が出された対象であるルースド・ドッガーだ。

「全く、最近の貴族のお子さんにゃ参るぜ…」
「まぁ金になりゃあいいんだけどよ」
「違えねぇ」

 その指示に頷く冒険者達は、丘の上に再び目を向ける。
 そこに居座るのは1匹の魔物だ。

「そういやぁ冒険者になって初めての依頼でこの森に来る時に言われたわなぁ」
「あ、それ俺もだ!あれだろ、『番人には手を出すな』だろ?」
「そうそう、なんか懐かしいぜ」

 冒険者達は丘を登りつつ昔話に花を咲かせていた。
 この魔物は、それこそこの森が大森林と呼ぶに相応しい規模たった頃からこの丘に住んでいた。
 だが積極的に人間を襲う事はなく、いつも森の中心である丘の上で眠っているのだ。

 襲わなければ襲われる事はない。
 それを理解した人族はその魔物を『森の番人』と呼び、関わる事をせず放置する事にしたのだ。

 もっとも、他にも討伐しないのは理由がある。
 
 稀にではあるが他所から魔物が大森林へと移動してくる事がある。
 そしてその魔物が脅威的な力を持っていた場合、新人ばかりの冒険者達はひとたまりもない。
 
 だが、『森の番人』はそういった脅威のある魔物を排除するのだ。

 テリトリー等の理由だろうが、冒険者ギルドからすれば利のある存在である。
 もっとも、魔物である事は変わらないので警戒だけはしているし、あくまで暗黙の了解である為討伐してもお咎めがある訳でもない。

 だが、なんやかんやで冒険者達も愛着のようなものを感じているのか、誰も討伐しようとする者もおらず、ただ眺めるだけの存在であった。
 
 今日、ルースドに雇われるまでは。

「まぁ、もうあの頃の俺らじゃねぇし、楽勝だろ」
「それより俺ぁ他の冒険者達から怒られねぇかの方が心配だぜ」
「あぁ、引退したやつらなんかは特に関わるなって言うもんなぁ。愛着もあんだろうよ」

 そう言いながらも丘の上、『番人』の足元まで辿り着く若い冒険者達。
 各々武器を抜き、構えながら最終確認をする。

「まぁ一応殺さないから大丈夫だろ。いいか、俺らの目的は『番人』を森入口付近まで誘導。……失敗すれば討伐。それだけだ」
「あいよ。しっかし何の為の依頼なんだかな」
「さぁな。まぁ報酬はでかいし、割りの良い仕事だとおもぺぎぃ」
「は?」

 武器を構えてすぐ。会話をしていた1人の冒険者が立っていた場所に。

「グルゥ…」

 巨大な前足があり、その足元には血溜まりが弾けるように広がっていた。

「っな?!」

 あまりに唐突な攻撃に驚愕する冒険者達。

 彼らはまだ若く、最近新人を抜け出した程度の冒険者だった。
 その若さ、いや未熟さからこの依頼の背景を調べる言葉もなく、ただ依頼金の額に目が眩んで頷いてしまっていたのだ。

 彼らは知らなかった。
 今日がウィーン学園の四等級試験によりこの森に生徒が来る予定だという事を。

 そして、冒険者達が手を出すなと言っているのは決して愛着によるものではない、と言う事を。

「クォオオオオン!!」

 何よりーー『森の番人』グリフォンが、上級に位置する危険な魔物であるという事を。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「よっしゃあ、俺の方が先に着いたぁ!」
「ふーん!あっそう!関係ないわ、私の方が先に倒して帰るんだからね!」

 その少し前、ウィンディアの姉弟はスァース大森林へと足を踏み入れていた。

 身体強化や魔法の力まで使ってまで走ってきた2人は、これから本番の討伐があるにも関わらず汗だくである。
 
 だがそれも大した問題ではないとばかりに、息を整える事もなくそのまま森へと突っ込む2人。
 もしこれが討伐の過程まで評価する試験であれば致命的な減点をされる事間違いなしの愚行である。

「それも俺が勝つしー?」
「言ってなさい!私はこっち行くから着いて来ないでよ?」
「言われなくてもな!」

 2人は森へ入るや否や別行動をとる。
 もしゴブリンを見つけた際に取り合いにならないようにと配慮しての事ではあるのだが、そもそも配慮するべき方向性は危険に対してだという事は考えもしない2人。

 それからロイドは森の奥へと、エミリーは森の浅いエリアを探す形で走り出した。 
道中かなりの人数を抜き去ったのだが、クレア達との雑談で遅れたことで先に森へとへと向かった生徒達も少なからずいる。
 であれば、奥の方が人は少ないだろうと考えたロイド。
 
「……てか、えらい静かな森だな」

 しかし、それなりに進んで来たにも関わらず一向に会敵しないロイドは、焦りを抑える為にも口に出して感想を述べる。

(やっべぇ、姉さんの行った方が正解だったか?)

 ロイドも一時期は森――正確には山脈で過ごした時期があり、その時の経験から奥地の方が魔物が多いと考えての判断だったのだが、まるで魔物が気配を殺して隠れているかのように影も形もない。

 近くにレオンでも居るんじゃないろうな、と内心ぼやきつつもロイドは更に足を速めて進んでいく。

 すると、奥の方から音が聞こえてきた。
 ロイドはやっと見つけた気配に口角を上げる。その音はなんともありがたい事にこちらに向かってきているようだ。

 ロイドは足を止めて迎え撃つ体勢をとる。
 そして、茂みから飛び出してきた影を見て目を丸くした。

「は?」
「助けてくれぇ!」
「クォオオオオン!!」

 そこにはゴブリンではなく、恐らく冒険者であろあ人族が数人と、それを追うどえらい大きな魔物。

「っ!おい、そこの生徒!逃げろっ!」

 そして冒険者に混じって走っている、ぐったりした生徒――見覚えがあるようなないようなーーを抱える赤い髪の男子生徒が居た。

コメント

  • 330284 ( ^∀^)

    おい、クソ冒険者普通はグリフォン伝説級か、A位の強さだぞ!バッカか?

    0
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