魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

13 進級と試験と

 それはもうロイド達は走っていた。
 
 そのきっかけはグランとの会話に出てきた何気ない一言である。

「それよかロイド、昇格試験の申し込みはもう行ったか?」
「ん?、何それ?」
「はぁ?!お前入学式寝てたんじゃねぇだろーな!?」

 完全に図星であるロイドは黙秘権を発動。閉口する。
 が、仮にも1年近く仲良くしていたグランにバレないはずもなく、それはそれは大きな溜息をつかれる。

「ったく、真面目なんか不真面目なんか分からんヤツだなお前は!」
「てへ」

 かわいこぶるロイドにダメ押しの溜息をついてグランは頭をばりばりとかいて口を開く。
 ちなみにこの時エミリー達も惚けたようにそっぽを向いているのだがーー幸い誰も追求しなかった。

「こいつら…ったく、簡潔に言うぞ!ここの学園は進級するのに定期的にある試験を合格すんの!んでその試験の申し込みが今日まで!次は半年後!申し込みは職員室!分かったらダッシュ!!」
「はいっ!」

 元気よく返事して走り出すロイド。に続くように走り出す女性陣3人。

「…ってお前らもかい!!」

 後ろから響くキレのあるツッコミに、女性陣はなんとも清々しい表情で逃げるように走り去る。
 もっとも、ラピスだけは恥ずかしさか赤面した表情で走っていたが。

「ったく、誰か起きてなさいよね」
「エミリーさん、それお互い様ですよ…」
「あはは……ま、まぁまだ急げば間に合うんじゃないかな?」
「そうね。ロイド、急ぐわよ」

 あっという間に追いついたエミリー達に急かされるも、ロイドは考え事をしているかのように走る速度に反比例するように思考に没頭したのか真顔だ。
 それをどう捉えたのか、ラピスはおずおずと口を開く。

「……あの、ロイドくん。……友達に怒られたからってへこむ必要ないよっ。グランくんも心配してくれただけだよっ!」

 それは優しく包み込むような言葉。
 彼女の根っからの優しさが滲み出て言葉になったかのような励まし。
 
 これが漫画なら背景には花が散りばめられるような優しい場面だろう。
 だがしかし、エミリーとクレアはなんとも言えない表情を浮かべている。

「……ロイドくん?」
「…ん?あぁ、急がんとな」

 聞こえなかったのかな?と思ったラピスが心配そうに見つめる先で、ロイドは物思いにふけるような表情で言葉を続ける。

「しっかし、あのおバカ担当のグランが説教か……あいつ、バカなのにちゃんと幹部やれてるんだな」
「あんたどの立場から言ってんのよ」

 そんなこったろうと思ったという表情のエミリーに後頭部を叩かれ、エミリーと同じような表情のクレアに溜息をつかれつつ。
 仕方なくロイドは足を速めるのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「いやー危ないとこだったな」
「でも考えてみれば卒業しなくていいなら試験も受けなくていいんじゃないですか?」
「そうだけど、進級しないと入れないスペースとかもあるでしょう……上がるなら上がった方が良いはずよ」
「そうですねっ!だったら間に合って良かったねっ」

 それからしばらくして、職員室から出てくるロイド達。
 
 無事申し込みも間に合った彼らは安心したように一息ついていた。
 そしてラピスは手元の用紙に目を落として呟く。

「それにしても結構たくさん試験をしてるんだね。四等級試験が終わってすぐに一等級試験もあるんみたいだよ」
「いきなり卒業試験があるんですね」
「ええ、確か新入生達にこの学園の最終目標を見せてあげる為、だったかしら」

 ウィーン学園は入学時が五等級生で、四等級試験を合格すれば四等級生になる。
 それを繰り返して一等級試験を合して一等級生になる事こそがこの学園の卒業にあたるのだ。
 
「そうなんだ!詳しいんだね!」
「フィンク兄さんから聞いたのよ。と言っても、三等級以降は知らないわよ?」
「…んん?」

 クレアはエミリーの言葉に首を傾げる。
 フィンクが在学していたという事だろうが、一等級は知っていて三等級以降は知らないのは辻褄が合わない。

 その疑問を察したロイドが口を開く。

「兄さん、どうせなら一等級も受けてやろうとか言って四等級試験の後すぐに申し込んだんだと。……まぁ、勿論却下されたんだけど、諜報やら口八丁やらで先生を丸め込んで参加して、合格して卒業したんだってさ」

 ちなみに飛び級で試験に参加する事自体は一応可能である。
 が、それは一度にプラス一等級分が限度で、それ以降は基本的に許可されない。

 つまり、ロイド達で言えば本来なら四等級試験を受ける立場が、三等級試験までは参加は可能と言う事である。
 そしてそれも教師が許可を出した生徒のみ適用されるのだ。

「あんた…はしょりすぎじゃない?まぁ大体合ってるんだけど」
「合ってるんだ……あはは…」

 エミリーの言葉にラピスは苦笑いを浮かべる。
 
 出身であるウィンディア領、その時期領主にして若い世代の最強格と名高いフィンク。
 微笑みを絶やさず、どこか捉え所がないながらも堂々としたその姿は年不相応な風格と頼もしさがある。
 そんな彼がそんなヤンチャな一面がある事に驚きと衝撃を受けるラピス。

 その横でクレアは、ふと入学試験の事を思い出していた。
 遅れてくるロイドとエミリーに対し、門に立っていた教師が放ったセリフ。

『……あぁ、今年のウィンディアもやはりウィンディアなのか…』
 
 ふむ、なるほど。どうやら教師の記憶にがっつり残るくらいには無茶をしたようだ。
 なんならもしかしたら、あの時の教師が丸め込まれた教師なのかも知れない。
 しかも諦念すら滲ませるあの教師の表情を思い出すと、どうやら決して良い行いばかりではないーーどころではないのが伺える。

(先輩もエミリーさんも結構大雑把なとこありますし……なんだかんだ似たもの兄弟なんですかね……)

 クレアは内心で納得するも、それを口にはしない。
 口にしたところでどうせ拒否されるのは目に見えているからだ。

「兄さんのおかげでいきなり一等級試験は多分許可されんだろーし、そこはのんびりやろーかなと思ってる。…それに、ゲームみたいでおもろいしな」
「はぁ…全く呑気なもんね。まぁさくっと合格してしまいましょ」

 お気楽に言い放つ姉弟2人。

 だがこの時期に四等級試験を実施するのは、本来新入生が自分の実力を過信しない為のものだったりする。
 国内最高峰といわれるウィーン学園に入学して舞い上がる生徒に、まだ君達は弱いのだと、これから強くなるのだと伝えるものなのである。

 もっともその側面には、例えばフィンクのような規格外をさっさと上に上げてしまえ、という考えもあるのだが、それが適用される方が基本的に珍しいケースである事は間違いない。
 そして、それなのにすでに合格したかのような立ち振る舞いの姉弟に、やはり似たもの兄弟なのだろう、とクレアは苦笑いを浮かべるのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 そんなロイド達を遠くから見る集団。
 彼らの中心に立つルースドは、ロイドを睨むように見つめつつ、口元を歪ませて呟く。

「あの恥さらしめ…調子に乗ってられるのも今の内だぞ…!」

 くつくつと笑うルースドは、取り巻きである生徒達に指示を出していく。
 その指示を受けてそれぞれ動き出す生徒達は1人また1人とその場を後にしていく。

 そんな中、ルースドだけはずっと、黒い思念を注ぎ込むかのようにロイドを睨みつけていた。

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