魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

11 恋愛脳?

 ロイド達はとりあえず実践戦闘の講義を見に行こうという話になり、講義のある場所へと向かった。
 そこは学園にいくつかある中庭のようなスペースによって行われており、運動場のように広いスペースが確保されている所だった。

「うわ広いな」
「ですねー。あ、何人か戦ってますよ!」
「ホントだぁ。やっぱり魔法もアリなんだね」

 そこではすでに戦闘が行われていた。
 と言っても軽い手合わせといった程度のようだが、それを何人かの先生が監督したり、生徒の相手をしたりと立ち回っていた。

「…あら。ロイド、あれ」
「ん?あ、あん時の先生」

 その1人はロイドとエミリーが実技試験で相手をした先生である。
 だったら話も聞きやすい、とロイド達はその先生のもとへと向かう。

「……ん?あ、ロイド、だったな」
「そうです。その節はお世話になりました」
「おう。んでどうした?実践戦闘の見学か?…なんなら今丁度体験講義って形でお試しやってるけど、やってくか?」
「そうですね、では少しだけ」

 寝起きの運動には丁度いい、とロイドは頷く。
 教師が他の3人にも目線を向けると、全員頷いた。

「そうか。んじゃあそこのスペースが空いてるから使いな。俺も他のとこ見てから行くからウォーミングアップでもしとけ」
「分かりました。えっと…」
「ん?あぁ、言い忘れてたな。俺はガイアスだ、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」

 ガイアスの指示に従い、中庭の一角へと向かう。
 向かう際に気付いたのだが、一定間隔ごとに魔法陣が地面に描かれており、マス目のように並んでいた。
 そのマス目ごとにスペースが分けられているようだ。

「ふーん、便利だなーこれ」
「そうね。さすがはウィーン学園ってとこかしら」

 周りを見ながらロイドとエミリーが呟く。
 区切られたスペースの四隅にある魔法は連動しており、そのスペースから魔法が飛び出そうとすれば防壁を張る仕組みになっているようだ。
 おそらく流れ弾などが他のスペースに行かないようにする為だろう。

 そんな事を言いつつロイド達は指定されたスペースに着き、軽く体をほぐしていく。
 寝起きの体を覚醒させていくようにウォーミングアップしていると、何人かの生徒が近付いてきた。

 生徒達はロイドに目を向ける事なく、女性陣を見て話しかける。

「失礼。君達もこの講義を受けるのかい?」
「…そうよ?」
「実技試験も見ていたけど、みんな素晴らしい実力だったね」
「はぁ」

 矢継ぎ早にエミリー達に話しかける生徒達を尻目に、ロイドはウォーミングアップをしていると、さらに別の生徒達が現れた。
 
「おい、恥さらし」
「ん?あ、ナイスアシストくん」
「なっ?!貴様ぁ、ふざけるな!僕の名前はルースド・ドッガーだ!」

 その先頭を歩くのは実技試験でロイドと一緒のグループだったルースドだ。
 相変わらずからかいやすいなーと思いつつ、ロイドは女性陣に目をやると、まだ話し込んでいたーーというより話しかけられていた。
 だったら、

「すまんねルースドくん。んで、何の用?」
「貴様の相手をしてやろうと思ってね。あぁ、拒否権はないから返事はいらないよ」

 良い暇つぶしになるか、とロイドは口元を緩めた。

「拒否なんてするわけないだろー?あんだけ実技試験じゃ助け合った仲じゃん」
「……貴様ぁ…口だけは達者のようだな」

 へらへらと笑いながら言うロイドに、ルースドは怒りに肩を震わせながら言葉を絞り出す。
 取り巻きであろう一緒にいた生徒の1人がこっそり口元を押さえて震えているが、それさえ気付かないほど怒り心頭であった。

「この恥さらしが!」

 その怒りに任せてルースドが駆け出す。
 魔力を練り上げ、走りながら魔法を発動させる。

「『火球』!」

 複数の火球をロイドへと一斉に放つルースドは、さらにその火球に続くように勢いを止めずに距離を詰めていく。
 対してロイドは迫る火球を見ながらすっと短剣2本を鞘から抜く。そして、その場から動く事なく短剣を素早く動かして全ての火球を斬り払った。

「貴様のその動きの良さだけは認めてやろう!」
「ざーっす」
「だがこれならどうだ!」

 ロイドの視界に斬り払った火球が火の粉のように舞う。
 その隙間から突き出した手を覗かせたルースドは、ロイドの間合いの少しだけ外で魔法陣を構築、発動させていた。

「『豪炎』っ!」

 中級火魔法『豪炎』。地面を走る炎を放つ魔法で、爆発に近い威力と速度を持つ。
 その指定した方向に指向性を持って広がる炎が、ロイドとその周囲ごと焼き尽くさんと迫った。

「はーっはっは!どうだ!これなら弾けも避けれもせんだろう!」
「いやー避けれはするわ」
「っ?!」

 高笑いするルースドは予想外に返ってきた返事に目を剥いて振り返ると、その振り返った先で額から数センチといった距離に短剣を突き出すロイドの姿があった。
 剣先越しに見たロイドの体には、明らかに身体強化がされているであろう魔力の気配と力強さが見える。

「……バカな、有り得ない…!試験でもまさかとは思ったが…貴様は適正がないはずだろう!なのになぜ身体強化が使える!?」
「………あー…」

 今更だなー、の思いつつも、ロイドは言葉を探す。
 放っておいてあまり騒がれるのも嫌だし、だからといって事細かに説明するのも面倒。
 そんな感じに怠惰な方向に悩むロイドに、

「よく分からないけどスキルの影響でそれっぽいのが出来るのよ、その子」

 エミリーから助け船が出された。

「……貴様ごときがスキルを持っていたとはな……油断したよ」
「あー、うん」

 ルースドはあっさり信じた。

「だが次は油断しないからな!」

 そう言い残してルースドは去っていく。
 なんともあっさりした引き際にロイドはなんとなくその背中を見届けていた。

「とりあえずこんな理由でいいでしょ?あれこれ説明するのも面倒だったし」
「あ、姉さんもか」

 やはり姉弟だった。
 
「まぁ助かったわ、ありがと」
「構わないわよ。それより、あの子達をどうにかして欲しいわ」
「ん?」

 エミリーの視線を追うようにロイドが目線をやると、クレアとラピスに絡む男子生徒達の姿が。なんなら先程より増えている。

「……よく抜け出せたな」
「あの程度の包囲、朝飯前よ」

 もはやクレアとラピスの姿が確認出来ない程の人集りに、ロイドは呆れたように呟く。

「それにしても、結構皆して恋愛脳なのか?ここって一応魔法のエキスパート学校だろ?」
「あぁ……あのねロイド、ここは言ってしまえば社交界も兼ねてるのよ」
「社交界?」

 ちょっとした疑問程度だったのだが、エミリーから返された予想だにしない単語にロイドは首を傾げる。
 
「そうよ。ここは様々な身分の者が魔法や戦闘の技術を磨きに来る学校。……そして、王都の騎士や魔法師団は身分ではなく実力で評価される」
「へぇ。そんで?」
「だったらここで実力や…まぁ容姿が優れたりと人より秀でた者をパートナーとして選びたいのよ」

 つまり、この学園で目立つような生徒はそのまま王国の重要なポジションに就く可能性が高いのだ。
 
 さらにはここの学園に通う学生達のほとんどが成人を目前とした年齢だという。
 
 そして、エイルリア王国では成人してから結婚が認められており、実際成人してから数年以内に結婚するのがほとんどだというのだ。
 付け足すなら、貴族はあまり結婚が遅くなると体裁が悪い。その為、成人してからはお見合いという形をとる事が殆どなのである。
 
 つまり、このウィーン学園に在学している間が自由恋愛が最もしやすく、かつチャンスなのだ。

「なるほど、勝手に結婚相手が決められる前に捕まえようと必死な訳か」
「そういうことね。クレアやラピスなんて見た目も実力もかなり良いし、まぁ標的にされるのは仕方ないのよ」
「なるほどね。大変だなーあいつらも」

 ロイドはまさに他人事のように言うと、ふと気付いたようにエミリーに目線をやる。
 その目線に気付いたエミリーが振り向いて目が合うと、ロイドは口を開いた。

「ん?なによ?」
「いや、姉さんなんて綺麗で強い上に爵位もあるし、もっと寄ってくるんじゃ?」
「んなっ?!……な、なによいきなり…」

 首を傾げながら問うロイドに、エミリーは頬を少し染めて小さく唸りつつ、質問に答える。

「ま、まぁそうね、私にも寄ってはくるでしょうね。…でもここは社交界も兼ねてると言ったように、下手な事をすれば自分の家名を汚しかねない」
「あー、なるほど」
「そう。だから伯爵でありウィンディアの家名の私相手には慎重にならざるを得ないのよ」

 つまり、多少強引な対応が出来るという事だと続けた。
 淑女としてそれはどうかと思う表現だが、ロイドは頷いておく。
 そんなロイドを見つつ、エミリーは手で顔を煽ぎながら言う。

「……全く、あんた、女心の講義とか受けといた方がいいわよ…」
「え、そんなんもあるの?」
「知らないわよ、バカ」

 ついにはそっぽを向くエミリーに、ロイドは首を傾げるのであった。

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コメント

  • 330284 ( ^∀^)

    てか、エミリーと一緒にいる奴にも手出すなよ

    0
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