魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

6 共闘?

「お、おい、あれは…」
「ウソだろ?身体魔法…?!」

 ロイドから滲み出すように溢れる魔力。
 それに伴うように肉体の性能が向上され、その存在感が増したと思わせる力強さがその身に灯る。

 しかし、それはあり得ないはずの事象。

 彼――ロイド・ウィンディアは魔法適正に愛されず、魔力はあっても魔法が使えないはずの人間、のはずだった。

「バカな…」

 ルースドもそのロイドの背中を見て目を丸くしていた。
 そんな中、教師だけは別の意味で怪訝そうな表情を浮かべている。

(……この程度なのか?)

 そう、明らかにかの異名に因んだ偉業を成し遂げるには弱々しい力しか感じられなかったのだ。
 だが、必ずしも身体強化が戦力に直結する訳ではない、と教師はすぐに気を引き締める。

「――ふっ!」

 教師の集中する時を待っていたかのように、気を引き締めた瞬間にロイドは駆け出していた。
 先程よりも明らかに速いそれに、受験生が慌てて目で追う。

 初手、走る勢いそのままに振り下ろされた短剣を教師は短いバックステップで回避。
 すぐさま振り下ろした隙を突くように剣をロイドへと叩き込もうとして、

「っ!」

 それよりも速く、ロイドのもう片手の短剣が教師に迫る。
 教師は剣を振る方向を無理やり変えて、ロイドの短剣に当てるように軌道を変えた。

 ぶつかり合う剣撃。
 しかし咄嗟の対応で体勢が崩れた教師だが、ロイドは追撃する事すらなく素早く距離をとる。
 それに疑問を抱くよりも早く、ロイドと入れ替わるように炎が教師へと襲い掛かった。

「ぬ、ぅっ!」

 ノールックでのエミリーとの連携。
 さすがの教師も不意をつかれ、どうにか転がるようにして回避するしかなかった。

「これで反撃出来ますよ?」

 勿論ロイドはその隙を逃がさなかった。

 教師が素早く体勢を整えるも、それより僅かに速くロイドが追いつき短剣が教師を捉える。
 教師の肩を浅く斬りつけ、薄らと血が滲んでいた。

「……そうだな」

 教師は溜息ともとれる、吐き捨てるような口調で頷くと、剣を構え直した。
 
 この試験において、教師は一撃をもらうまでは反撃出来ない。が、ロイドから浅くも確かな一撃を入れられた。

 つまり、これからは回避以外にも行動出来る。

 それに構わずといった様子でロイドは教師へと駆け出す。
 今度は回避ではなく迎撃が出来る教師は、その場に腰を落として迎撃する気を見せた。

「…む!」

 だが、ロイドは教師へと短剣を振り下ろす事なく、そのまま間合いの手前で方向を変えた。
 教師を中心に弧を描くように駆け抜けるロイド。

 そのロイドの駆け抜けた後のスペースから教師へと迫るーーエミリーの風。

「っく!」

 先程までの炎も強力だったが、それをさらに一段引き上げたような威力の込められた風の刃。
 その予想を超える攻撃の鋭さに、受けた体が僅かに硬直させてしまう。

「ちなみに…」
「――っ!」

 その隙を突いて間合いの外を駆けていたロイドは一気に距離を詰めて教師の背後をとった。
 そして、鋭い斬撃をもって教師の背中を斬りつける。

「…2発目入れたらまたなんか追加されるんすか?」
「……そうだな、俺が少し本気になる、かな」

 ギリギリの所で回避しようとしたが完全には躱せずに浅くロイドの剣が教師を斬り裂く。
 が、浅いとは言え先程の肩への一撃よりは深く、白いシャツが赤く滲んでいた。

「しかしロイド・ウィンディアは良い性格をしてるな」
「ありがとうございます」

 しかし教師はその傷をなんともないように、ごく普通の口調でロイドを皮肉る。
 ロイドもわざとらしく頭なんて下げているが。

「なんでそんな事してるんだ?それとも一気にギアを上げれないだけか?」
「え、なんの事ですか?」

 とぼけたように言うロイドに、教師は肩をすくめる。
 そんな教師にロイドも言い返す。

「先生こそ、わざと攻撃くらってるでしょ?身体魔法も使ってないですし」
「……なんの事だ?」

 教師も同じくとぼける。
 なんとなく可笑しくなり、少し唇の端を吊り上げる2人。

「それじゃ、少しずつギア上げてきますね。一気にギア上げれないタイプなんで」
「そうしろ。俺も身体魔法使うの忘れてたから、これからは少し使うとする」

 軽口を叩きつつ構える両者。勿論お互い嘘である。

 ロイドとしてはいきなりトップギアで動けば目で追えない生徒もいるだろうし、そうなれば余計に目立つ。
 更に言えば、ローギアからいきなりトップギアに入れる事での緩急で教師を出し抜くチャンスを残す考えもあった。
 
 隙を探るように睨み合う2人に、数秒の沈黙が訪れる。

 そこに、まるで沈黙を打開するかのように無数の火球が迫ってきた。
 
 ――ロイドへと向かって。

「死ねぇ!」

 その火球の発射元はルースド。右手を真っ直ぐにロイドへと向けて叫ぶ。

「ナイスアシストォ!」

 だが、ロイドはそれをギリギリで回避した。ロイドを見失って直進する火球は、対面に居た教師へと襲いかかる。
 教師はそれを迂回するように回避してロイドへと迫る。

「ちがっ…!くそ、くたばれ恥さらし!」

 奇襲のつもりが攻撃した相手に褒められたルースドは、怒りに顔を歪ませつつ追撃する。
 魔力を練り上げ、先程よりも多い火球を打ち放った。

 短剣2本と剣が激しくぶつかり合う2人に迫る火球。
 それを背にロイドは鍔迫り合っている短剣の力を抜く。

「っと…」

 力の行き先を失った教師の剣がバランスを崩してつんのめる。
 とは言え1秒にも満たない僅かな隙だが、その瞬間にロイドは素早く屈んで足払いを放った。

「っと、そんな駆け引きもできるんだな」
「毎日実践訓練させられてるんで」

 しかしあっさりとその足払いを回避する教師。
 ロイドは低い体勢のまま地を這うように低く後方へとジャンプして距離をとる。

 それと入れ替わるようなタイミングで、体勢を低くしたロイドの上空をルースドの火球が駆け抜ける。
 教師は体勢を立て直すには至らず逃げるタイミングを失い、舌打ちをしつつその場で剣を振るって火球を捌いた。

「ナイスアシストォ!」
「だから違うわぁ!」

 その隙に再びロイドが教師に迫る。

 その様子をエミリーは呆れたように眺めてぽつりと呟く。

「何遊んでのよあいつ……ていうかさっきから私暇なんだけど」

 手持ち無沙汰そうに呟くエミリーを尻目に、結局試験の時間が終わるまでそんな感じでのらりくらりと戦いきったのであった。

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コメント

  • 330284【むつき・りんな】

    「ローからいきなり」ろーから?後試験やり過ぎだろ

    0
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