魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

5 恥さらしと国崩し

「お疲れー」
「頑張ったわね」
「えへへ、ありがとっ」

 ステージから下りるラピスをロイドとエミリーが迎えた。
 実に彼女らしい戦いにロイドとエミリーは笑顔でそれを讃える。

「でもやっぱり先生は強いね。もう魔力もあんまり残ってないよぉ」
「それはそうよ。王国でも上位の実力がないと務まらないって聞いたわよ?」
「そんなの相手によくやった方じゃね?」

 緊張が解けたのかぐでーっとするラピス。
 エミリーはそんなラピスの頭を撫でていた。

「では次の10人はステージに上がりなさい」

 そこにまるで試験が終わった後のような空気を出す3人に言うかのように、教壇の上から指示が出た。
 エミリーははいはいと言いたげに、ロイドは忘れてたとでも言いそうに振り返って自分達の指定されたステージに向かう。

「んじゃ行ってくるわー」
「うん、頑張ってね!」
「任せなさい。仇は討つわ」
「え?えっと、うん、よろしくね!」

 仇と言っても誰も死んでないしラピスと戦った教師とは別の教師なのだが、ラピスは嬉しそうに笑って送り出していた。

「あれだな、ラピスは攻撃は突っ込み気味に攻めるのに、ボケに対するツッコミは下手だよな」
「そうね。今後の課題だわ」

 ラピスに試験とはまるで無関係な評価を下しつつ、2人はステージへと上がる。
 
 やっとか、と言いそうな視線が他の受験生から浴びせられる。主にロイドに、だが。

「よし、では始め!」

 しかしそれを言葉として発せられる前に試験が始まった。
 
 合図とともに走り出す数名の受験生達。
 先程見たラピスのステージと違い、半数以上は様子見といったように動かずにいた。

「お前も行けよ」
「ん?」

 ロイドもそれに漏れず様子見がてらのんびり突っ立っていると、後ろから聞き慣れない声が掛かる。
 ロイドは首だけ捻って声の方に顔を向けると、やはり見慣れない顔が。

「恥さらしのくせに、何サボってんだよ。さっさと行け」
「………」

 無言のロイドという横着ともとれる態度に腹が立ったのか、眉をひそめて言葉を付け足す彼をロイドはしばし見つめる。

「……おい、黙ってないで早く行け。僕の命令が聞こえないのか?恥さらしが」
「……ごめん、誰?」
「なっ!?」

 黙っていたのは思い出す為だったようだ。が、思い出せずに素直に聞くロイドに、彼は驚愕と羞恥が混じった表情を浮かべる。

「貴様っ!僕を知らないだと…っ?!い、いや…仕方ないんだろうな。恥さらしが僕の名前に触れる事もないのだろう」
「はぁ…」

 ロイドは面倒そうな雰囲気を隠しもせず溜息混じりに相槌を打つ。それに構わず彼は振り返り、エミリーに顔を向ける。

「エミリーさん、あなたもさぞ大変でしょう。このような弟を持っーー」
「誰よあんた?」
「――てしまって……え?」

 エミリーにどこかすり寄るように言い寄る彼の言葉を、エミリーは最後まで聞く事すらなく言い放つ。

「…え、えっと…」

 聞き間違いか?と混乱する彼を無視して、エミリーはロイドに言う。

「ロイド、そろそろいいんじゃない?もうほとんどダウンしてるし」
「んー、そうだな。待たせるのも悪いか」

 ロイドは彼とエミリーの絡みを無視して教師へと目線を向けていたが、少し前に7人目の受験生が膝をついていた。
 ラピスの時と違って反撃された訳ではないが、体力と魔力が底をついたようだ。

 そして、残るは3人。つまり、ロイドとエミリーと彼しかおらず、教師は手持ち無沙汰そうにしている。なんか申し訳ない。

「んじゃ後ろよろしくー」
「分かってるわよ」

 ロイドは短剣を1本だけ抜き放ちながら駆け出す。
 それを見据えながらエミリーは魔力を練り上げた。

「やっとか、教師を待たせるとは良い度胸だな」
「いやぁすんません。なんか変なのに絡まれちゃって」

 ロイドの短刀を教師は剣で防ぎつつ呆れたように言う。
 ロイドは苦笑いを浮かべて謝罪しつつ、しっかり責任転嫁を試みた。

「ん?ルースド・ドッガーか。なんだ、ドッガー伯爵家と親交があるのか」
「いや俺はないんですけどね。向こうは知ってたみたいで」

 彼――ルースドが聞いたら激昂しそうなセリフを吐きつつロイドは蹴りを放つが、教師はバックステップで躱す。
 それを追いかけるロイド。再び短刀を叩き込むも、やはり剣で防がれる。

「ふむ、”恥さらし”の件か」
「よくご存知で」

 納得いったように呟く教師に、ロイドは素早くもう一本の短刀を抜き放ってそのまま斬りつける。
 剣で短刀を防いでいる教師の死角から放たれた剣撃に、しかし教師は伏せる事で躱してみせた。

「バカにするな。”国崩し”の方も言えば良いだろう?」
「あ、ばれてるんですね」

 ロイドの言葉に被るように迫る熱。
 屈んだ教師に覆い被さるように飛来する炎――エミリーの火魔法だ。

「バカにするな」

 教師は先程と同じ言葉を使う。
 それが国崩しの事を指しているのか、それとも火魔法の事を指しているのかは分からないが、しかし教師は火魔法も完璧に躱してみせた。

「素早いですね」
「俺はこれでもウィーン学園の教師だぞ?……けどまぁ安心しろ、『国崩し』についちゃあこの学園でも学園長と俺くらいしか知らんはずだ」
「……せんせー何者なんすか?」
「それはまた今度な。とりあえず…手加減なんてするな」

 剣撃と合間に放たれる炎を躱しながら、教師はロイドを見据えて言う。

「……」

 ロイドはその眼に兄フィンクと同じ気配を見た。戦闘好きの気配ーー苦手なタイプである。
 
「はぁ……」

 そして溜息をひとつつき、じわりと魔力を練り上げる。
 教師はそれを黙って見つめ、エミリーもそれを待つかのように火魔法を放たずに様子を伺っていた。

「それじゃ、行きますよ」
「来い」

 それらに応えるかのように、ロイドは身体魔術を発動させた。

コメント

  • 330284【むつき・りんな】

    もっと過去編みせろ〜 早く次会話みせろ〜(体調に気を付けて)クレア達「もっと出番増やせ〜」勝手なこと言ってすみませんm(_ _)m

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