魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

2 ウィンディアの恥さらし

 ウィーン学園。
 シーズニア大陸でも最大の国エイルリア王国の中でも最もレベルが高いと言われ、いわゆるエリート校として知られる学園である。

 しかし、その入学試験自体は決して難しいという訳ではない。
 あくまで実力の確認と、入学してあまりに卒業が困難と判断された受験生に別の道を勧める、というものだ。

 つまりは試験で落ちる、という事は基本的にない。
 勿論時間を守れないなどの最低限が出来てこそではあるが。

 それはさておき、この学園の入学試験は3つの試験で構成されている。
 魔法適正確認、実技試験、学力試験である。
 魔法適正は今後の伸ばす魔法や苦手な魔法を確認する為に。
 実技試験、学力試験は現時点の実力を確認して、それぞれの内容において試験官が得意不得意を見極めて今後の授業の選択の参考になるように。

 そしてそれらの結果をもって入学する。
 ウィーン学園では完全選択制の授業となっており、生徒は定期的に行われる試験に向けて授業を選択して己を磨いていくのである。

「えー、では改めて試験を始めようと思います。前に並んでいる机に鑑定石があるので、各自並んで鑑定をしてもらうように。終わったらもらった用紙を持ってそのまま待機して、次の試験を待つようにしてください。では、始め!」

 壇上で話す教師の言葉に受験生達がわっと走り出す。
 かなりの量の鑑定石があるとは言え、それを遥かに超える人数の受験生が押し寄せた事であっという間に長蛇の列を作る事となった。

 緊張感と期待を胸に列にまだかまだかと並ぶ受験生の背中を見て、ロイドは嫌そうに呟く。

「あれな、並ぶのってなんか嫌だよなー。一旦帰る?」
「気持ちは分かりますけど、さすがに並びましょうよ」
「そうだよ、帰っちゃダメだよ?」
「バカな事言ってないで早くしなさい。ほらクレア、椅子用意しなさい」
「そうですよ…ってえぇ?!ちょ、エミリーさん?!座って待つ気ですか?!」
「そうよ?ここまで走ってきたから疲れちゃったのよ。土魔法も得意でしょう?」
「クレアー、はーやーくー」
「うわ先輩まで!もうやだこの姉弟!」

 クレアが天に向かって叫んだ。
 
 そんなこんなで列も短くなり、クレアが土魔法により出した椅子から立ち上がって鑑定石へと向かうロイド達。
 ちなみに他にも同じように待っていた者もおり、何人かが同じように歩き出していた。

「てゆーか俺適正ないからやばくね?落ちるかな」
「なんで嬉しそうなのよ。お兄さんが言ってたでしょ、この試験で落とされる事はないって」
「確か定期試験に何回か受からなければ落ちるんだったよね?」
「そうですね。なので今日は気楽なもんです」

 そう言ってる間に鑑定石へとたどり着く。
 ロイド達はバラバラに分かれて鑑定石へと魔力を流し込んだ。

 そんな彼らを鑑定石の確認を終えた受験生達が遠巻きに見ていた。
 遅刻ギリギリの入場による悪目立ちによるものか、それともかのウィンディアという事による注目か、興味を抑えきれない様子だ。

「えー、エミリー・ウィンディアさん。身体魔法60、風100、火65、水25、土5ですね。…60越えが3つもある上に最高数値の100まであるとは、将来有望ですな」
「マジかよ、100なんて初めて見たぞ!」
「しかも火と身体魔法は60越えか…さすがウィンディアの長女だな…」

 周りがどよめく中、エミリーは鑑定した教師に頭を下げて後ろへと下がった。
 歩くエミリーに圧されるように人だかりが一歩下がったその時、

「すげぇぞ、あの金髪の子もかなりの数値だ!」
「マジか、身体魔法80にほぼ全属性50近いなんて…」
「あ、エミリーさん!終わりました!」

 騒がしい観客と化した受験生達を尻目にラピスはエミリーに手を振って駆け寄る。
 エミリーはラピスの数値を遠巻きに聞いて言う。

「ラピス、あなた結構適正高かったのね」
「えへへ…そうみたいなんだけど、どれもしっくり来なくって。やっぱり破壊魔法が一番馴染むんだよね」
「それは分かるけど、他の魔法も練習しなさい?応用が効いた方が良い時もあるわ」
「はーい!」

 素直に頷くラピスにエミリーは微笑みを浮かべる。
 そんなやりとりをしていると、一際大きな声が周囲から上がった。

「嘘だろ!そんな事あり得るのか!?」
「す、すげぇ!天才っているんだな…!」

 驚愕に叫ぶ受験生。その視線の先には銀髪を揺らして歩くクレアが居た。
 鑑定石についていた教師も驚きに言葉をなくしている。

「あ、エミリーさん、ラピス」
「ねぇクレアはいくつだったの?」

 エミリー達に合流するクレアに、ラピスは開口一番に問いかける。
 それにクレアは両手を上げて広げ、右手は親指だけ折ってラピスに向かって突き出した。

「ん?え、9?」
「うん、だいたい全部90くらいでした」
「え、えっ?!90?!」

 首を傾げるラピスにクレアがにこっと笑って言うと、ラピスは混乱したように叫んだ。
 この数値にはエミリーも驚いたのか、目を丸くして閉口している。

 なるほど、これならこの騒ぎようも納得出来る。
 いくら魔法の適正が高いと言われるエルフ族であっても、さすがにこの数値は異常であろう。

 ほぼ間違いなく歴代でも最高レベルの適正数値だと思われた。

 えへへと頭をかいてどこか照れ臭そうにするクレア。
 すると、今度は受験生に妙な沈黙が訪れる。

「……え?」
「……嘘だろ?」

 沈黙に続きまるで信じられないものを見たかのような反応が見えてきた。
 その理由を察したクレアとラピスは溜息をつき、エミリーは観察するかのようにそちらに目を向ける。

 そのエミリーの視線の先、多くの受験生が目を点にして見つめる先。
 そこには魔法適正がすべて0と教師に告げられたロイドが居た。

「あ、思い出した…」
「あぁ、もしかしてあの噂の…」

 驚いていた受験生の中で、貴族と思われる格好をした少年達がはっとして口を開く。

「あいつ、ウィンディアの恥さらし…ロイド・ウィンディアだ!」
「うお、王都でも知られてんだな…」

 その不躾な言葉を、しかしロイドが遠回しに頷いた事で、何かの間違いかと驚いていた受験生達は、一転してその目に蔑みと軽蔑の色を宿した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品