魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

137 昔話〜散った花弁を胸に〜

「ソフィアっ!」

 そしてその光が収まると、倒れ伏すソフィアの姿があった。
 慌てて駆け寄ろうとすると、魔王がかつてない程狼狽した声を上げる。

「なんだこれは…!」

 思わず目を向けると、魔王の体から先程ソフィアを包んでいた光と同じそれが溢れ出ていた。
 体から花が咲くかのように湧き出る光に、魔王は振り払おうと腕や剣、魔法を使うが一向にそれを振り払えない。

「これは…!」

 魔王が目を見開く。
 明らかな変化に、魔王自身だけではなく俺やアリア達にも分かる程だ。

「………これ、って…死んでいってる…?!」

 アリアが呟く言葉。言葉としておかしく聞こえるが、確かにそう見えた。
 咄嗟に身体強化を眼に施して見た俺には、その光によって魔王の生そのものを否定するかのように存在が消されていくように見える。

 再生魔法『生帰死帰』。これはおそらくーー対象の命という事象そのものをなかったことにする魔術。

「ふざけるなぁ…!」

 だが、魔王はまだ何かするつもりなのか、ここまで戦い続けたとは思えない莫大な魔力を練り上げる。

 むしろ手負いの獣を彷彿とさせるその姿は、これまでにない力を発揮しているようにさえ見えた。

「貴様ら全員、道連れにしてやる…!」

 大地を叩き震わせる程の魔力に、しかし抵抗する気も湧かない。

 俺はソフィアを見やる。
 
 あれ程の力を使ったのだ。分かっている。分かってしまう。

 
 彼女がもう、死んでしまった事は。

 
 それを証明するように、ソフィアは動かない。
 魔力も感じず、生気もない。

 視界に靄がかかったように、頭に霧がかかったように、思考も体もどこか遠いものに感じる。
 そんな中、確かに理解出来ている事。


ーー守れなかった

 
 もういい、と剣を手放す俺に、二つの声が突き刺さる。

「あんた、ソフィアになんて言われたのよ?!生きなさい!」
「レオン、頼む。少しでいいから時間を稼いでくれ!」

 白金の光を束ねるように練り上げていく2人からだ。
 叫ぶ声に、ソフィアの言葉を思い出す。



『私の分も生きて欲しいわ』



 思考すらなく、体が駆け出す。

 視界はまだぼやけるように揺れていた。

 しかし構わずに走る。

 瞳の横を伝う冷たいものが涙だと気づく。

 体にある魔力を全て練り上げて拳へと集める。

「なんてお願いしてくれてんだよ…」

 その魔力を鋭く絞り込み、そして拳へとのせる。
 ぼやけた視界に、魔王の姿が見える。

 その魔王にまとわりつくように光に、視界が切り開かれた。

「くそがぁああ!『崩月』っ!!」

 拳を振り抜く。
 貫くように放たれた拳と銀色の魔力の奔流に、魔王の練り上げた魔力が霧散するのが見えた。
 しかし、それでもと魔王は魔術を放つ。

 それより僅かに早く、白金の光が魔術となって放たれた。

「『隆埋葬山』!!」
「『離断隔界』!!」

 コウキの魔術により、目に見える限りの大地が隆起して魔王へと襲い掛かる。

 アリアの魔術はその空間そのものを切り取り圧縮する事で魔王ごと押しつぶさんとする。

 大地と空間両方に押し潰されそうになる魔王は、しかし最後の魔術を発動した。

「『森羅狂乱』!!」

 魔王から放射状に広がる”何か”。
 その何かに触れた大地は枯れ、木々は成長し、炎は消える。

 時を乱されている、と直感で感じた俺は気付けばその何かに拳を叩き込んでいた。
 身体魔術をかろうじて発動出来る程度のそれだったが、しかし残る魔力を込めた拳がそれに呑み込まれた瞬間。

 ぴたりとその何かが止まった。

 そしてその拳を伝うかのようにその何かが流れ込んでくる。
 体を得体の知れない何かに書き換えられるような、そんな怖気を覚える感覚に襲われた。

 だが、それも一瞬。
 
 今も襲い掛かる大地に魔王の姿は見えなくなり、そしていつしか魔王の魔力も感じなくなっていったのだった。

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