魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
136 昔話〜散りゆく華〜
「ソフィアァアアアアアアアッ!」
叫ぶ俺の声に、ソフィアからの返事はない。
うつ伏せに倒れた彼女から大地を伝って広がっていく赤い血。
ぴくりとも動かない体。
瞬間、思考の大半が消える。
代わりに思考を埋め尽くすのは、これまでにないーー不殺の信条さえも忘れて溢れ出す、殺意。
その残りの思考がとらえたのは白金の光を溢れさせるアリアとコウキ。
それが半ば都市伝説のようになりつつある存在にして、絶対的な力をもたらすとされる『神力』だと何故か分かった。
だが、俺の視界に割り込む白金の光を置き去りにして、俺はただ魔王へと斬りかかっていた。
まるで他人が俺の体を使っていると思う程に体が勝手に動く。
殺意によって体が突き動かされる。
空間魔術の防壁さえ超えた奴を前に今更安全地帯はない、と俺は一瞬の間も与えず攻め続ける。
そしてこの長い戦いにおいて初めて奴に傷を負わせる。
その程度では足りない。
体を循環する魔力をより強いものにし、俺は剣を振り回す。
刃を寝かせる事なく真っ直ぐに突き立てたそれは、魔王の体に血を流させていく。
「こいつ…!」
魔王が何か苦しげに言っている。
だが、それを耳は聞いても頭まで届かない。それよりも歪んだこの表情をもっと苦痛に染めてやりたい。
だが、一瞬の間を縫って魔王は剣の間合いから逃げる。
すぐに距離を詰めたが、そこには無傷の魔王がいた。
直感で時の魔術で無傷の体に巻き戻した事に気づく。が、関係ない。
死ぬまで斬る。それだけだ。
「下がりなさい!」
「レオン、落ち着け!」
アリアとコウキの慌てたようか声が聞こえる。
俺と攻めを替わろうと入り込んでくる場面もあった。
だが俺はそれさえ許さず前に出続ける。こいつは俺が殺す。
「…?!」
だが、急に体が重くなる。スローモーションのような世界が急に早送りになったかのように流れ、剣を握る力が弱くなる。
「っが…!!」
その隙を突かれた。
俺は魔王に吹き飛ばされ、衝撃により骨が砕ける音が聞こえた。
「っ、あのバカ!」
「レオンっ!」
吹き飛ぶ俺に入れ替わるようにアリアとコウキが魔王と対峙する。
白金の光を尾のように揺らめかせる背中を重たい瞼を押し上げながら見つめる。
「ぐ、が…!」
地面に叩きつけられた俺は口からいっそ笑いたくなる量の血を吐き出した。
どうやら内臓も痛めたらしく、息もしにくく痛みに体が痙攣している。
だが休む暇などない。俺はすぐに身体魔術の自己治癒を発動する。
「……!」
だが、この戦いで多いに役立った自己治癒。それが発動してくれない。
そこでやっと気付いた。
(魔力枯渇……!)
恐らく先程の戦いで循環を超えた魔力が溢れていたのだろう。それにより本来の力を超えた強化がされた反面、魔力を大量に消費してしまったらしい。
不味い、と咄嗟に頭に過ぎる。
俺の事など構わないが、ソフィアを回復させる薬はあとどれくらいある?頭に血が上っていたが、まずやるべきはそこだった。
そして、先程の白金の光――神力もそう長く持つものとは思えない。
見て分かるほど膨大なエネルギー。あれ程の力だ、むしろ使った後は何も出来なくなるのではないか。
そう思いつつも重たい頭を無理やり動かしてソフィアへと視線を向ける。
ソフィアには生き残っていた兵士が薬を片っ端からかけているのが見えた。
頼む、と叫ぶも声にはならなかった。
頼む、と心の中で祈る。どうか彼女だけは。
「げほっ、ごほっ!」
その願いが通じてか、ソフィアから苦しそうながらも生を感じる声が聞こえる。
良かった、そう思い目を閉じる。
が、その瞼を突き抜けるような光を感じる。
その暖かくも凄まじい光に、何故か嫌な予感を感じて必死に目を開く。
「……!ま、て…!」
そこには、光を纏ったソフィアがいた。
こちらに気付いたのだろう、ソフィアは涙を浮かべてこちらに手を翳している。
「……!」
次の瞬間、体を包む温かい光。
体を襲う痛みや怠さが抜けていく。
治癒魔法とは違う、異次元の回復能力を持つ魔術――再生魔術。
「っ、やめろ!これ以上使うな!」
体が動く、と思った瞬間には叫んでいた。
再生魔術、と名付けられているものの、それはもはや再生という域を越えかねない代物だ。
魔術は対象に干渉して操作する。
だが、あれの対象となるのはもはや事象そのものだ。
“その事を無かった事にする”という力。それ程の力の負担が軽い訳がない。
ましてや、重症の彼女が使える力ではない。
「レオン、いつもありがとね」
「待て、何をする気だ!」
叫びながら動くようになった体で駆け出す。ソフィアを止める為に。
「昔からいつも助けてくれた。支えてくれた。これからたくさん、お返ししていきたかった」
もはや言葉を返す事すら忘れて走る。
身体強化の事をやっと思い出して発動させる。
「レオン、私の分も生きて。大好き。元気でね」
「待て、まってくれぇ!」
やっと発動した身体魔術、それにより加速した身体は、しかし間に合わず。
「再生魔術――『生寄死帰』」
紡がれた魔術により、ソフィアは光に包まれる。
叫ぶ俺の声に、ソフィアからの返事はない。
うつ伏せに倒れた彼女から大地を伝って広がっていく赤い血。
ぴくりとも動かない体。
瞬間、思考の大半が消える。
代わりに思考を埋め尽くすのは、これまでにないーー不殺の信条さえも忘れて溢れ出す、殺意。
その残りの思考がとらえたのは白金の光を溢れさせるアリアとコウキ。
それが半ば都市伝説のようになりつつある存在にして、絶対的な力をもたらすとされる『神力』だと何故か分かった。
だが、俺の視界に割り込む白金の光を置き去りにして、俺はただ魔王へと斬りかかっていた。
まるで他人が俺の体を使っていると思う程に体が勝手に動く。
殺意によって体が突き動かされる。
空間魔術の防壁さえ超えた奴を前に今更安全地帯はない、と俺は一瞬の間も与えず攻め続ける。
そしてこの長い戦いにおいて初めて奴に傷を負わせる。
その程度では足りない。
体を循環する魔力をより強いものにし、俺は剣を振り回す。
刃を寝かせる事なく真っ直ぐに突き立てたそれは、魔王の体に血を流させていく。
「こいつ…!」
魔王が何か苦しげに言っている。
だが、それを耳は聞いても頭まで届かない。それよりも歪んだこの表情をもっと苦痛に染めてやりたい。
だが、一瞬の間を縫って魔王は剣の間合いから逃げる。
すぐに距離を詰めたが、そこには無傷の魔王がいた。
直感で時の魔術で無傷の体に巻き戻した事に気づく。が、関係ない。
死ぬまで斬る。それだけだ。
「下がりなさい!」
「レオン、落ち着け!」
アリアとコウキの慌てたようか声が聞こえる。
俺と攻めを替わろうと入り込んでくる場面もあった。
だが俺はそれさえ許さず前に出続ける。こいつは俺が殺す。
「…?!」
だが、急に体が重くなる。スローモーションのような世界が急に早送りになったかのように流れ、剣を握る力が弱くなる。
「っが…!!」
その隙を突かれた。
俺は魔王に吹き飛ばされ、衝撃により骨が砕ける音が聞こえた。
「っ、あのバカ!」
「レオンっ!」
吹き飛ぶ俺に入れ替わるようにアリアとコウキが魔王と対峙する。
白金の光を尾のように揺らめかせる背中を重たい瞼を押し上げながら見つめる。
「ぐ、が…!」
地面に叩きつけられた俺は口からいっそ笑いたくなる量の血を吐き出した。
どうやら内臓も痛めたらしく、息もしにくく痛みに体が痙攣している。
だが休む暇などない。俺はすぐに身体魔術の自己治癒を発動する。
「……!」
だが、この戦いで多いに役立った自己治癒。それが発動してくれない。
そこでやっと気付いた。
(魔力枯渇……!)
恐らく先程の戦いで循環を超えた魔力が溢れていたのだろう。それにより本来の力を超えた強化がされた反面、魔力を大量に消費してしまったらしい。
不味い、と咄嗟に頭に過ぎる。
俺の事など構わないが、ソフィアを回復させる薬はあとどれくらいある?頭に血が上っていたが、まずやるべきはそこだった。
そして、先程の白金の光――神力もそう長く持つものとは思えない。
見て分かるほど膨大なエネルギー。あれ程の力だ、むしろ使った後は何も出来なくなるのではないか。
そう思いつつも重たい頭を無理やり動かしてソフィアへと視線を向ける。
ソフィアには生き残っていた兵士が薬を片っ端からかけているのが見えた。
頼む、と叫ぶも声にはならなかった。
頼む、と心の中で祈る。どうか彼女だけは。
「げほっ、ごほっ!」
その願いが通じてか、ソフィアから苦しそうながらも生を感じる声が聞こえる。
良かった、そう思い目を閉じる。
が、その瞼を突き抜けるような光を感じる。
その暖かくも凄まじい光に、何故か嫌な予感を感じて必死に目を開く。
「……!ま、て…!」
そこには、光を纏ったソフィアがいた。
こちらに気付いたのだろう、ソフィアは涙を浮かべてこちらに手を翳している。
「……!」
次の瞬間、体を包む温かい光。
体を襲う痛みや怠さが抜けていく。
治癒魔法とは違う、異次元の回復能力を持つ魔術――再生魔術。
「っ、やめろ!これ以上使うな!」
体が動く、と思った瞬間には叫んでいた。
再生魔術、と名付けられているものの、それはもはや再生という域を越えかねない代物だ。
魔術は対象に干渉して操作する。
だが、あれの対象となるのはもはや事象そのものだ。
“その事を無かった事にする”という力。それ程の力の負担が軽い訳がない。
ましてや、重症の彼女が使える力ではない。
「レオン、いつもありがとね」
「待て、何をする気だ!」
叫びながら動くようになった体で駆け出す。ソフィアを止める為に。
「昔からいつも助けてくれた。支えてくれた。これからたくさん、お返ししていきたかった」
もはや言葉を返す事すら忘れて走る。
身体強化の事をやっと思い出して発動させる。
「レオン、私の分も生きて。大好き。元気でね」
「待て、まってくれぇ!」
やっと発動した身体魔術、それにより加速した身体は、しかし間に合わず。
「再生魔術――『生寄死帰』」
紡がれた魔術により、ソフィアは光に包まれる。
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