魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

135 昔話〜魔の頂〜

 パレードも終えて侵攻を始めて約2ヶ月が経った。

 パレードでは前の晩に大喧嘩したりカップル成立に騒ぎ立てたりと、緊張感のない一行を笑う領民にからかわれながら見送られた。
 しかもよほどでかい声でアリアが俺たちの事を叫んだのか、ほとんどの領民に知られたのではないかと思う。
 俺とソフィアの仲を祝ったりからかったりする声も混じっており、ただでさえ面倒なパレードがより恥ずかしいものになった。

 今でも思い返すと元凶のアリアを殴りたい気持ちにかられるが、それを実行する余裕さえなく侵攻は続き、ついに魔国の主要機関であり魔王の拠点でもある魔王城へと辿り着いた。

「やっとね。思ったよりかかったわ」
「そうだな。でもあとちょっとだ」

 常に最前線に立っていたアリアとコウキは魔王城を見据えて言う。

「早く終わらせて帰る」
「焦らないでよ?無理はしちゃダメ」
「……あぁ、わかったよ」

 俺は最前線と少し後衛になるソフィアとの間を行き来しながら戦ってきたが、やはり犠牲となる者も出た。
 極力ソフィアの目に殺害する光景が映らないようにはしてきたものの、全てとはいかず、編成された兵士も大きく数を減らしていた。

 それを悔しく思いつつも、ならばさっさと終わらせてしまえと考えていた。
 が、ソフィアはそれを気にするなと宥める。聖女ではない彼女の口調で言われると俺もつい聞いてしまっていた。

「あーもう見せつけないでよ」
「あのツンツンしたレオンがこんなに激甘だったとは…ツンデレにも程がある」

 それをからかう2人。特にコウキは異世界の単語でからかってくるから余計に腹が立つ。

「もうっ、やめてよ2人とも!」

 とは言えソフィアが照れるのが可愛いから、強く止めずにそれを見てたりする俺も俺なのかも知れんが。

 そんな緊張感の足りない一行に兵士達は怒るでもなく笑っていた。
 こうして張り詰めすぎないようにガス抜きになるなら、という気持ちもあって止めない部分もある。

 だが、そんな心配やらももうしなくていい。

「よし、んじゃこれで最後だ。行くか」

 目の前の魔王城、そこにいる魔王さえ倒せばそれで終わりだから。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 魔王と戦い始めてどれ程経っただろうか。

 使い切れるのか心配な程大量にあった魔力回復薬ももう全て使い切った。
 ここに来るまでに減っていたとは言え、それでも大軍と呼べる程居た兵士たちも数える程しか残っていない。

 夜の闇夜での戦いも、朝日の光に剣が照らされる戦いも、夕日のような炎が舞う戦いも越え、数日に渡る戦い。
 
 時間感覚などとうに無くなり、目の前の魔王だけに集中していた。

 舞台も魔王城から戦う内に大きく外れていき、今はフェブル大森林へと変わっていた。
 鬱蒼としていた木々が燃え、大地はひび割れ、空には暗い雲が覆う。

 戦いの中、コウキとアリアはたまにどちらかが抜けて回復に努めていた。
 ソフィアが回復させる事でどうにか戦線を崩さずにいた。

 そして俺は身体強化魔術の特性である循環をここに来て完成させていた。
 おかげで途中から魔力回復薬を使う事なく戦力を維持して戦い続ける事が出来ていた。

 だが、アリアの空間魔術やコウキの多彩な攻撃、俺の剣もここぞという一撃が届かない。
 魔王の扱う魔術――時の魔術によるものだ。

 基本的には破壊魔術を使うのだが、時折見せる時の魔術に俺達はかなり苦しめられている。
 
 それこそアリアの空間魔術である『断界』ーー空間を切り離すという完全防御魔術ーーが無ければとっくにやられていただろう。

「しつこいわよ!くだばれ!」
「いい加減その首斬らせろ!」

 叫ぶアリアと俺の攻撃。当たればどんな生物だろうと即死するようなそれは、しかし魔王に届かない。
 攻撃が当たる瞬間には居ないのだ。時を止めて移動している。

 ちなみに最初にそれで背後に立たれた俺は死にかけたが、ソフィアのおかげでこうして戦えている。

「ちっ、厄介な魔術だ…」
「こっちのセリフぅ!」

 アリアは青筋を浮かべながら攻める。
 
 アリアの空間魔術により魔王周辺の空間に断層を作って動きを制限しているのだ。
それにより時を止めていきなり後ろからグサリ、という事態を防いでいる。

 だがそれに力を割り振っている為、アリアの攻撃力は落ちている。
 俺の剣も馬鹿みたいな魔力を込めた破壊魔法を打ち破るには至らず、精々相殺するのが精一杯で、壁役に徹するしかない場面も多い。

 となれば要となるのはコウキだ。

「クソがぁ!死に晒せぇ!」

 ソフィアの回復により戦線に戻ってきたコウキが魔王の背後から斬りかかる。
 長い戦いにだいぶヤバイ感じに仕上がっているコウキだが、しかしその攻撃は戦いの中でより研ぎ澄まされていた。

 しかし、やはり時の魔術による回避を捉える事は出来ない。
 こうした激しくも膠着した状況が続いており、魔王の魔力が無くなるまで粘るしかないと思っていた。

「まずいわ…」
「あぁ?何がだよ」

 そんな中アリアが呟く。
 聞き返す俺にアリアは空間魔術を展開しながら言う。

「ソフィアがもう限界に近いのよ」
「なっ…」

 俺は危険も忘れて魔王から目を離してソフィアを見やる。
 その視線がとらえた彼女は白い肌を一層白くして、疲労を滲ませた表情を浮かべていた。

 考えれば分かる事だ。
 俺は魔力は使わない。アリアとコウキは交代で少ないながらも休憩を挟んでいる。

 だが、ソフィアは常に魔力を使っていた。

 アリアとコウキへの魔力譲渡、俺達だけではなく兵士達への治癒魔術と休む間もなくソフィアは魔術を行使し続けており、そのおかげで魔王と膠着状態を維持出来ているのだ。
 そして頼みの綱である魔力回復薬も既に無い。

 そのソフィアが倒れれば一気に形勢は傾くのは火を見るより明らか。

「くそ…!」

 余裕が無かったとは言えそれに気付かなかった自分を恨む。
 焦りと苛立ちに剣を握る力が強くなる。

「こら!慌てないの!どうにかソフィアを休ませる時間を作るわよ!」
「っ、分かった!」

 今にも飛び出しそうだった俺にアリアの指示がとぶ。
 それでかろうじて冷静になった俺は魔王の注意をひくように真っ直ぐに駆け出す。

「やっとか。厄介な魔術だったよ…その治癒と再生魔術は…」

 だが、そこで呟かれた魔王の言葉に俺は背筋が凍った。

 アリアとコウキも目を瞠る中、魔王は一際強く魔力を練り上げる。

「っ消えた?!」

 そして発動される時の魔術。
 どうやったのか、空間魔術の防衛を超えたのかーー空間の断層の中にその姿はない。

「っ!」

 俺は嫌な予感に従うようにソフィアへと弾かれたように目を向ける。

「ごほっ…れ、おん…」

 

 その視界に映るのは、腹部を貫かれて血を流すソフィアだった。

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