魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

133 昔話〜勇者と英雄達〜

 それからも俺達はアリアに鍛えられつつ、たまに出る魔族を追い返す日々を過ごしていた。

 いつしかコウキはアリアに迫る力を手にしていき、まだ勝つ事はないまでもアリアを追い詰める場面が出るほどだ。
 もともと膨大な魔力量に多彩な攻撃手段を誇るコウキ。その技術を補う事や経験を積ませるだけであいつはアホみたいに強くなっていった。

 そしてそれを知ったエイルリア領の領主はあいつにある称号を与えた。

「これよりコウキ・カンザキを勇者とし、魔族の王を討ち取る任を与える!」

 昔話にある”勇者”という称号。
 魔王を倒す存在として描かれたそれは実話かどうかは知らん。が、魔族との争いに決着が見えない今、その称号は希望のように見えるんだろう。

 その昔話に登場する勇者も異界から現れて、と描かれている。
 まさにうってつけの立場にあるコウキは、これで晴れて人族の希望として担がれた訳だ。

 ちなみに俺は剣一本で魔族を殺さないまでもなんだかんだ負けないって所から”剣神”なんて呼ばれてる。恥ずかしいから周りには呼ばないようにお願いしてるが、

「あらレオンちゃん、最近来ないから心配したのよぉ?剣神だから大丈夫とは思うけど、やっぱり優しいから心配しちゃうわ」
「おっ!剣神様じゃねぇか!安くしとくぜ!」

 ……からかう為にわざと剣神と呼ぶ人は多い。

 歩いていると八百屋の夫婦に声を掛けられた。俺らの中で料理が一番上手い俺はよく買い出しもするからな。

「不殺の剣神、なんて大仰な名前もらったわね」
「……やめろ、それ恥ずかしいんだよ」

 一緒に買い出しに来てるソフィアはニヤニヤと俺をからかうように見てくる。

「あら久しぶりねぇソフィアちゃん。もう2人は結婚したのかしら?」
「は、え?い、いやっ!してる訳ないじゃないですかっ!」

 八百屋の奥さんの言葉に慌てふためくソフィア。
 お返しのチャンスだ。

「寂しい事言うなよ。小さい頃に結婚するって言ってきたのはお前だろ?」
「そんなの昔の話でしょっ!?」

 顔を赤くさせるソフィアは後退ろうとするが、それより早く俺は距離を詰めてソフィアの手をとる。

「俺は今でもそうしたいと思ってるんだが」

 そう言いつつとった手にキスをする。
 最近話題の勇者についての昔話、それに出てくるワンシーンの真似だ。

「あ…う、そんなの…私だって…」

 言語能力をだいぶ弱らせた事で溜飲が下がった俺は顔を上げてソフィアを見る。
 白い肌を首まで赤くさせたソフィアは心なし潤んだ目でこちらを見返してきて、

「っ!あぁもう、やられたわっ!」
「はははっ」

 俺のニヤニヤした表情を見て察したのか頬を膨らませた。
 我慢できず笑ってしまった俺をポカポカと殴るソフィアを宥める。

 そんな様子を見ていた八百屋の夫婦はそれはもうニヤニヤとしていたが。

 と、そんなこんなで拠点に戻りながらソフィアが言う。

「……こうしてみんなが笑って、誰も死なずに生きられる世界になればいいね」
「…そうだな」

 レオンは聖女と呼ばれるに相応しいソフィアの横顔を見ながら頷いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さて、これで私達のやる事は決めつけられたわ」
「嫌そうに言うなよ」

 晩飯に俺達の拠点となる家で俺の作った飯を食べていると、アリアが唐突に口を開いた。
 
「だってそうじゃない。なにが勇者よ、あの狸ジジイめ、都合よく祭り上げちゃってさ」
「まぁでもこれで防衛に足をとられずに魔王の所まで行けるようになった訳だし」

 怒るアリアにコウキが宥めるように言う。
 だがアリアの怒りはそう簡単には消えそうになかった。

「なんでコウキは勇者でレオンは不殺の剣神、ソフィアは奇跡の聖女なのに私は最凶の魔術師なのよ!」
「今更だろ。他にも色々名前あるからいいじゃないか」
「良くないわよ!だいたい魔族からは金髪の悪魔なんて言われてるし!失礼しちゃうわ!」

 がっつり的を得てると思う、と内心だけで呟いておく。
 だがなんとも言えない表情を浮かべているソフィアとコウキを見るに、おそらく同じことを思ったのだろう。

「まぁそれは置いておくとしても!いきなり魔王を倒してこいだなんて、無茶苦茶だわ!」
「そうかな?なんかいけそうな気もするけど」
「確かに私達は実力はついたかも知れない…けど、甘いわよ」

 呑気なコウキにアリアはぴしゃりと返す。
 そしてチラッと俺に目線をやるのに気付く。

「……あれか?俺が殺さないってとこが不安要素な訳か」
「…………」

 俺の言葉にアリアは目を逸らして押し黙る。
 それは明らかな肯定だったが、それを口にして注意しないのなアリアなりに俺に気を遣っているからだろう。

「……ねぇ、もし殺さないのが私のせいなら、その…」
「違うぞソフィア。これは俺の問題だ」

 沈黙を気まずげに破るソフィアに俺は全面否定しておく。

「……そっか…」

 絞り出すように返すソフィア。
 気まずい沈黙が流れる。

「…すまん、足を引っ張らないようにはするから」

 俺はそれだけ言う事しか出来ず、返事を待たずに部屋を後にした。

 

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コメント

  • 330284【むつき・りんな】

    絶対とは言わないけど、絶対にソフィア天国に行きますよね

    1
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