魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

131 昔話〜追憶〜

「先輩、起きてくださーい」
「んん…あと40秒…」
「いいですよ」

 ロイドが反対しにくくも待つのは面倒な微妙な時間を申し出る。
 
 それを嬉しそうに待つのはクレアだ。
 クレアはウィンディア家に住む事になってもう数日が経つ。

「はい、40秒!んじゃ起きますよ!」
「待て、慌てるな…あと25秒…」
「もうダメですー!ほらご飯できてますよ!」

 二度目は許されず渋々起き上がるロイド。
 
 開ききってない瞼でクレアを見ると、クレアは嬉しそうにこちらを見ていた。
 何がそんなに楽しいのかとロイドは思うが、口を開くのも億劫だと重たい体に鞭打ってベッドから下りる。

「えへへ、おはようございます」
「ん、おはよー」

 ニコニコとしているクレアに挨拶する。
 そしてクレアに追随するようにリビングへ向かおうとして、机の上にある物に気付く。

「……諦めるか」

 ロイドは呟きつつそれを掴んで、今度こそクレアについて行くようにリビングへと向かった。


 リビングには家族全員揃っていた。そこにレオンが混じっている。

 レオンもルーガスはじめウィンディア家の言葉でこの家に住んでいた。
 とは言え食事と寝る時以外は基本家にはおらず、訓練を見るかどこかにふらっと出ているようだが。

 そして食事を終えた面々。各々仕事や訓練などで席を立つ。
 そんな中、ロイドがレオンへと話し掛ける。

「なぁじじい。これ読める?」
「ん?なんだクソガキ……ほう、懐かしいな」

 ロイドから手渡された物に目をやるレオンは、少し驚いたように目を僅かに見開いた。
 そしてそれーーベルから購入した本をパラパラとめくっていく。

「あ、やっぱ読めるんか。これ何?魔術絡み?」
「……いや、これは昔の童話、みたいなものだな」
「へぇ。んじゃ魔術は関係なかったか。…まぁいいや、どんな内容なん?」
「何故俺が読まないといけない」
「いや俺だって解読しようとしたけどさ。全然読めねーんだよ」

 ロイドとしてはレオンに頼るのは避けたかったが、ここ数日解読してみても一向に進展がないので渋々こうして聞いていたのだ。
 そんなロイドにレオンは鼻を鳴らしつつ言う。

「ふん、だったら俺に手を使わせたら読んでやる」
「あぁ?言ったなこら。手ぇどころか顔までボコボコにしてやる」
「口だけは威勢がいいな。まぁ精々頑張ってみろ」
「う、うぜぇ…!よっしゃ先にウォーミングアップしとくからあとちょっとしたら来いよ!」

 ロイドは青筋を浮かべつつ庭へと向かう。
 それをレオンは見届けて、大きな音を立てて扉が閉められてから本へと目線を移す。

「……まだこんなものがあったんだな…」

 小さい声で呟くレオン。
その本の表紙、そこに書かれた『エイルリア王国建国の軌跡』という文字に目を落とし、ゆっくりとページをめくった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「なぁレオン、どうなってんだあいつ」
「俺が知るかよ…」
「ふふっ、あなた達もまだまだね」

 俺――レオンと同じく地に伏せるのはコウキ。
 黒髪黒目の彼は別の世界から来たという訳の分からない奴だ。
 
 彼は数年前にここエイルリアと、対立している魔国ジャヌリアとの境にある森、フェブル大森林で拾われてきた。

「あらまぁ、大丈夫?もうアリアったらやりすぎよ?」
「大丈夫だって、ソフィアもいるし」
「なんて女だ…」

 ぼやくコウキに内心で死ぬほど賛同する。
 
「何よ、あなたが鍛えて欲しいって言うからこうして訓練してるんじゃない」
「そうなんだけどな……ちょっと手加減して欲しいというか…」

 ちなみにコウキを拾ってきたのはこの暴力女ことアリアだ。
 空間魔術師という上級魔術を使いこなすバケモノで、エイルリアでも屈指の戦力だ。

「全く、相変わらず力の加減が下手ねぇ…ほらレオン、横邪魔するわね」

 そして俺の横に膝をついて魔力を高めるのはソフィア。
 聖女という称号を持つ彼女は治癒魔術はもちろん再生魔術という超上級魔術さえ使う。

 今もこうして治癒魔術にて体を治してくれている。
 正直ソフィアがいなければ何度かアリアに殺されていたと思う。

「どうかしら?」
「うん、ばっちり。ありがとうソフィア」
「いえ、良かったわ」

 さらに言えばソフィアは昔からの知り合いだ。
 昔から泣き虫だったこいつはいつの間にか強くなってた。前は守る立場が最近ではひっくり返された気がしてならない。

 そんなことを考えている内にコウキの治癒も終わったようだ。

 俺達はそこらへんにある飯屋で昼食を済ませる。

「さて、そろそろ行こっか」
「そうだな、また怪我人が出ても大変だ」

 腹も満たされた事で元気になったアリアとコウキは急ぎ足気味に歩き出す。

「急ぐ気持ちも分かるけど、あんだけ食べてよくすぐ動けるわね」
「あいつらは異常だからな」
「誰が異常ですって?!」

 ソフィアと話しながらそれに追随する。地獄耳のアリアが怒鳴るのを2人してスルーしながら、俺達はフェブル大森林へと向かった。

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