魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

130 第一章エピローグ

 ロイドとフィンクの手合わせがあった翌日。
 朝食を済ませたロイドはフィンクに呼ばれて庭へと足を運んでいた。

「どーしたよ兄さん」
「いや僕も詳しくは聞いてないけど、なんか連れて来いってさ」

 2人は眠気の残る重たい瞼をこすりながら庭へと向かうと、そこには見知った顔が並んでいた。

「おはようロイド。いえ、おそようかしら」
「んぁ、姉さんおはよ」

 エミリーの嫌味も半睡状態のロイドには届かない。
 エミリーは青筋を浮かべつつも言葉を呑み込み椅子を黙って指差す。

 ロイドは指示されるがまま椅子に座って周りを見渡す。
 そこにはレオン、ルーガス、シルビア、エミリー、ローゼ(寝てる。羨ましい)。そしてラピスとクレア、フィンクがテーブルを囲うようにして座っていた。

「どしたの、こんな朝早くから」
「言っておくがもう昼前だぞ」

 あくび混じりに問うロイドにルーガスは溜息混じりに言う。
 それにいつものように柔らかな笑顔を浮かべてシルビアが続ける。

「仕方ないわよ。ロイドもフィンクも疲れてるでしょうから。昨日はびっくりしちゃったもの」
「昨日…?」

 ロイドは首を傾げる。
 言われてみれば昨日フィンクと手合わせした後からの記憶が曖昧だった。
 なんとなくフィンクに目をやるとフィンクも同じような表情を浮かべている。

「魔力枯渇だろう。話している途中にぶっ倒れたんだ」
「え?あー、なるほどな」

 レオンの呆れたような口調の言葉にロイドは納得する。

「自分の意思で発動出来るようになったのは良いが、使いこなせてはいないな。自分の神力で魔力を枯渇させるなんて間抜けな話だ」

 昨日の手合わせでは神力を使用していた。
 その神力の特性の1つに”魔力を弾く”という効果がある。

 その特性が仇となって魔力枯渇を起こしたようだ。
 
「だってあれ発動させるだけで集中力のほとんど持ってかれるし」
「甘えるな。魔力と同じように扱えるまで慣らしていけ」
「はいはい」

 レオンの厳しい言葉にロイドは気怠げに返す。
 とは言え内容は的を得ている為反論も反抗もしない。内心は全面的に賛同していた。

 そんな師弟の会話に割り込むようにエミリーが叫ぶ。

「そんな事より、あんた学園に行くってどういう事よ!」
「え、何の話?……ってそーいやそんな話してたな」
「その話の途中で倒れたものね」

 そしてエミリーは色々あって部屋に居た為聞いてなかったが、今日の朝その話を聞いたのだ。

「エミリーさん、それで急遽話し合いだって呼び出したんですよ」
「ふぁあ……そーなん?」
「あくびしてんじゃないわよ!」
「お、おぉ?姉さん機嫌悪いな」

 寝ぼけながらも目を丸くしたロイドは目を吊り上げたエミリーを見る。
 ばちっと目が合うと、ばっとエミリーはそっぽを向いて視線を外した。

「何見てんのよ!」
「えぇ…?どしたの姉さん」
「さぁ?」

 見た事もない程挙動不審な姉に首を傾げるロイドは兄に問いかけるが、頼りの兄も首を振ってみせる。
 ならばと父と母に目線をやると、母はニヤ〜と笑っており父はそんな母になんとも言えない視線を送っていた。

(こりゃ母さんがなんか言ったか?)

 強く優しく包容力のある母だが、あれで少女らしさというか少年らしいというか、悪戯好きな面があるのは知っていた。
 きっとエミリーが母にオモチャにされたのだろうとロイドは姉の挙動不審にあたりをつける。

「とにかく!あんただけだと不安だから私も行くわ!」
「僕は昨日やった感じ不安はないと思うんだけど」
「うるさいわよフィンク兄さん!」

 シャーっと警戒する猫のように叫ぶエミリーに、フィンクは両手を挙げて降参のジェスチャーをする。

「先輩、私も行きますからね!安心してください!」
「何を安心すればいい?」
「ロイドくん、私も行くからね!」
「俺に言われても」

 ロイドは眠気が辛く生返事しか出来ない。
 そんな一向に話が進まないのに焦れたか、ルーガスが切り出す。

「まとめるぞ。ロイドは魔法対策の勉強と魔術の魔法陣を探しに学園に行く。師匠と話した結果、次の春にある通常入試を受ける事になった」
「そして同じくエミリー、クレアちゃん、ラピスちゃんもね。分かったかしらロイド」
「通常試験?」

 聞いた事のない単語に首を傾げるロイドにフィンクが説明してくれた。
 いわく、途中入学も問題なく出来るらしいが、授業の段階を区切ってキリが良い時期にまとまった人数の入試があるらしく、それが通常試験の事らしい。

 ロイドは日本の春の入試みたいなもんかと想像して頷いた。

「ちなみにそれまでは今のお前の戦力の安定に向けて訓練していく」
「あいよ」
「それ私も参加するわ」

 レオンの言葉に頷くロイド。
 そんな2人に割って入るようにエミリーが体を乗り出して言う。

「え、姉さんも?」
「悪い?」
「いや悪かないけど、意外だったから」

 あまり積極的に戦闘訓練を受けるイメージがなかったエミリーにロイドは驚く。

「ならいいじゃない。邪魔するわよ」
「先輩、私も混ぜてくださいね!」
「あの、良かったら私もお願いしたいかな」

 さらにはクレアとラピスまで参戦。
 なんかうるさくなりそうだ、とロイドは少し肩を落として溜息をついた。

「構わん。良い刺激になるかもしれんしな」

 さらに女性陣をあっさり受け入れるレオンも意外だったが、恐らく断るのが面倒くさくなったのだろうと予想する。

 とは言えロイドも反論する気はない。
 むしろ楽しみだとさえ思う。

「来年春ってゆーとほぼ1年後くらいか。まぁのんびりやりますか」

 ロイドは覚めてきた目を細めて体を伸ばしながら呟く。
 
「ふふっ、きっとやる事は意外とあるわよロイド?」

 微笑む母にどことなく嫌な予感を覚えつつも、こうして家族や友人達とこれからしばるく過ごせると思うとどうしても頬が緩む。

「いいね、暇よりは忙しいくらいがいいわ」
「たまには私とも遊んでくださいよ先輩!」

 何より前世の後輩という不思議な縁も出来た。
 
 クレアが加わり、きっと騒がしくも楽しい1年になる。
 そう思いロイドはクレアへと笑顔を浮かべるのであった。

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