魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

129 進学?

 エミリーが逃げ出した後すぐロイドとフィンクのもとに向かうと、そこにはすでにベルやラルフ、ドラグ達が居た。

「ロイドくん、さっきは空間魔術は使ってたの?」
「あはは……兄さんが全然使う暇くれなかったです…」
「あれは凄そうだったね。それよりさっきの白金の光はなんだい?」
「あれ?神力っていうんだと。ディンバーで居候してた時期に少し使えるようになったんよね」

 ロイドが息も絶え絶えに言う。神力の反動による疲労だ。
 神力と聞いたラルフとベルは目を剥く。

「じ、じじ神力?!」
「どうりで…」
「ふふ、楽しかったよ。早く空間魔術をものにしてね、またやろうよ」
「出たよ戦闘狂!変わってなさすぎだろ兄さん!」
「…言っても無駄だぞロイド、こいつお前が居ない間に鍛えるとか言って俺に何回も襲いかかってきたんだぞ」
「男の子はわんぱくなくらいがいいのよねぇ」
「「いやわんぱくで済むか?!」」

 ロイドとラルフが仲良くツッコミをしていると、近寄る家族達から飛び出してきたローゼがロイドへと抱きつく。

「お兄ちゃんかっこよかった!」
「ん?おーローゼ、ありがとなー。負けちまったけど」
「んーん、しょーがないもん、フィンク兄はバケモノだってエミリー姉が言ってたもん」
「あー間違いではないなー」

 ローゼの頭を撫でながら話すロイドは、話題に出たフィンクに目をやる。

「…………」
「いや怖えよ」

 人相が変わるくらいに目を見開いたフィンクが無言でこちらを見ていた。夏の夜の話題になりそうな表情である。

「でもさいきんフィンク兄ウンドーしてなかったから、今日はたのしそーだったよ!」
「…………」

 笑顔のローゼの言葉にフィンクはその表情のまま涙を流し始めた。嬉しかったらしい。

「喧嘩直後から元気なやつらだ」
「ふふっ、頼もしいわね」

 それを笑う夫妻。そんなだから兄さんのコレが治らないんだぞ、と内心呟くロイド。
 
 するとすぐ近くまで足を進めたレオンに気づき、ロイドは顔を上げて口を開く。

「負けちまったわ」
「ったく…」

 不機嫌そうな表情を浮かべるレオン。
 その様子ににわかに緊張感を高めるラルフやベル。

「相変わらず弱っちいな。明日からはまた右足だけで相手してやろうか?」
「あぁ?!やってみろよじじい!その髪ハゲるまで切り刻んでついでに足もズタズタにしてやるわぁ!」

 それを嘲るかのようにいつものテンションで話し出す2人。
 そんな様子に今度はハラハラしだすラルフやベルだったが、チラッと見たウィンディア夫妻が嬉しそうに笑ってるもんだからそれさえバカらしくなってくる。

「はぁ…まぁこの1年元気にやってたんなら良かったわ。なんなら今度俺と手合わせするかぁ?」
「勘弁してくださいよ先生。しばらく誰とも戦いたくないですわ」

 溜息ひとつで切り替えたラルフは早速ロイドをからかうが、ロイドはぐったりとした様子で返す。

「僕もだいぶ楽しんだし、しばらくは大丈夫そうだよ」
「お前はそうしろ!定期的に斬りかかってきやがって!」
「息子が世話になってるな」
「お前はもう少し厳しく言えよ!」

 ラルフが吠える。それを面白いコントでも見たように笑う夫妻に頭を押さえるラルフ。

「ダメだこいつら…」
「今更だねぇ。いいじゃないかい、あんたもいい運動になるだろ?」

 呻くラルフにベルが他人事のように言う。
 恨みがましそうにベルを見るラルフは矛先を向けた。

「フィンク、たまにはベルもどうだ?”万雷の魔女”つっつー名前があるくらい強いぞ」
「魅力的な話ですが、まだラルフさんから一本もとってませんし」
「え?!それまで続くのか?!」

 思わぬ事実にむしろ仰天するラルフ。
 そんなラルフにレオンが口を開く。

「それもしばらく大丈夫だろう。ロイドにやらせればいい」
「はぁ?嫌だよ。兄さんの相手とかすげぇ疲れるし」
「ほう、負けっぱなしで疲れるからと。負け犬にはお似合いなセリフだな」
「兄さん明日リベンジさせろ」
「いいねやろう」

 レオンの煽りに青筋を浮かべて宣戦するロイドと笑顔で頷くフィンク。
 
「さっきはしばらくいいとか言ってたのに」
「フィンクさん相変わらずだね…」

 呆れたように呟くドラグとラピスに、言葉すらないラルフ。
 そんな中、レオンが口を開く。

「この負け犬の関係者が揃ってるから「おいこら」言っておく。じきにこいつは王都にある学園に通わせるつもりだ」
「はぁ?」

 ロイドのツッコミをスルーしつつ告げられた言葉に、やはりロイドが訝しげに首を傾げた。

「なんで学園?あんま意味ないとこって聞いたけど」
「そうですね。とてもあそこに今のロイドが行く意味があるとは思えませんけど」

 フィンクを見ながら言うロイドに、フィンクも頷いて答える。
 以前フィンクは学園へと通っていたのだ。しかし、あっという間に領地へと戻ってきており、その時のセリフが先程のロイドの言葉であった。

「一度魔法の勉強をしてとけ。魔法師の戦い方を理解しておけば戦う時も楽になる」
「えー、それ別に学園じゃなくて良くね?」

 気怠げに言うロイドに、レオンは言葉を続ける。

「あと、恐らく魔術の魔法陣がある」
「お?」
「え?」

 その言葉に食いつくロイドと、首を傾げるフィンク。
 その反応にロイドはフィンクに目線をやると、フィンクはんーと唸りつつも口を開く。

「そんな魔法陣なんてあったかな…割と色々見て回ったつもりだけど。魔法陣なんて目立つものだろうし」

 これで好奇心自体は強い方のフィンクだ。恐らく探検がてら園内の探索はしたのだろう。
 それでも魔法陣を見たという記憶は思い当たらなかった。

「確かあのあたりに大きめの遺跡があったはずだ。探してみろ」

 大きめな遺跡ならそれこそ今更見当たらないのも不思議だったが、それを堂々と探せるように入学しろという事か、とロイドは内心で納得する。

「まぁ、そーゆー事なら通ってみるか」

 ロイドは面倒くさそうに頷く。
 すると、きれーいに腕をまっすぐ上に伸ばしたクレアと意を決したように拳を握りしめるラピスが同時に口を開いた。

「「私も行きますっ!!」」
「いやなぜに」

 ロイドのーーロイドだけのツッコミが響いたのであった。

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