魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

126 激突激化

 “神童”フィンク。
 
 大陸全土で強国とされるエイルリア王国においても強者が集う地ウィンディア領。
 その領主の第一子である彼の二つ名である。

 類稀なる才能と努力によりウィンディアの冒険者という歴戦の兵をも唸らせる実力を持ち、さらには氷魔法というオリジナル魔法を若くして発案、行使する天才だ。

 性格も基本的には温厚であり、戦闘に対して積極的すぎる部分を除けば人格者と言っても差し支えない。
 まさに超人とも言える彼は、しかし家族さえも時にドン引きさせる点があった。

「僕もローゼに褒められたいっ!」

 そう、次女にして第四子であるローゼに対するシスコンであった。

 今まさにそれを遺憾なく発揮したフィンク。
 高まる魔力に乗せるかのように高らかと放たれたその言葉は子供同士とは思えない高度な闘いに目を奪われていた観客達の目をいとも容易く丸くする。

 そしてその天才の一言は手合わせをしていたロイドにも確かな影響を与えていた。

 ただの言葉と侮ることなかれ。
 高まり続ける魔力に身を強張らせていたロイドに致命的な脱力感を与え、戦闘によって高まった集中力を消し去る。
 
 恐ろしい。これが”神童”、これがシスコン。

「いくぞロイド!」

 先程までとは違い裂帛の気合いが込もった声、それに呼応するかのような周囲に咲く氷の華。

 凄まじい魔力と冷気を感じさせるそれらにロイドは必死に集中力と魔力を高める。

「そんなとこにキレてんじゃねーよシスコンが!」

 思わず観客達もうんうんと頷く言葉に乗せるかのようにロイドは風の砲弾を放つ。

――パキィィン…

 だが、それらは涼しげな音をたてて氷の華に防がれた。
 風の砲弾によって砕けた花弁はしかし地に落ちる事なくロイドへと発射される。

「うおっ?!」

 発動した魔法は決められた動きしかできないはず。
 初めて見る魔法故に確信は持てないが、しかし防御の為に発動された魔法がそのまま攻撃に転化するとは思っても見ないロイド。

「くっ、そっ!」

 しかしロイドはそれを『部分強化』をもってどうにか躱す。
 ギリギリで躱す事に成功したロイドは、余波のように吹き抜けた風に気付く。

「……なるほど、風の魔法で氷の破片を飛ばしたのか」
「よく分かったね。けど、こんなもんじゃないよ」

 フィンクは鋭さを含んだ眼をロイドに向ける。
 
 氷の華はその花弁を爆散させるかのように一斉にロイドへと撃ち放っていく。
 視界を覆い尽くすかのようなそれは、しかしその凶悪さを差し引いても美しい光景にさえ思える。

「吹き飛べや!」

 躱す事は困難だと判断したロイドは、風の魔術で花弁を押し返すように暴風を呼ぶ。
 凄まじい圧力を伴って花弁へと叩きつけれた暴風はーーしかし押し返すには至らず、

「うそっ…」

 暴風を突き抜けてロイドへと迫る。
 ロイドは限界まで『身体硬化』を高めて身を縮こまらせてその花弁を受け止めるが、しかし見た目に反した凶悪な攻撃はその防御を容易く上回った。

「ぐあっ!」

 吹き飛ばされるロイド。
 主に花弁を受け止めた両腕からは血が流れ、衝撃により痺れまで感じる。

 それでも背中から倒れる事なくどうにか体勢を崩しつつも耐えきり、ロイドはフィンクへと目を向ける。

「よく耐えたね!次はどうかな?」

 さらにまた新たな氷の華が咲き誇る。
 ロイドはその光景に目を瞠るが、しかし立ち止まっては的になるだけだと慌てて射線を絞らせないように駆け出した。

「躱し切れるかな?」

 そのロイドを追うかのように花弁がロイドに迫る。
 ロイドは部分強化を施す事でギリギリその花弁達の脅威を躱していく。

 あと少しで追いつかれる、といったところで花弁が無くなり攻撃が止んだ。

「本当に素早いね。身体魔術は身体魔法より明らかに性能が良いみたいだ」

 分析しつつも再び氷の華を咲かせるフィンク。

 このままではいずれ逃げ切れなくなるのは明白だった。
 ロイドは息が切れて肩を揺らしており、その時は遠くないように見える。

「……」

 そろそろ止めようか、とルーガスが一歩前に出ようとして、

「…師匠?」

 レオンが手でそれを制した。

 このままでは大怪我になりかねないとルーガスは問い詰めるかのようにレオンに目線をやるが、しかしレオンはロイドから目を離さない。

 どういう意図があるかは分からないものの、しかしロイドも血は繋がらずとも大切な息子だ。
 これ以上は危険だとその制止を振り払おうとしたその時。

――ごう…!

 小さくも底知れない力の波動を感じ、無意識に足を止めていた。

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コメント

  • 330284【むつき・りんな】

    これは流石に空間魔術?

    1
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