魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

125 兄弟激突

「おらぁっ!」

 ロイドは風の砲弾を放ちつつ身体強化を施して真っ直ぐにフィンクへと迫る。
 対してフィンクは風の砲弾の射線から外すように斜めに下がって身体強化を発動した。

「っ!」
「隙ありぃ!」

 だが風の砲弾は角度を変えてフィンクへと向かう。
 魔法と違い、魔術の特権とも言える自由自在な動きをする風。
 
 だが、完全に不意をついたにも関わらず、フィンクは即座に屈むことで躱す。
 凄まじい反射神経。が、ロイドも想定内であり、その隙に距離を詰めて低い体勢のフィンクを蹴り上げるように足を振るう。

「甘いよロイド」
「っおわっ!」

 しかしフィンクはその蹴りを片手で止めると、反対の手でその脚を掴んで引っ張る。
 体勢を崩したロイドに、フィンクは拳を突き出す。

「ってぇ!」
「っつぅ!?」

 その拳により吹き飛ばされたロイドは、しかしすぐに立ち上がって体勢を整える。
 そして拳を放ったフィンクも予想外の硬さに手を押さえていた。

「…ロイド、いつからそんなに肌が固くなったんだい?」
「肌荒れの一種みたいに言うなよ」

 身体魔術『身体硬化』。
 フィンクの身体強化で強度を上げた拳にもダメージを与えられる程に硬度を持たせる事が出来るようになっていた。
 または、身体硬化を貫いてダメージを与えるフィンクの身体強化を称えるべきか。

「しっかし相変わらず器用に捌くなー…兄さんの目は周りが広くスローにでも見えてんのかね」
「人をハエみたいに言わないで欲しいね」

 フィンクは軽口で返しつつ風の刃を放つ。
 ロイドも即座に風の刃を放ってそれを相殺し、フィンクを見据えた。

「良い反応だね。すごいな、本当に強くなっちゃって…」
「嫌味かよ。それに…まだまだこれからだっての」

 感嘆の声をあげるフィンクにロイドは再び走り出す。
 フィンクは迎え撃つ体勢をとってその場にしっかりと構えた。

「……!」

 その瞬間にロイドが急加速をする。
 予想外の速度にフィンクは一瞬ロイドを見失いそうになるが、音や勘を頼りにすぐにロイドを捕捉する。

「ちっ!」
「今のは驚いたよ!」

 背後に回ったロイドの拳を振り返り様に受け止めるフィンク。
 確実に一撃が入ると確信していたロイドは思わず舌打ちするが、即座に反対の拳を突き出す。

 しかしフィンクはそれを最低限の体裁きだけで躱して反撃する。
 ロイドはそれをかろうじて受け止めて反撃に出ようとするが、しかしフィンクの雨のような止まない連打に攻勢に出れずにいた。

「んにゃろぉ!」
「おっ」

 ジリ貧だと判断したロイドは先程と同じく急加速でフィンクから距離をとる。
 身体魔術『部分強化』による脚部強化だ。

「ふふっ、まだ動きの荒さが目立つよロイド」
「うるせー、なんで4才差でこんなに動きか仕上がってんだよ。中身おっさんなんじゃねーだろーな」

 フィンクの指摘にロイドは挑発で返すも、フィンクは面白そうに笑うばかりだ。

「それはロイドにも思った事があるよ。成熟した部分とそうでない部分の差がありすぎるからね」
「ただのガキだよ」

 内心ギクリとしつつも平然と返すロイド。
 フィンクもそれを掘り下げるつもりはないのか、魔力を練り上げながら口を開く。

「まぁいいか。それより、そろそろ攻めるよ」
「…はっ、こっちのセリフだわ」

 ロイドの言葉に被せるようなタイミングでフィンクの足元から大量の水がロイドへと押し寄せる。
 
 上級水魔法『水流瀑布』。
 無詠唱の為か威力は本来のものより若干劣るものの、しかしロイドの身長を遥かに超える水位をもって迫るそれは当たれば一撃で戦闘不能へと追い込む威力を有していた。

「っらぁ!」

 それをロイドは限界まで圧縮した風の弾丸を放ち水の壁に穴を開く。
 そこに風を纏って飛び込み、穴をこじ開けるようにして『水流瀑布』を突破した。

「やるね」
「っ!」

 だがそれを待っていたかのように大量の風の槍が出迎えていた。
 ロイドは風を足元に集めて炸裂させ、空中を横に移動する事でその槍を躱していく。

「次は俺の番な!」

 なんとか躱しきったロイドは空中から無数の風の砲弾をフィンクに放つ。
 フィンクは危なげない最低限の動きでそれらを躱していくが、ロイドの狙いはそこにあった。

「集まれ!」
「な…!」

 フィンクに触れる事が出来ず地面へと叩きつけられた風が再びフィンクへと一斉に集まる。
 これにはフィンクも驚いたのか目を瞠った。

「くっ…!」

 躱す事が出来ないと判断したフィンクは腕を上げてガードする。
 身体強化に魔力を注ぎ、少しでもダメージがないようにするが、しかしガードを突き抜けて衝撃がフィンクの体を揺らした。

「っしゃあトドメじゃい!」

 その隙にとロイドは空中から弾かれたようにフィンクへと迫り、風を纏った拳を突き出す。
 
「ぐあっ!」

 その拳はフィンクの胴体を捉え、ビリヤードのようにフィンクか吹き飛ばされてロイドはその場に停止した。
 運動エネルギーを伝えきった一撃。さらには風を纏う事で威力を向上させている。

 これならさすがにフィンクも起きれないだろう、とロイドは肩で息をしつつも小さくガッツポーズをする。

「お兄ちゃんすごーい!」

 その様子にいつの間にか起きていたローゼが目を輝かせる。
 子供らしい素直な称賛に、ロイドはローゼに目線をやりつつ手を振ろうとして、

――ぴきぴきっ

 足元に響く小さな、しかし不吉な音に考えるよりも先にバックステップでその場を離れた。
 見ると、先程まで立っていた場所が凍りついている。

「ロイド…」

 その氷に目を奪われていると、その視界の奥でゆらりと幽鬼のように立ち上がるフィンク。
 練り上げられた魔力はその体に収まらないとばかりに溢れ出し、空気を震わせるかのような重圧を伴ってロイドを叩く。

 その迫力は、先程までのそれとは明らかに違った。

(やべ…さっきのワンパンでさすがに怒ったか…?)

 もしくは戦闘狂と呼ばれる一面か出てきてしまったか。
 なんにせよ”神童”と呼ばれる彼に相応しい威容にロイドに緊張が走る。

「ローゼにすごいと言われるのは僕だ!」

 ロイドは緊張が走った己を恥じた。

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