魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

123 本屋

 領を回るロイドとクレア、ラピス。
 会った時の警戒はどこへやら、いつしかクレアとラピスは打ち解けてロイドを蚊帳の外にする勢いで盛り上がっていた。

「ですよね!先輩ってそういうとこあるんですよ!」
「そうだよねー!ほんと困っちゃうよね!」
「…えー……」

 というより、蚊帳の外になる話題のようだ。
 一緒に本人が居るというのにお構いなしに盛り上がる彼女達。
 しかも具体的な内容ではなく今までのお互いの話のさわりだけで何故か理解し合い、そして共感している。
 
 その為当人でありながらなぜそれで話が噛み合うのか分からず会話に入れないでいた。

「っと、本屋だ。すまん2人とも、ちょっと寄ってくるわ」
「あっ!」
「ちょっと…」

 そんな時に視界に飛び込んできたのはベルの営む本屋。
 逃げるチャンスだと飛び出すロイド。いい加減に居辛さを感じずにはいられなかったロイドとしては水を得た気分だ。

「ベルさんお邪魔しまっす」
「お、いらっしゃいロイドくん。ちょっと待っててねぇ」

 入店するなりベルは挨拶だけするとカウンター後ろの棚を探りはじめ、そう待たせることなく一冊の本をロイドに差し出す。

「この本だよ。さっぱり読めないけど、もしかしたらまた面白い本じゃないかと思って仕入れてきたのよ」
「ありがとうベルさん。うわ、ほんとに全然読めんすねこれ」

 パラパラとページをめくってみるが勿論ロイドにも読めるはずもなかった。
 しかし相変わらずどこそこに仕入れに回っているらしい。

 勿論有難いが、いくら名の通った魔法師だったとは言え無茶はしないで欲しいと内心思う。

 ちなみに今回の本は前回の空間魔術書とも違い、記号や線はない為魔術書の類でも無さそうである。

(んー、こりゃ外れかな…まぁそうそう見つかるもんでもないだろーし)

 ロイドがページをめくりながら内心で呟く。
 そのページをめくりきる直前にクレアとラピスが追いついてきた。

「ちょっと、置いてくなんてひどいじゃないですか!」
「そうだよぉ、一緒に来ればいいじゃない」
「あーすまんすまん。この本が気になってつい」

 適当な言葉で誤魔化すロイド。
 クレアにはバレるかな、と思ったがそのクレアが本を覗き込んで言う。

「うわ、これ古代語じゃないですか!珍しい本見つけましたね」
「ん?古代語?」

 思った反応と嬉しい方向に違ったクレアにロイドはほっとしながら問い掛ける。

「ですです。なんでも魔術の時代に使われていた文字だとか」
「へぇ、随分昔なんだな。そりゃ珍しいわ」

 と言っても読めないんですけどね!と苦笑いで言うクレア。
 これは読む事は出来ないか、とロイドが溜息をついた時だ。

「それならレオンさんなら読めないのかねぇ」

 ふと思いついたようにベルが呟く。
 ロイドとクレアがベルの方を見て固まる。ちなみにラピスは一生懸命その本を読もうとしている。

 本屋に流れる沈黙。
 あれ?なんか変な事言ったかねぇ?とベルが首を傾げるのと同時に、

「「それだ(です)!!」」

 ロイドとクレアが叫ぶ。
 ベルはびっくりしたように目を丸くしていた。

「ありがとうベルさん!さすが本の化身ですね!」
「知的でグラマラスなお姉さん、ありがとうございます!」
「うーん、読めないよぅ……って2人とも!待ってよー!」

 そんなベルに構わずロイドは金貨をカウンターに置いて外へと走り出した。
 打ち合わせでもしたように飛び出すクレアと遅れて走り出すラピスを呆然と見送ってから、ベルは口元を綻ばせる。

「ふふっ、元気だねぇ。…しかもお代もらっちゃったわ。ロイドくんたら上手になったわねぇ」

 以前支払いすらさせてもらえなかったロイド。
 もしかしたらそれを避ける為に金を払い逃げしたのかも、とベルは微笑む。

「それにしても、ロイドくんたら相変わらずモテるわねぇ。エミリーちゃん、負けてられないわよ」

 次いでベルは虚空へと話しかけるように呟く。
 勿論返事はなかったが、心配するような口調とは裏腹にベルは楽しそうな表情を浮かべていた。

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