魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

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 帝城の完成。
 お披露目も兼ねてブロズはそれを公表していた。
 
 それにより多くの人が城を見ようと集まっている。

「なんかちっこくなったな」
「いいんじゃない?前なんて上半分は皇族の私室だったって話じゃない」
「前の派手さがないな。質素というか、地味というか…」
「それも前がやりすぎだったんじゃないか?」

 色々な意見が飛び交い騒がしい人々は、一様に帝城へと視線を投げかけていた。
 しかしおもむろに帝城から姿を現した人物を見て、その騒めきは徐々に収まっていく。

「ブロズ皇帝だ!」
「おぉ、本当だ!」

 それはブロズである。
 すでにいくつかの政策を進めており、それにより生活改善などが徐々にだがなされている。
 また革命軍を通して民の意見を取り入れたりといった動きもあって、元が悪かった反動もあり、ブロズは早くも帝国民達に受け入れられていた。
 
 話を聞こうと静かになっていく人々を見計らったように口を開くブロズ。

「皆、ついに帝城が完成した」

 手に持った魔法具により声を拡大して話す。
 余談だがロイドがマイクじゃん、と言った事で最近は拡声魔法具の通称がマイクになりつつあるとか。

「こうして見に来てくれた事、ありがたく思う。そして、これからもぜひ足を運んで欲しい。なぜなら、この城は皆の為にある物だからだ」

 ロイド達と話している時とは違う、威厳のある声が響く。
 若いながらも知性や覇気のある声は、最近まで軟禁されていたという事実を忘れさせる程だ。

「ここは皇族の家でも兵士の駐屯所でもない。皆がより良い生活を送る為に動く施設だ。だから、何かあればここに来て意見や相談をしてくれたら嬉しい」

 耳に響く声に、人々は聞き入っていた。
 そして帝城の正門から現れる人々がずらりと民と向き合うように並んでいく。

 その中にはキースをはじめとした革命軍の姿もあった。

「これから帝国はより皆の為になるよう努力する。だから、皆も協力して欲しい。皆で、この国を変えていこう!」

 皇帝の言葉に合わせるように頭を下げるキース達。
 一拍。民達から国中に聞こえるかのような声が響き渡った。

「こっちこそよろしく頼むぜ!」
「もちろんだ!」

 まるでお祭り騒ぎのように口々に肯定の意思を叫ぶ民達。

 キース達は顔を上げると、その姿をただじっと見つめていた。

 今日食べるものに困る人々。
 飢えて人としての尊厳すら忘れた者もいる。
 そして、ついには餓死する者さえいた。
 
 そんな帝国を変えようと立ち上がる者達ーー革命軍。
 しかしそんな彼らも1人、また1人と倒れていった。

 キースがリーダーとなってからは餓死者が減るようにも動いた。時には私服を肥やす貴族などから食料を奪ったりもした。
 反面、それに犠牲となった同志もいた。しかしそこまでしても、餓死者は減れど居なくなりはしない。

 明日に希望を見出せず、出口のない暗闇に放り込まれたように日々手探りで生きてきた。
 
 辛く、投げ出したいと思った事なぞ数えきれない。
 だが、それを自分がする事は許されない。

 その一心でどうにか体を突き動かしていた。

 そして、ついに今。
 見たくて仕方なかったーー心の底から焦がれていた光景。それを見れた。

「……っ…!」

 まだ痩せ細った者は多い。だがそれでも笑顔で希望に満ちた表情の民達。
 仲間も、皆も明日への希望を持って生きる姿。

 キースはそれを目に焼き付けようと瞬きすら惜しんで見ていた。
 瞳からは堪えきれず涙が落ちていく。しかし、それを拭う事さえせずにキースはただただその光景を見ていた。

 そしてそれは他の仲間も同じ気持ちだった。
 シエルもニナも、ギランさえも歯を食いしばるようにして涙を流し、その光景をただ見ていた。

「キースの旦那、ありがとなー!」
「ついにやったなぁ!」
「ニナちゃんもありがとー!」
「おぉ!ギランの旦那とシエル姐さんもいるぞ!」
「皆ありがとねー!」

 投げかけられる言葉に、涙で景色が滲む。
 
 やっと涙を拭う事を思い出したように手や腕で目を拭うキース達。
 そしてそれでも絶えない涙を流したまま、ひきつる頬を無理やり動かして笑顔をつくる。

 その不格好な笑みは、いつも民達を安心させるような頼れる笑顔とは程遠い、ひどい笑顔。
 だが、その笑顔と涙はいつしか民達に伝播していく。

「う…っ、お疲れぇ!リーダぁー!」
「いつもありがどうなぁ!」

 キースはその涙声に応えようと口を開きかけるが、涙ではりついたように声が出ない。

 そんなキースの肩を後ろからぽんと叩く。振り返ると、ニナがいた。
 その後ろにはシエルやギラン。涙で赤くなった目を合わせ、そしてまた皆へと向き合う。

 そして、言葉なく拳を天高く翳す。
 その姿に、民達から天にいる仲間まで聞こえるような、盛大な声が響き渡った。

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