魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
109 その後
「ふぁあ〜ぁ」
ロイドは大きなあくびをして伸びをひとつ。怠い体を引きずるように豪華なベッドから降りて部屋を出た。
長い廊下をダラダラと歩き、無駄に遠いリビングーー正式には客室ーーへと歩く。
ロイドは今離宮にて過ごしていた。
何故か、それはクレアが生きていた事が分かった後の事だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
クレアとロイド、2人はともに涙を浮かべ、確かめ合うように抱擁し合っていた。
クレアは無事に生き残れた喜び、そしてロイドと生きて再会出来た喜びを込めるかのように強く抱き締めた。
「……ぅ…」
「……ん?」
すると、耳元に聞き逃しそうな程小さな声が聞こえてきた。
気のせいか、と疑問に思うよりも早く、ロイドの腕の力が消え、代わりにロイドが寄りかかるように体重がかかる。
無事だったとは言え怪我をしているクレアは不意な事に踏ん張れず、後ろに倒れ込む。
自然とロイドも一緒に倒れ込み、まるで押し倒したような体勢に。
「え、あれ、やだ、ちょっと先輩っ?」
それに何を思ったのか、クレアは白い肌を真っ赤にさせて狼狽する。
とは言え背中に回した腕を離さないあたりが言葉に説得力を無くしてはいるが。
「……」
だが、ロイドはぴくりともしない。クレアに体重を預けたまま、沈黙を守っている。
「せ、先輩?あのぅ、どいてくれませんかね…?」
沈黙に耐えきれずクレアが小さな声で切り出す。
が、ロイドは動かない。耳元をくすぐる呼吸も、なんだかどんどん弱々しくーー
「って先輩っ?!」
紅く染めた顔を一気に青くさせ、クレアは慌てて体勢を入れ替えてロイドを寝転ばせて顔を確認する。
すると、そこにはクレアが危惧した通り血の気の引いた顔色で意識を失っていた。
クレアは浮かれていた自分を恥じる。
何に、とは勿論ロイドとの再会である、と脳内で誰かに言い訳する自分もついでに恥じる。
「ちょっと待って下さいね!………っ!」
クレアはすぐに治癒魔法と魔力譲渡を発動させる。
怪我と魔力枯渇を回復させる為だ。
しかし、クレアの魔力はほとんど残っておらず、魔法を発動させるには至らない。魔力枯渇で魔力を練り上げようにも足りず、魔法が発動しないのだ。
ロイドはひどく衰弱しているのか、呼吸もだんだんと細くなっていく。
きっと無茶をしたのだろう、とクレアは先程までとは違う涙を浮かべる。
「ロイドくん!」
「ロイドぉ!」
泣いている場合ではない、とクレアは目に力を入れて立ち上がろうとした時だった。
後ろから2つの声が聞こえ、クレアは慌てて振り返る。
「っ!こんな時に!」
クレアはこちらに迫る2人に慌てて立ち上がって構えをとる。
2人は女性と、女性に抱えられた同年代くらいの男の子だが、こちらは魔力がないので油断出来ない。
この身に変えてもロイドは守る、と決意をして2人を鋭く見据える。
その視線に気付いた女性は人一人抱えているとは思えないスピードを止めると、クレアと対峙する。
が、すぐに何かに気付いたように目を大きくした。
「あなたは…エルフ?という事はクレア姫ですか?」
「そうですが、それが何か?」
「っ!よ、良かった…!」
その返事に何を思ったのかシエルは驚いたような、信じられないような喜びを目の当たりにしたような表情を浮かべる。
それに首を傾げつつも時間がないと慌てるクレアは、こちらから仕掛けようかと脚に力を入れる。
「ま、待って下さい!私は味方です!」
その言葉にクレアは駆け出しそうになる体を止める。
が、警戒は解かない。
「ん?ロイド?…っておい、なんかやばくねーか!?おい大丈夫か!?」
が、ここでシエルに抱えられていたグランがロイドの様子に気付いた。
シエルの腕を振り払って着地すると、シエルもクレアも目に入らないかのように駆け出す。
「…!」
クレアは慌てそうになる気持ちを抑えて迫るグランに拳を放つ。
「ってぇ!くそ、邪魔だ!」
「先輩には手を出させません!」
グランは避ける事すら頭にないのかその拳を頬に食うも、拳をめり込ませたまま、しかし後退すらしない。
クレアはさらに警戒する。見た目通りの実力じゃないと判断した。
だが、グランの方が早かった。めり込まんた拳に構わずロイドに飛びつく。
「っ!しまっ…!」
「ロイド、大丈夫か!これ飲めるか!?」
しかし、クレアの心配は当然だが杞憂に終わる。
グランはポケットから薬を取り出してロイドに飲ませようとしていた。
見た所毒にも見えない。
というより、クレアから見えたその横顔があまりに心配そうな表情に見え、何も言えなくなっていた。
「……信じてくれましたか?私達はあなたを助ける為にロイドくんと共に行動していた仲間です」
「……はい。あの、すみませんでした」
今なら素直に信じれるだろうと思ったシエルが再び声をかけると、クレアも頷き謝罪した。
それをシエルは怒ることなく微笑む。
「いえ、クレア姫の判断を責めるつもりはありません。お気持ちも分かりますし。ですが、ロイドくんを急いで非難させる必要はあります」
「…はい、手を貸してください」
クレアはしゅんとした様子からすぐに気持ちを切り替えて助力を請う。
それにシエルは頷いて歩き出した。
「勿論です。それに、早くしないとロイドくんが窒息しかねませんし」
「窒息?ってうわぁ先輩っ!大丈夫ですか?!何してるんですかこんのクソガキャア!」
「あぁ?!薬飲ませてんだよ邪魔すんなオラァ!」
振り返って見たのは口にこれでもかと薬を詰め込まれたロイドだった。
明らかにさっきより青くなった顔色に慌てるクレアとそれに噛みつくグラン。
はぁ、とため息をついたシエルによる拳骨に沈んだグランと、シエルによって薬を吐き出されたロイドを抱えて、シエルは言う。
「………」
「さぁ、急ぎましょう!」
「はい」
完全に沈黙したグランを横目に見つつ、クレアはとても素直に頷き、一緒に駆け出したのだった。
ロイドは大きなあくびをして伸びをひとつ。怠い体を引きずるように豪華なベッドから降りて部屋を出た。
長い廊下をダラダラと歩き、無駄に遠いリビングーー正式には客室ーーへと歩く。
ロイドは今離宮にて過ごしていた。
何故か、それはクレアが生きていた事が分かった後の事だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
クレアとロイド、2人はともに涙を浮かべ、確かめ合うように抱擁し合っていた。
クレアは無事に生き残れた喜び、そしてロイドと生きて再会出来た喜びを込めるかのように強く抱き締めた。
「……ぅ…」
「……ん?」
すると、耳元に聞き逃しそうな程小さな声が聞こえてきた。
気のせいか、と疑問に思うよりも早く、ロイドの腕の力が消え、代わりにロイドが寄りかかるように体重がかかる。
無事だったとは言え怪我をしているクレアは不意な事に踏ん張れず、後ろに倒れ込む。
自然とロイドも一緒に倒れ込み、まるで押し倒したような体勢に。
「え、あれ、やだ、ちょっと先輩っ?」
それに何を思ったのか、クレアは白い肌を真っ赤にさせて狼狽する。
とは言え背中に回した腕を離さないあたりが言葉に説得力を無くしてはいるが。
「……」
だが、ロイドはぴくりともしない。クレアに体重を預けたまま、沈黙を守っている。
「せ、先輩?あのぅ、どいてくれませんかね…?」
沈黙に耐えきれずクレアが小さな声で切り出す。
が、ロイドは動かない。耳元をくすぐる呼吸も、なんだかどんどん弱々しくーー
「って先輩っ?!」
紅く染めた顔を一気に青くさせ、クレアは慌てて体勢を入れ替えてロイドを寝転ばせて顔を確認する。
すると、そこにはクレアが危惧した通り血の気の引いた顔色で意識を失っていた。
クレアは浮かれていた自分を恥じる。
何に、とは勿論ロイドとの再会である、と脳内で誰かに言い訳する自分もついでに恥じる。
「ちょっと待って下さいね!………っ!」
クレアはすぐに治癒魔法と魔力譲渡を発動させる。
怪我と魔力枯渇を回復させる為だ。
しかし、クレアの魔力はほとんど残っておらず、魔法を発動させるには至らない。魔力枯渇で魔力を練り上げようにも足りず、魔法が発動しないのだ。
ロイドはひどく衰弱しているのか、呼吸もだんだんと細くなっていく。
きっと無茶をしたのだろう、とクレアは先程までとは違う涙を浮かべる。
「ロイドくん!」
「ロイドぉ!」
泣いている場合ではない、とクレアは目に力を入れて立ち上がろうとした時だった。
後ろから2つの声が聞こえ、クレアは慌てて振り返る。
「っ!こんな時に!」
クレアはこちらに迫る2人に慌てて立ち上がって構えをとる。
2人は女性と、女性に抱えられた同年代くらいの男の子だが、こちらは魔力がないので油断出来ない。
この身に変えてもロイドは守る、と決意をして2人を鋭く見据える。
その視線に気付いた女性は人一人抱えているとは思えないスピードを止めると、クレアと対峙する。
が、すぐに何かに気付いたように目を大きくした。
「あなたは…エルフ?という事はクレア姫ですか?」
「そうですが、それが何か?」
「っ!よ、良かった…!」
その返事に何を思ったのかシエルは驚いたような、信じられないような喜びを目の当たりにしたような表情を浮かべる。
それに首を傾げつつも時間がないと慌てるクレアは、こちらから仕掛けようかと脚に力を入れる。
「ま、待って下さい!私は味方です!」
その言葉にクレアは駆け出しそうになる体を止める。
が、警戒は解かない。
「ん?ロイド?…っておい、なんかやばくねーか!?おい大丈夫か!?」
が、ここでシエルに抱えられていたグランがロイドの様子に気付いた。
シエルの腕を振り払って着地すると、シエルもクレアも目に入らないかのように駆け出す。
「…!」
クレアは慌てそうになる気持ちを抑えて迫るグランに拳を放つ。
「ってぇ!くそ、邪魔だ!」
「先輩には手を出させません!」
グランは避ける事すら頭にないのかその拳を頬に食うも、拳をめり込ませたまま、しかし後退すらしない。
クレアはさらに警戒する。見た目通りの実力じゃないと判断した。
だが、グランの方が早かった。めり込まんた拳に構わずロイドに飛びつく。
「っ!しまっ…!」
「ロイド、大丈夫か!これ飲めるか!?」
しかし、クレアの心配は当然だが杞憂に終わる。
グランはポケットから薬を取り出してロイドに飲ませようとしていた。
見た所毒にも見えない。
というより、クレアから見えたその横顔があまりに心配そうな表情に見え、何も言えなくなっていた。
「……信じてくれましたか?私達はあなたを助ける為にロイドくんと共に行動していた仲間です」
「……はい。あの、すみませんでした」
今なら素直に信じれるだろうと思ったシエルが再び声をかけると、クレアも頷き謝罪した。
それをシエルは怒ることなく微笑む。
「いえ、クレア姫の判断を責めるつもりはありません。お気持ちも分かりますし。ですが、ロイドくんを急いで非難させる必要はあります」
「…はい、手を貸してください」
クレアはしゅんとした様子からすぐに気持ちを切り替えて助力を請う。
それにシエルは頷いて歩き出した。
「勿論です。それに、早くしないとロイドくんが窒息しかねませんし」
「窒息?ってうわぁ先輩っ!大丈夫ですか?!何してるんですかこんのクソガキャア!」
「あぁ?!薬飲ませてんだよ邪魔すんなオラァ!」
振り返って見たのは口にこれでもかと薬を詰め込まれたロイドだった。
明らかにさっきより青くなった顔色に慌てるクレアとそれに噛みつくグラン。
はぁ、とため息をついたシエルによる拳骨に沈んだグランと、シエルによって薬を吐き出されたロイドを抱えて、シエルは言う。
「………」
「さぁ、急ぎましょう!」
「はい」
完全に沈黙したグランを横目に見つつ、クレアはとても素直に頷き、一緒に駆け出したのだった。
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