魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

101 クレア

「如月、お前大丈夫なんか…?」
「バカな、僕の洗脳が解けるはずがないのに…」

 あまりに予想外なクレアの登場に呆然とする2人。

 そんな2人の視線を集める彼女は、俯いたように着地した体勢で数秒ほど固まっていたが、がばっと顔を起こしてロイドに向き直る。

「おおっ?」

 そのままつかつかと数歩の距離にいるロイドに詰め寄り、顔をぐいっと近寄せて睨むように目を合わせた。

「まったく、先輩!何してるんですか!早く逃げて下さい!」
「……はぁ?」

 いきなりな内容にロイドは言葉を失くす。
 だがそんなロイドにお構いなしにクレアは続けた。

「考えても見てください!あのボンボンはエルフっていう魔法適正の高い一族を倒すくらい強いんですよ?1人で勝てる訳ないじゃないですか!」

 まさかの説教。
 ロイドは呆然とクレアを見る事しか出来ない。
 が、その姿はいつの日かの如月そのものでーー

「……先輩、何笑ってるんですか?怒りますよ?」
「……んん?笑ってたか?つかもう怒ってるだろーが」

 ロイドは口元に手をやらながら聞き返した。
 クレアはロイドに手を当てて魔力を込めつつ言い返す。

「ええ、なんかニヤついてます。珍しい表情なんで普段ならからかいたい所なんですけど、今はそれどころじゃないんですよ」
「そうカリカリすんなよ。まぁ久しぶりなのにお前らしくてちょっと安心しただけだって」

 クレアが発動しているのはどうやら回復魔法のようだ。ロイドの傷がみるみるうちに治っていく。
 それを感じつつ、ロイドはクレアに笑いかけた。

「…むぅ、先輩こそ相変わらずズルいです…」
「何がだよ。お前昔からそれ言うけど意味分からんからな」
「先輩には分からないですよ。……変なとこ鈍いんですから」

 後半のセリフはロイドには聞こえないくらいの小声で、ロイドは首を傾げる。
 
 だが、それをのんびり聞き直している余裕はなかった。

「きゃっ…!」
「おっと…!」
「君達が知り合いだったとはね。接点なんて無さそうに思うけど……それよりクレア姫、何故あなたの洗脳が解けているのかい?」

 地面から突き出してきた土の槍をロイドがクレアを抱きかかえながら躱した。
 そしてそれを悔しがるでもなく当然のように質問をしてくるジルバに目を向ける。

「なんででしょうね?私にもさっぱり。油断してたからじゃないですか?」

 クレアは適当にはぐらかすが、ジルバはそんな訳がないと理解していた。
 
 先程までロイドとクレアが話している間、ジルバもただ見ていた訳ではない。洗脳を再びかけようとしたり、より強く洗脳しようとしたりとスキル洗脳に集中していたのだ。

 しかし、いかに力を込めようと彼女が再び洗脳にかかる気配はない。であれば聞いてしまえ、と開き直った訳だ。

「…先輩」
「ん?なんだ?」

 怪訝な目線を送ってくるジルバを見据えたままクレアはロイドへと小声で話しかける。

「実を言うと洗脳、これ解けてないんです」
「……説明」

 矛盾ともとれる、あまりよろしくない情報に、ロイドは端的に先を促す。

「はい。洗脳自体がどうやら込めた魔力量の範囲で縛るスキルみたいで、今私の魔力量が一時的に増えてるからその効果から逃げられてるみたいです」
「なるほど。その魔力が増える制限時間が来たらまた洗脳されちまうって事か」
「相変わらず話が早いですね」

 クレアは賛辞の言葉を肯定として口にする。
 ロイドはきっちり2秒ほど沈黙し、口を開いた。

「如月、お前さっき光魔法から守ってくれたの、水魔法かなんかか?」
「おぉ、さすがは先輩。さすがです」

 これにも賛辞をもって肯定するクレア。
 
 先程の光魔法による攻撃。ロイドの渾身の風の壁も容易く貫いたそれだったが、クレアの水魔法によって防がれていたのである。

 水は光を屈折させる。
 さらにここまでロイドは読んでいた訳ではないが、エルフの集落でジルバが光魔法を使用していた際にクレアは水魔法をどう使えば光を散らせる事が出来るか既に試行錯誤していたのである。
 それにより対光魔法の防御策は用意していたのだ。

「次。俺にもその魔力が増えるやつは使えるのか?」
「使えますよ。まぁ今の私もですが、そう長い時間は無理ですけど」
「構わん、頼む」

 あまり時間はないらしい。

「次、最後だ。もう逃げろとは言わんのか?」
「話してて思い出しました。先輩が逃げろって言われて逃げる人じゃなかったなって」

 溜息混じりに言うクレアに、ロイドは笑って返す。

「よく分かったな。さすが如月」
「そりゃもう。先輩を見て育ってきたんですから」

 軽い口調で話す2人に、ジルバは対応を考えているのかじっと黙ってこちらを見ている。
 あるいは2対1を警戒してだろうか。

「よし、とりあえずあいつをぶちのめすぞー」
「もちろんです!」

 そんなジルバに挑むように、2人は一歩踏み出した。


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