魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

93 怒りと本質と

「お前は死ね」

 ロイドは今までやった事のない出力での風による高速移動でジルバの背後に周り、振り返ったその端正な顔に何の手加減のない全力の拳を叩き込んだ。

「ぐーー!?」

 ジルバは何がなんだか分からないという様子で先程ロイドが立っていた入口を飛び越え、その先の壁まで吹き飛び叩きつけられた。

 ロイドは、即座に身体に纏っていた風を一斉にジルバに向かって解き放つ。

 圧縮された風は景色を歪めながらす凄まじい魔力を伴ってジルバへと叩きつけられる。
 ずん、と鈍い音とともに彼が寄りかかるようにしていた後ろの壁は放射状にへこんでひび割れた。

「………」

 無言で放たれ続ける破壊的な風がジルバの身体を叩く。
 ロイドは絶えることなく周りの風に魔力を注ぎ続け、それを惜しみなく風の砲弾に変えてジルバへと撃ち放つ。

 風の砲弾の雨に晒されたジルバの体は断続的に痙攣するかのように跳ね続ける。
 
 それを無表情のままロイドは見据えている。
 風の制御の向上として癖となっている手をタクトのように扱う動き。それにより右手を真っ直ぐにジルバに向けたまま。

 氷を思わせる表情。
 それでいて瞳にはマグマのような怒りを讃えていた。
 
 その怒りを乗せたまま、ロイドは風の弾丸に紛れ込むかのように走り出す。

「ーー身体強化」

 呟くように身体魔術を発動。
 まるで早送りにしたかのような劇的な加速は風の弾丸に追いつく程。

「ーー風魔術」

 そのロイドを追いかけるように風がロイドの右手に収束していく。
 それを片っ端から圧縮していき、超高密度な空気の弾丸が右手におさまる。

 風弾の雨も止んだ一瞬。
 ロイドはジルバを見据えるが、すでに気絶でもしたのであろうか、ぴくりとも動く様子がない。
 
 しかしそれでもロイドはスピードを緩めない。
 それどころか助走を加えていく事でさらに加速していく。

 普段のロイドならこの時点で矛を収めた事だろう。
 抵抗しない相手に手を加えるほどの攻撃性は彼にはない。
 
 ーーだが、ロイドの根本的な在り方はそこではない。

「ジルバぁ…」

 ついには目にも映らない程の速度に至るロイド。
 ただ真っ直ぐにジルバへと突き進み、彼の通った道にはそれに遅れて風が舞う。

 あと少し、そのタイミングでジルバが顔を上げる。

 その彼の顔には傷らしい傷もない。
 最初の拳は届いたようで頬が赤みを帯びているものの、散々撃ち込まれた風の弾丸はなんらかの方法で防御したのかダメージがないように見える。

「残念だったね!君の攻撃は届かないよ!」
 
 ジルバはそう言い放ちつつ土魔法を発動する。
 床からロイドの行く手を阻むように硬質な岩の壁が迫り上がった。

「さぁ、自爆しなよ!」

 超高速で突き進むロイドはもはや止まる事さえ出来ない。
 それを迎える岩壁は魔力をこれでもかと込められており、金属に迫る硬度を誇る。

 必勝のタイミング。

 さらにはとても惨めな決着を着ける事が出来たと端正な顔を歪めて笑みを浮かべるジルバ。

 が、次の瞬間にその笑みが固まる。

――バガァアン!!

 岩壁はまるで豆腐のように四散し、その中から飛び出すひとつの影。

「俺の後輩に」
「ば、バカな!」

 浮かべていた笑みは崩れ去り、慌てて腕を突き出してガードを試みるジルバ。

しかしそれはあまりにも遅く。

「手ぇ出してんじゃねぇよ!!」

 そのガードを無視するかのようにすり抜け、壁に腰掛けているジルバの顔面に拳が突き刺さる。

「ぐぁあっ?!」
「ぉおおぁぁあああああっ!!」

 その瞬間に高密度の風の弾丸を解き放つ。
 その衝撃に耐えられず、ジルバの頭は壁へとめり込んでいき、壁の亀裂はより一層深くなっていく。

「っらぁあ!!」

 身体魔術にて全力で強化を行った全身に思い切り力を込める。
 その力をもって風の弾丸とともに拳を振り抜くロイド。

「っぐおぁっ?!」

 まるで攻城砲を思わせるその一撃に、ついに砕けた壁もろともジルバは城の外へと吹き飛んでいった。

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