魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
82 乙女的NG
帝都にある革命軍本部は、彼らにとって最も危険な地である。
そこに身を置き統率する彼こそが革命軍現リーダーであるキースだ。
鋭い目付きに鍛え上げられた肉体を持ち、その実力や実績からメンバーからも尊敬や畏怖の目を向けられている。
引退した先代リーダーの偉業もあり、その重圧を感じつつも日々努力してきた彼は、今や名実ともに革命軍総リーダーとしての役割を担い、それに見合う存在感を示していた。
そんな彼は今、普段では見せないような複雑な表情を浮かべていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ちょ、死ぬってこれ!」
「はーっはっは!風が気持ち良いわ!」
「ギランさん、笑ってる場合ですか?!」
時は遡り、レオンによって空中に放り出されてから。
岩塊に押しつけられるような形で空中飛行をする彼らはとても騒いでいた。
ちなみにロイドはディンバー領に来る際に似た経験をした事もあってか、慌てる事なく魔力を練り上げている。
「あっという間に帝都に着きそうだな!さすがは『国斬り』よ、規格外だな!」
「限度があるでしょう!これ遠回しに殺されそうになってません?!」
グランは青ざめた表情で岩塊にへばりついているが、流石というべきかギランは楽しそうに笑っていた。
この状況で笑うあたり結構頭おかしいなこの人、とロイドは胸中で呟く。
もっとも、慌てつつもしっかりツッコミを入れるシエルもなかなかに図太い精神力だと言えるだろう。
しかしわいわい(?)と言い合っている時間はそう多くはない。
段々と岩塊は高度を下げていき、そしてみるみる内に地面へと向かって落ちていく。
「ムリムリ!ムリムリムリ!死ぬって!」
「グラン、君のことは忘れない」
「ロイドくん?!それが冗談には聞こえない状況なんですけど!」
「はーっはっは!」
「いやアンタは笑っちゃダメだろうが父親ぁ!」
しかし尚も騒がしい面々。
ツッコミ続けるシエルからついに敬語が消え去った頃にはいよいよ地面が見えてきていた。
「ではお先っと」
するとまずロイドが岩塊を蹴って空中へと飛び出した。
風魔術を使う事で飛行とまではいかずとも落下はせず緩やかに高度を落としていく。
「てめっ、このっ、なんかかっけぇなロイドこらぁ!」
「うん、ありがとう」
意外と余裕あるんじゃね?と思いつつロイドは苦笑いで返す。
「そろそろ出ようかなぁ、ほれグラン」
「え、親父?ってうわっ」
次いでギランは騒ぐグランを抱えて飛び出した。
高速移動する岩塊からこれまた高速で飛び出したギランは、着地の凄まじい衝撃を強靭な足腰をもって地面を滑るようにしていなしていく。
「ええっ!置いていくんですかギランさんっ!?」
残ったシエルは涙目だった。
遠くでギランがえっ?!って感じで振り返っているが、それに気付く余裕もない。
そして間もなく地面に到着する岩塊。あ、これ死んだ、とシエルは覚悟した。
――どごおおおんっ!!
耳を裂く轟音とともに岩塊が砕け散る。その衝撃にギランやロイドは咄嗟に腕で顔をガードして体勢を低くした。
しかしすぐにギランはグランを放り投げて慌てて爆心地に駆け出す。
走りながら懐から回復薬を出してシエルがせめてこれが飲める状態で耐えてくれている事を祈る。
ちなみにグランは放り出されてすぐに蹲った。そのまま今日のご飯を華麗にリバース。
だが、石飛礫を凌いで広がる視界に映ったのはシエルから飛び散る真っ赤な血ーーではなく、目を惹く銀と黒。
「シエル、お前結構どんくさいな」
「そうだとしても、レオンさんにだけは言われたくないです…」
岩塊を右手で砕き、左腕で衝撃を緩和しつつシエルを受け止めたレオンが立っていた。
そしてゆっくりと顔を真っ青にしたシエルを地面に下ろす。
それを見たギランは安心した表情を浮かべて近寄る。
ロイドもすぐ横におり、最初からレオンが助ける事を分かっていたように飄々とした態度で歩いていた。
そんな彼らにレオンが振り返る。
いつもの涼しい顔を浮かべているレオンにロイドは文句を言ってやろうと口を開きかけーー
「うぷっ」
爆心地の中心、レオンの腕から離れてすぐ蹲るシエルにより、ロイドは言葉を失った。横のギランもあちゃーと言いたげに天を仰ぐ。
さすがにレオンも悪いと思ったのか頬をかいてバツが悪そうな表情である。
「…………」
なんとも重たい沈黙が流れた。
戻し終わったシエルは蹲ったまま動かない。もういっそ怖いくらい微動だにしない。
その雰囲気にロイドとギランは足を止めてどうすんだよこれ、と目線をやり合う。
しかしその沈黙は次の瞬間に破られた。
「おっ!リーダーもゲロったんか!」
早くも復活したグランが駆け寄りながら笑い混じりに言う。
次の瞬間だった。レオンも目を瞠る速度で駆け出したシエル、その拳によりグランは沈んだ。
あ、今度こそ逝った。ロイドは内心呟いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからグランを抱えたギランのわざとらしいくらい明るい声で先導され地下通路へと進んだ一行。
ロイドもどうにか明るい声で合わせていたが、しかし段々と声は消えていきついに沈黙が訪れる。
足音だけが響く地下通路。早く着け!と内心叫ぶロイド。
カイセンよりも構造が簡易な為、地下通路を帝都の兵士に見つかって利用されていないか等と昨日までは懸念していたギランも、今はそんな事欠片も頭になかった。
途中からはまるで競歩のように進んでおり、警戒のけの字もない。
そしてついに訪れた色んな意味で待望の革命軍アジト。
駐在していた革命軍メンバー達はギランを見て喜びの声とともにリーダーへと案内する。
ちなみにカイセン支部リーダーとしてシエルも敬意を集めており、やはり声をかけられたが完全にシカトしていた。
むしろかつてない威圧感を放っており、メンバー達も声を段々声を掛けられなくなっていた。
しかしそれにより敬意が薄れるのではなく、むしろそれほど緊迫した状況なのかと息を呑むメンバー達。
きっとカイセンの同志に何かあったんだ、と1人が呟く。
何かあったのは女性としてのプライドなのだが。
しかしその緊迫した雰囲気は伝播していき、リーダーのいる部屋へと案内したときには、まるで戦争の最中のような緊張感がアジトを包んでいた。
そして扉を開けた先にはすでに武装した革命軍リーダーのキース。椅子には座らず、部屋の中心に立っていた。
「ギランさん!一体何があったんですか?!」
緊迫感はキースにまで伝わっていたらしい。強張った表情で問い詰める彼にギランは耳打ちする。
それを聞いたキースはなんとも複雑な表情を浮かべた。
そして肩の力が抜けたように脱力する。
しかし、続く耳打ちにより嫌そうな表情を浮かべる。
が、渋々といった風にキースはシエルを呼び出して別の部屋でしばし話をしていた。
「押し付けましたね」
「これがリーダーの仕事なんだよぉ」
それを見送ってから呟くように言うロイド。
それに返すギランは安堵と開放感に満ちた笑みを浮かべていた。
その数分後、いつも通りのシエルと疲れた様子のキースが部屋に戻ってきた。
「すみません、お待たせしました。それでは昨日の確認を含めて作戦会議といきましょう」
「おう、そうだな。おいグラン、そろそろ起きろぉ」
ギランはグランを起こしつつ席へと向かう。ロイドは適当な席に着きながら思った。
(リーダーって大変なんだな)
ロイドはまだ話してすらいない革命軍リーダーに敬意と同情の念を抱いた。
そこに身を置き統率する彼こそが革命軍現リーダーであるキースだ。
鋭い目付きに鍛え上げられた肉体を持ち、その実力や実績からメンバーからも尊敬や畏怖の目を向けられている。
引退した先代リーダーの偉業もあり、その重圧を感じつつも日々努力してきた彼は、今や名実ともに革命軍総リーダーとしての役割を担い、それに見合う存在感を示していた。
そんな彼は今、普段では見せないような複雑な表情を浮かべていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ちょ、死ぬってこれ!」
「はーっはっは!風が気持ち良いわ!」
「ギランさん、笑ってる場合ですか?!」
時は遡り、レオンによって空中に放り出されてから。
岩塊に押しつけられるような形で空中飛行をする彼らはとても騒いでいた。
ちなみにロイドはディンバー領に来る際に似た経験をした事もあってか、慌てる事なく魔力を練り上げている。
「あっという間に帝都に着きそうだな!さすがは『国斬り』よ、規格外だな!」
「限度があるでしょう!これ遠回しに殺されそうになってません?!」
グランは青ざめた表情で岩塊にへばりついているが、流石というべきかギランは楽しそうに笑っていた。
この状況で笑うあたり結構頭おかしいなこの人、とロイドは胸中で呟く。
もっとも、慌てつつもしっかりツッコミを入れるシエルもなかなかに図太い精神力だと言えるだろう。
しかしわいわい(?)と言い合っている時間はそう多くはない。
段々と岩塊は高度を下げていき、そしてみるみる内に地面へと向かって落ちていく。
「ムリムリ!ムリムリムリ!死ぬって!」
「グラン、君のことは忘れない」
「ロイドくん?!それが冗談には聞こえない状況なんですけど!」
「はーっはっは!」
「いやアンタは笑っちゃダメだろうが父親ぁ!」
しかし尚も騒がしい面々。
ツッコミ続けるシエルからついに敬語が消え去った頃にはいよいよ地面が見えてきていた。
「ではお先っと」
するとまずロイドが岩塊を蹴って空中へと飛び出した。
風魔術を使う事で飛行とまではいかずとも落下はせず緩やかに高度を落としていく。
「てめっ、このっ、なんかかっけぇなロイドこらぁ!」
「うん、ありがとう」
意外と余裕あるんじゃね?と思いつつロイドは苦笑いで返す。
「そろそろ出ようかなぁ、ほれグラン」
「え、親父?ってうわっ」
次いでギランは騒ぐグランを抱えて飛び出した。
高速移動する岩塊からこれまた高速で飛び出したギランは、着地の凄まじい衝撃を強靭な足腰をもって地面を滑るようにしていなしていく。
「ええっ!置いていくんですかギランさんっ!?」
残ったシエルは涙目だった。
遠くでギランがえっ?!って感じで振り返っているが、それに気付く余裕もない。
そして間もなく地面に到着する岩塊。あ、これ死んだ、とシエルは覚悟した。
――どごおおおんっ!!
耳を裂く轟音とともに岩塊が砕け散る。その衝撃にギランやロイドは咄嗟に腕で顔をガードして体勢を低くした。
しかしすぐにギランはグランを放り投げて慌てて爆心地に駆け出す。
走りながら懐から回復薬を出してシエルがせめてこれが飲める状態で耐えてくれている事を祈る。
ちなみにグランは放り出されてすぐに蹲った。そのまま今日のご飯を華麗にリバース。
だが、石飛礫を凌いで広がる視界に映ったのはシエルから飛び散る真っ赤な血ーーではなく、目を惹く銀と黒。
「シエル、お前結構どんくさいな」
「そうだとしても、レオンさんにだけは言われたくないです…」
岩塊を右手で砕き、左腕で衝撃を緩和しつつシエルを受け止めたレオンが立っていた。
そしてゆっくりと顔を真っ青にしたシエルを地面に下ろす。
それを見たギランは安心した表情を浮かべて近寄る。
ロイドもすぐ横におり、最初からレオンが助ける事を分かっていたように飄々とした態度で歩いていた。
そんな彼らにレオンが振り返る。
いつもの涼しい顔を浮かべているレオンにロイドは文句を言ってやろうと口を開きかけーー
「うぷっ」
爆心地の中心、レオンの腕から離れてすぐ蹲るシエルにより、ロイドは言葉を失った。横のギランもあちゃーと言いたげに天を仰ぐ。
さすがにレオンも悪いと思ったのか頬をかいてバツが悪そうな表情である。
「…………」
なんとも重たい沈黙が流れた。
戻し終わったシエルは蹲ったまま動かない。もういっそ怖いくらい微動だにしない。
その雰囲気にロイドとギランは足を止めてどうすんだよこれ、と目線をやり合う。
しかしその沈黙は次の瞬間に破られた。
「おっ!リーダーもゲロったんか!」
早くも復活したグランが駆け寄りながら笑い混じりに言う。
次の瞬間だった。レオンも目を瞠る速度で駆け出したシエル、その拳によりグランは沈んだ。
あ、今度こそ逝った。ロイドは内心呟いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからグランを抱えたギランのわざとらしいくらい明るい声で先導され地下通路へと進んだ一行。
ロイドもどうにか明るい声で合わせていたが、しかし段々と声は消えていきついに沈黙が訪れる。
足音だけが響く地下通路。早く着け!と内心叫ぶロイド。
カイセンよりも構造が簡易な為、地下通路を帝都の兵士に見つかって利用されていないか等と昨日までは懸念していたギランも、今はそんな事欠片も頭になかった。
途中からはまるで競歩のように進んでおり、警戒のけの字もない。
そしてついに訪れた色んな意味で待望の革命軍アジト。
駐在していた革命軍メンバー達はギランを見て喜びの声とともにリーダーへと案内する。
ちなみにカイセン支部リーダーとしてシエルも敬意を集めており、やはり声をかけられたが完全にシカトしていた。
むしろかつてない威圧感を放っており、メンバー達も声を段々声を掛けられなくなっていた。
しかしそれにより敬意が薄れるのではなく、むしろそれほど緊迫した状況なのかと息を呑むメンバー達。
きっとカイセンの同志に何かあったんだ、と1人が呟く。
何かあったのは女性としてのプライドなのだが。
しかしその緊迫した雰囲気は伝播していき、リーダーのいる部屋へと案内したときには、まるで戦争の最中のような緊張感がアジトを包んでいた。
そして扉を開けた先にはすでに武装した革命軍リーダーのキース。椅子には座らず、部屋の中心に立っていた。
「ギランさん!一体何があったんですか?!」
緊迫感はキースにまで伝わっていたらしい。強張った表情で問い詰める彼にギランは耳打ちする。
それを聞いたキースはなんとも複雑な表情を浮かべた。
そして肩の力が抜けたように脱力する。
しかし、続く耳打ちにより嫌そうな表情を浮かべる。
が、渋々といった風にキースはシエルを呼び出して別の部屋でしばし話をしていた。
「押し付けましたね」
「これがリーダーの仕事なんだよぉ」
それを見送ってから呟くように言うロイド。
それに返すギランは安堵と開放感に満ちた笑みを浮かべていた。
その数分後、いつも通りのシエルと疲れた様子のキースが部屋に戻ってきた。
「すみません、お待たせしました。それでは昨日の確認を含めて作戦会議といきましょう」
「おう、そうだな。おいグラン、そろそろ起きろぉ」
ギランはグランを起こしつつ席へと向かう。ロイドは適当な席に着きながら思った。
(リーダーって大変なんだな)
ロイドはまだ話してすらいない革命軍リーダーに敬意と同情の念を抱いた。
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