魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
78 協力と打算
現れた女性にギランは手を振りながら話しかける。
「おう、急にすまんな」
「いえ、ギランさんのお呼びとあれば。しかも今回は内容が内容ですので、こちらこそ感謝しております」
「お前は固いなぁ相変わらず。まぁお客さんの前で長々話しちゃいけねえ、さっさとこっち来て座んな」
「はいっ!」
女性は機敏な動きでギランの下へと駆け寄り、空いている椅子へと腰かけた。
そしてレオンへと目を向けて頭を下げて口を開く。
「お初にお目にかかります。革命軍要塞都市カイセン支部リーダーをしておりますシエルと申します」
「レオンだ」
丁寧な挨拶にレオンは名前だけ返す。なんとも雑な対応だが、しかしシエルは感動を噛み締めるような表情を浮かべる。
そんな彼女にギランは溜息混じりに言う。
「おいシエル。こっちの少年にも挨拶せんかい」
「え?あ、はい。坊や、よろしくね」
「はい、ロイドと申します。よろしくお願いします」
先程とは大きな差がある子供扱いの挨拶に、しかしロイドは丁寧に返す。
だが、名前を聞いたシエルは目を丸くしてロイドを見つめる。
そして数秒の後、ゆっくりと口を開いた。
「もしかして…ロイド・ウィンディア?」
「そうです」
驚いた様子のシエルを横目に、ギランがレオンに話しかける。
「”国斬り”さん。今回はどういったご用件でディンバーに?」
さらっと放たれた質問だが、最も気になっていた用件であり、周囲の注目や緊張感が一気に高まる。
そんな中、レオンはそれらを気にもかけずにロイドへと目線をやる。
それだけでギランは察したのか、ふむと頷き、そしてロイドへと目線を移す。
「なるほどですな。さてシエル、お客さんは坊主の方だ。ちなみにわしは坊主を全面的にバックアップする事にした」
「え、ええっ!ギランさんがですか!?」
「おうよ。わしはこの坊主が気に入った。坊主…いや、ロイド。お前さんの目的、わしにも手伝わせてくれんか?」
「おっ、俺も手伝わせてくれ!」
ロイドが頷く前に横から快活な声が響く。
目線を向けるとロイドを兵士から助け、そしてここまで連れてきた少年グランが力強い目でこちらを見ていた。
「グラン?あなた…」
「親父、俺も手伝う。ロイド、いいよな?」
シエルがグランに気付いて呟くのを無視してグランはギランとロイドに詰め寄る。
ロイドはここ親子かよ、と内心呟きつつも笑顔で頷いた。
「もちろん。ありがたいです。2人とも、ありがとうございます」
その言葉にグランはつられるように笑顔になった。
なんだか置いてけぼりなリーダーを放置して話が纏まりつつある。
「はぁ…何がなんだか分かりませんが、ギランさんが気に入る相手なら信用出来るでしょう。私も全力をもってお手伝いさせて頂きます」
「ありがとうございます、シエルさん」
ロイドはシエルに頭を下げた。
そしてシエルはギランやロイドに話を聞き、状況を把握していく。
「なるほど、話は理解しました。恐らく先日届いた情報がそれにあたるかと思います。1年程前に見つかったエルフの集落を先日ジルバ皇太子が攻め落とし、その姫であるクレア姫を帝城にて軟禁しているというものです」
 
クレア。
シエルやレオンの話をまとめれば恐らくそのクレア姫が如月であろうと思われた。
ロイドは軟禁という言葉に苛立ちつつも、あいつが姫とはな、とこんな時にも関わらず前世の彼女を思い出す。
「その集落のエルフはクレア姫を残してほぼ全滅したと聞いております。そしてクレア姫が生かされている理由として、そのスキルを利用する為だという情報もあります」
「…そのスキルは分かっているのか?」
「いえ、それは確認出来ませんでした」
全滅という言葉にロイドは表情がすっと抜ける。何かを堪えるように押し黙るロイドを見やり、沈黙していたレオンが問いかける。
申し訳なさそうに答えるシエルだが、レオンは気にせず視線で話を続けるよう促す。
「はい、ここからは情報の精度は落ちるのですが、スキルを利用しようとするジルバにクレア姫は従わず抵抗しているようです。ですが、だからといって拷問などはされていないらしいのですが…」
「ですが?」
ここで言い辛そうに言葉を切るシエルに、ロイドは表面上は落ち着いた口調で促した。
シエルは言い辛いのか小さめな声で続ける。
「ジルバはクレア姫を妃にすると言って迫っているらしいのです。これにもクレア姫は拒否の姿勢らしいのですが…」
続きは言わずに言葉を切るシエル。ロイドは机の下で拳を握りしめる。
故郷を滅ぼした張本人に迫られ、ましてや逃げ場のない帝城で軟禁状態の彼女がどれほど抵抗出来るのだろうか。
クレアの状況にもよるだろうが、あまり楽観出来る状況ではないだろう。
「分かりました、ありがとうございます。ちなみに軟禁されている詳しい場所は分かりますか?」
「これも精度は低い情報ですが、恐らく皇太子の私室だろうとの事です」
皇太子の私室ともなれば警備はかなり厳しいだろう。
これを聞いたロイドは潜入して人知れず救出するのいう方向性を取り下げる。
しかし、だからといって正面突破なんて真似は出来ない。
一国の主要機関に単身で乗り込むなんて自殺行為に他ならない。
ロイドは陽動、隠密、脱出経路の確保などと、沸騰しそうな脳内を必死に冷やすかのように次々と作戦の概要の作成と必要な情報を挙げていく。
「あと、帝都には革命軍の方たちはいますかね?」
「もちろん。主要な場所ですので、本部もありますし革命軍リーダーもいます」
それなら拠点には困らないか、とロイドは礼を言って考える。
が、そこで今更な疑問を抱いた。
「あの、そう言えばバタバタで聞けてなかったんですが、革命軍の方々の目的はどのようなものなんですか?」
革命軍という名前から革命を起こす事が過程としてあるのだろうが、その革命を経て何を目指すのか。
それを聞きたいロイド。
シエルはグランに目線をやる。
グランはそういえば、といった感じで頭を掻いており、シエルは全く、と呟いてロイドに目線を戻す。
「私達革命軍は現皇帝を打破ないし説得し、戦争を繰り返し行う事を辞めさせたいと考えております」
現皇帝を討つ、というよりは現在の体制を変えたいという目的が大きいのはロイドにも分かった。
恐らく現皇帝を討ったとしても、次期皇帝も戦争派でないものを用意する事になる。
そうなればもし皇太子達も戦争派なら皇帝もろとも殺すのだろう。
つまり、渦中のジルバ皇太子も、だ。
そこまで考え、ロイドはふと思い当たり、ギランへと目を向ける。
その視線に気付いたギランはロイドと目を合わせると、その視線の意味に気付いたのであろう。
苦笑気味に笑ってみせた。
恐らくギランはロイドのサポートをする事で、革命軍としての目的にも近付けると踏んだのだろう。
さらに言えば、ロイドをサポートするという名目があれば一緒にいる”国斬り”レオンの力も借りれるのではないかという打算もあると思われる。
それでも子供でしかない自分に手を貸してくれるというには、協力したいと言ってくれた言葉は嘘ではないのだろう。
が、強かだな、とロイドは革命軍元リーダーの苦笑いに笑って返す。
「なるほど、ありがとうございます。ご協力頂く立場で言うのもなんですが、革命軍の目的にも力添え出来るように頑張りますね」
ロイドの言葉に苦笑いを深めるギランと、ここで思惑に気付いたと察したシエルが目を丸くする。
「…ウィンディア、ですか。噂通り恐ろしい血族のようですね」
「だが、噂よりは人情はあるなぁ」
「あの、こっちでウィンディアはどんな扱いになってるんですか…」
その言われように思わず聞いてしまうロイドだが、2人は笑って誤魔化すのであった。
「おう、急にすまんな」
「いえ、ギランさんのお呼びとあれば。しかも今回は内容が内容ですので、こちらこそ感謝しております」
「お前は固いなぁ相変わらず。まぁお客さんの前で長々話しちゃいけねえ、さっさとこっち来て座んな」
「はいっ!」
女性は機敏な動きでギランの下へと駆け寄り、空いている椅子へと腰かけた。
そしてレオンへと目を向けて頭を下げて口を開く。
「お初にお目にかかります。革命軍要塞都市カイセン支部リーダーをしておりますシエルと申します」
「レオンだ」
丁寧な挨拶にレオンは名前だけ返す。なんとも雑な対応だが、しかしシエルは感動を噛み締めるような表情を浮かべる。
そんな彼女にギランは溜息混じりに言う。
「おいシエル。こっちの少年にも挨拶せんかい」
「え?あ、はい。坊や、よろしくね」
「はい、ロイドと申します。よろしくお願いします」
先程とは大きな差がある子供扱いの挨拶に、しかしロイドは丁寧に返す。
だが、名前を聞いたシエルは目を丸くしてロイドを見つめる。
そして数秒の後、ゆっくりと口を開いた。
「もしかして…ロイド・ウィンディア?」
「そうです」
驚いた様子のシエルを横目に、ギランがレオンに話しかける。
「”国斬り”さん。今回はどういったご用件でディンバーに?」
さらっと放たれた質問だが、最も気になっていた用件であり、周囲の注目や緊張感が一気に高まる。
そんな中、レオンはそれらを気にもかけずにロイドへと目線をやる。
それだけでギランは察したのか、ふむと頷き、そしてロイドへと目線を移す。
「なるほどですな。さてシエル、お客さんは坊主の方だ。ちなみにわしは坊主を全面的にバックアップする事にした」
「え、ええっ!ギランさんがですか!?」
「おうよ。わしはこの坊主が気に入った。坊主…いや、ロイド。お前さんの目的、わしにも手伝わせてくれんか?」
「おっ、俺も手伝わせてくれ!」
ロイドが頷く前に横から快活な声が響く。
目線を向けるとロイドを兵士から助け、そしてここまで連れてきた少年グランが力強い目でこちらを見ていた。
「グラン?あなた…」
「親父、俺も手伝う。ロイド、いいよな?」
シエルがグランに気付いて呟くのを無視してグランはギランとロイドに詰め寄る。
ロイドはここ親子かよ、と内心呟きつつも笑顔で頷いた。
「もちろん。ありがたいです。2人とも、ありがとうございます」
その言葉にグランはつられるように笑顔になった。
なんだか置いてけぼりなリーダーを放置して話が纏まりつつある。
「はぁ…何がなんだか分かりませんが、ギランさんが気に入る相手なら信用出来るでしょう。私も全力をもってお手伝いさせて頂きます」
「ありがとうございます、シエルさん」
ロイドはシエルに頭を下げた。
そしてシエルはギランやロイドに話を聞き、状況を把握していく。
「なるほど、話は理解しました。恐らく先日届いた情報がそれにあたるかと思います。1年程前に見つかったエルフの集落を先日ジルバ皇太子が攻め落とし、その姫であるクレア姫を帝城にて軟禁しているというものです」
 
クレア。
シエルやレオンの話をまとめれば恐らくそのクレア姫が如月であろうと思われた。
ロイドは軟禁という言葉に苛立ちつつも、あいつが姫とはな、とこんな時にも関わらず前世の彼女を思い出す。
「その集落のエルフはクレア姫を残してほぼ全滅したと聞いております。そしてクレア姫が生かされている理由として、そのスキルを利用する為だという情報もあります」
「…そのスキルは分かっているのか?」
「いえ、それは確認出来ませんでした」
全滅という言葉にロイドは表情がすっと抜ける。何かを堪えるように押し黙るロイドを見やり、沈黙していたレオンが問いかける。
申し訳なさそうに答えるシエルだが、レオンは気にせず視線で話を続けるよう促す。
「はい、ここからは情報の精度は落ちるのですが、スキルを利用しようとするジルバにクレア姫は従わず抵抗しているようです。ですが、だからといって拷問などはされていないらしいのですが…」
「ですが?」
ここで言い辛そうに言葉を切るシエルに、ロイドは表面上は落ち着いた口調で促した。
シエルは言い辛いのか小さめな声で続ける。
「ジルバはクレア姫を妃にすると言って迫っているらしいのです。これにもクレア姫は拒否の姿勢らしいのですが…」
続きは言わずに言葉を切るシエル。ロイドは机の下で拳を握りしめる。
故郷を滅ぼした張本人に迫られ、ましてや逃げ場のない帝城で軟禁状態の彼女がどれほど抵抗出来るのだろうか。
クレアの状況にもよるだろうが、あまり楽観出来る状況ではないだろう。
「分かりました、ありがとうございます。ちなみに軟禁されている詳しい場所は分かりますか?」
「これも精度は低い情報ですが、恐らく皇太子の私室だろうとの事です」
皇太子の私室ともなれば警備はかなり厳しいだろう。
これを聞いたロイドは潜入して人知れず救出するのいう方向性を取り下げる。
しかし、だからといって正面突破なんて真似は出来ない。
一国の主要機関に単身で乗り込むなんて自殺行為に他ならない。
ロイドは陽動、隠密、脱出経路の確保などと、沸騰しそうな脳内を必死に冷やすかのように次々と作戦の概要の作成と必要な情報を挙げていく。
「あと、帝都には革命軍の方たちはいますかね?」
「もちろん。主要な場所ですので、本部もありますし革命軍リーダーもいます」
それなら拠点には困らないか、とロイドは礼を言って考える。
が、そこで今更な疑問を抱いた。
「あの、そう言えばバタバタで聞けてなかったんですが、革命軍の方々の目的はどのようなものなんですか?」
革命軍という名前から革命を起こす事が過程としてあるのだろうが、その革命を経て何を目指すのか。
それを聞きたいロイド。
シエルはグランに目線をやる。
グランはそういえば、といった感じで頭を掻いており、シエルは全く、と呟いてロイドに目線を戻す。
「私達革命軍は現皇帝を打破ないし説得し、戦争を繰り返し行う事を辞めさせたいと考えております」
現皇帝を討つ、というよりは現在の体制を変えたいという目的が大きいのはロイドにも分かった。
恐らく現皇帝を討ったとしても、次期皇帝も戦争派でないものを用意する事になる。
そうなればもし皇太子達も戦争派なら皇帝もろとも殺すのだろう。
つまり、渦中のジルバ皇太子も、だ。
そこまで考え、ロイドはふと思い当たり、ギランへと目を向ける。
その視線に気付いたギランはロイドと目を合わせると、その視線の意味に気付いたのであろう。
苦笑気味に笑ってみせた。
恐らくギランはロイドのサポートをする事で、革命軍としての目的にも近付けると踏んだのだろう。
さらに言えば、ロイドをサポートするという名目があれば一緒にいる”国斬り”レオンの力も借りれるのではないかという打算もあると思われる。
それでも子供でしかない自分に手を貸してくれるというには、協力したいと言ってくれた言葉は嘘ではないのだろう。
が、強かだな、とロイドは革命軍元リーダーの苦笑いに笑って返す。
「なるほど、ありがとうございます。ご協力頂く立場で言うのもなんですが、革命軍の目的にも力添え出来るように頑張りますね」
ロイドの言葉に苦笑いを深めるギランと、ここで思惑に気付いたと察したシエルが目を丸くする。
「…ウィンディア、ですか。噂通り恐ろしい血族のようですね」
「だが、噂よりは人情はあるなぁ」
「あの、こっちでウィンディアはどんな扱いになってるんですか…」
その言われように思わず聞いてしまうロイドだが、2人は笑って誤魔化すのであった。
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