魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
77 ギラン
大衆食堂である定食屋『サンディオ』には、安く美味しい料理が人気を呼びたくさんの人が訪れる。
また、店主の人柄もあり特に貧民層からの支持が厚い。
孤児には金銭以外でもお代として認めて料理を提供したり、自身が狩ってきた魔物の肉を試食と題して無料で振る舞ったりといった事が多くある事も理由のひとつである。
しかし、もっとも多く訪れ、かつ常連としてよく居座っているのは革命軍のメンバーである。
今日もやはり多くのメンバーが腰を落ち着けていた。
つい先程各班の班長から伝令があり、内容はなんと帝国ディンバーにおいて幾度となく歴史を動かしてきた人物”国斬り”が現れたというものである。
興奮と緊張に普段よりも落ち着きがないメンバー達にやれやれと肩を竦めながら料理を出す店主。
そして一通り注文の品を出し終えた時だった。
扉にふと視線を向けた。
お客さんが来た、とは違う気がした。
とは言え敵意はないようだし、魔力や威圧感もない。
だが、何か巨大なそれを隠しているような不気味さを直感で感じた店主は、扉に目を向けたまま動けなかった。
それに気付いたメンバー達がつられるように扉に目を向けた瞬間だった。
扉が開き、そこから1人の男性が入ってくる。
最初に目が行くのはその銀髪であろう。纏う黒衣がより引き立たせている流れるような銀髪は、見る者の目を惹きつけた。
そして何より、銀髪といえばこの国では珍しく、何より彼の者の代名詞でもある。
まさに今噂となっている”国斬り”その人のそれであった。
「いらっしゃい。ご注文が決まりましたらお呼びください」
メンバー達がフリーズしたかのように固まる中、常連はともかく一見さんには丁寧な口調の店主は、”国斬り”であろうといつも通りの接客をする。
すると”国斬り”はメニューを見る事なく注文をした。
「『ごちゃ煮』……まだあるだろうか?」
「ええ、お時間もらえれば」
「構わない」
店主は、実はメニューには載ってない料理を、しかし二つ返事で頷いた。
というのもこのごちゃ煮というなんとも適当なネーミングのこの料理は、父がよくまかないで作っていたものだ。
そして当時は眉唾物として聞き流していた父の言葉を思い出す。
『“国斬り”の旦那は昔からこれが好きらしくてな。なんか俺の爺さんが出したらしく、それ以来こればっか食うんだ。俺も出した事がある。だからお前もレシピは覚えとけよ』
あれは本当だったのか、とどこか他人事のように思いながら店主は調理を始める。
正直美味いとは思えない。
端肉と野菜の切れっ端を塩で煮込んだもので、今はメニューにすら載ってない料理。
だが何度も食べさせられる内に舌が覚えた味は、いつでも再現出来る自信がある。
そんな事を調理しながら考えていると、再び扉が開いた。
そこには若くして革命軍の幹部を務める少年グランと、見た事がないが聞いた情報と合致する風貌からロイド・ウィンディアと思われる少年が居た。
それからは”国斬り”とウィンディアの子が話し、グランが仕掛け、メンバー達も便乗したりと店内は実に騒がしくなった。
店主は調理を進めつつもやれやれと魔法を行使する。
店の外に苦手ではあるが風魔法を展開して音を散らす。
町中に兵士が走り回るげん町中に兵士が走り回る厳戒態勢である事を忘れてやがるな、と店主は溜息をつく。
そしていよいよ料理が仕上がり、配膳しようと足を進めようとしたその時。
「いきなりですみません。俺は今から帝都に囚われた友人を助けに行きます。どうか話を聞いてくれませんか?」
そう周囲を見渡しながら言って頭を下げた少年。
その目に思わず目を瞠った。
放った言葉はまるで虚言か大言。それを見た目10歳程度の子供が口にしたのだ。
本気なら自殺願望者ともとられかねないだろう。
だが碧の瞳にはそれらは一切感じさせない澄んだ光を湛えていた。
まるで気負いを感じさせない飄々とさえ感じる雰囲気。
とても子供が出せるものではない。
彼が実力が抜きん出た怪物、という訳ではないだろう。
”国斬り”がいる安心感によるものも全く無いという訳ではないだろうが、そういう類と考えるには放つ眼光が力強すぎた。
つまり、この小さな少年はこれから本当に帝都に行き、そして自分の力で友人を救出するつもりなのだろう。
笑い話にしても陳腐な発言だが、しかしその瞳には何故か反論出来ない何かがあった。
周囲もそうだろう。誰も何も言葉を発せずにいる。
そこでふと自分か立ち止まっている事に気付いた。
店主は固まるメンバー達を擦り抜けるように足を進めて手に持つ料理を”国斬り”の座るテーブルに配膳する。
周囲のメンバーも店主に目を向けていた。
その視線を背中で受け止めた彼はゆっくりと口を開く。
「お待ちどお。ごちゃ煮です。…坊主、お前さんも食ってけ」
「ん?あ、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる隣国の貴族の少年に、店主は言葉を続ける。
「おうよ。食ったらわしが話を聞こう。知ってる事は全て話したる。ギランってんだ、よろしくな」
そう目を見て話す店主。
現『サンディオ』店主にして、元革命軍リーダーギランは人の良さそうな笑みを浮かべた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからごちゃ煮をつつくレオンとロイド。
ロイドは前世でよく自炊していた水炊きもどきを思い出して頬を緩ませていた。
レオンはいつも通りの感情の見えない表情で食べていたが、ロイドはどこかレオンの雰囲気が柔らかいものになっている事に気付いていた。
珍しい様子に、しかしロイドはあえて触れる事なく食事をしていた。
「ご馳走様でした!」
「店主、うまかった、ありがとう」
ロイドとレオンは食べ終わるとギランを見て言葉を放つ。
その言葉を受けてギランはその強面には似つかわしくない人の良さそうな笑みを浮かべた。
「そりゃ良かったわい。もうそろそろ呼んだもんが来るんで、少し待ってもらっていいですかい?」
「あぁ、構わない」
レオンが返事をしてすぐ。
店の扉が勢いよく開かれた。
店の全員がそちらに目を向けると、そこには息を切らした茶髪の女性が居た。
「り、リーダー…」
周囲のメンバーの1人が呟く。
リーダーと呼ばれた彼女は茶髪を肩近くまで伸ばし、少し吊り目な青みがかった瞳を持つ女性だった。
また、店主の人柄もあり特に貧民層からの支持が厚い。
孤児には金銭以外でもお代として認めて料理を提供したり、自身が狩ってきた魔物の肉を試食と題して無料で振る舞ったりといった事が多くある事も理由のひとつである。
しかし、もっとも多く訪れ、かつ常連としてよく居座っているのは革命軍のメンバーである。
今日もやはり多くのメンバーが腰を落ち着けていた。
つい先程各班の班長から伝令があり、内容はなんと帝国ディンバーにおいて幾度となく歴史を動かしてきた人物”国斬り”が現れたというものである。
興奮と緊張に普段よりも落ち着きがないメンバー達にやれやれと肩を竦めながら料理を出す店主。
そして一通り注文の品を出し終えた時だった。
扉にふと視線を向けた。
お客さんが来た、とは違う気がした。
とは言え敵意はないようだし、魔力や威圧感もない。
だが、何か巨大なそれを隠しているような不気味さを直感で感じた店主は、扉に目を向けたまま動けなかった。
それに気付いたメンバー達がつられるように扉に目を向けた瞬間だった。
扉が開き、そこから1人の男性が入ってくる。
最初に目が行くのはその銀髪であろう。纏う黒衣がより引き立たせている流れるような銀髪は、見る者の目を惹きつけた。
そして何より、銀髪といえばこの国では珍しく、何より彼の者の代名詞でもある。
まさに今噂となっている”国斬り”その人のそれであった。
「いらっしゃい。ご注文が決まりましたらお呼びください」
メンバー達がフリーズしたかのように固まる中、常連はともかく一見さんには丁寧な口調の店主は、”国斬り”であろうといつも通りの接客をする。
すると”国斬り”はメニューを見る事なく注文をした。
「『ごちゃ煮』……まだあるだろうか?」
「ええ、お時間もらえれば」
「構わない」
店主は、実はメニューには載ってない料理を、しかし二つ返事で頷いた。
というのもこのごちゃ煮というなんとも適当なネーミングのこの料理は、父がよくまかないで作っていたものだ。
そして当時は眉唾物として聞き流していた父の言葉を思い出す。
『“国斬り”の旦那は昔からこれが好きらしくてな。なんか俺の爺さんが出したらしく、それ以来こればっか食うんだ。俺も出した事がある。だからお前もレシピは覚えとけよ』
あれは本当だったのか、とどこか他人事のように思いながら店主は調理を始める。
正直美味いとは思えない。
端肉と野菜の切れっ端を塩で煮込んだもので、今はメニューにすら載ってない料理。
だが何度も食べさせられる内に舌が覚えた味は、いつでも再現出来る自信がある。
そんな事を調理しながら考えていると、再び扉が開いた。
そこには若くして革命軍の幹部を務める少年グランと、見た事がないが聞いた情報と合致する風貌からロイド・ウィンディアと思われる少年が居た。
それからは”国斬り”とウィンディアの子が話し、グランが仕掛け、メンバー達も便乗したりと店内は実に騒がしくなった。
店主は調理を進めつつもやれやれと魔法を行使する。
店の外に苦手ではあるが風魔法を展開して音を散らす。
町中に兵士が走り回るげん町中に兵士が走り回る厳戒態勢である事を忘れてやがるな、と店主は溜息をつく。
そしていよいよ料理が仕上がり、配膳しようと足を進めようとしたその時。
「いきなりですみません。俺は今から帝都に囚われた友人を助けに行きます。どうか話を聞いてくれませんか?」
そう周囲を見渡しながら言って頭を下げた少年。
その目に思わず目を瞠った。
放った言葉はまるで虚言か大言。それを見た目10歳程度の子供が口にしたのだ。
本気なら自殺願望者ともとられかねないだろう。
だが碧の瞳にはそれらは一切感じさせない澄んだ光を湛えていた。
まるで気負いを感じさせない飄々とさえ感じる雰囲気。
とても子供が出せるものではない。
彼が実力が抜きん出た怪物、という訳ではないだろう。
”国斬り”がいる安心感によるものも全く無いという訳ではないだろうが、そういう類と考えるには放つ眼光が力強すぎた。
つまり、この小さな少年はこれから本当に帝都に行き、そして自分の力で友人を救出するつもりなのだろう。
笑い話にしても陳腐な発言だが、しかしその瞳には何故か反論出来ない何かがあった。
周囲もそうだろう。誰も何も言葉を発せずにいる。
そこでふと自分か立ち止まっている事に気付いた。
店主は固まるメンバー達を擦り抜けるように足を進めて手に持つ料理を”国斬り”の座るテーブルに配膳する。
周囲のメンバーも店主に目を向けていた。
その視線を背中で受け止めた彼はゆっくりと口を開く。
「お待ちどお。ごちゃ煮です。…坊主、お前さんも食ってけ」
「ん?あ、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる隣国の貴族の少年に、店主は言葉を続ける。
「おうよ。食ったらわしが話を聞こう。知ってる事は全て話したる。ギランってんだ、よろしくな」
そう目を見て話す店主。
現『サンディオ』店主にして、元革命軍リーダーギランは人の良さそうな笑みを浮かべた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからごちゃ煮をつつくレオンとロイド。
ロイドは前世でよく自炊していた水炊きもどきを思い出して頬を緩ませていた。
レオンはいつも通りの感情の見えない表情で食べていたが、ロイドはどこかレオンの雰囲気が柔らかいものになっている事に気付いていた。
珍しい様子に、しかしロイドはあえて触れる事なく食事をしていた。
「ご馳走様でした!」
「店主、うまかった、ありがとう」
ロイドとレオンは食べ終わるとギランを見て言葉を放つ。
その言葉を受けてギランはその強面には似つかわしくない人の良さそうな笑みを浮かべた。
「そりゃ良かったわい。もうそろそろ呼んだもんが来るんで、少し待ってもらっていいですかい?」
「あぁ、構わない」
レオンが返事をしてすぐ。
店の扉が勢いよく開かれた。
店の全員がそちらに目を向けると、そこには息を切らした茶髪の女性が居た。
「り、リーダー…」
周囲のメンバーの1人が呟く。
リーダーと呼ばれた彼女は茶髪を肩近くまで伸ばし、少し吊り目な青みがかった瞳を持つ女性だった。
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