魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

68 ゴーレム

 暗闇の中、重力に引っ張られるままに落下する。
 あまりの恐怖にロイドは意識が遠退きそうになるが、死への恐怖がそれを食い止める。

「っ!身体強化!身体硬化!」

 慌てて出来る限りの魔力を身体魔術に注ぎ込む。
 落下の衝撃を少しでも防ぐ為だ。

 数秒の後、不意に床が懐中電灯に照らされた。

「ぐぅっ!」

 落下の勢いにより見えてすぐに地面に叩き付けられたロイドだが、一瞬でも見えた事が功を奏してかろうじて受け身をとれた。
 両手両足で衝撃を受け止めつつ体を横に転がすようにして衝撃を受け流す。

 下手な受け身ではあるものの、身体強化と硬化でそれを補う事が出来たロイドは、手足を痺れさせつつも無傷で着地する事に成功していた。

「ぬぉおお……いっっ…ってぇな……!いきなり落とし穴とかアリか?それとも老朽化か?遺跡の試練とかいうなら製作者の正気を疑うわ…」

 無事着地出来た安心感からか、ロイドは独り言を口にする。
 それから懐中電灯に魔力を強く流して周囲を照らした。

「広いな…ってなんだあれ?」

 何もない広大な空間だった。
 横にも縦にも遮蔽物のないだだっ広いスペースがあるのみ。

 そんな中、遠くに何かが見えた。

 ロイドはあまり不用意に近づくのも危ないか、とまず目に部分強化を行い、遠視で様子を見る事にする。

「……ゴーレム?」

 ロイドはこちらの世界に来てゴーレムという魔物は見た事もなく、そういう魔物が居るという話も聞いた事がない。 だが、岩を繋げたような体という前世の知識にあるゴーレムそのままの姿にひとりごちる。

 しばらく遠くから見ているが、そのゴーレムらしき物が動く気配はない。
 周囲を見渡しても何も見当たらず、この広い空間にゴーレムのみしかいないように思えた。

(……どうするかねー)

 恐らくゴーレムらしき物を壊さないといけないのではないか。

 だが、今の自分にそれが出来るのか?

(まぁゴーレムだとしたら岩とか金属で出来てんだろーし……岩ならともかく金属ならお手上げだしな…)

 ロイドは手持ちの戦力を思い浮かべる。

 身体魔術。
 身体強化――身体能力向上、基本魔力消費なし。魔力の限り強化出来るが、その分他の魔術に魔力は割けなくなる。
 身体硬化――肉体の硬化による防御力向上。魔力は無理矢理解除されなければ消費はしない。効果としては現状打撃を緩和するのが限界。
 自己治癒――怪我を少しだけ治せる。魔力は怪我の大きさだけ消費する。難易度や不慣れもあり、現状戦闘中には基本使えない。
 
 風の魔術具。
 だいぶ慣れてきており、風を操る事は問題なく出来る。風の特性でもある速さはあるが、威力に欠ける。

 空間魔術。
 無理。神力とやらがないと使える気がしない。

 神力。
 無理。使う事すら出来ん。

 つまり、未熟な身体魔術と威力に欠ける風の魔術しかない。防御力に長けた相手には厳しい手札である。

 とは言え、見る限りではゴーレムしかそれらしき物がない。
 襲われない事を祈ってロイドは足を進める。

――がごんっ!

 重々しい音が無駄に広い空間に響き渡る。
 ビクッとしてロイドは身構えると、その視線の先――音源でもあるゴーレムが頭部の中心にある宝石を赤く煌かせ、ゆっくりと動き始めた。

「やっぱこうなるか…!」

 ロイドは吐き捨てるように呟きながら身体強化を施す。
 そしてすぐさま風の魔術である風刃を放った。

――ガギィンッ!

 だがやはりと言うべきか、ロイドの見立て通り風刃はゴーレムを切り裂く事なく弾かれた。
 薄らと傷のようなものは入っているものの、人間で言えばかすり傷程度のダメージしか与えられていない。

 ゴーレムは無言のままーー喋れるとは思えないがーー両腕を振り上げる。
 距離は十分離れており、ロイドは警戒していつでも動けるように構えた。
 
 するとゴーレムはその場で振り上げた腕を地面に向けて叩きつけるように振り下ろす。

「っうおお?!」

 振り下ろした地点から爆発が起きたかのように大小の岩が弾き出された。
 思わず叫びつつも横に飛び退いてそれらを回避する。

 ゴーレムは突き刺さった腕を引き抜き、ロイドの方に体を向け直す。
 そして先程の光景を繰り返すかのように腕を振り上げた。

「っ!くそ!」

 近距離に活路はないと遠距離に構えていたが、まさかあの風貌のくせに遠距離でも強力な攻撃を仕掛けてくるとは思いもしなかったロイド。
 だからと近距離に切り替えて良いか迷いはしたが、このままではジリ貧だと判断して迷いを振り切るかのように駆け出す。

 再び地面が弾けて岩が飛来する。
 それを斜めに駆け抜けるようにして躱し、ロイドは距離を詰めていく。

 幸いゴーレムは動きは速くはない。
 身体魔術を手に入れたロイドからすれば遅いと言い切れる程だ。
 
 突き刺さった腕を再び引き抜く頃にはロイドの間合いにまで距離を詰める事が出来た。

 ゴーレムは腕を左右に広げ、そのまま振り回すように横に振るう。
 ロイドはそれを潜るようにして回避した。

「よし…ってでけーな!」

 足元にまで辿り着いたロイドは改めてゴーレムの大きさに驚く。

 恐らく全長は4メートル近いのではないだろうか。
 腕もロイドの胴体よりも太く、当たればタダでは済まないだろう。

 とは言えびびったり呆けている場合ではない。
 走りながら溜めていた魔力を思い切り短剣に叩き込む。

「ぅおらぁあああっ!!」

 渾身の魔力を込めて短剣を振りかぶる。

 叩き込んだ魔力により小規模の台風のような猛烈な風を纏う刀身。
 それを持てる限りの力と気合いを込めてゴーレムに向かって振り下ろす。

 まるで削岩機で岩を掘るかのような耳を劈く音を立てて短剣とゴーレムの脚がぶつかった。
 ガリガリと岩を破壊していく手応えにロイドは勢い付く。

 このまま脚を破壊してやる!と更に力を込めるように体を押し込むロイド。

 だが、攻撃の手応えに気が緩んだロイドは気付けなかった。

――ぐしゃあっ

 ゴーレムは痛覚などなく、脚を削られようと歯牙にもかけない事に。
 それ故に攻撃を受けつつも構わず振り上げられた腕、それが振り下ろされていることに。

 ロイドはゴルフスイングのように下に向かって振り回された巨大な腕に吹き飛ばされ、受け身もとる事なく地面に叩きつけられた。


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