魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

56 家族は

「何を言っている。前世を含めたらそこそこ生きてるだろう?」

 一瞬、何を言っているか分からなかった。

「……は?」
「何を惚けている?まさか不具合でもあって忘れてるのか?」

 こちらでの生活があまりに濃く、また5年という年月で多少忘れている部分があるとは言え、確かにある前世の記憶。
 だが、それを何故こいつが知っている?と混乱するロイドは言葉を失う。

「……と言う訳ではなさそうだな。アリアに会って、転生しただろう?」
「あ、あぁ」
「その時に俺がお前を預かり、そしてルーガスに預けた」

 アリア。知っている。あの駄女神の名前だ。転生。その通りだ。アリアによって転生の道をもらった。
 そして今、ウィンディア家の次男としてここにいるーーと思っていた。

「いやいやいや待て待て、ちょい待ってくれ。え?俺は、ウィンディアの子じゃないのか…?」
「ふむ、転生直後は記憶が曖昧なのか?それとも定着やらに時間を必要とするのか……まぁいい。知らなかったのは予想外だが、聞かれたからには答えるぞ」

 レオンは一度言葉を切り、ロイドにその鋭い眼光を向けた。
 ロイドは情報を呑み込めず混乱気味になっているが、しかしそれに構わず続ける。

「ロイド、お前はウィンディアの血は流れていない。というより、この世界に血縁と言える相手はいない」

 淡々と、何の淀みもなくつらつらと述べられた事実にロイドはついに言葉を失う。
 ルーガス、シルビア、フィンク、エミリー。家族として慕っていた彼らは血が繋がってなかった?

「………」

 ショック、なのだろう。
 だが受け止められなかった故か、感情が思考ごと停止したかのように動かない。

 驚愕も落胆もなく、ただ頭で反芻する事しか出来なかった。

「…傷付いたなら謝る。知っていると思っていたとは言え、結果として俺の口から話してしまった事も謝罪する。……だが、事実だ」
「……そっか…」

 しばし沈黙が続く。
 痛い程の静寂な空間で、2人は身動きすらなく座ったままでいた。

 どれほど時間が経ったか分からない。
 まるで眠ったかのように曖昧な感覚、停止して思考が動きだした。

「…あー、まぁ元々ここの世界のもんでもないし、そーゆー事もあり得るわな。とりあえず、身体強化の練習するわ。あ、そーいやメシとかくれんの?」
「……飯は調達はしばらく俺が。調理は交代でやるとしよう。調達もしばらくしたら交代または分担でやる」
「りょーかい、そしたら悪いけど調達は頼んます。料理は今日はどっちがする?」
「初日だしな。俺がやろう」
「そか、なら甘えさせてもらいますわ」

 椅子をひいて立ち上がりながら言い残し、扉へと向かうロイド。
 そしてドアを開きながら言う。

「外で練習してくる」
「好きにしろ。飯の材料は備蓄してるものを使う。俺はここで料理をしてるから、気が済んだら食いに入ってこい」
「……あいよー」

 背中でレオンの言葉を受ける。
 ロイドは言葉に詰まりそうになったが、どうにかいつものような返事をして、すぐに扉を閉めた。

 外に出て気付いたが、外はもう暗くなっており、夜独特の静けさがあった。
 見上げると、前世は勿論のこと、町からと比べても一際綺麗な星空が広がっている。

 それをしばし眺め、綺麗だな、とどこか他人事のような気持ちで呟く。

「……『死神』とか言われてるくせに、人間らしい気配りしやがって」

 なんとなく声に出して悪態をついてみる。
 言葉にした方がすっきりしそうだと思ったのか、それとも心のどこかで悪態を聞かせてやろうと思ったのかは自分でも分からない。

「気が済んだら、か。……済めばいいけど」

 続いて出た言葉は自分でも聞き取れない程弱々しい小さな声。
 その声が微かに震えていた。

 ロイドはしばし、星空を眺めたまま立ち尽くしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

それから3ヶ月が経った。

「はぁっ!」

 気合いを込めた声とともに短剣が振り下ろされる。
 身体強化を施し、体重や重力を乗せた一撃は小さな体から放たれたとは思えない威力と速さを含んでいた。
  
 しかしレオンは軽いバックステップでそれを避ける。

「そんな大振りが当たると思うな」
「思ってねーよ!」

  その言葉すら予定通りだと言わんタイミングで返事をしつつ、ロイドは着地と同時に低姿勢のまま突きを放つ。
 足を狙った攻撃、それもバックステップで足が浮いているタイミングでの追撃だ。

「考え方は悪くないが、動きが悪いな」

 ロイドとしては必中のタイミングと思ったが、レオンは浮いていた右足で短剣の腹を蹴って攻撃をいなしてみせる。 さらに、いなされて体勢が崩れたロイドの足をその右足で払って転がす。

「ぐえ!」
「フェイントならもっと無駄の少ない動きでやれ。それだと動きが繋がらないただの2回の攻撃だ」
「……だとしても全部右足だけであしらわれるなんて普通ねーよ」

 そう、ここに来た翌日から始まった手合わせだが、初日にあまりにボコボコにされたロイドが苦言と要望を挙げた。手加減プリーズ。
 
 レオンとしても想像以上の弱さに訓練にならないと思ったのか、結果として落ち着いたのが”右足のみで対応する”というものだ。

 その発言にロイドも「右足をズタズタにしてやる!」と返して意気揚々と翌日から挑んだのだが、結果は3ヶ月経った今を見て分かるようにあしらわれて終わり。

 レオンも初日以降は積極的に攻撃はしないようにしている為怪我はほとんどなく、結果毎日手合わせは欠かさず行われているものの、結果は依然として変わらないようだ。

 とりあえず休憩だと家に入って体を休めるロイド。
 ぐったりと椅子にもたれかかるロイドに、レオンは思い出したように告げる。

「とは言え、調達くらいは任せてと良いかもな。早速今日の調達を頼む」

――グォオオオオオ……

 遠くに聞こえる野太い雄叫びをBGMに放たれたレオンの言葉。 
 その言葉に、ロイドは笑顔で言う。

「無理」

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