魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
45 剣神の喜び
激しい紫の光とともに咲く一輪の華。
それは天から堕ちた雷が再び天に還るかのように下から上へと撃ち抜かれた。
「ぐああぁぁっ!!」
予想すらしておらず、必死に盾を踏ん張る事しか出来ないエリオットにそれを防ぐ事など出来るはずもなく、エリオットは絶叫とともに雷に呑み込まれた。
「全く、疲れるったらありゃしない。私は少し休むよ」
その最期を見届ける事なくベルは踵を返してロイド達の方へ歩き出す。
その歩みが半ばほど進められた時、雷の華は空気に溶けるかのように紫電の残滓を残しつつ散った。
紫の燐光の中、そこに残ったのはボロボロになり所々黒焦げになった盾。
それだけだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 時は少し遡り、万雷が降り注ぎ始めた頃。
「おらぁっ!」
「ふん!」
離れた場所で鳴り渡る雷鳴にも負けないような轟音を立てて、もう何合目か分からない剣を撃ち合い、いまだ戦況は拮抗していた。
「弱くなったな剣神!あんな町でぬくぬくやってりゃそうなるわなァ!」
「声がでけぇよ木偶の坊!せめて一撃入れて言えよ!」
互いに剣を弾いて距離をとる。
ともに剛剣のぶつかり合いで、剣は細かい刃毀れが出来ていた。
長年の相棒の剣の刃毀れに舌打ちをするラルフ。
対照的に、ゲインは余裕を見せつけるかのように嗤い、言葉を放ちながら駆け出す。
「じゃァそろそろ本気でいくとするかァ!」
「あぁ?本気じゃなかったって言いたいのか?」
 巨躯に似合わぬ疾風のような速度で迫るゲインに、ラルフは慌てる事なく剣を受け止めてみせた。
鍔迫り合いになり、互いに剣を押し合いつつ会話を続ける。
「あァ、そうだよ!」
「変わったようには思えねえけどな………っ!?」
鍔迫り合いをしている力もさほど先程までと変わらない。――そう思った瞬間、不意に体から力が抜ける感覚を覚える。
「ハッ!本当かァ?!」
「ぐぅっ!」
鍔迫り合いの均衡が崩れ、一気に押し込まれる。
ラルフは膝をつき必死に力を入れようとするが、どんどんゲインの刃は自らに迫る一方だ。
「どうしたァ?!何も変わってねぇんじゃなかったのかァ!?」
「ちっ、ったくなんだってんだ!」
「あン?」
ラルフは剣を巧みに操り、ゲインの剣をいなすようにして受け流す。
押し込まれていた剣はラルフの横に叩きつけられ、重圧から解放されたラルフは急いで距離をとった。
「ハッ!剣神ともあろうもんが逃げてんじゃねェよ!」
「………」
余裕なのか挑発なのか、ゲインは追撃せず地面に叩きつけられた剣を肩に担ぎ直して言う。
だがラルフは挑発には乗らず自らに起きた事を確認する。
すると、すぐに理由に気付いた。
「俺の『身体強化』を”分解”したのか」
「気付くのが遅ェよ」
いつの間にか『身体強化』が解けていた。
あまりに基本的な魔法であり、呼吸をするように発動していた為気付くのが遅れた、というのは言い訳になるだろうが。
『身体強化』も魔力を伴った魔法である事には違いない。
それをスキルの”魔力分解”で強制的に解除したのだ。
気付いたラルフに尚も挑発するゲイン。だがラルフは挑発にこそ乗らないまでも舌打ちしたい気持ちである。
(こっからは身体強化なしか…いけるか?)
そう、スキルにより発動される”魔力分解”は恐らく接触により作用される。
しかし、基本的には剣技のみで闘うラルフはその作用から逃れる事は出来ない。
遠距離での斬撃が出来ない訳ではないが、それも魔力ありきなので恐らく分解されて終わりだろう。
「諦めな剣神!俺の前じゃどんな魔法師も剣士もただの人にしかならねぇんだよ!」
降り注ぐ雷を背に写しながらゲインは吼えた。
ラルフは雷鳴を切り裂くような声を聞き、腹立たしいがその通りだと胸中で頷く。
魔法師の魔法も、剣士を剣士たらしめる身体強化も全て分解してしまうゲイン。
つまり、身体ひとつで勝たなくてはならない。
「昔はこんな真似出来なかっただろ。面倒なもん覚えやがって」
「俺がいつまでも弱点をそのままにしとくとでも?てめェみたいにぬくぬくと過ごして弱くなった奴に負ける訳がねェよ」
これは挑発ではなく、努力したという自負による発言だった。
それが分かったラルフは、無意識の内に表情が歪む。
それに気付いたのはやはりゲインだ。
「……てめェ、何笑ってんだ?」
「ん?あ、本当だ。悪いな、別に変な意味はない」
表情を指摘されて左手で口元に触れるラルフ。
抑えようとしてみたが、どうにも込み上げてくる気持ちは抑えられないようだ。
結局諦めたのか、剣の柄へと戻した左手の下にあったのは変わらず笑みを浮かべたままだ。
「ただ、久しぶりにまともに戦えて楽しいってだけだ」
心底嬉しそうに言うラルフ。
歓喜と獰猛さを混ぜたような笑みに、ゲインは怪訝そうな表情を浮かべた。
力を削がれて何が可笑しいのか。
ゲインには分からず、強がりかとも考えたが明らかにそのような類の笑みには見えない。
ーー剣神。
噂や人々やギルドなどが異名をいつの間にか付けていく事が多い中、国が正式に称号として個人に与えられる異名がいくつかある。
その中のひとつが『剣神』だ。
それはいくつかの条件があるが、簡単に言ってしまえば剣士で最も強い者に与えられる称号であると言ってもいいだろう。
最も、ラルフはその異名にこれといって思い入れがある訳でも、最強に固執している訳でもない。
「斬り合い、楽しもうじゃねえか!」
「ハッ!バカか!『身体強化』のない剣士に何が出来るンだ!」
ラルフは単に強さを追い求めているだけだ。
その結果として異名がついてきたに過ぎない。
そして、ラルフにとって『剣神』とは剣士として競い合える相手がいなくなった事を示すものでしかなかった。
「バカはお前だろうが!『身体強化』が出来るから剣士なんじゃない!剣を使えるから剣士なんだよ!!」
だが、今はスキルによるものではあるものの、確かに1人の剣士として久しぶりに「戦い」をしている。
とは言え、誰が見ても窮地でしかない状況。
ましてや自分がやられてしまえば恐らくゲインに対抗出来る戦力は今ここにいない。
ーーしかしそれでも、ラルフにとって喜ぶべき事でしかなかった。
それは天から堕ちた雷が再び天に還るかのように下から上へと撃ち抜かれた。
「ぐああぁぁっ!!」
予想すらしておらず、必死に盾を踏ん張る事しか出来ないエリオットにそれを防ぐ事など出来るはずもなく、エリオットは絶叫とともに雷に呑み込まれた。
「全く、疲れるったらありゃしない。私は少し休むよ」
その最期を見届ける事なくベルは踵を返してロイド達の方へ歩き出す。
その歩みが半ばほど進められた時、雷の華は空気に溶けるかのように紫電の残滓を残しつつ散った。
紫の燐光の中、そこに残ったのはボロボロになり所々黒焦げになった盾。
それだけだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 時は少し遡り、万雷が降り注ぎ始めた頃。
「おらぁっ!」
「ふん!」
離れた場所で鳴り渡る雷鳴にも負けないような轟音を立てて、もう何合目か分からない剣を撃ち合い、いまだ戦況は拮抗していた。
「弱くなったな剣神!あんな町でぬくぬくやってりゃそうなるわなァ!」
「声がでけぇよ木偶の坊!せめて一撃入れて言えよ!」
互いに剣を弾いて距離をとる。
ともに剛剣のぶつかり合いで、剣は細かい刃毀れが出来ていた。
長年の相棒の剣の刃毀れに舌打ちをするラルフ。
対照的に、ゲインは余裕を見せつけるかのように嗤い、言葉を放ちながら駆け出す。
「じゃァそろそろ本気でいくとするかァ!」
「あぁ?本気じゃなかったって言いたいのか?」
 巨躯に似合わぬ疾風のような速度で迫るゲインに、ラルフは慌てる事なく剣を受け止めてみせた。
鍔迫り合いになり、互いに剣を押し合いつつ会話を続ける。
「あァ、そうだよ!」
「変わったようには思えねえけどな………っ!?」
鍔迫り合いをしている力もさほど先程までと変わらない。――そう思った瞬間、不意に体から力が抜ける感覚を覚える。
「ハッ!本当かァ?!」
「ぐぅっ!」
鍔迫り合いの均衡が崩れ、一気に押し込まれる。
ラルフは膝をつき必死に力を入れようとするが、どんどんゲインの刃は自らに迫る一方だ。
「どうしたァ?!何も変わってねぇんじゃなかったのかァ!?」
「ちっ、ったくなんだってんだ!」
「あン?」
ラルフは剣を巧みに操り、ゲインの剣をいなすようにして受け流す。
押し込まれていた剣はラルフの横に叩きつけられ、重圧から解放されたラルフは急いで距離をとった。
「ハッ!剣神ともあろうもんが逃げてんじゃねェよ!」
「………」
余裕なのか挑発なのか、ゲインは追撃せず地面に叩きつけられた剣を肩に担ぎ直して言う。
だがラルフは挑発には乗らず自らに起きた事を確認する。
すると、すぐに理由に気付いた。
「俺の『身体強化』を”分解”したのか」
「気付くのが遅ェよ」
いつの間にか『身体強化』が解けていた。
あまりに基本的な魔法であり、呼吸をするように発動していた為気付くのが遅れた、というのは言い訳になるだろうが。
『身体強化』も魔力を伴った魔法である事には違いない。
それをスキルの”魔力分解”で強制的に解除したのだ。
気付いたラルフに尚も挑発するゲイン。だがラルフは挑発にこそ乗らないまでも舌打ちしたい気持ちである。
(こっからは身体強化なしか…いけるか?)
そう、スキルにより発動される”魔力分解”は恐らく接触により作用される。
しかし、基本的には剣技のみで闘うラルフはその作用から逃れる事は出来ない。
遠距離での斬撃が出来ない訳ではないが、それも魔力ありきなので恐らく分解されて終わりだろう。
「諦めな剣神!俺の前じゃどんな魔法師も剣士もただの人にしかならねぇんだよ!」
降り注ぐ雷を背に写しながらゲインは吼えた。
ラルフは雷鳴を切り裂くような声を聞き、腹立たしいがその通りだと胸中で頷く。
魔法師の魔法も、剣士を剣士たらしめる身体強化も全て分解してしまうゲイン。
つまり、身体ひとつで勝たなくてはならない。
「昔はこんな真似出来なかっただろ。面倒なもん覚えやがって」
「俺がいつまでも弱点をそのままにしとくとでも?てめェみたいにぬくぬくと過ごして弱くなった奴に負ける訳がねェよ」
これは挑発ではなく、努力したという自負による発言だった。
それが分かったラルフは、無意識の内に表情が歪む。
それに気付いたのはやはりゲインだ。
「……てめェ、何笑ってんだ?」
「ん?あ、本当だ。悪いな、別に変な意味はない」
表情を指摘されて左手で口元に触れるラルフ。
抑えようとしてみたが、どうにも込み上げてくる気持ちは抑えられないようだ。
結局諦めたのか、剣の柄へと戻した左手の下にあったのは変わらず笑みを浮かべたままだ。
「ただ、久しぶりにまともに戦えて楽しいってだけだ」
心底嬉しそうに言うラルフ。
歓喜と獰猛さを混ぜたような笑みに、ゲインは怪訝そうな表情を浮かべた。
力を削がれて何が可笑しいのか。
ゲインには分からず、強がりかとも考えたが明らかにそのような類の笑みには見えない。
ーー剣神。
噂や人々やギルドなどが異名をいつの間にか付けていく事が多い中、国が正式に称号として個人に与えられる異名がいくつかある。
その中のひとつが『剣神』だ。
それはいくつかの条件があるが、簡単に言ってしまえば剣士で最も強い者に与えられる称号であると言ってもいいだろう。
最も、ラルフはその異名にこれといって思い入れがある訳でも、最強に固執している訳でもない。
「斬り合い、楽しもうじゃねえか!」
「ハッ!バカか!『身体強化』のない剣士に何が出来るンだ!」
ラルフは単に強さを追い求めているだけだ。
その結果として異名がついてきたに過ぎない。
そして、ラルフにとって『剣神』とは剣士として競い合える相手がいなくなった事を示すものでしかなかった。
「バカはお前だろうが!『身体強化』が出来るから剣士なんじゃない!剣を使えるから剣士なんだよ!!」
だが、今はスキルによるものではあるものの、確かに1人の剣士として久しぶりに「戦い」をしている。
とは言え、誰が見ても窮地でしかない状況。
ましてや自分がやられてしまえば恐らくゲインに対抗出来る戦力は今ここにいない。
ーーしかしそれでも、ラルフにとって喜ぶべき事でしかなかった。
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