魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
41 罠を解除した意味よ
ベルに不名誉な仇名がつけられてから少し経ち、ドラグとラピスが戻ってきた。
ゲインの居場所の確認とその道中の罠がないかの偵察を行なっていたらしい。
「罠は解除しておいた」
淡々と仕事の結果を話すドラグ。その横には満身創痍な様子のラピス。
だが、ロイド達に気付くとぱぁっと笑顔を見せて駆け出した。
「ロイドくん!」
「うぉっ」
 その勢いのままロイドに抱きつく。ロイドは少し体制を崩すも、なんとか受け止めた。
「良かったよぉ…」
「あー…うん、心配かけました」
少し気恥ずかしそうにしつつもそう返すロイド。
だが、嗚咽混じりに抱きついたまま一向に離れようとしないラピス。
段々と対応に困ってきたロイドはアイコンタクトでエミリーに助けを求める。
しかし返ってきたアイコンタクトは「心配かけたあんたが悪い」という旨のもの。姉に見捨てられたロイドは思わず天を仰ぐ。
「こらそこ、目だけで会話しない。お嬢もそろそろ離してやれ。ウブなロイドちゃんじゃそろそろ限界なんだとさ」
「うるせー」
助けに入ったラルフだが、余計な一言に思わず敬語を忘れて返すロイド。
しかし微かに頬が赤くなっている為どうにも微笑ましいものにしか見えない。
ようやくゆっくりと離れたラピスにほっとするロイド。
前世からの記憶を考えればありえない感情のはずだが、やはり体に精神年齢が引っ張られているようだ。
 
自覚は薄いもののその傾向はあった。と言うより、年々肉体年齢にひっぱれている気さえする。
そのギャップに自分自身なんとも言えない気分になるが、しかし対策も思い付かないので慣れるしかない。
そんな事を考えていると、ドラグがベルを起こしていた。
もとより熟睡している訳ではなかったのか、すぐに立ち上がり、寝惚けた様子もない。
「迎えも出来ずすまないねぇロイドくん。ちょっと魔力が足りなくなってきちゃっててねぇ」
「いえいえ。こちらこそご迷惑をおかけしてしまいすみません」
「エミリーちゃんも無事で良かったよ」
「当然です!」
   近寄ってすぐロイドに話しかけるベルに、ロイドも深々と頭を下げる。
何言ってんだい、と軽く笑ってみせるベルに、ロイドも笑ってお礼を言った。
エミリーも少し得意げに返す。それをベルは微笑ましそうに見ていた。
「さて、んじゃそろそろ行こうか。全員揃ったことだし、状況をまとめとくか」
「簡単に言えば、ロイドくんを攫った盗賊ゲインの一団を潰す」
「ゲインは王国からも賞金をかけられるくらいの盗賊でねぇ。各地で被害もあったけどアジトが掴めなくて今までのさばってのよ」
「実力も本物でな。地方の騎士どころか王都の騎士団でさえ返り討ちにされた事もある」
   ラルフ、ドラグ、ベルと言葉を引き継ぎ、最後にラルフに戻って説明する。
「ちなみにアトスもそこそこ有名だぞ。お前ら大金星だな」
「まぁ油断してたし、そこで一気に戦力を削げたから。後半ちょっと危なかったけど、どうにか押し切れた感じっすね」
「そうね。正直最初から本気で来られたら正直勝てなかったわね」
ロイドとエミリーは左半身を焼かれ満身創痍のはずのアトスが見せた本気を思い出し、背筋が冷える。
戦力を半減以下にしてあれだ、全快の時など考えたくもない。
「あとはあいつの武器にロイドの相性が良かったのもあるわね」
「アトスの武器って確か”魔法斬り”だったか?対抗策も少ないし、だからこそやつの名も売れたんだが」
「魔術は対象外だったみたいです」
ロイドは魔術具の短剣の柄を手で軽く叩きながら言う。
「うぇ?魔術?」
「あれ、言ってなかったでしたっけ?」
目を剥くラルフにロイドは軽く言う。そう言えば言ってなかったっけ?と頬をかきながら内心呟く。
「古代の技法か…確かに魔術なら”魔法斬り”も正面突破出来るのかも知れないな」
「よしロイドくん、ゲインの戦いでも頼むね」
納得したように呟くラルフに続き、ドラグが言う。
え?と思わず聞き返すロイドに、ドラグは言葉を続ける。
「ゲインのスキルは魔力分解。魔法も魔力から成り立つものだから壊されちゃうんだよ。しかも今地下でエリオットと特大の魔法陣に魔力を注いで準備してるから、それを防ぐのに魔力も削られるだろうし」
「厄介なスキルですね……ってはぁ?」
「はぁ!?ドラグお前今なんつった!?」
「ドラグのスキルは魔力分解。魔法も魔力から成りーー」
「その後だよ!こんな悠長に話してる場合じゃないじゃねぇか!早く言えよ!」
「言おうとはしたさ。文句ならラピスに言ってくれ」
思わぬ流れ弾に黙って聞いていたラピスが言い返そうと顔を上げ……抱きついた事を思い出してか赤面して顔を伏せた。
ほら、と言いたげなドヤ顔のドラグ。
「いや普通にお前が悪いだろーが。その後すぐに言えば良かっただろーに。……はぁ、まぁいいか。どの道やる事は変わらん」
「そうだねぇ。ここを潰して早く帰ろうかね」
「そうだな。とは言え早い方がいい。さっさと行くとしようか」
「お前が言うな!」
良い歳してわいわい言い合いながらアジトへと進む年長者組。ロイド達は呆れた表情を浮かべながら後に続いた。 そしてアジトの扉の前に立ったドラグがそこで立ち止まる。
ん?入らないの?みたいな感じで見てくる全員の視線を受け、ドラグは口を開いた。
「よし、んじゃとりあえずアジトの地下を剥き出しにしよう」
「いやドラグさん、そんな事出来る訳がーー」
「いいけど面倒じゃないかい?」
「――出来るんかーい」
乾いた口調で1人ツッコむロイドに構わず、ドラグは説明を続ける。
スルーされたロイドの肩をぽんとエミリーが優しく叩いた。
「さっきの魔法陣、多分火魔法の類だ。攻撃自体を防いでも酸欠になればどうしようもない」
「なるほどねぇ。まぁそうゆう事なら仕方ないねぇ。どいてな」
「待った。ベルは魔力を温存しておかないと魔法を防ぐのに困る。ここはーーラピスに頼むつもりだ」
「え?」
「ラピス?」
思わず指名に疑問符を浮かべるロイドとエミリー。
当のラピスも大きな目をより大きくして驚きを露わにしている。
「そう。ラピスのスキルによる適正魔法…破壊魔法。それでアジトと地下への空間を破壊してもらう」
「破壊――」
「――魔法?」
無駄に息の合う姉弟がオウムのように繰り返す。
その横で、ラピスはじっと俯いたまま黙っていた。
ゲインの居場所の確認とその道中の罠がないかの偵察を行なっていたらしい。
「罠は解除しておいた」
淡々と仕事の結果を話すドラグ。その横には満身創痍な様子のラピス。
だが、ロイド達に気付くとぱぁっと笑顔を見せて駆け出した。
「ロイドくん!」
「うぉっ」
 その勢いのままロイドに抱きつく。ロイドは少し体制を崩すも、なんとか受け止めた。
「良かったよぉ…」
「あー…うん、心配かけました」
少し気恥ずかしそうにしつつもそう返すロイド。
だが、嗚咽混じりに抱きついたまま一向に離れようとしないラピス。
段々と対応に困ってきたロイドはアイコンタクトでエミリーに助けを求める。
しかし返ってきたアイコンタクトは「心配かけたあんたが悪い」という旨のもの。姉に見捨てられたロイドは思わず天を仰ぐ。
「こらそこ、目だけで会話しない。お嬢もそろそろ離してやれ。ウブなロイドちゃんじゃそろそろ限界なんだとさ」
「うるせー」
助けに入ったラルフだが、余計な一言に思わず敬語を忘れて返すロイド。
しかし微かに頬が赤くなっている為どうにも微笑ましいものにしか見えない。
ようやくゆっくりと離れたラピスにほっとするロイド。
前世からの記憶を考えればありえない感情のはずだが、やはり体に精神年齢が引っ張られているようだ。
 
自覚は薄いもののその傾向はあった。と言うより、年々肉体年齢にひっぱれている気さえする。
そのギャップに自分自身なんとも言えない気分になるが、しかし対策も思い付かないので慣れるしかない。
そんな事を考えていると、ドラグがベルを起こしていた。
もとより熟睡している訳ではなかったのか、すぐに立ち上がり、寝惚けた様子もない。
「迎えも出来ずすまないねぇロイドくん。ちょっと魔力が足りなくなってきちゃっててねぇ」
「いえいえ。こちらこそご迷惑をおかけしてしまいすみません」
「エミリーちゃんも無事で良かったよ」
「当然です!」
   近寄ってすぐロイドに話しかけるベルに、ロイドも深々と頭を下げる。
何言ってんだい、と軽く笑ってみせるベルに、ロイドも笑ってお礼を言った。
エミリーも少し得意げに返す。それをベルは微笑ましそうに見ていた。
「さて、んじゃそろそろ行こうか。全員揃ったことだし、状況をまとめとくか」
「簡単に言えば、ロイドくんを攫った盗賊ゲインの一団を潰す」
「ゲインは王国からも賞金をかけられるくらいの盗賊でねぇ。各地で被害もあったけどアジトが掴めなくて今までのさばってのよ」
「実力も本物でな。地方の騎士どころか王都の騎士団でさえ返り討ちにされた事もある」
   ラルフ、ドラグ、ベルと言葉を引き継ぎ、最後にラルフに戻って説明する。
「ちなみにアトスもそこそこ有名だぞ。お前ら大金星だな」
「まぁ油断してたし、そこで一気に戦力を削げたから。後半ちょっと危なかったけど、どうにか押し切れた感じっすね」
「そうね。正直最初から本気で来られたら正直勝てなかったわね」
ロイドとエミリーは左半身を焼かれ満身創痍のはずのアトスが見せた本気を思い出し、背筋が冷える。
戦力を半減以下にしてあれだ、全快の時など考えたくもない。
「あとはあいつの武器にロイドの相性が良かったのもあるわね」
「アトスの武器って確か”魔法斬り”だったか?対抗策も少ないし、だからこそやつの名も売れたんだが」
「魔術は対象外だったみたいです」
ロイドは魔術具の短剣の柄を手で軽く叩きながら言う。
「うぇ?魔術?」
「あれ、言ってなかったでしたっけ?」
目を剥くラルフにロイドは軽く言う。そう言えば言ってなかったっけ?と頬をかきながら内心呟く。
「古代の技法か…確かに魔術なら”魔法斬り”も正面突破出来るのかも知れないな」
「よしロイドくん、ゲインの戦いでも頼むね」
納得したように呟くラルフに続き、ドラグが言う。
え?と思わず聞き返すロイドに、ドラグは言葉を続ける。
「ゲインのスキルは魔力分解。魔法も魔力から成り立つものだから壊されちゃうんだよ。しかも今地下でエリオットと特大の魔法陣に魔力を注いで準備してるから、それを防ぐのに魔力も削られるだろうし」
「厄介なスキルですね……ってはぁ?」
「はぁ!?ドラグお前今なんつった!?」
「ドラグのスキルは魔力分解。魔法も魔力から成りーー」
「その後だよ!こんな悠長に話してる場合じゃないじゃねぇか!早く言えよ!」
「言おうとはしたさ。文句ならラピスに言ってくれ」
思わぬ流れ弾に黙って聞いていたラピスが言い返そうと顔を上げ……抱きついた事を思い出してか赤面して顔を伏せた。
ほら、と言いたげなドヤ顔のドラグ。
「いや普通にお前が悪いだろーが。その後すぐに言えば良かっただろーに。……はぁ、まぁいいか。どの道やる事は変わらん」
「そうだねぇ。ここを潰して早く帰ろうかね」
「そうだな。とは言え早い方がいい。さっさと行くとしようか」
「お前が言うな!」
良い歳してわいわい言い合いながらアジトへと進む年長者組。ロイド達は呆れた表情を浮かべながら後に続いた。 そしてアジトの扉の前に立ったドラグがそこで立ち止まる。
ん?入らないの?みたいな感じで見てくる全員の視線を受け、ドラグは口を開いた。
「よし、んじゃとりあえずアジトの地下を剥き出しにしよう」
「いやドラグさん、そんな事出来る訳がーー」
「いいけど面倒じゃないかい?」
「――出来るんかーい」
乾いた口調で1人ツッコむロイドに構わず、ドラグは説明を続ける。
スルーされたロイドの肩をぽんとエミリーが優しく叩いた。
「さっきの魔法陣、多分火魔法の類だ。攻撃自体を防いでも酸欠になればどうしようもない」
「なるほどねぇ。まぁそうゆう事なら仕方ないねぇ。どいてな」
「待った。ベルは魔力を温存しておかないと魔法を防ぐのに困る。ここはーーラピスに頼むつもりだ」
「え?」
「ラピス?」
思わず指名に疑問符を浮かべるロイドとエミリー。
当のラピスも大きな目をより大きくして驚きを露わにしている。
「そう。ラピスのスキルによる適正魔法…破壊魔法。それでアジトと地下への空間を破壊してもらう」
「破壊――」
「――魔法?」
無駄に息の合う姉弟がオウムのように繰り返す。
その横で、ラピスはじっと俯いたまま黙っていた。
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