魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

9 お勉強

 朝食を終えたロイド達は、書庫にある机に座っていた。それぞれ本やノートを広げ、勉強している。

「お母さん、できた!」
「あら、早くなってきたわね。でもこことここが間違えてるわ。ここはね…」

 エミリーはシルビア作の算数の問題を解いていた。解説をしてもらいながらふむふむと分かったように頷くエミリー。
 しかしロイドの耳に聞こえてくる解説は昨日も一昨日も聞いたものであり、本当に理解しているのか怪しいところだ。

「分かったわ!ありがとうお母さん!」
「ふふ、いいえ、頑張ってね」

 シルビアは言い方や伝え方は変えてはいるものの、何回目かの解説をしても、嫌な顔も怒ったりもせず笑って励ます。
 口数の少なく言葉も多く飾らない父ルーガスとは反対に、シルビアは優しく励ましたり言葉を尽くして勉強をみていた。

 ロイドは飴と鞭という言葉を頭の隅に浮かべつつ、読んでいる本に意識を向ける。
 本は地理や歴史といった日本でいう社会の教科書に近い内容だった。

 この大陸シーズニアにはいくつかの国が存在する。

 まずはロイド達のいるこの国、エイルリア王国。
 ほぼ大陸の中心にあり、人工や面積ともに最大の国である。

 ひし形のような形をしたシーズニア大陸の中央から右にかけてを領地としている。
 豊かな自然によってもたらされる資源を持ち、人も多く集まる為技術力も高いが、他国より何より大きく抜き出ているのは魔法の技術力だろう。

 過去に幾度となくあった争いを制してこれたのはエイルリアの魔法技術によるものと言える。 

(まぁ俺にはその魔法は使えそうもないんだけど。元が地球人だから使えないんかねぇ)

 肉体年齢に寄ったのか、子供として振る舞い、また扱われる事が原因なのか精神年齢は幼くなったと自覚しているロイドだが、それでも普通の子供より達観していた。
 もともと魔法が使えない生活を20年以上していたからか、はたまた本人の性格故かは分からないが、「どうにかなるだろう」「仕方ない」と考えていた。

(まぁせっかくだしどうにか使いたいけどね)
 脳内でぼやきつつ、ページをめくる。 
 次は大陸の左から下にかかる形で領地を持つ帝国ディンバー。
 100年程前にはエイルリアとも戦争があり、今は国交もあるが隙あらば戦争を仕掛けるつもりだという噂は絶えない。
 
 武術の盛んな国であり、血の気の多い気質の国民が多い国であると言われている。 鉱山が多くあり、エイルリアでは供給が追いつかなくなりつつある鉱物を輸入している主な国でもある。
 
「母さん、ディンバーはまた戦争をするつもりなのかな?」
「ん?そうねぇ、戦争で減った国力もだいぶ回復してきたし、残念だけどその可能性はあるわね」

 子供に対する回答にしては刺激が強い内容を口にするシルビア。
 まだ小さい子供にはそんなことない、など濁した返事をする親が大半を占める事だろう。

 だがシルビアは情報を的確に伝える事が大事だと考えていた。 ウィンディア家の子息として、情報をきちんと受け止める力を持って欲しいという願いもあるのかも知れない。

「大丈夫よお母さん!ロイド!帝国なんて私が追い返してやるんだから!」
「ふふっ、エミリーは頼もしいわね。でもそれはもっと強くなってからね」
「うんっ!」

 元気いっぱいに会話に割り込むエミリーの頭を優しく撫でるシルビア。
 完全に勉強の手が止まっているのを苦笑混じりに見ながらロイドはページをめくる。
 今度は自由国家セプテンだ。
 大陸の下部分に位置する国で、王がいない国だ。
 多くの獣人が住む国でもあり、獣人の代表や人族の代表などが中心となって国営を行っている。

 軍隊などのまとまった武装集団はなく、各部族などの戦士といったバラバラの武力しかない為、真っ向から戦っても他国と渡り合うのは厳しい国力と言える。
 だが、エイルリアやディンバーを区切るように大河ノーベムと呼ばれる大きな河があり、それが天然の要塞となっていた。 

 また、積極的に攻めず大河を利用して追い返すに留めている事もあり、これまで国を守ってきた背景がある。
 
(獣人か。せっかくだし見てみたいな)
 エイルリアにも獣人はいなくはないが、かなり少ないと言える。 昔起きた戦争には獣人との闘いもあった。
 その戦争に勝利した当時のエイルリアは彼らを奴隷として非道な扱いをした事もあり、奴隷が禁止された現在でも禍根が少なからず残っている事も原因だろう。
 そして本には載っていないがシーズニアの四大国と呼ばれる最後の国が魔国ジャヌリアだ。
 ひし形の大陸の上部分に位置しており、エイルリアとディンバーと接する形で存在しているが、間には山脈フェブルと呼ばれる巨大な山脈があり、国交はおろか行き来もかなり困難となっている。
 
 ちなみに、ウィンディア領に面している山脈がこのフェブル山脈だ。
 歴史に残る数ある戦争の中でも最も有名であり規模も大きなものが魔国ジャヌリアとエイルリア、ディンバー同盟によるものだ。 もっとも、同盟といっても当時はエイルリアとディンバーは1つの国であったのだが。
 魔国の国民はほぼ魔族で構成されており、高い身体能力や魔力を有している。
 寿命も人族より長く、それ故か繁殖能力は高くない為人口は人族に及ばない。

 だがまさに少数精鋭と呼ぶに相応しい戦力は、戦争で負けはしたものの人族に大きな傷跡を残していた。

「母さん、魔国の資料ってすごく少ないけど、やっぱり戦争があったから?」
「うーん、それもあるんだけど、かなり長い間国交がないから、そもそもの情報が少ないのよね」

 また、フェブルという大山脈を行き来する事自体、命の危険がある。
 強力な魔物が多数存在する為だ。

 それ故に魔国そのものが謎の多いものとされている。

「あとこれは都市伝説みたいなものなんだけど。エイルリア初代国王と当代魔王によってフェブルは作られた、なんて話もあったわね」

「魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く