魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる

みどりぃ

6 また遊びに来るわー

「……寂しいってのは?」
「えっと、ずっとこの空間にいるとやっぱり寂しくてですね。世界の様子を見て気持ちを紛らわせてたと言いますか……ご、ごめんなさい……」

 涼の言葉にアリアははっとしたような表情を見せ、最後に小さく謝罪を添えるアリア。
 それを聞いた涼は、アリアに目も向けず目を瞠って周りを見回した。

「………」

 見渡す限り広がるのは距離感が掴めない程の真っ白な空間。
 染みひとつない純白の空間は見る人によれば神聖なものに見える事だろう。
 
 だが、涼にはここがまるで”牢”のように感じられた。
 ただただ何も無い”無の空間”であると。少なくとも涼はここに住んだら正気を保てる自信はない。

「……そっか。まぁとりあえず転生させてくれ。死ぬのも嫌だし、魔法とか使ってみたいしな」
「あっ、はい、分かりました。えっと、その前に簡単ですが説明しますね。これから行く世界についてですが……」
 アリアの説明によると、機械文明より魔力による文明が進んだ世界だという。
 
 大陸シーズニアが最大の大陸で、人口や文明などはほぼそこに集中している。
 といっても大きすぎる大陸の為、未開の地などはまだあるのだとか。
 
 また、住む人間も人族、獣人族、魔族などが住み、時代ごとに仲良くする事もあれば争う事もあるそうだ。
 ちなみに、現在は人族と魔族は表立って争ってはいないものの、水面下では争いは絶えない状況だという。
 
 涼は勿論戦争といったものは無縁であり、勘弁してくれと嘆く他ない。
 やはり危険が多い世界なのだと実感する。

「あとは、魔物という脅威が絶えない世界である為、戦闘能力が高い人類が多く存在してます。魔法や魔術もその一端と言えますね」

 それぞれ種族の特性があり、人族はスキルと呼称される技能を有している。
 とは言えスキルを所持する者は千人に1人程度ではあるが。
 
 生まれた際に所持する先天性のものだが、特殊な要因によって後天的に所持に至る事もあるとの事だ。
 種類は千差万別であり、使い道の分からない微妙なものから、中には因果関係さえ無視したようなとんでもない効果を持つものもあるという。

 ちなみに涼は魂の記憶が人族に近い為、恐らく人族に転生するだろうと推察された。
「てか魔法と魔術は違うんか?」
「はい、魔法と魔術は効果は酷似してますが、全く違う技術です」

 涼が興味を持った魔法や魔術だが、人族や魔族が主に使用している。
 もっとも、魔術はとある理由により歴史から消え去り、一部を除いて過去の技術とされ、現在は魔法が主流であるようだ。

 魔術の方が扱いが難しいが、汎用性がある。
 しかし長い間使われなかった事から適正を持った者も居なくなり、古代技術として扱われている。
 余談だが、この空間や転生についても土台としては魔術の要素が含まれているらしい。

 魔法は扱い易く威力も比較的容易に捻出出来るが、特定の効果しかないという。
 また、魔法は原則5種類に分類される。火、水、風、土の四大元素と、身体魔法だ。

 あとは、先に述べた三大種族と呼ばれる種族以外にもいくつかの少数種族がいる事の説明を受けた。

「ありがと。なんとなくイメージは掴めた」
「いえいえ。理解が早いですね」

 涼としてはどこがで聞いたような話だったからだが、アリアはそのようなサブカルチャーまでは知らないのか驚いていた。
 そこでふと定番のパターンを思い出し、聞いてみる。

「そう言えば、なんか女神さんから恩恵みたいなのはもらえたりするんですかね?」
「だから女神じゃありませんって!……恩恵ですか。難しいでしょうね……私もこのような事態は始めてですのでやってみないと分かりませんが、やれる限りは尽くしてみますが期待しない方が良いかも知れませんね」
(そう言えば勝手に先入観で女神と思い込んでたけど、口喧嘩みたいな事した時にも違うって言ってたな……まぁもう女神でいいや)

 アリアが何者かはもう今更な気がして追求しなかった。
 涼の中では女神以外の何者でもなかったという事もある。
 
「そっか……まぁ期待せず頑張ってみるわ。そしたらそろそろお暇しましょーかね」
「分かりました。では転生を始めますね」
「よろしく頼んます」
 
 大枠の事は聞けたし、あとは現地で色々見聞きしようと涼は切り出した。
 危険とは分かっていても楽しみな部分がないとは言えない涼としては、あまり聞き過ぎてしまうのも楽しみが減るように思えてしまうのだ。

 それを聞き受け、アリアが目を閉じて一拍。
 白金の光がアリアから溢れ出す。

 音もなく、されど爆発的に広がる光の中ゆっくりと目を開き、こちらを見据えるアリアは涼の持ちうる言葉では表せないほどの美しさと神々しさがあった。
 まるで吸い込まれるような魅力と存在感に思わず息を呑む。

 そして次の瞬間、視界いっぱいに広がっていた光は一瞬で収縮し、バスケットボールサイズの光の玉になっていた。
 それを片手に乗せるように持つアリアは、神々しい気配を僅かに崩し、頭を下げて見せた。

「では最後に改めてーーこの度は大変申し訳ございませんでした。どうか転生後には良き人生を送られる事をお祈りしております」
「あー、うん、まぁ俺も悪かったんだしもう気にしないでいいよ」

 顔を上げたアリアは少し申し訳なさそうに眉を下げつつも笑顔を浮かべ、光の玉を差し伸べてくる。
 それを受け取ると、そのまま体に溶けるように入っていった。
 
 お?と軽く驚くと同時に、体が光に包まれるように輝きだした。
 すぐに目に見えて輪郭が朧げになり、光に溶けるように消えていく。 

「ありがとうございます…もう今後このような事がないようにも致しますね」
「それはマジでそうしてくれ。……そーだな、まだやらかさないか確認するついでにまた今度遊びに来るわ。次はお茶でも出してくれや」

 消える直前なので届いたか分からないが、最後に見えたアリアの驚いたような表情を見るとどうやら届いたようだ。
 
 そこまで考えて、涼は意識が光に呑まれた。


 光も消え、先程までの事がまるでなかったかのような静寂すぎる空間が戻っていた。
 しばし固まっていたアリアは驚いた表情を崩し、ふふっと笑みをこぼす。

 その表情は可憐なもので、涼が見ていれば間違いなく見惚れていたことだろう。


 
 しかしそれも束の間、アリアの水龍と巻き込む形で涼に行使した転送魔術が再び反応した。
 つまりそれは地球から再び被害者が出たという事であり、アリアは一転泣きそうな表情を浮かべるのであった。

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