魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
3 消失と
釣り糸の先から暴れるように海面から跳ねて見えた姿は4メートルはあるであろう蛇のような姿。
ちらと見えた眼は夜の海に浮かぶような妖しい赤い光をほのかに放ち、極めつけは唸るような咆哮。
どう見ても魚には見えない。
「……先輩、あれなんて名前の魚ですか?私勉強不足で分からないです」
「安心しろ、俺も分からん。最近釣りに来てないとダメだな、知らない魚も増えてるわ」
呆然した感じに呟く愛に、涼は立ち上がりながら返す。
そして、腰を落として竿を構え、いかにも臨戦態勢っ!といった体勢だ。
「いや多分あれ魚じゃないです……吠えてましたし……って、ええ?!あれ釣る気なんですかっ?!無理ですって!!」
「いや釣り人としてここは譲れん!明日は刺身パーティだ!」
目を見開いて驚きを露わにする愛に、涼は笑いながら釣り上げようと力一杯踏んばっている。
しかし、さすがに無理があった。糸は引っ張られてどんどん出て行くし、止めようとしたら切れてしまう。
むしろふつうに切るべきだと、世の釣り人は思うだろう。
もう糸がない、と焦る涼だったが、不意にピタリと糸が止まる。
切れたか?と考えるが引っ張ると重さはあった。
――ふと、体の奥が海に引っ張られる感覚を覚える。
首を傾げる涼だったが、次の瞬間、目の前の光景に目を瞠った。
「せ、先輩!糸が燃えてます!」
「いやいや海で燃えるワケが……まぁそう見えるよな、如月も。しかもなぜか糸が動かんし」
そう、糸が先から光を放ち消えていくのだ。
しかも糸は何かに繋がっているように張ったままだ。
どう考えても異常現象なのだが、涼は不思議そうに糸を引いたりなどしている。
「なんでそんな呑気なんですか!なんかやばくないですかこれ?!」
「だよなぁ…しゃーない、刺身パーティは諦めよう」
どんだけ刺身食べたいんだ、と反射的に思った愛。
涼は悔しそうに釣竿を手放した。
釣竿は海に落ちていきながらも光に呑まれ、着水前に完全に消えてしまう。
 
不可思議な現象に固まる愛に、涼は安物だけど気に入ってたのになー等と呟きながら、釣竿がなくなった事で一区切りだと片付けを始める。
今から出て家に着く頃には日付が変わりそうな時間だし、頃合いだろう。
「如月、お前魚捌けるん?」
「え、いや、捌けないです…ってなんでそんな落ち着いてるんですか…」
「まぁ安い竿だし、そこまで気にしなくてもいいかなって」
「そこじゃないです。…まぁ先輩らしいっちゃそうなんですけど」
頼りにしているこの先輩は、どんな状況でも冷静に判断して決断できると知っていた。
何度も仕事で涼のそれに助けられてきた愛は、しかしさすがにこの現象でも動揺しないのはどうかと思う。
「だったら時間が大丈夫なら俺んちで捌いてやるけど」
「え、あ、いや時間は大丈夫ですけど、それは悪いですよ。だったら先輩が食べてください」
「いや初めての釣りでこんだけ釣ったんだし、折角だしな」
言いつつ片付けを済ませた涼は魚をクーラーボックスに入れて車に載せ、他の道具も積み込み、車を走らせる。
先程の怪奇現象も忘れたかのように振る舞う涼に、だんだんといつもの調子に戻る愛。
なんだかんだで愛も図太い神経をしていた。
「んじゃ捌くか。少し待っとけ」
「はーい!ならクーラーボックスでも洗っておきましょうか?」
「おー助かる、頼むわ」
家へと辿り着き、キッチンで魚をまな板に乗せた涼は、風呂場にクーラーボックスを運んで洗う愛を横目に魚を捌く。
久々でも体が覚えているもんだと内心で呟きながらわ手早く卸していく。
そこに愛が戻ってきた。
「おーこっやって捌くんですね!……なんかちょっとグロいですね…」
「そうか?なんならやってみるか?花嫁修業にもなるかも知れんで?」
からかうようや表情で言う涼に、捌かれている魚を見て少し引いてた愛はうーん、と悶えつつ悩んだ末に、意を決したように涼を見て頷いた。
「そういく事ならやってみます!」
「え、ほんとにするのか」
「立派な嫁になる為には逃げて通るわけにはいきませんから!」
「いや捌けなくても立派な奥さんは沢山いるけど……まぁやりたいならどーぞ」
妙な使命感を燃やす愛に涼は苦笑いを浮かべつつ場所を譲る。
愛は料理自体は出来るのか危なげなく包丁を扱い、アドバイス通りに魚を捌いた。
残りの魚も練習がてら捌く内に、涼と同じくらいには綺麗に捌くようになる。
内心舌を巻く涼。思えば仕事もそうだった。
相変わらず飲み込みが早い。
「うまく出来ました!先輩が良いならこれ少しこのまま食べませんか?」
「別にいいで。しかし、実はお前すごいやつだよな。飲み込み早すぎ」
「いえいえ、先輩が教えるのが上手いんですよ。そう言えばこれで花嫁修業は免許皆伝ですかね!」
「はいはいそーだな、良い嫁になれるよ」
「……えぇっ、あっ、ありがとうございます…」
数拍置いて詰まりつつ返す愛に、涼は褒められ慣れてなさすぎないかと内心ツッコミつつ、次の仕事からは少しは褒めていこうと決める。
 
「あ、あああのっ、先輩!」
「ん?どしたよ?」
そんな上司としてはともかく実際は的外れな事を考えている涼に、愛は意を決したようにこちらを見つつ呼びかける。
涼は顔を向けて話を聞こうとしてーー光に包まれた。
「ってええぇえっ!?ど、どうしたんですかっ?!」
「な…っんだこれ…?」
不意な事に慌てる愛と、さすがに驚愕を露わにする涼。
続いて釣りの際にも感じた体の奥が引っ張られる感覚が再び起こり、更にはそれがどんどん強くなってゆく。
船酔いのような気持ち悪さに眉を寄せつつ、光が大きくなっていく事に気付く。
その光が愛に当たりそうなのを見て反射的に距離をとった。
 
そしてーー
「えっ、せんぱーー」
その後、まるで最初から何もなかったかのように光も涼も消えていた。
 
 
ちらと見えた眼は夜の海に浮かぶような妖しい赤い光をほのかに放ち、極めつけは唸るような咆哮。
どう見ても魚には見えない。
「……先輩、あれなんて名前の魚ですか?私勉強不足で分からないです」
「安心しろ、俺も分からん。最近釣りに来てないとダメだな、知らない魚も増えてるわ」
呆然した感じに呟く愛に、涼は立ち上がりながら返す。
そして、腰を落として竿を構え、いかにも臨戦態勢っ!といった体勢だ。
「いや多分あれ魚じゃないです……吠えてましたし……って、ええ?!あれ釣る気なんですかっ?!無理ですって!!」
「いや釣り人としてここは譲れん!明日は刺身パーティだ!」
目を見開いて驚きを露わにする愛に、涼は笑いながら釣り上げようと力一杯踏んばっている。
しかし、さすがに無理があった。糸は引っ張られてどんどん出て行くし、止めようとしたら切れてしまう。
むしろふつうに切るべきだと、世の釣り人は思うだろう。
もう糸がない、と焦る涼だったが、不意にピタリと糸が止まる。
切れたか?と考えるが引っ張ると重さはあった。
――ふと、体の奥が海に引っ張られる感覚を覚える。
首を傾げる涼だったが、次の瞬間、目の前の光景に目を瞠った。
「せ、先輩!糸が燃えてます!」
「いやいや海で燃えるワケが……まぁそう見えるよな、如月も。しかもなぜか糸が動かんし」
そう、糸が先から光を放ち消えていくのだ。
しかも糸は何かに繋がっているように張ったままだ。
どう考えても異常現象なのだが、涼は不思議そうに糸を引いたりなどしている。
「なんでそんな呑気なんですか!なんかやばくないですかこれ?!」
「だよなぁ…しゃーない、刺身パーティは諦めよう」
どんだけ刺身食べたいんだ、と反射的に思った愛。
涼は悔しそうに釣竿を手放した。
釣竿は海に落ちていきながらも光に呑まれ、着水前に完全に消えてしまう。
 
不可思議な現象に固まる愛に、涼は安物だけど気に入ってたのになー等と呟きながら、釣竿がなくなった事で一区切りだと片付けを始める。
今から出て家に着く頃には日付が変わりそうな時間だし、頃合いだろう。
「如月、お前魚捌けるん?」
「え、いや、捌けないです…ってなんでそんな落ち着いてるんですか…」
「まぁ安い竿だし、そこまで気にしなくてもいいかなって」
「そこじゃないです。…まぁ先輩らしいっちゃそうなんですけど」
頼りにしているこの先輩は、どんな状況でも冷静に判断して決断できると知っていた。
何度も仕事で涼のそれに助けられてきた愛は、しかしさすがにこの現象でも動揺しないのはどうかと思う。
「だったら時間が大丈夫なら俺んちで捌いてやるけど」
「え、あ、いや時間は大丈夫ですけど、それは悪いですよ。だったら先輩が食べてください」
「いや初めての釣りでこんだけ釣ったんだし、折角だしな」
言いつつ片付けを済ませた涼は魚をクーラーボックスに入れて車に載せ、他の道具も積み込み、車を走らせる。
先程の怪奇現象も忘れたかのように振る舞う涼に、だんだんといつもの調子に戻る愛。
なんだかんだで愛も図太い神経をしていた。
「んじゃ捌くか。少し待っとけ」
「はーい!ならクーラーボックスでも洗っておきましょうか?」
「おー助かる、頼むわ」
家へと辿り着き、キッチンで魚をまな板に乗せた涼は、風呂場にクーラーボックスを運んで洗う愛を横目に魚を捌く。
久々でも体が覚えているもんだと内心で呟きながらわ手早く卸していく。
そこに愛が戻ってきた。
「おーこっやって捌くんですね!……なんかちょっとグロいですね…」
「そうか?なんならやってみるか?花嫁修業にもなるかも知れんで?」
からかうようや表情で言う涼に、捌かれている魚を見て少し引いてた愛はうーん、と悶えつつ悩んだ末に、意を決したように涼を見て頷いた。
「そういく事ならやってみます!」
「え、ほんとにするのか」
「立派な嫁になる為には逃げて通るわけにはいきませんから!」
「いや捌けなくても立派な奥さんは沢山いるけど……まぁやりたいならどーぞ」
妙な使命感を燃やす愛に涼は苦笑いを浮かべつつ場所を譲る。
愛は料理自体は出来るのか危なげなく包丁を扱い、アドバイス通りに魚を捌いた。
残りの魚も練習がてら捌く内に、涼と同じくらいには綺麗に捌くようになる。
内心舌を巻く涼。思えば仕事もそうだった。
相変わらず飲み込みが早い。
「うまく出来ました!先輩が良いならこれ少しこのまま食べませんか?」
「別にいいで。しかし、実はお前すごいやつだよな。飲み込み早すぎ」
「いえいえ、先輩が教えるのが上手いんですよ。そう言えばこれで花嫁修業は免許皆伝ですかね!」
「はいはいそーだな、良い嫁になれるよ」
「……えぇっ、あっ、ありがとうございます…」
数拍置いて詰まりつつ返す愛に、涼は褒められ慣れてなさすぎないかと内心ツッコミつつ、次の仕事からは少しは褒めていこうと決める。
 
「あ、あああのっ、先輩!」
「ん?どしたよ?」
そんな上司としてはともかく実際は的外れな事を考えている涼に、愛は意を決したようにこちらを見つつ呼びかける。
涼は顔を向けて話を聞こうとしてーー光に包まれた。
「ってええぇえっ!?ど、どうしたんですかっ?!」
「な…っんだこれ…?」
不意な事に慌てる愛と、さすがに驚愕を露わにする涼。
続いて釣りの際にも感じた体の奥が引っ張られる感覚が再び起こり、更にはそれがどんどん強くなってゆく。
船酔いのような気持ち悪さに眉を寄せつつ、光が大きくなっていく事に気付く。
その光が愛に当たりそうなのを見て反射的に距離をとった。
 
そしてーー
「えっ、せんぱーー」
その後、まるで最初から何もなかったかのように光も涼も消えていた。
 
 
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