禁聖なる復讐の果てに

初歩心

第一章憎しみの過去 生誕(1)

最近、眠りにつくと鮮明で苦渋な長い夢キオクを見る。 


それは、あの日。 


消し去ることができるならしてしまいたい。 


そんな思い出したくもない過去だ。  

ただ奴への憎しみと憎悪だけが増加し、心のうちで今もなお燃えたぎっている。   
 

   -----異界終息数時間前----- 

俺と姉の両親は、聖剣士ソルスの中で一番の力を持ち日本支部の総代を努めて仲間たちをまとめていた。

 大型のドラゴンや陣地を超えた魔神が多い上級魔族をもねじ伏せてしまえるようなトップの実力と膨大な聖力。

それらを聖王に認められ、娘である女神たちと契約を交わした。

そして聖王と姉妹達と共に魔王を討伐する重要な役目を担っていた。 


そんな両親が魔王と戦う中心地へ向かうさなか。 

瓦礫でできた空間に俺と姉は身を潜め今にでも死んでしまいそうに横たわっている友に寄り添っていた。 

むせ返るような嗅いだことがない鉄臭い匂いが充満し鼻をついた。 

これが血の匂いなのだと生まれて初めて知った。

 吐き気をもよおすほどの鮮烈な匂い。 

だが、瀕死の友の前でそれは気にも止まらなかった。 

「おい、しっかりしろって優汰ゆうた!!」 

「僕は······大丈夫だよ  
しゅん······かなさんもそんな顔しないで」  

俺が抑えている優汰ゆうたの右下腹部からは尋常じゃないほどの血がにじみだし地面を赤黒く濡らしていく。

 拳だいほどの穴が彼の体を貫通していた。  

致命傷なのは確実であり息をしているのも不思議なほどであった。

 俺と姉そして優汰は聖剣士ソルス見習いの中でも技量や身のこなし方、宿した聖剣の質。  

それらすべてが大人に引け劣をとらずそれ以上だと周りの人達から有望されるほど認められていた。  

まだ子供だった為、女神と契約するほどの聖力は持っていなかったがそれでも下級魔族くらいなら軽くあしらえるほどの実力を兼ね備えていた。 

なかでも俺は、自身の身に【封じられた聖剣】を宿していたため大人たちひいては女神たちからも一目置かれていたようだ。 

そんな余裕と自信が仇となったのだろう。

 こんな結果を招いたのは俺と姉が生んだ気の緩みが原因である。  

 迂闊だった。

 すれ違いざま。

 トドメを刺さないと危険だという優汰の忠告も聞かずに、先を急ぐあまり下級魔族と侮って虫型の魔族の六本の足節を切落とし、動きを封じただけだった。

  その結果、優汰の背後。 

尻部から飛ばされた巨大な虫針が腹部まで貫通する結果に至たったのだ。     


    『・・・・・・』


 これは、悔やんでも悔やみきれない。  

どうにかして、助けてやりたい。 

幼い頃から共に過ごし鍛錬を積んできたかけがいのない大切な親友を。  

そんな気持ちが確かにあった。  

だが、そのときの俺と姉の力ではどうにもならずその一点を見つめることしかできなかった。 

「今は!!······いかなきゃ······いけないだろう  僕のことはいい······進むんだ瞬!! 」  

口の端から鮮血が溢れる。

優汰は痛みに苦しみ、歪んだ顔をしながらも俺たちを鼓舞するかのように震い絞りそう叫んだ。  

今の俺の表情はいったいどんなになっているのだろう。 

きっととんでもなくしかめっ面で虚ろな瞳になっているに違いない。  

さきほどから顔全体がひきつっているように痙攣を起こしている。  

きっと絶望に満ちているだろう俺の瞳と違って彼の瞳はまだ強く生きる光を失っていないように思えた。 

「――――悪い俺のせいで」  

ただ謝ることしかできない。    

親友すらも救えない。  

ふと血がまとわりついた両手に目線がいった。 

手の平に染み付いたそれを目にして、俺の嘆きはより一層強く込み上げてきた。  

両手を力いっぱいに握り拳を作る。  

悲しみはある、悔しさもある。  

だが、それ以上に途方もない無力さと絶望感が心情に深く突き刺ささり、足から手から力が抜けていく。 

拳が自身の意志とは正反対にだんだんと開いていった。 

「ごめん······ごめんね優汰君  
瞬ちゃん行こう!! 
こんな事、もう終わらせなきゃ」 

そんな俺とは反対に姉は立ち上がった。  

こんな感情下でなんで立ち上がれたのか不思議になって思わず姉の顔をしたから見上げた。 

姉の瞳は確かに震え潤んでいた。

 涙を必死にこらえている。

 悲しみを乗り越え、進もうとする俺にはない強い心意が姉にはあったのだ。  

そして微笑みを見せ頷くと俺の肩にそっと手をあてがった。  

自身の姉が前を向いたのに立ち上がらないわけにはいかない。  

そういい聞かせすくんだ足を手のひらで叩き、なんとか奮い立たせる。

 「――――必ず向かえに来る」 

「······うん待ってる······僕待ってるよ ······瞬······奏さんご加護を」  

そんなかき消えそうな声とは裏腹に弱りながらもまだ心は消えず。  

あいつの瞳は最後まで先を見据えるように真っ直ぐに向いていた。  

それが親友と交わした最後の会話だったのかもしれない。  

瓦礫を抜けたあと、優汰の気持ちを無駄にしない為にも必死に俺と姉は下級魔族と応戦しながらこの異変の中心地へと急いだ。  

そこで聖王と共に両親が殺戮の世界を終焉させるため、必死に魔王と戦っているはずだ。  

力にならない事はわかってた。    

 恐怖と不安が取り巻くなか、ただ両親の傍で終焉を見届けたい。
        
その一心だった。  

 ある程度の敵を姉と協力して退けながら進んでいくと倒壊した建物などで狭くなっていた通路が急に開けた。 

この世のものとは思えないほどの大きな月。  

そんな大きな月から放たれる紫色の光が茶色の地面を怪しげに赤黒色に照らしている。  

広々とした円形の空間が眼前に広がり、遠くで幾度も白と黒の火花が散っていた。

 ようやく中心部に到着する事ができたようだった。

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