ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。(タイトルに一部偽り有り)

ヒィッツカラルド

第587話【デビルサマナー】

「それじゃあ、久々に、あなたがどれほど強くなったか見て上げましょうか」

黒山羊頭を被った少女Aが自信に満ちた口調で言った。

片方の肩に鉈を背負う。

それに引き換えアスランは弱々しい口調で返す。

グラディウスを低い位置に構える。

「見るって、やっぱり戦うのか……」

「当然よ。それ意外に、どう計るのよ?」

「チンチンの大きさとかで……」

「これだから、器とは言え変態の子守りは嫌なのよ!!」

黒山羊頭を被った少女Aが左手の掌を前に付き出した。

その掌内で魔法陣がキラメキだす。

「マジックバズーカ!!」

「ぬおっ!!」

突如の風圧にアスランの身体が吹き飛びそうになる。

以前も使っていた重力方向変更魔法だ。

しかし、身体が後方に吹き飛びそうになるのをアスランは片足を後ろに伸ばして身体を支える。

踏ん張って耐えた。

「この魔法は……」

記憶と違う。

アスランは衝撃波を浴びながら、そう考えていた。

印象が以前と違うのだ。

以前、この魔法を食らった際には、トラックに激突されたかのような衝撃が全身を突き飛ばした感覚だったが、今回は違う。

凄い威力なのは間違いない。

間違い無いのだが、吹き飛ばされるほどの衝撃波でもない。

まるで、突進して来たトラックを、今回は自力で受け止めたかのような衝撃だった。

耐えられるってことだ。

「これは……」

アスランは奥歯を噛み締めながら踏ん張っていた。

そして、Xの字に重ねた腕の隙間から少女Aを睨み付ける。

「やはり、そうだ。間違いない。俺は強くなっている。これなら行けるぞ!」

魔法を放ち終わった少女Aが腕を下げると、感心したような声色で言った。

「マジックバズーカを耐えるなんて、どうやら少しは強くなっているようね。そうでなくては悪魔の器は勤まらないわ」

「ふぅ~~……!」

深呼吸。

アスランは息を吐きながらX字に重ねた両腕を空手家のように脇に切る。

「感心している場合じゃあねえぞ。今回は俺がお前をギタンギタンにしてやるからな!!」

自信がアスランの相貌に燃えていた。

だが、少女Aの自信は威圧と共に揺るがない。

「ちょっと強くなったからって、強気に出るところが子供ね」

「テメーこそ、ちょっと可愛いからって調子こくなよ」

「可愛いのは事実よ」

「とうっ!!」

今度はアスランから攻めた。

グラディウスを背後に大きく振りかぶりながら少女Aに迫る。

そして、剣技のスキルを発動した。

「スマッシュウェポン!!」

横ふりのロングソードが少女Aの放つ威圧感を切り裂きながら黒山羊頭に迫った。

剣の狙いは首だ。

「そぉぉおおおらああ!!」

「甘い!」

横ふりの切っ先が少女Aの首筋にヒットすると思えた刹那、彼女が掌を前に出して魔法を唱えた。

「クラビティーバズーカ!!」

「ぬほっ!!!」

アスランの胸元に伸ばされた少女Aの掌からマジックバズーカを上回る衝撃波が放たれた。

その衝撃にアスランの皮鎧がへこんで身体が後方に飛ばされる。

凄まじい衝撃に肺が瞑れそうだった。

瞬時に体内の空気をすべて吐き出す。

そしてアスランは第九の上をコロコロと転がると場外に転落する。

町中に落ちて行った。

少女Aが余裕な口調で言う。

「マジックバズーカの上位魔法よ」

前に歩いた少女Aは第九の上から転落したアスランを追って第九から飛び降りた。

そして、瓦屋根に着地する。

「ぐ、ぐぞぉ……」

アスランは瓦屋根の上に大の字で倒れていた。

転落だメーシよりも魔法を受けた胸のダメージのほうが大きい。

だが、それでもへこんだ鎧の胸を押さえながら立ち上がる。

「ちくしょう、魔法のランクを上げやがったな……」

口の中に血の味がする。

口の中を切ったのとは違う感じだ。

喉の奥から上がって来た血だ。

体内で出血しているのだろう。

「セルフヒール。よし、これで帳消しだ!」

「これで、分かったわよね。結局は私の魔法は防御不可なのよ」

「ならば、食らわなければいいだけだ!!」

アスランが自分の転落で割れた瓦を蹴り上げた。

数個の破片が少女Aに迫る。

「グラビティープレス!」

重力倍増魔法だ。

蹴り飛ばされた瓦の破片が少女Aの目の前で、垂直落下方向に曲がって下に落ちた。

更に瓦片が落ちただけではない。

少女Aの前方1メートル範囲の屋根が丸々と崩れて抜け落ちる。

屋根に大きな穴が開いた。

瓦片を撃ち落とすために屋根事巻き込んだのだ。

「とうっ!」

そして、少女Aは自分で開けた穴を飛び越えてアスランに迫る。

頭上に振り上げている殺伐とした鉈が太陽の光を反射させていた。

殺気と共に降って来る。

「私が上なのは、魔法だけじゃあないわよ!!」

振り下ろされる鉈の一撃。

アスランはグラディウスを横に構えて鉈を防いだ。

剣が鉈を受け止めると激音を響かせる。

「重いっ!!」

すると強い衝撃にアスランの腰が僅かに沈んだ。

沈んだのは腰だけじゃあない。

踏ん張った衝撃で瓦を割り砕いて踵も沈んだ。

「それっ!!」

更に少女Aの垂直ジャンプからの上段前蹴りがしなやかに放たれた。

高く振り上げた少女Aの踵がアスランの顎先を蹴り上げる。

「ぐはっ!!」

モロに顎を蹴り上げられていた。

蹴られたアスランが空を見る。

だが、空を見る寸前だ。

蹴られる寸前である。

別の物が見えた。

パンツだ。

「じゅ、純白だった……」

アスランは呟きながら転倒すると、ガラガラと転がりながら屋根から落ちる。

アスランは裏路地の路上に落ちる刹那に身体を翻し足から綺麗に着地した。

そして、屋根を見上げながら睨みを利かせる。

そこには少女Aがふてぶてしくアスランを見下ろしながら立っていた。

スカートの中が丸見えだ。

ラッキー。

「畜生……、あんなに怖いのに可愛いんだよな。パンツから目が離せない。いてて……、心臓が……」

「どう、これで少しは分かったかしら、私の実力が!」

「畜生、なんでこの世界にはスマホが無いんだ。スマホが有れば写メを取りまくってメモリーに絵永久保存してやるのによ!!」

少女Aが黒山羊頭の小首を傾げた。

「何をぼやいているの、あなたは?」

「とりあえず、今はこのピンチを凌ぐことが優先か……」

アスランはエンチャント魔法を唱え始めた。

「ジャイアントストレングス、ディフェンスアーマー、フォーカスアイ、カウンターマジック、ファイアーエンチャントウェポン!」

アスランの身体が七色に輝くと、手にあるグラディウスの刀身が燃え上がる。

「これでちょっとはステータスを底上げ出来るだろう……。でも、心許ないな……」

少女Aが二階の屋根から裏路地にフワリと飛び降りて来た。

音もなく着地する。

裏路地の幅は2メートル程だ。

煉瓦作りの二階建ての家に挟まれている。

ここでグラビティーバズーカを唱えられたら上に飛んで躱すしか無いだろう。

しかし、それだけの回避方法では圧倒的に不利だ。

アスランが黒山羊頭を睨み付けた。

魔法を躱すタイミング次第で、次の戦況が大きく変わる。

少女Aが腕を前に上げた。

魔法が来る。

「行くわよ、グラビティーバズー……」

瞬間の割り込み。

「アスラン、伏せろ!!」

「ゴリっ!!」

少女Aの背後にハープーンガンを構えたゴリが飛び出して来た。

「食らえ、黒山羊野郎!!」

ゴリが爆発のハープーンガンを撃ち放つ。

すると銛が少女Aの背中に直撃して爆発に包まれた。

爆風に荒れる裏路地でアスランが口走る。

「殺ったか!?」

当然ながら、殺れてはいない。

爆煙の中から黒山羊のシルエットが浮き上がる。

立っている。

平然と立っている。

「やっぱりだよね~……」

するとアスランの背後の扉が開いた。

建物の中から頭を出したスカル姉さんが手招きしている。

「アスラン、こっちこっち、速く~」

「スカル姉さんっ!?」

アスランは呼ばれるがままに建物に飛び込んだ。

「アスラン、大通りに出るわよ」

「ゴリはどうする!?」

「気にしない」

「気にしてやれよ!!」

アスランとスカル姉さんが大通りに出ると、ゾディアックと魔法使いたちが待っていた。

スカル姉さんが言う。

「あの黒山羊女が出てきたら、一斉に魔法攻撃で袋叩きにするわよ」

アスランが親指を立てながら真顔で返す。

「名案だな!」

アスランたちがしばらく大通りで待機していると、ゴリの剥げ頭を鷲掴みにしながら巨漢を引き摺って、少女Aが建物から出て来る。

どうやらゴリは気絶しているようだ。

ヒクヒクと動いているから死んではいない様子だった。

アスランはちょっぴり安心した。

スカル姉さんが片手を高く上げながら凛々しく指示を出す。

「全員で魔法攻撃準備よ!!」

「おい、ちょっと待てよスカル姉さん。ゴリが!?」

「気にしない!」

「気にしろよ!!」

「魔法攻撃、発射!!」

スカル姉さんの容赦無い指示に魔法使いたちが一斉に攻撃魔法を放った。

ファイアーボール、ライトニングボルト、アイスジャベリン、マジックミサイルと様々だ。

ゴリごと巻き込む。

魔法の爆発に巻き込まれて背後の建物も倒壊しそうなほどに揺れていた。

かなりの破壊力だ。

周囲の空気が激しく乱れる。

「グラビティーバズーカ!!」

次の瞬間、爆炎の中から魔法が飛んで来た。

「うきゃ!!」

その魔法にエスキモーたち数人の魔法使いが巻き込まれて飛ばされた。

建物の壁に叩き付けられる。

たった一撃で半数の魔法使いがダウンして戦闘不能になる。

「がルルルル……」

唸り声だ。

それだけじゃあない。

爆煙の中で赤い光が二つ揺れていた。

黒山羊の瞳が赤く光っているのだ。

しかし、可笑しい。

その二つの光の高さが2メートルほどある。

「な、なんだ……。この魔力は……」

呟きながらゾディアックが後ずさる。

するとやがて爆煙の中から巨漢が揺らぎ出て来た。

2メートルの身長に灰色の肌。

背中には蝙蝠の翼。

鬼のような強面の瞳は赤く輝き、鋭い牙が口からはみ出ていた。

そして、頭には巻き貝のような羊の角が生えている。

悪魔だ。

しかも上位悪魔だ。

「グルルルルっ!!」

ゾディアックが怯えながら言った。

「あれは、グレーターデーモン……」

「正解」

グレーターデーモンの背後から黒山羊頭の少女Aが姿を表す。

「サモンデーモンの魔法よ」

「悪魔召喚か……」

「あなたがた、雑魚の相手は彼らが担当よ」

「「「ガルルルルルルル!!!」」」

少女Aは『彼ら』と述べた。

グレーターデーモンの背後から複数のグレーターデーモンが姿を表す。

その合計は五体だ。

ゾディアックが声を振るわせながら言う。

「五体のグレーターデーモンを同時召喚だと……。そんな馬鹿な。こいつは何者だ……」

魔法使いギルドの幹部であるゾディアックから見ても常識外のようだ。

「さあ、行きなさい、グレーターデーモンたちよ!!」

「ガルルルルルルルっ!!」

グレーターデーモンたちがゾディアックたちに飛び掛かった。


【つづく】

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