ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。(タイトルに一部偽り有り)

ヒィッツカラルド

第546話【敗北の怒り】

なんだ……。

俺は何をしていたんだ……。

うっすらとした記憶の中に何かが映り残っている。

少年……。

短髪の少年が、俺のパンチを躱してから迫って来る。

速い──。

そして、肘……。

その直後に頭が揺れて記憶が途絶えた。

俺は何をしているんだ?

身体が重い……。

ここは……。

壁?

顔に壁が押し付けられている。

なんで壁が?

いや、これは壁なのか?

違うぞ……。

土だ……。

もしかして、地面なのか?

俺は地面に顔を押し付けているのか?

そうだ、俺はKOされたんだ。

今、ダウンしているんだ。

状況が理解でき始めた。

今、俺は、地面に俯せで倒れているんだ。

起き上がらなければ!!

まだ、あの変態少年と喧嘩の最中だ!!

俺は回る頭を押さえながら身体を起こした。

しかし、上半身は起こせたが下半身が動かない。

脚に力が入らないのだ。

まだ尻餅を付いたままでいる。

周りを見たら野次馬たちが俺を囲んでいた。

「おお、目覚めたぞ!」

「良かった~。死んでないよ~」

俺が周囲を見舞わせば、あの変態少年の姿はなかった。

「居ない……。俺は負けたのか……?」

俺の問いに誰も答えなかった。

皆がバツの悪そうな顔で視線を反らしている。

なるほど、俺は負けたんだ。

しかも気絶させられたのか……。

そのことが理解できたころには、心の底からムカムカした溶岩のような物が沸き上がって来ていた。

イラ付きが煮えたぎっていた。

力を込めた拳を地面に叩きつける。

「糞っ!!」

悔しい……。

喧嘩に負けて、こんなに悔しかったことは無い。

今は一撃のジオンググと呼ばれているが、子供のころは年上のガキ大将に喧嘩で負けたこともあった。

人生で喧嘩に関して無敗と言うわけではない。

だから、敗北の悔しさも人並みに心得ている。

だが、この悔しさは異物だ。

悔しさよりも何よりも、納得行かない。

ちゃんと戦っていたら勝てた──。

次に戦えば負けない──。

卑怯な手段さえ封じれば勝てる──。

そう言った感覚じゃあないのだ。

リベンジしたのなら勝てる勝てないじゃあないのだ。

この喧嘩は完敗だ。

何よりも相手の土俵の上で転がされた思いがいっぱいである。

しかも、その土俵は俺の土俵から出ていない。

自分の土俵内に敵の土俵を作られた感じであるのだ。

だから、納得いかないが、次に再戦しても勝てる気が沸かないのである。

このまま再戦しても、またルールを書き換えられるのではないのかと思ってしまう。

だからこそ今のままでは勝てないと分かるのだ。

それが分かるからこそ、悔しいのである。

悔しさがムカ付くのだ。

完敗なのを認めたくないだけなのかも知れない。

まるで子供だ。

子供の我が儘だ。

自分の考えが幼子の我が儘のような気がしてきた。

忘れなくては……。

そろそろ足が動くだろう。

俺は立ち上がるとふらつきながらも人混みから歩み出る。

喧嘩祭りの会場からは歓声が聞こえて来た。

俺は振り返ると空を眺める。

そろそろ決勝戦が終わったのだろう。

誰が優勝したのか……?

グゲルグなのか?

グフザクなのか?

どうでもいいか……。

自分以外が優勝したのだ、関係無い。

俺は町のほうに向かって歩き出した。

それよりも、あの変態少年は来年も喧嘩祭りに出場するだろうか?

そこでリベンジしたい。

今度こそ勝つ。

いや、祭りでリベンジを待たずに、再び路上で喧嘩を吹っ掛けようか?

しかし、俺と喧嘩をしてくれるだろうか?

してくれない可能性が高いかも知れない。

でも、勝ちたいのだ。

何が何でも勝ちたいのだ。

来年の喧嘩祭りまで待てない。

待ちたくない。

すぐ仕掛けるか?

でも実力的に勝てないだろう。

分かっているが悔しいのだ。

戦いたい、勝ちたい、負かしたい。

あんな糞餓鬼に負けてられるか……。

この尻の穴から燃え上がるような業火な怒りが押さえられない。

ジリジリと背骨を導火線のように炎が登って来る。

怒りの炎が俺の傲慢に引火しそうだ。

これは純粋な憤怒なのか……。

怒りが押さえられない。

俺は怒りを燃やしながら町を歩いた。

黙々と歩く俺の身体に祭りを楽しむ能天気な人々がぶつかって行く。

それすら怒りで感じられないほどに俺は怒りに飲まれていた。

何処を歩いているか、何処を目指しているかも分かっていない。

ただ歩いた。

「その怒り、ぶつける先を示してやろうか?」

誰だ!?

今の声は!?

なんだ、急に周囲が暗くなったぞ!?

闇!?

暗黒!?

漆黒が波打っている。

不快な闇である。

ここは何処だ!?

「そんなことは、どうでもいいだろう」

誰だ、貴様は!?

闇の中から男が現れた。

中肉中背、頭が禿げ上がった中年男性だった。

旅商人風に窺える。

平凡な風貌だが、その笑みは怪しい。

誰だ、貴様は!?

「その怒りを沈めるために、力を貸してやろうか?」

力を貸す?

男は片手を差し出した。

その手には紙切れが摘ままれている。

なんだ、それは?

「呪術札です」

呪術札!?

「これを胸に貼れば、再び恨めしい相手との再戦が叶うでしょう。この術は運命を操作する術ですからね」

運命を操る?

「そう、その代わり代償を払って貰います」

金か?

「いやいや、お金は取りませんよ。だが、貴方が払うべき代償が私の願いに繋がります」

それは?

「私の復讐です」

俺の願いを叶えて、自分の復讐を果たすのか?

「そうなりますかな」

分かった、その札をよこせ。

俺の怒りがお前の願いを叶えてやる!!

「いえいえ、願いが叶うのは貴方だけです。私の復讐は叶いません。ただ続くのみですから」

わけが分からん。

いいから札をよこせ!!

「頼みましたよ、ジオンググさん。このギレンの復讐を継続してください」

ギレン?

聞いたことがある名前だ。

しかし、どこで聞いたか思い出せない。

まあ、構わないか……。

それよりも──。

俺は札を受けとると、言われた通りに胸に張り付けた。

なんだ!!

力が沸き上がって来るぞ。

胸の札に怒りや恨みが集まり出した。

その集合体が俺に力を与えてくれる。

腕が、脚が、首が太くなる。

胸の筋肉が膨れ上がった。

大きくなっている。

身体が巨大化しているのか!?

それに連れて怒りが増して、増した分だけ更に強くなっていくようだ。

うぉぉおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

戦いたい!!!!!

あの変態少年を殴り付けたいぞ!!!!!

俺の闘志に燃料が投下された。


【つづく】

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