第339話【サイクロプスとの決着】

「うぉらあああ！！」

武器を投げ放ち素手となったミケランジェロが突進して来た。

両拳を顔の前に揃えて背を丸めながら低い姿勢で突進して来るのだ。

ボクシングのインファイタースタイルか。

小人相手なら、素手ゴロで十分ですか！？

「せいっ！！」

だが、ミケランジェロは俺との直前で、丸めていた背を伸ばして前蹴りを繰り出して来た。

キックは反則じゃねえ！？

ボクシングじゃあないじゃん！？

リーチの長い速い爪先蹴りが俺に迫って来る。

「ちっ、蹴りか！！」

しかし俺は素早く横に回避すると、真横を過ぎた蹴り足に切っ先を振るった。

俺のゴールドロングソードがミケランジェロの脹ら脛を切り付ける。

「りぃあっ！！」

だが、ミケランジェロは怯まない。

傷は浅かったようだ。

続いて俺の脳天目掛けて巨拳を振り下ろして来た。

しかし、その下段瓦割り正拳落としも俺は躱す。

目標を外した巨拳が大地に突き刺さると、その腕を軸にミケランジェロが側転で俺の背後に飛んで行った。

「なにっ！？ 身軽だな！！」

俺の頭上を舞う巨漢。

更に側転からのバク転。

そして、ミケランジェロは地面に突き刺さっていたスレッジハンマーに到達して引き抜いた。

「ちっ……。武器を手に取ったか……」

「うららららあっ！！」

ミケランジェロは休まない。

全身をスピンさせながら前進して来る巨漢が、そのままローキックで俺を攻め立てる。

もう何度も見た蹴り技だ。

俺がバックステップで回避すると眼前を蹴り足が過ぎて行く。

そして、今度はバックスピンから繰り出されるスレッジハンマーの下段打ちコンボ。

それも予想できていた。

ローキックの勢いを殺さずに、スレッジハンマーのバックスピンによる追撃コンボだろ。

もう、読め読めだぜ。

俺は斜めに飛んでスレッジハンマーを躱してから左手に有るゴールドショートソードをミケランジェロの頭部目掛けて投げ付けた。

「ぬっ！？」

ミケランジェロは肘を立てて投擲されたゴールドショートソードを弾き飛ばす。

一瞬だ──。

ほんの一瞬だがミケランジェロの視界を奪えた。

ガードの腕が俺の姿を隠した。

この一瞬を俺は無駄にしなかった。

俺は静かに走りミケランジェロの死界に潜り込んだ。

分かっている。

今までの攻防で悟れている。

サイクロプスであるミケランジェロの視界は狭い。

魔力感知やアイテム鑑定ができる良い目を持っているが、一つ目だから視野が狭いのだ。

一つ目な分だけ人間よりも視界が狭い。

だから簡単に死界へ潜り込めた。

「何処に行った！？」

「後ろだよ！！」

「ぐあっ！？」

俺は再びミケランジェロの右アキレス腱を絶ち切る。

するとミケランジェロの腰が沈む。

俺は眼前で低くなったミケランジェロのお尻の割れ目にゴールドロングソードを突き立てた。

「ギィァアアアァア！！！」

片足のミケランジェロが背筋を伸ばして前に仰け反りながら飛ぶ。

そのお尻には、俺の手を離れたゴールドロングソードが突き刺さったままであった。

「アスラン、貴様！！ カマを掘ったな！！！」

黄金剣が突き刺さったままのお尻を押さえながらミケランジェロが振り返る。

「まだまだ行くぜ！！」

俺は腰からダガーを引き抜くと投擲する。

両手でお尻を押さえているミケランジェロはガードも出来ずに俺が投擲したダガーを股間に受けた。

「痛いっ！！」

「もう一丁！！」

「いたっ！！」

「もう一丁だ！！」

「痛いってば、股間ばかり狙うなよ！！」

「じゃあ、今度は──」

じゃあとばかりに今度は顔面目掛けてダガーを投擲した。

ミケランジェロは、下半身ばかり気にしていてガードが下がりきっていた。

なので俺が投げたダガーは容易く瞳に命中した。

「ぐぁ、目がぁぁああ！！」

「弱点に命中だぜ！」

よろめきながら狼狽えるミケランジェロは、両手で顔面を押さえて震える。

指の隙間から一つ目に刺さった小さなダガーが見えていた。

俺は異次元宝物庫から斬馬刀を引き出すと、槍投げの構えで狙いを定める。

「これで、終わりだぜ！！」

俺はミケランジェロの心臓を目掛けて斬馬刀を投げ付けた。

だが、しかし──。

「ぬらぁ！！」

「えっ！？」

ミケランジェロは、突然ながら体を背から倒すと滑空する斬馬刀を躱しながら前方に足を伸ばして俺を蹴って来た。

ショートレンジのスライディングキックだ。

勝ちを確信していた俺はスライディングキックを躱しきれずモロに食らう。

そして5メートルほど吹っ飛び転がった。

「い、いてー……。油断したわぁ……」

俺がヨロヨロと立ち上がる。

でも、足に来ているな……。

やべぇ……。

下半身が言うことを聞かないわ……。

そこにダガーが瞳に刺さったままのミケランジェロが立ちはだかる。

ミケランジェロはダガーの刺さった瞳で俺を睨み付けながらスレッジハンマーを振りかぶっていた。

「あれれ、見えてるの……？」

「このぐらいなら、まだ見える！」

あー、なるほど……。

身体能力の常識が違うんだ……。

そこんところを計算に入れてなかったわ……。

だから見えていたのね。

ダガーが目に刺さっててもさ……。

「うらぁっ！！」

スレッジハンマーが下段の逆水平に振られた。

横振りのスレッジハンマーが俺の下半身を撥ね飛ばす。

足元を強打された俺の体が、その場でグルンっと激しく回転した。

空中で二回転だ。

二回転半で頭から地面に激突して止まる。

「ぁぁ……あぁ…………」

「これで逆転だな！」

俺は仰向けで寝そべりながら目を回していた。

見なくても分かるわ……。

両足が折れているね。

すげー、痛くて動かないもの……。

上を見上げれば、ミケランジェロが瞳に刺さったダガーを指先で摘まみながら抜いている。

俺は異次元宝物庫からシルバークラウン+2を取り出して頭に被った。

「ほほう、これは大火力なマジックアイテムだな。だが、私には魔法攻撃は効かんぞ。忘れたか？」

「そ、それでも、撃つ！！」

「はぁ～～……」

焼け糞のように言う俺に、ミケランジェロが落胆の溜め息を吐いた。

だが俺は、それでもマジックイレイザーで決めるつもりでいた。

「へへぇ……、効くか効かぬか試させてもらうぜ！！」

「勝手にしろ！」

ミケランジェロがユルユルとスレッジハンマーを振り上げた。

その前方には魔方陣の盾が光っている。

俺のマジックイレイザーを防いだら、止とどめのスレッジハンマーを振り下ろすつもりだろう。

それでも俺はマジックイレイザーを放った。

体をひっくり返して俯せになってから、地面に向かってマジックイレイザーを放出した。

「マジックイレイザー！！」

逆噴射である。

俺が口から放出した魔法のジェット噴射が体を吹き上げ音速で飛ばした。

激突。

「「ふぎゃ！！」」

二人して同じような声を上げる。

お尻から飛んだ俺が弾丸と化して、ミケランジェロの顔面に背中から激突したのだ。

「ほら、効いただろ！！」

そして俺は密かに異次元宝物庫から出して有った宝刀を、自分の脇の下からミケランジェロの顔面に突き立てた。

「ぐうぁああああ！！！」

悲鳴を上げながら固まるミケランジェロの顔面から俺が落ちる。

「げふっ……」

流石に両足が折れた状態で4メートルの高さから落ちるのはキツイぜ……。

「マスターヒール！」

俺は折れた両足にヒールを施した。

片足にマスターヒールを一回ずつ掛けたが完全に回復していない。

どうやらまだ骨に亀裂ぐらい走ってそうだわ。

もしかしたら繋がってもいないかもしれない。

だって立てないもの。

「な、なに、を、した……」

上を見上げれば、顔面に宝刀が刺さったままのミケランジェロが震えていた。

固まって動けないようだ。

「自分でさ、刺さっている短刀を鑑定すりゃあいいじゃんか」

「う、動けない……。魔力、回路も、正常に機能して、いない……。なんだ、これ、は……。すべ、てが停止してし、まったぞ……」

「本当に、あんたが神様の眷族で助かったよ」

【ショートブレード+1。刺さると神族の動きを封じる】

「これで、勝負有りで良いよな？」

「うぬぬぬ……」

「安心しなってば。降参してくれるなら、殺しゃあしねえからさ、ミケランジェロさんよ」

「わ、分かった……。降参しよう……」

「誓う？」

「誓う……」

「本当に？」

「ああ……」

【おめでとうございます。レベル35に成りました！】

よし、レベルアップだ。

どうやらこれで決着らしいな。


【つづく】