ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。(タイトルに一部偽り有り)

ヒィッツカラルド

第310話【インビシブル】

俺はマスターに問う。

「なあ、マスター。お姫様は十数年も幽閉されてたんだろ?」

「ああ、そうだが」

「それが君主様が病気になってから城を抜け出すようになったと?」

「ああ、そうだが」

「城には兵士が居ないのか?」

「邪神に姫様を生け贄に出したころに、解雇されている。城には数人の召使いしか出入りしてないはずだ」

「なるほど」

この田舎町は、ある意味で平和なんだな~。

それで番兵の姿も見えないのか。

さて、ここで大きな疑問があるんだよな。

「それで、お姫様は、城から抜け出して、どこに行くんだ?」

これが大切なことだろう。

何故にお姫様は城を出るのか?

何処に向かっているのか?

これが一番の疑問だ。

「それがはっきりと分からないんだ……」

「分からない……。何故に?」

「なんども町の人間が姫様を付けたりしたんだが、姫様は森に入ると消えるんだ」

「消える? 見失うってことか?」

「いや、言葉の通り消えるんだ。姿がふわっと霧のように消えて無くなるらしい。目撃者は数人居るから間違いないだろうさ」

「ほほう……」

これは面白いな。

消える化け物姫かぁ~。

ちょっと興味が湧いてきたぞ。

あのお姫様がロード・オブ・ザ・ピットと関係あるなら、魔女を攻略するヒントが貰えるかも知れないな。

ちょっと絡んでみるか。

俺はカウンターに小銭を置くと席を立った。

「オレンジジュース、ごちそうさま~」

まだ、間に合うかな?

だいぶトロトロと歩いてたから、まだ間に合うかも知れない。

俺は駆け足で宿屋を飛び出すと、お姫様が歩いて行った方向に走り出した。

「ゲートから外に出たはずだ。確か森に入って消えるとか行ってたよな」

俺は門を飛び出すと、近くの森に向かって足を進める。

すると森に入る寸前の、お姫様の背中を見付けた。

「うし、発見。間に合ったぜ!」

おっと、思わず大きな声が出ちまった。

ここからはコッソリと行こうかな。

こうして俺は黒山羊頭のお姫様を付けて回った。

しかし、しばらく森の中を進むお姫様だったが、消えることはなかった。

でも、どこに向かってるのか分からないな。

あっ、振り返った。

俺をガン見してるわ……。

付けてるのがバレていたか。

どうしようかな……。

うそ、こっち来るよ……。

黒山羊の頭を揺らしながら俺に迫って来るぞ。

ここで普通の住人なら逃げ出すんだろうが、俺は退かない。

何せ相手は丸腰のレディーだ。

いくら黒山羊頭でも女性でしかない。

しかも幽閉されてたお姫様だよ。

普通なら怖くもない存在だ。

何も恐れる必要は無かろう。

「じゅるらるらるらる~~!!」

なんか奇怪に唸ってますわ……。

そして腕を振り上げたぞ。

手の形は、緩やかなグー。

いや、完全に握られてないな。

でも、手が届く間合いじゃあないぞ?

「町の人じゃあないぃぃいい!!!」

うわ、こわ!!

ちゃんと人語がしゃべれるじゃんか!!

でも、正気なしゃべりかたじゃあないね!。

「うがぁぁああああ!!!」

黒山羊頭のお姫様が振り上げた手を振り下ろした。

あれ、この振りかたは……。

俺は咄嗟に体を返した。

左足を軸に体を動かす。

それは剣技を回避する動きだった。

すると俺の顔の側を風圧が過ぎる。

ブゥンと風切り音が聞こえた後に、足下の土が僅かに跳ねた。

剣の空振り!?

「ぐぅるるるる!!!」

「この野郎!!」

俺は後方に飛んで距離を作る。

間違い無い──。

このお姫様は、見えない剣を持ってやがるぞ。

あの風圧と風切り音。

それに空振った剣先が土を突いた感じ。

見えていないが、あの手には剣が握られているはずだ。

「ぐぅるるりるりるりる!!」

なにさ!?

それにしても攻撃的じゃね!!

なんですか?

怒ってますか?

だが、剣の腕はお粗末だな。

一太刀で分かったぜ。

このお姫様は、ほとんど訓練を積んでないな。

「ぐっしゅぅううう!!」

「面白い、受けて立つぞ!」

俺は女子供でも殴れる。

戦いを挑んだ段階で差別はしないのだ。

「じゅぅううう!!」

お姫様が横に剣を振りかぶった。

起こりが完全に見えている。

攻撃に入る前のモーションが大きすぎるのだ。

これなら剣が見えなくっても躱せるぞ。

「じゃっ!!」

お姫様が見えない剣を振るった。

見えないが頭部を狙った横一文字の剣筋だろう。

読み通りだ。

俺は背を丸めて容易く躱す。

しかもただ回避したのではない。

滑るような歩行で前に出た。

その動きで素手の間合いに入り込む。

「うらっ!!」

俺は屈んだ姿勢から背を伸ばす勢いを利用して上段前蹴りを繰り出した。

踵の狙いは黒山羊の頭だ。

その不気味な被り物を蹴り剥がしてやるぜ。

「ぶるるっ!!」

しかし、黒山羊頭のお姫様も防御を築く。

左腕を胸の前に翳した。

だが、低いだろ。

その高さだと俺の上段前蹴りがガードを越えて行くぞ。

っと、思った刹那だった。

グワンっと音が鳴って俺の体が後方に弾け飛んだ。

「なにっ!?」

俺は自分の蹴りの勢いで飛ばされたのだ。

よろめいた俺がバックステップで距離を取る。

俺の上段前蹴りは、確かにお姫様の腕を越えていた。

だが、何かに当たったのだ。

それは壁だった。

俺は見えない壁を蹴り付けて、その反動で、自分の脚力で飛ばされた感じである。

「盾か……。見えない盾まで持ってやがったな!」

「しゅるるるるるううう!!!」

黒山羊頭のお姫様が見えない剣を振りかぶって距離を詰めて来た。

「ぶっるるう!!」

見えない剣が闇雲に振られる。

だが、刀身は見えなくとも剣筋は見えていた。

何度振るおうとも未熟過ぎて当たらない。

空振りを繰り返す。

これは戦士としてのレベル差だ。

俺がベテランでお姫様が素人だ。

この差が見えない剣の不利と、素手との差を無くしている。

「うらっあ!!」

俺は見えない剣を躱すと同時に体を捻って勢いを産み出す。

その勢いを中段後ろ廻し蹴りに乗せて打ち放った。

しかし、見えない盾で防御される。

だが、それも予想済み。

俺は全力の蹴りでガードごと打ち破るつもりだった。

健脚を力ませる。

「うらっ!!」

気合いの掛け声と共にお姫様を蹴り押した

するとお姫様の体がフワリと浮いた。

「ギャフン!!」

お姫様は背中から倒れ込むと、黒山羊マスクの下で表情を痛みに歪める。

たぶん、歪めているはずだ……。

「そぉ~~れぇ~~!!」

俺は倒れているお姫様に飛びかかる。

そして、お姫様の腹の上に股がるように乗った。

「もらったぜ!!」

マウントポジションをゲットする。

片膝で踏みつけ見えない剣を持っていた手首も固定していた。

完全に動きを封じている。

「勝ったな!!」

おっと、つい調子に乗りました。

勝利宣言が口から出ちゃいましたよ。

よし、調子に乗った勢いのままに、黒山羊マスクを剥いでやるぜ!!

俺がゆっくりと黒山羊マスクに手を伸ばしたところで背後で音を聴く。

ズシャリ……。

森の中の枯れ草を踏む音だった。

しかも近い。

直ぐ後ろだ。

「ふうっ!!」

唸り声!?

誰か居る!?

風切り音!?

攻撃か!?

俺は前に飛んで転がった。

そして、すぐさま前を向いて片膝を付くと腰の剣に手を伸ばした。

「誰だ!?」

男だ。

二十歳半ばぐらいの男性だった。

手には木の棒を持っている。

農夫っぽい身なりで額に火傷のような傷が目立っていた。

「レイラ、大丈夫か!?」

農夫がお姫様に手を貸して起こす。

二人は知り合いなのか?

そして、二人は俺を睨んでいた。

敵意満々だぜ……。

「行けるかい、レイラ?」

「ぐるっ……」

お姫様が頷くと二人の姿が霧のように消えた。

インビシブルか!?

全身を消せるし、他人も消せるのか!?

それっきり二人のアクションが途絶える。

静かであった──。

俺が耳を澄ませば、森の中から小鳥の囀りが聞こえてきた。

あれ?

居ないの?

逃げたかな?

逃げられちゃったのか?


【つづく】

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