ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げをしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語。(タイトルに一部偽り有り)

ヒィッツカラルド

第290話【異世界転生者】

この爺さんは飛んでもないことを、さりげなくモッチリと言いやがったぞ。

いや、違う。

さりげなくポロリと言いやがっただ。

ってか、こいつが転生者だと?

マジかよ?

それとも酔っぱらいの戯言か……。

これはちゃんと訊いて確かめてみなければなるまい。

「おい、カンパネルラ爺さん」

「なんだい。これから仕事前に一杯奢ってくれるのかい?」

「いや、酒は奢らん。それよりも転生の話だ」

「えー、酒が飲みたいな~」

カンパネルラ爺さんは横を向きながら口を尖らせている。

しかし、わざとらしくこちらをチラチラと見ていた。

不味いな……。

俺が転生って言葉に食いついたのが気付かれているぞ。

もしかして、俺が転生者だと悟られたか?

この糞爺は、俺のウィークポイントを掴んだ気でいやがるな。

カンパネルラ爺さんが言う。

「なに、おまえ、もしかして転生の話が聞きたいわけ~? 興味が有るわけ~?」

うわ、スゲーむかつく!!

なんだよ、この態度は!?

仕方ないな……。

「しゃーねーな、酒が飲みたいのか……」

俺は諦めたかのように溜め息混じりで言った

「おお、奢ってくれる気になったかい。じゃあ早速酒場に行こうか!」

カンパネルラ爺さんはルンルン気分で席を立つと出口に向かった。

そこで俺が声を掛ける。

「ちょっと待ってくれないか、カンパネルラ爺さん」

「ん~、なんだい?」

カンパネルラ爺さんが出入り口の前で振り返った。

そこに俺が魔法をぶちかます。

「リストレインクロス!」

俺の突き出された掌から✕の字の魔法が発射された。

【魔法リストレイントクロス。攻撃力は中。束縛属性。× 字の弾丸が敵の動きを封じる。射程距離5メートルの魔法。回数は本人レベルが10おきに、一回ずつ撃てる。発動条件は魔法名を口に出す】

「うぎゃ!!」

カンパネルラ爺さんは立ったまま✕の字魔法に絡め取られて拘束された。

「うぬ、動けね! 何をしやがる、若いの!?」

「いやね、ちょっと話が訊きたくってさ。酒場に行くのは延期だ」

俺は鞘からロングソードを引き抜くとカンパネルラ爺さんの頬に冷たい刀身を当てた。

そして脅すようにペシペシと頬を叩く。

「俺の予感だと、あんたに酒は飲ませたらアカンと思うんだわ」

「そ、そんなことは無いぞ……。おいちゃんは何時でも何処でも陽気で友好的だから。飲んでも問題無いからさ……」

「俺は弟さんからあんたを殺しても構わないって言われているんだ」

「あ、あれは、ブラザージョークだよ。本気にするなよ~。やだな~、も~……」

「プロ子は居るか?」

俺はプロ子を呼び出した。

するとプロ子が異次元宝物庫から出て来る。

「はい、お側に」

異次元宝物庫から出て来たメイドの少女を見てカンパネルラ爺さんは驚いていた。

俺はプロ子にオーダーする。

「プロ子。死体を処理する準備をしといてくれ」

プロ子は一度だけカンパネルラ爺さんをチラ見した後にお辞儀をしながら言った。

「畏まりました。ノコギリとズタ袋を用意してまいります」

そう言うとプロ子は異次元宝物庫内に引き返して行く。

それから俺は笑顔でカンパネルラ爺さんに言ってやった。

「死体の処理までお前の弟さんに頼むのは忍びない。だからこっちでバラして持ち帰るよ」

苦笑いながら言うカンパネルラ爺さん。

「あははは~……。脅しが上手いな、坊主……。それで何が聞きたいんだ。なんでもかんでもゲロるぜ!」

「うわっ、素直!?」

「こんな時は素直が一番って冒険者時代に学んでな。だから俺は長生きでいられるわけだ~。あはははは……」

「俺も先輩冒険者の教訓は参考にさせてもらうよ。じゃあ質問させてもらうぜ。もしも、質問が拷問に変わるかはあんた次第だがな」

「あははは……。な~んでも訊いてくれ……。痛いのは苦手だからなんでも話します!」

そして質問が始まった。

「あんたは転生者か?」

「YES!」

「どこから、どうやって転生してきたんだ?」

「俺の昔話が聞きたいのか?」

「ホラじゃあないだろうな?」

「もちろんだ。じゃあちゃんと話すから、この拘束魔法を解いてくれないか? こんな話しは誰も信じてくれないから、ただで話すからよ」

「本当だな?」

「YES!」

俺は拘束魔法を解除してカンパネルラ爺さんを自由にしてやった。

カンパネルラ爺さんは拘束魔法を解かれるとテーブルに戻って席に腰を降ろした。

どうやら腰を据えて話す気になったようだ。

「俺は日本人だ」

「マジか? でも顔が完全に西洋人だぞ?」

「顔は転生した時に変わったようだわ。お陰でハンサムだろ。俺の記憶だと日本人だったころの俺は、そんなにハンサムじゃあなかったんだわ。コッテコテの東洋人顔よ」

顔が変わった?

そんなこともあるのか。

「お陰で女房も貰えたし、子供を二人も儲けた」

「いつごろ転生したんだ?」

「中学生三年の春だ。今年受験で悩んでいる時に、トラックに轢かれて死んじまった」

「死んで転生なのか……」

俺と同じだな。

でも、俺には死んだ時の記憶が無いぞ。

「間抜けだったよ。受験勉強ようの教科書を読んで歩いてたら信号を無視しちゃってさ、ドーーンだ……。それでポックリよ」

「本当に教科書かな? エロ本だったんじゃね?」

「なんでわかった!? お前は見ていたのか!?」

「当たりかよ……」

「それで気が付いたら女神様の前に跪いてたってわけよ」

やはり糞女神か……。

「それで女神様にテイマースキルをもらって転生したんだ。俺の将来の夢は動物園の飼育員だったからな。でも、転生したら、荒野の真ん中で全裸だ。本当にビックリしたよ……」

やっぱり全裸かよ!

「そのせいで今では全裸に抵抗が無くなっちまったわ」

そうなるよな、そこも俺と一緒だわ。

「そして荒野で途方にくれてたら、当時冒険者だったサンパネルラ父さんに拾われて、養子になったってわけよ。ほら、テイマー一家だったから、どんぴしゃりで嵌まったんだわ。それで、カンパネルラって名前は、父さんからもらった名前だ。俺の本当の名前は覚えてない。前の世界の記憶は、覚えてたり覚えてなかったりと曖昧なんだ」

俺と類似している点が多いぜ。

俺も記憶は思い出したり忘れてたりと曖昧だもんな。

やはりこいつもあの糞女神に転生させられた被害者だ。

カンパネルラ爺さんがズバリと俺に言う。

「お前さんも、転生者なんだろ?」

ドキリっ!!

「い、いや、俺は……」

「あ~、転生者だってのは隠してるって感じか。まあ俺のような引退した飲んだくれとは違うんだ。現役の冒険者ならば隠しとくってのも有りだわな~。分かったよ分かったよ、分かりましたよ、黙っててやるよ~。だって一日15Gで雇ってくれるご主人様だもんな~」

察してくれてるならありがたいが、何気に日当を値上げしやがったぞ!

まあ、いいか、そのぐらい。

「あんたは、糞女神に無双スキルを貰わなかったのか?」

「無双? なんだいそれ?」

「あんたは、ラノベを読んだことが無いのか?」

「なんじゃい、それ? 旨いのか?」

ラノベを知らない?

オタクじゃあないのか?

ただのノーマル人か?

それともラノベって言葉が出来る前の人間なのか?

その可能性が高いな。

この爺さんが転生されたのは四十年以上前の話だ。

そのぐらいの時代なら、ラノベって言葉が無くても可笑しくない。

「無双ってのは、無敵になれるスキルってヤツだよ。敵をバンバンと楽勝に倒せる感じだ」

「無敵か~。確かに俺の貰ったテイマースキルは何処までも伸びるって言われたよ、女神さまにさ。でも、そこまで鍛えるのが億劫でさ~。その前に俺は酒に溺れたってわけよ。何せ結婚して子供も二人出来たしさ~、ストレスが半端無いのよね。そりゃあ飲むよね、あははは~」

落後者かよ……。

でも、分かったぞ。

この世界には、俺以外にも転生者が居やがる。

しかしこいつは高いスペックを習得する前に落後していやがる。

この異世界には、もしかしたら他にも転生者が居るのかも知れないな。

俺が考え込んでいるとカンパネルラ爺さんが再び席を立った。

「じゃあ、シルバーウルフでも見に行くか~」

呑気にカンパネルラがボロ屋を出て行くと俺も後に続いた。

そして小屋を出たところで水の入った桶が在ったので覗き込む。

「まさか……」

俺は水面に映し出された自分の顔を見た。

よくよく考えたら初めてである。

この世界には鏡が少ないのだ。

鏡は高級品だからだ。

なので自分の顔を映し出したことが、たまたま無かったのだ。

そして、水面に映し出された俺の顔は──。

「せ、西洋人じゃんか……。しかもそこそこの美少年じゃあねえかよ!?」

通りで顔を洗う時に鼻が高くて邪魔だと思ったよ!!

しかしだ!!

俺の顔が美少年なら、何故に俺はモテない!?

なんでモテないんだ!!


【つづく】

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