機械仕掛けの神
SF

連載中:2話

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機械仕掛けの神

  • あらすじ

      形は欠片{かけら}へと崩れ去り、生には死が訪れる。欠片は再び形となり、死は新たな生を産む。出会っては別れ、別れては出会う。出発は終着であり、終焉{しゅうえん}は発端である。永劫回帰の輪の中で、全ては巡る水車の如く、くるくると、くるくると……。<br>
      悠久の静寂の片隅で、開闢{かいびゃく}の産声と共に〝世界〟はゆっくりと姿を現わし、消滅へと歩を進める。我らが母、〈想像者デウス〉の優しき眼差しにより、ゆっくりと……、ゆっくりと……、ゆっくりと……。<br>
     <br>
      ……光の陰、……連綿なる欠片、……永遠の瞬間、……罪深き――正義。<br>
     <br>
      始まりは遥か昔の様でもあり、つい先程の様にも感じる。変化の無い経験が堆積する、ただ繰り返すだけの無色の記憶。<br>
      勝機など無い、私でなくともそれくらいは解る。「死んでも生き残るんだ」、奴の口癖だ。冗談なのか本気なのか、それを口にする時の奴の表情は、年頃の娘の屈託無い笑顔よりも輝いていた。嫌なら荷物をまとめて逃げ出せば良い。もちろん、逃げ込める場所があれば、だが。誰も強制などしないし、第一〝ここ〟に何かを強制できるような奴はいやしない。かといって、好き好んで集まっている訳でもない。<br>
      要するに、「そうするしかない」のだ……。<br>
     <br>
     「ああ、信じたくはないが、〈ヴァスクリュス〉と〈ハイナイン〉は堕{お}ちたよ。良い策はあるかい?」<br>
     「……無い、……事も無い、だが――」<br>
     「だが、は無しだ。何でも、やれる事はすべてやる。良いか〈マキナ〉、死んでも生き残るんだ!」<br>
     <br>
      瞼を上げる。私の辺りには、かつて同胞であった者達が、変わり果てた姿で散ばっていた。原形を留めていない戦友達が、視界を埋め尽くす。地と空、刃物で曳いたかの如き地平線のみで構成された荒涼たる風景。音も臭いも無く、紫色の天空が無数の絶望を覆い尽くす風景。<br>
      再び静かに目を閉じるとそこには私の、私達の唯一の記憶が、断片的な映像で浮かんでは消える。それは、ただ一色、灰色で塗り潰された〝戦い〟の記憶であり、金色の翼をはばたかす〝奴〟の貫く眼光である。もはや躊躇{ちゅうちょ}も後悔も、そして選択すら無意味なのだ。既に私は独りであり、策は一つ、たったの一つしか残されてはいないのだから。<br>
     <br>
     「さあ、共に眠るとしよう! 何人たりとも手の届かぬ、永遠の眠りだ!」<br>
     <br>
      ……儚{はかな}き真理、……漠然とした決断、……愚かなる英知、……寂しげな――笑顔。<br>

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