武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

そうだ。全振りしよう、そうしよう

 うむ、まだ何やら考え込んでいるの。
 ふむ、異国の子の事か。


 はい、私は負い目を感じています。結果的に二人の魂を弄んでしまいました。


 うん、二人とは、そうか、そうか。体の方の魂と異国の子の魂の。


 子細は分からぬが、同魂は同意、それこそ同一化する事を厭わぬ、強い同意が無ければ成らぬよ。
 その異国の子は、完全同魂したのではないかの。


 完全同魂……


 例えば、我の様にな。


 如娥様。感謝いたします、少し気が楽になりました。


 貴方は特に考え過ぎだ、収まるべきは、いずれ収まるのだから。


 如娥様、私も如娥様が大好きになりました、大姐共々、如娥様を信仰いたします。


 そうか、そうか。嬉しいの、嬉しいの。
 では、その想いを記念しよう。


 ではな、二人共。また会いにくるぞ。


 如娥様が去った。感覚で分かる。




 来るのも唐突だったけど、帰るのも唐突だったね。
 そんな事を思っていたら、体の感覚に、思考が宿った。いつもの感覚だ。








 で、現在の状況なんだけど………その、ね。


「南遨老師!頭を上げてください」


 南遨老師だけでの無く、円陣を組んだ高弟達、高師範や周兄。


 遠巻きの警邏官吏の面々。


 偶然居合わせただろう、通行人。


 皆、地に頭を着ける、頭地礼をわたしに対してしている。


 頭地礼など、神に対してしか、しない礼だ。


 マルコ君が驚いた顔をして座っている。




 ……いや、白状しよう。判っている。


 意識は如娥様に向いていたが、体の方は見聞きしていた。


 絡奉納舞の後、三拍演舞に移行した事も。


 発経の度に、地震ぢぶるいが起こった事も。


 そして喜んだ如娥様が、わたしの体の方にも意識を飛ばし、わたしの体で舞を始めた事も。


 歓喜の舞とでも云うべきか、喜びの感情が載った神威が辺りを包んだ事も。


 垂直に虹が昇った事も。


 雹が降った事も。


 わたしは、他人事の様に見聞きしていたのだ。


 ……どうしよう。


 辺りは、清浄な、それでいて力が湧いてくる様な、心が落ち着く様な、そして嬉しくなる様な、
 そんな不思議な地になっていた。


(如娥様は、記念にと仰られたけど、この地に地脈を通したみたいね、お祀りしなければ嘘だわ)


 それ!それで行こう。


 全部如娥様に振ろう。


 如娥様が憑依したで通そう。


(大姐、憑依とは不敬だよ、神憑り、神降ろし、御降臨だよ、分かった?!)


 うん。さて、


「老師、見ての通り名入の絡奉納で、畏れ多い事ですが、大神が御降臨されました」


「大神はお帰りになられたか。いや、魂消た。神威に打たれる事になろうとはな。
 して、何れの大神に在られたのだ」


 南遨老師は頭は上げてくれたが、今だ跪いたままだ。


 さも有りなん。地が清浄化したのだ、地祇と対話する経絡使いに、感じられない訳はない。
 畏れ多いのだ。


(いや、如娥様かなり気張ったみたいだから、誰でも分かるって)


「如娥娘娘様です、わたしの絡奉納を喜ばれて興味を持たれた様です。
 大神大慈母神と仰られる通りの御神格で、わたし達との出会いを喜ばれて、この地に地脈を通されました」


「何とな……勿体無くも畏れ多い事だ」


「つきましては、この地に如娥娘娘様の廟を建立しお祀りすべきと考えます。
 如娥娘娘様は、人との関わりが薄くなった事を悲しまれておりました。
 この地で絡奉納をすれば、大いに喜ばれる事でしょう」


「うむ、最もな話である。これほどの御神威を示されたのだ、お祀りせねば、あまりにも畏れ多い」


 よしよし、これでわたしは大丈夫だろう。
 余すところ無く、如娥様に全振りしたからな。


 こんな感じで流したら、この件はかなり大事となった。


 この後、亮順様はこの地を買い取り、廟を建立するのだが、何分、地震、虹、雹といった天変地異と如娥様降臨が合わさり、広州知事の孫様より帝へ奏上された。


 典礼儀官、大礼官より、陛下の治世を祝ぐ吉祥として追奏上され、廟建立資金として金千両が南遨家に下賜された。


 如娥様は王号を贈された。
 如娥王廟の誕生である。


 いや、如娥様には信仰したから、喜ばしい限りなのだが、如娥様の立像の脇に黻陵像、聖王像の二柱が合祀された。
 まあ、それは道法の主神三柱だから良い。


 問題なのは、わたしの像も合祀された事だ。


 どうしてこうなった?


 片ツバ外しの二角帽子、銀の簪で赤髪に留め、胡服外套に馬革沓。


 あの時の服装だ。顔付きが似ていないのが救いではある。


 わたしの扱いは、如娥様の眷属で“胡天女官”だそうな。


 また、面白い事に、この廟は道法の主神三柱を祀りながら、道法家は関与しておらず、当然南遨家の所轄となり、廟兼絡奉納武館となった。


 わたしの絡奉納舞を、実際に検分した南遨家高弟達から、女子部設立に全く反対は出ず、寧ろ後援した。


 その女子部の主な鍛練の場が、この廟館となり片ツバ外しの二角帽子が、制帽となってしまった。


 なんてこった。


 南遨の二角帽と云えば、上級女拳士の代名詞となった。


 因みに二角帽の材質に決まりは無く、この時代ではかなり華やかなのだが、


 師範位の女拳士となると、地味な“たある”染めの片ツバ外し二角帽子に、銀の簪留めが好まれた。


 わたしの闘いを直接見た周兄から、朱華嬢が聞き及び、好んだ事が由来らしい。


 さてさて、本当に人の縁とは深遠な物で有る。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品