武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

御御柱は如娥娘娘様

 いと尊き御御柱おみはしら、我等お初に御目にかかります。


 わたしは胡小馨。


 私は遨可馨と申します。


 ご尊名をお伺い致したく存じます。


(これで大丈夫だろうか?不敬ではなかろうか?)
(分からない、どうだろう)


(笑っておられる、大丈夫か?)


 そう畏まるではない、今世の人は我等と距離を措き過ぎであるぞ。


 我はニィヨガ。この地を慈しむ者。
 ウゥの孫娘達よ、貴方そなた達に会いたくなってな、邪魔をした。


 ニィヨガ様?……如娥様!大地母神の、黻稜様の妻神で有られる。


 ウゥとは、聖王兎の事かな?


 ははは、今世ではそのような文字を当てられるか。それにフツリオゥが我の夫とされているのも、面白い。


 なんだろうこの感じ、覚えがある。と云うか、とても似ている。


 そうか、そうか、我はそんなに貴方の母に感じが似ておるか、貴方の母にも興味が湧くの。


 ああ、やはり慈母神だ、満たされる気がする。


 それよ、やはり今世の人は我と距離がある。寂しいものだ。


 如娥様、古では、そんなに神々との距離が近かったのですか?


 そうとも。我を呼び、明日の天気や、夕餉の菜を何にしたらよいか、などと聞かれたものだ。
 犬の子の名前を付けてやった事もあるぞ。


(幾らなんでも近すぎる、近所のオバサンと同じ距離感って)


 ははは、ウゥとそっくりだ。あれも我に筒抜けと判りながら毒を吐いたものだ。


 ウゥの孫娘よ、あれは息災か。


 あれと仰いますと、聖王兎の事でしょうか。


 ははは、あれは聖王などと呼ばれるか、面白いな。


 いえ、如娥様、聖王兎は太古に実在したとされる人物で、我等からすれば如娥様同様、神の一柱で御座います。


 なんと、では、既に亡くしていたか。
では、ウゥの孫娘よ、貴方達は孫ではなく子孫であったか。


 そうか、そうか。では、ウゥの代わりに我の話し相手をしておくれ。


(いや、本当に母さまに似ているな、自分の関心事に周りを引き込む所とか)


 ははは、そう云う貴方、小馨といったな、小馨もウゥとそっくりだ、貴方から奉納された魂滴はウゥ同様に我々に馴染む。心地よいぞ。


 如娥様、魂滴とは絡の事でしょうか。


 ふうむ、言葉に隔世があるの、やはりウゥは亡いのであるな。


 絡なるものは知らぬが、多分それで有ろう。


 物事を成さんとする命の輝き、生への執着。
 愛おしいばかりであるな、
 魂から滴る悦びを、我等はそう呼ぶのだよ。


 分かったような、分からない……かな?


 ははは、それで良い、人は難しく考え過ぎだ。


 心地よい事を心地よいと思い、心地良さを感謝する気持が、我等は心地よいのだ。


 うむ、かえって判りにくいか、ははは。


 いえ、如娥様、判りました。この地の地祇からの反復経が、わたしには心地よかったです。


 多分それと同じではないかと。


 おお、そうか、そうか。我々からのお返しを気持ち良く受けてくれたか、嬉しいの。


 少し前、ウゥの生まれる前までは、皆して我を喜ばせようと、魂滴を奉じてくれたものだ。


 火柱を前にしてな、老若男女、幾日も踊り、騒ぎ、歌い、我に感謝しながら魂滴を奉じた。


 我も嬉しくてな、嬉しい想いをお返しとして返したものだ。


 うむ、小馨。我は貴方が気に入った。我と相性も良い様だし、ウゥ同様に我と友となろう。


 そんな、畏れ多い事です。


 ははは、それ、人は考え過ぎだ。我は人の飼犬の名付けもしたことがあるのだぞ、何の畏れる事のある。


 それでもやはり、畏れ多いです。


 ですが、わたしも母さまに似ている如娥様が気に入りました。如娥様を信仰したく思います。


 ははは、そうか、そうか。
 それでも良い。本当に小馨は面白いな、貴方の母も愉快な人物なのだろう、うん会ってみたくなってきたな。


 地祇に祈りを込めれば、如娥様に通じるのでしょう。ならば母さまに伝えれば、如娥様に目通り叶いますとも。


 うん。小馨、母者の名は何というのだ。


 遨京馨です、如娥様。


 うむ、覚えた。楽しみであるな、何やら楽しげな人物であるな。


 はい、きっと如娥様も気に入る事でしょう。


 ……如娥様、不躾な問をお許しください。


 なんじゃ、可馨といったの。うん、小馨と同化しているの、仲良き事だ。姉妹かの。


 は、はい。そのような物ですが、違います。


 うん、そこまで魂が似ていてか。そうか、そうか。


 そ、そこなのです。私は小馨の魂に居着いた死霊なのです。
 私は、きちんと輪廻するのでしょうか?
 輪廻の輪に戻れるのでしょうか?


 ふむ、人とはやはり考え過ぎだな。可馨や、可哀想に、ずっと恐怖しておったな。


(そうなの?素振りも無かったから気がつかなかった)


 可馨や、輪廻?また面倒な考えが生まれていたの、
 今世の思考でいう、輪廻の輪から外れるなど、逆に出来ようがないのだ。


 え???いえ、だって。


 ふうむ、貴方の知る黒靈か、また、妙な呼び名に収まったの。


 あれはそうなる事を選んだに過ぎない。
 そのうち、飽きた者から我々の世に越してくるの。


 え???それじゃ消滅する訳では無いのですか?


 魂は不滅ではないから、消滅を望めば消え去る。


 同魂を望めば、同魂するし、現世に滞在したければするし、我々の世に来たければ来る。


 我々と同魂する魂もいるぞ。ウゥの生まれる前の人は特にそうだった。寂しいの。


(なんか、サラッと凄いこと聞いた)


 ははは、だから人とは考え過ぎというのだ。


 お、お待ちを、魂は同魂すると意識が重なり過ぎて思考が出来ないのでは?


 そんな事はないの、我は我々でもある。我々は我であるからの。


 !!お教え!有り難く!


 どゆこと?


 難しく考える事はない、我を慕い、我と一つと成る事を望む魂が、我となるだけだ。


 黒靈、妙な字面だの。黒靈は特に同魂を望んではおるまい、飢餓やら恐怖やらで、寄せ集まっただけで、方向付けせねば、バラバラだ。


 うむ、そうか、そうか。判った。


 やはり人は考え過ぎだ、死を怖れ過ぎておるのか、なるほど、なるほど。


 どゆこと?


 なにやら二人の言葉から、違和感を感じておった。隔世よな、やはり。


 貴方達は、死を別物、穢れ、終焉と考えておるの、だからこうも齟齬がある。


 違うのですか?如娥様?


 そうよな、雨に喩えよう。雨が天地を行き来しておる事は知っておるな。


 地にある時は、諸々に宿り、廻り、育み、やがて気となり天に帰る。しばらくしてまた地に下る。


 繰り返す。うん、魂に似ておるな。


 その喩えだと、差し詰め我は海か雲だの。
 黒靈とやらは、汚泥かな。ははは、


 人の一生など、一時の暇潰しかの。


 だが、その暇潰しを、全力で駆けるから、その魂は気高く尊い。


 器の入れ替わりなど、些細な事だ。
 そうだ、蛇の脱皮の様なものかな。ははは。


 いや、神様の尺度では、理解しにくいかな?


 そうかの、ははは、だからあまり深く考える事もない。
 やがて収まる所に収まるのだからの。

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