武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

思っていたより、南遨家は名士だったな

「むっ!あれは」


 南遨一門ではない、港の方から有り難くない一団がやってきた、


 総勢五十名程の警邏官吏だ。まるで騒動が収まるのを待ち構えていた様だ。


 左道術は不味い、五月蝿いから三、士、黙れ!


「心配は無用ですよ、胡老師。港の警邏には顔が利きます、田が騒動を起こしたと突き出せば、落着ですよ」


 周兄が、高師範、いや、南遨一門の手前、言葉を改めてきた。


 ただ、何やら騒動の予感がするのは、警邏官吏を見るや、南遨一門からも数名の拳士が飛び出して来たことだ、先頭は南遨豪順師範だ。


 下級官吏である警邏官捕縛吏は、もがくヤクザ者を次々に縛り上げてゆく。


 身なりの良いのがこちらに来た。


「動くな、港湾警邏局だ神妙にいたせ」


 逃げ出したい所だが、マルコ君もいる事だ、どうする?武力突破するか?


(ややこしくなるから、ここは周兄に任せな、顔役だし無下に出来ないだろうから)


 三、士、戦闘準備だ、合図を待て。


(だから聞けよ、人の話!)


「聞けぬ話だな、当家の一族に下級官吏ごときが居丈高に放言か。南遨一門が受けて立つ」


 縮地走、神行歩か。豪順様が官吏長に立ちはだかった。


 官吏は驚いた顔をする。当然か、縮地走は実は上級武技、奥義だ。見た事は有るまい。


 遅れて南遨一門の上級拳士が、わたし達の周囲を固めた。


 縮地走を習得している拳士達だ、極武館での不入布陣で見掛けた顔も有る。


 高弟に間違いは無い。


「南遨家?一族?どうした事だ?」


 何やら官吏の言葉がおかしい、わたしと豪順様との間を視線が動く。


 周兄が間に割って入る。


「張隊長、誤解ですよ。騒動を起こしたのはここの風月楼の田ですよ」


 疾駆長打を食らったのだ、経打を相殺出来ない素人では、内絡もヘチマもない。


 痺れて録に喋れない。この為に生かしておいた様な物だしな。


「周勇か。子細を聞かせて貰いたい、南遨家と風月楼の諍いと云う訳では、無さそうではあるが」


「とんでもない、田の奴が徒党を組んで、こちらの胡老師に難癖つけてきたんですよ。
 老師は正当防衛で、返り討ちにした所です」


「うん?では南遨家の一族とは?」


「それには、私が答えよう。胡老師は洛都の本家で遨老師に養子に迎えられた。
 従って、父上からは姪にあたり、私とは従妹になる。我々は胡老師の出立の見送りに、一門で出向いて来た所だ」


 ……やっぱりかい、いささか重いよ、南遨老師。


「すると貴公は、もしや惣領殿では?」


「南遨豪順だ、父上もこちらに参っている」


「これは、大変失礼を」
 警邏一同、わたし達に謝罪礼法をとる。


 ……はて?何故に??民間武館に役人が???
 周兄、説明。


 ドサマギで周兄を引き寄せ、耳元で尋ねる。
 周兄は不思議そうな顔をしたが、教えてくれた。


 洛都の遨家は、陛下に目通り叶う、三品官の地位に有り、官位はここ広州知事と同格である。


 士大夫ではないが、禄を頂く朝臣で有り、南遨家はその外戚に当たる。


 また、広州知事と広州軍轄司令は、南遨老師が洛都で師範をしていた頃の門弟で、付き合いが深い。


 わたしの想像以上に、南遨家は広州の名士だった。


 余談になるが、その御二方の娘と孫が、南遨老師に弟子入りする事となっており、その関係で、女子部の入門希望が殺到したそうだ。


 朱華娘々は、わたしの後ろ楯で入門が叶ったと、周一家が感謝していた。


 縁とは不思議な物だ。
 あの時、うっかり殺さないで本当に良かった。


 面倒臭くなって殺していたら、今ごろは関所破りをしていたかも知れないな。


「疑う訳では有りませんが、身分証明書を確認させては頂けないだろうか?これも役儀なので」


 下手に出てきた。周物品卸公司員証で良いだろうか。


 出入港も、審査無しで通関出来る位の証明書だし。


 わたしが暗器諸々の懐から、証明書を出そうとすると、横合いから声が掛かった。


「いや、それには及ばない。役人殿、胡老師は間違いなく儂の姪で、南遨家の重要な客人である」


 南遨老師が到着だ。旅装のわたしは、略式が許されるので、拱手で挨拶だ。


「南遨老師、わざわざのお見送り有り難く。また、南遨家極拳一門揃っての送礼、誠に名誉。終生の誉れと致します」


「何の胡老師、老師から受けた恩に比べたら、余りにも些細、この水心汗顔の至りである」


 どちらともなく、哄笑した。


「何とも舅々の悪戯好きには驚かされます。まさか一門総出で、わたしを仰天させるとは」


「か呵呵、どうにも稚気が抜けなくてな、姪御の驚いた顔は見もので有った」


「亮順様のその様な所は、母さまにそっくりです、母さまも悪戯好きですので」


 わたし達の和気藹々な会話から、張隊長の顔色が悪くなっていった。


(張とやら、とは言わないんだ)
 まあ、李千張万とは云え、母さまの旧姓だからね、憚りがあるよ。


「役人殿、まだ疑うのなら、孫知事に身分保証書を書かせて、そちらに提出するが」


 うわっキツいな、医師殿が対外的にと言う訳だ。
 圧力のかけ方が凄いよ。
(勉強になるね)


「い、いえ、南遨様がそう仰るのですから。胡…様と云いましたか、大変失礼いたしました。
 宜しければ、ご尊名をお伺いしてもよろしいでしょうか」


 こっちも食い下がるな、まあ、構わないか。


「開業府洛都在住、胡小馨。お役人、お勤め御苦労様」


「……胡小馨様。はて、何処かで聞き覚えが有りますな」


「姪御は、数年前の謀反騒動で名を挙げておるでな、講釈師が吹聴していたのを、儂も覚えておるよ」


「おお、思いだしました。成る程、流石の女傑ですな」


 それは流して欲しい。わたしは関与してないし、勘当もそれ絡みだし。


 いや、しつこいから小姐は責めないよ。


(いや、しつこいから)


 張隊長はわたしに向き直った。


「大変失礼しました、胡殿。
 この度の騒乱、そこな田なるヤクザ者が首謀者との事で、捕縛いただいた事感謝致します」


 その他大勢のヤクザ者は、既に捕縛吏に拘束されている。


 何せ足の腱を“ガブッ”とやられているから、逃げようがない。


 これで落着かと思いきや、最後に張隊長が宣った。


「申し訳ない、何分、殺人事件の重要参考人が、広場で騒乱を起こすとの情報が有ったものですので。
 聞き流すにしても、告発者の社会的立場がありまして」


 歯切れが悪いな。
 全の件か、偽名は割れているからな。


「うん?つまらない不確かな情報などで、従妹殿を疑ったと」


 豪順様の圧力のかけ方は直接的だな。三十点くらい。


(いや、南遨老師が圧力になっている点も加味すれば、及第点だよ)


「いえ、そう仰らず。開業府洛都在、仲介商、全道禅殺害の重要参考人、胡蓮華が騒乱を起こすと告発したのは、他でもない南遨善順殿でしたので。
 なので当初混乱したのですよ」


「善順だと?!」


 なんか振り出しに戻った感じだ。

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