武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

これがわたしの疾駆絶打だ!

 掴みにきた破落戸の右腕を逆に掴み、両手で巻く様に引き付ける、
 タンッ!


 背負う様に体を捌き、肘経打を右腕付根に喰らわす、浸透経だ。


 タンッ!


 脛を払う、踵経打きびけいだ前掃だ、そのまま半回転し、回転鞭脚を見舞う、これは牽制。


 タンッ!
 本命は連経にある、地に着いた両手で練歩だ。


 右腕で初練歩、バンッ!
 左腕で次練歩。ガンッ!


絶踵打ぜつきびだ斧刃脚ふじんきゃく!」


 倒立体勢からの縮地走跳しゅくちそうちょう、破落戸の得物さり練経打の踵を打ち落とした。


 棍棒をへし折り、顔面に踵を打ち込む。


 いちいち悲鳴は聞かない、
 踵から反射経を拾い、体勢を直し着地する。


 利脚で初練歩。 バンッ!
 軸足が着地で次練歩。 ガンッ!
 三連歩は勘弁してやる。


 額頭突、打上絶頭打だ!


 大男の破落戸の顎めがけて、縮地走跳で跳ねる。次練歩での最大出力だ!


 ボギャッ!!


 妙な破砕音と共に、破落戸は一丈ほど打ち上がった。


「次!」


 わたしの周囲は空白となった。苛立ちと共に怒鳴り付ける。コイツら弱すぎる!


 周囲がざわめく、


「おい、冗談じゃねえぞ!極拳使いじゃねえか!」


「聞いてないぞ!ヤバい逃げなきゃ死ぬ」


 口々に弱音が漏れる。
 わたしがヤクザを嫌う理由の一つがこれだ。


 衆を頼み、暴に溺れ、弱者を喰らい、猛者に臆し、強者に媚びる。仁義礼智信、何れからも遠い分限でありながら、したり顔で侠を名乗る。


 だから、せめて知れ。


 武の恐怖を!


 タッ! 刮目しろ!


 タンッ! これが!


 バンッ! わたしの!


 ガンッ! 疾駆絶打だ!


 拳ではない、側体絶肩三練打だ。篤と死ね!


 破落戸が、固まりで吹き飛ばされた!
 土煙や血飛沫が舞う、悲鳴やら嘔吐が聞こえる。




 趨勢は決した。


 元々衆に与しているだけの付き合いだ、田の支配下に有る訳でもない。


 この後、僅かな手間賃を貰うだけの義理しかない、破落戸達は蜘蛛の子を散らす様に逃走した。


「誰が逃がすかよ!士!やれ!」


 不可視の士はまるでつむじ風だ。
 命令を忠実に実行し、
 破落戸達の脚腱を次々に穿った。


 さて、田とやらを始末するか。約束だし。




「なんだこれは?何事だ」
 港の広場に人だかりが出来ていた、尋ねる。


「一体何が有ったのだ、喧嘩騒動か」


 港街だ、ヤクザや船乗り、仲買人や料理人など、職業的、縄張り意識的、商的対立などの理由により、喧嘩騒動は起こる。


 だが、ここは周家の勢力下だ。最近は騒動を聞かない。


「わからんが、ヤクザの喧嘩かな?あそこに周家の若旦那がいるし」


 格好からして、この男は無関係の行商人だ。仕入れに魚市場に訪れた所、騒動に足止めされた様だ。それより。


「あれは周勇。ヤクザ同士の抗争か」


 何をしている。今日は胡老師の出立日だろう。
 老師も後程、見送りに来られると云うのに。


 まさか?胡老師が襲撃を受けている?
 好戦的な御仁だ、あり得る。


 私は人だかりを割って、周勇の所に駆けた。


「周勇!何事だ、胡老師はどうされた?!」


 周勇は、私を新手と勘違いし身構えたが、日除け帽をずらし顔を見せると、構えを解いた。


「高師範!有り難い、けてくれ、胡穣がこの群れに飲まれた、このま……」


 ボギャッ!!
 妙な破砕音と共に、大男が打ち上がった。


 胡老師だろう。周勇め、胡老師を侮っているな。


 かく云う私も初対面では侮った。見かけで判断するとは、浅慮、不覚悟、未熟。


 胡老師からは、初対面から教わってばかりだ。


「勇、心配は無礼に当たる。胡老師は敢えて群れに入ったのだろう。
 それより刮目しろ、高位極拳士の戦が、なぜ舞踊と称されるのかを、歩様を盗め、私も盗む」


「次!」


 群れの中心地から、胡老師の号が聞こえた。怒気をはらんでいる、不味いな死人が出る。




 心配を余所に、破落戸達の一角が弾け飛んだ。


 ……多分絶打だ、だが、何をしたのだ。暴走馬車にでも激突された様な惨状だ


 破落戸達は狼狽し、散り散りに遁走を始めた。




「誰が逃がすかよ!士!やれ!」


『おお、怒ってる、怒ってる。最近あまり暴れてなかったからね、瓦斯抜ガスぬきに丁度良いかな』


(可狐師匠、ヤクザ達がこっちに!)


『おお、マル♪段々と白太郎に馴染んで来たよ、さっきより通じる。
 はい、三!午朗!ガブーッ』


 ギャン! ギャン!    
     ギャン!


 風切り音を圧縮した様な、


 犬の悲鳴の様な、


 聞き覚えが、有るような無いような、


 そんな怪音がするたびに、ヤクザ達は血塗れになり倒れていった。


 正直な所、あまり気分は良くない。
 知らない人間だから関係ないと、割りきれない。
 はっきり言って、血が怖い。


 何故、この地の人は、こうも他人の痛みや血に無頓着なのだろう。


 ……私、いや、僕は何故殺され、どうやって他人の体でしたのだろうか?


 また、無意味に殺されてしまうのか、


 目の前のヤクザ達みたいに。


 ……もう嫌だ、痛いのも、怖いのも、死ぬのも嫌だ!


 ……だから、力が欲しいよ、せめて、自分を守れる程度には……


 ドクン。


 ?心の奥で、何かが鼓動したような気がした。


 ……気のせいだろう。






 なんだこれは、なんだこれは、なんだこれは?!


 何故こうなった?!


 こんな話は聞いていねぇ、聞いてねえぞ、


 糞!李の馬鹿兄弟が!何が上玉だ!とんだ阿婆擦れだ!


 何が痛め付けて売り飛ばせだ!


 何で周家を敵に回してまでして、こんな……?こんな?………こんな?!?


 ……何でだ?


 李兄弟に別に義理はねえぞ?


 何で


 この話持ってきたのは、
 李兄弟だったか?いや違う、一人だった?


 一体?思い出せねぇ?


 何故、俺は話を飲んだ?








 いたな、逃げずにいるとは、破落戸ヤクザにしては天晴れだ。


 何やらボケッとしているが、わたしのすることは変わらない。


 目が合った、怯えが見て取れる。


「さて田とやら。わたしが何だかと死合い、勝ったら貴様の命日を、今日にする約束をしたな」


「いっいや!してねぇだろ!皆殺しの憂き目を呪えとしか……」


「命乞いとは、見苦しい!」


 タンッ!


 わたしは疾駆長打を見舞った。


 練歩は勘弁してやった。前後矛盾するが、まだ死なれては不味い。



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