武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

歓迎しよう。わたしも暴力を嗜むのでな

 今日出立だ。海運貨物船なので、荷の積み込みが終わらない限り出港しない。


 予定では巳の刻に出港だが、前後する可能性は高い。なので早めに周家を出る事にする。


「周大人、すっかりお世話になりました、この恩は忘れません」


 門まで見送りにきた大人に、拱手で挨拶をする。


「胡殿、こちらこそお世話になりました。南遨様と直接御縁を結んでいただいた恩義は、忘れません。
 胡殿、こちらをお納め下さい」


 そう言うと、用人が盆を差し出してきた。袱紗に包んである。金子だろう。


「周大人、忝なく」


 この場合、遠慮は大変な無礼に当たる。先方の財力を見くびる事になるからだ。


「胡殿は、洛都での御用が終わったら、再び香湊に来られると聞きました。その折りは当家に御逗留下さい。葡萄の銘酒を取り揃えて置きましょう」


 その言うと、周大人は拱手で頭を垂れた。


「その日を楽しみにしておきます。では大人、再会、多謝」


 わたしも拱手で頭を垂れる。


 わたし達は周家を後にした。


 周兄は港まで随行するので、別れは少し先になる。


(話が飛ぶけど、何時から“周とやら”から大人に格上げしたの?周兄の方は覚えているけど)


 豚の丸焼きの所から。ご馳走してくれたのに義理が悪い。


 盛夏が過ぎ、過ごしやすい気候となった。広州で過ごしやすいのだから、開業では肌寒い陽気か?
 外套を纏っているので、やや暑い。
 二角帽を深く被り、銀の簪で帽子がずれない様に保定する。


 顔を晒したくないのだ。マルコ君は白太郎を纏っている、他の黒靈より黒化が薄いそうだ。


「高師範も、見送りに来るそうだよ」


 そうか、義理堅いな。ならばついでに朱華娘々を押しておこう。


 わたしの推薦状は、何時の間にか高師範経由で南遨老師に渡っていた。


(いや、外出時には案内を兼ねて周勇は付いてきたけど、在宅時にまでくっついていた訳じゃないから)


 港の広場に出る。周家は港に対面して一等地に有るから、すぐ港だ…………






 はい、黒士君落ち着いて。こっちからも見えているから。


 ざっと五十人くらいか。


「高師範が見送りに来ると聞いたが、門人じゃないよね、あの破落戸達」


「胡老師、あいつらの中に知った顔が有る。俺に任せてくれ」


「マルコ君はここにいて。大丈夫、三と午朗を付けるから」


「胡姐…」


 うん、犬系で間違いない。つぶらな瞳が子犬まんまだ。


 頼んだぞ、三、午朗、白太郎。


(いや、私に頼んでよね、喜んで頼まれてやるからさ)


 三はアレなので、午朗と白太郎を可視化させた。犬の親子みたいな感じだ。
 白太郎は色が薄い。


 マルコ君の頭を撫でて、周兄に続いた。


 しかし、人相の悪い奴等だな、貧民街の住人と違い悪臭がしないだけマシか。


 こちらを見て、ケタケタ笑ったり口笛を吹いたりと、まあ、コイツ達らしい反応だ。


 恰幅の良い男の前に対峙する。脇に顔面包帯を二人侍らしている。なんだそりゃ?変な趣味。


「話は付いてる筈だ。風月楼の田大哥ダァグゥ


「いや、付いていないな周大哥。胡人のガキはまあ、契約前の口約束だし詫びも貰った」


「なら、とっくに手打ちじゃねえか。
 おい、李兄弟。なんで田の元にいる、テメエ達にも見舞金を弾んだよな。……筋違える気か」


 李兄弟?誰だ、周家では見なかったが。


(顔面包帯だから、三にガブッてやられた二人かな、生きていて良かったね)


 なんだ、顔面やられたのか、エグいな、三。


「巫山戯るなよ、顔中穴だらけにされて、はした金貰って、はい、手打ちだぁ」


「そのアマが、どうやったか知らねえが、俺達兄弟の面をこんなにしたって聞いた。その落とし前がついていねぇ」


「馬鹿野郎!ついたんだよ!親父が手打ちを決めた。テメエ達、親に逆らう気か?意味分かってんのか、あぁ」


  おお、ヤクザだな!
(ヤクザだね、少し感激♪)


  ヤクザ者にゃ惚れちゃなんねぇ。
(これも渡世の義理にござんすってか)


「何が親父だ!こんな小娘に尻尾振りやがって、みっともねぇ」


「周家は見限った、俺達ぁ風月楼の田大哥ん所に鞍替えだ、分かったか!三下‼」


 おお、周兄やる気だよ、殺気を出してる。
(実際、周兄の実力はどんなもん?士に拘束させたから武術の実力はわからない)


 そこそこ。
(あっそう)


「おい、田。つまり、周家に喧嘩売ってんだな、買ってやろうじゃねえか」


「待てよ周大哥、別に周家と揉める気はねえ。俺は発端のその小娘に用が有るだけだ」


「だから、巫山戯るなよ。うちの客人にちょっかい出されて、はいよご自由に、なんて言うとでも思ってんのか!」


「人数見て言えよ、周大哥。今日を誰かの命日にするぞ」


「上等だァ!三下ァ‼ウグッ……」


「まあ、待て周兄」
飛び掛かる所に、首根っこを摘まんで止めた。コツが有るのだ。


「田とやら、わたしをどうしたいのだ。わたしも暴力は嫌いではないからな、力ずくの解決ならば歓迎だ」


「は哈哈!いい度胸だ小娘。なに、洛都で少しばかり名前を売ったそうだが、その鼻をへし折ってやろう。こっちの先生と仕合ってもらうぞ」


「そこの陰気な剣術使いとか」


「そうだ、勝てば水に流す。負ければ、まあ誰かの命日だ」


「か呵呵呵呵。馬鹿め!田とやら、死ぬがよい!…と言いたい所だが面白そうだ、死合ってやろう。
だが、その条件では不愉快だ、訂正するなら命日は勘弁してやろう」


「口の減らない小娘だ!言ってみろ、遺言として聞いてやる」


「わたしが負けたら、まあ命拾いをそこな剣術使いに感謝して、わたしが勝ったら、皆殺しの憂目に合う不幸を、剣術使いに呪うのだな」


「殺れ!」
短気な奴だ。さて周兄、邪魔。


わたしは剣術使いの間合いから、周兄を蹴飛ばした、ごめんよ。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く