武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

外道が過ぎるわよ、旱導師

 周乾物卸で金一両を両替してもらった。


 今月も先月同様、金一両が銭二千五百匹だ。


 ジャラジャラするのも何なので、丁稚に長い革紐に千枚づつ通させた。


 短い革紐には百枚づつ通させて、マルコ君に銭五百匹持たせた。


 わたしは二千枚胴に巻く。


 やはり邪魔だ、周家に戻ったら千枚は背負子に入れておくか。


(来るときは、全持ちだったからね。所で大姐、貴女長旅は初めての筈だけど、妙な所に詳しいのはなぜ?革紐とか、胴巻きとか)


(昔黄姐の所で読んだ、任侠活劇物の冊子にそんな事が書いてあった)


(また雑誌かよ)


(雑誌馬鹿にするな、知識は知識だ)


 心通話中も、わたしは乾物に目を通す。果物の砂糖乾物は外せない。
 干飯ほしいいがある。乾物屋と言うよりは備蓄食糧屋だな。


 背負子の容積には限りがある。あれもこれもと云うわけにはいかない。


 結局、数種類の果物の砂糖乾物と、スルメ一束、干し昆布一束、干飯一升、炒り豆五合、豚干肉一束を購入した。


 丁稚に手間賃を渡して、周家に届けてもらう。


 今晩は、周家で送別会をしてもらう事になっているので、主賓が遅れる訳にはいかない。


 まだ、一刻以上時間がある。ここからだと四半刻もかからないから、余裕だな。


(連日の酒宴になるけど、控えてよ。貴女は酒癖が独特だから、周りが引く)


 流石に今晩は、杯を嘗める程度にしておくよ。




 周兄と丁稚に連れだって周家に向かう。


 大分様になった周兄の連経だが、油断すると経が散る。発声で気脈が乱れ、地祇が反復をしなかったり、拍子がずれる。


 ただ歩いているだけなら、何とか連経するが、会話が混ざると、途端に難易度が上がる。
 動作が加わると更にだ。


 わたしは、それを知っているから、雑談に興じた。これも鍛練だ。


 マルコ君の方は普通に歩いてもらう。荷物も増えたし、未発経の兎歩では疲れるだけだ。


 今は三拍拍子を気脈、血脈に馴染ませる事が先決だ。


「朱華娘々も出席するのだろ、昨日の詫びをしたいね」


 幼少の女児だ、本来酒宴に参加する事はない。


 だがわたしは、これから師事する南遨老師へ、推薦紹介する老師の一族だ、正式挨拶をしたいそうだ。


 いや、周兄の入れ知恵だろう、子供にそんな事を思い付く筈もない。


「昨晩は顔見せ程度だったが、どんな娘々なんだ?」


「厳夫人の子で、母違いの妹々になる。
 おっと!難しいな。
 俺とは歳が離れ過ぎているから、娘感覚だな、割りと活発な子だよ」


 経を散らしたな。と言うか、周兄は幾つなんだ。
わたしと同じくらいと踏んでいたけど、少し上の二十歳くらいかな?まあいい。


 それより小姐、すっかり忘れていたが、どうだ?いたか?


(いたよ、どうする?黒三に食べさせる?)


 さっきの地脈だ。周兄から妙な手応えがして、小姐に探ってもらっていた。




 考えてみたら変な話だった。いや、とっくに気が付くべきだった。大雑把なのも考えものだ。


 周兄との出会いで思い出したが、わたしは偽名で通していた。


 けど、周兄はわたしの二つ名を知っていた。つまり本名が割れていた。


 三下も知っている口振りだった。


 どこからだ。


 赤毛は珍しいが、全く居ない訳ではない、第一わたしは道中頭巾で髪を隠していた。


 偽名からわたしの本名が割れる道理がない。


 ……誰かが教えたしか、考えられない。


 広州に、全は商用で幾度となく訪れている。
 周家とも何度も取引が有ったと聞いた。


 全を殺して呑気に構えていたが、糞導師の手下は全だけとは限らない。


 周家に何か仕込んでいても、おかしくない。


 その仕込みが見つかった。
 黒三に喰わせれば、何か分かるだろう。


 雑談を交わしながら、わたし達は周家に帰宅した。丁稚に礼を言い帰らせる。


 下人に荷物を運ばせ、わたし達は客用応接室に進む。


 朝にマルコ君とお茶をしていた所だ。


 さて。


「周兄、変な頼みをするが聞いてくれるか」


「なんだ?唐突に、まあ、俺に出来る事ならば」


「全と取引が有ったと聞いた、取引の帳簿が有れば調べてもらいたい」


「本当に変な頼みだな、何だそりゃ」


 小姐、替わって、左道関係は説明できない。


「こんにちは、周勇さん、可狐よ」


「うっ、狐殿か、こんにちは。一体何が」


「マル吾子も♪そうそう、マル吾子用に黒靈を作るけど、名前をね考えて欲しいの。こちらの言葉の名前が良いな♪」


 説明!


「こんにちは、えと、師匠?」


「師匠!良い響きね、可狐師匠が良いかな♪」


 だから、説明!


(良いじゃない、少しくらい)


 後で替わってやるから。左道指南するんだろ、その時に話を詰めな。


(了解♪何から仕込むかな♪やっぱり尊敬を得られる……)


 説明!


「仕方ないなぁ。周兄、貴方に黒靈が打ち込まれているわ、頸裏に。多分周家の主要人員全員に、かな?」


「なっ、黒靈って昨日の化物の仲間か!」


「もっと単純な奴ね、ただ悪辣。いやぁ旱導師、外道だなぁ」


「なに?死ぬのか、俺達?!」


「いや、命に別状は。ただね、魂が食べられてる、その黒靈に」


「なっ!!」


「いや生きてる限り、魂は質量が増えるから大丈夫だけど、外した方が良いね」


「外れるのか、ならば外してくれ」


「その前に帳簿を調べて、黒靈の用途を知りたい」


 周兄は急いで帳簿を取り寄せた。全関係だから人身売買帳簿だ、全の取引枠内の金額を見る。


 ……やはりね。


「周勇さん、全の取引、不自然じゃない?」


「……いや、普通じゃないかな」


 うわ、本当に外道だわ。


「これで?これだと、売り買いに周家に儲けが無いし、取引の意味が有るの」


「商売はそんな物だよ、時に損切りも必要だし、採算を度外視して入荷する事も有るよ」


 あらら、でもこの思考誘導術使えそう♪
 黒三、周勇に打ち込まれた黒靈だけを吸収して。


 霧状になった黒三が、周勇を包んだ。
 可視状態に無いから、周勇はポカンと阿呆面をさらしている。


 ……取れた。


「さて、周兄。もう一度帳簿を確認して」


「何度確認し……何だこりゃ?右から左じゃないか、これも、この件も、これも、何故だ」


「正常に戻って何よりね。もう黒靈は憑いてないよ」


「つまり、俺達に憑いてたのはこの為に」


「そうね、術者の全に思考誘導されていた。特に不自然に感じて無かったでしょう」


「ああ、恐ろしいな、親父にもか」


「多分ね、全と面識が有る人は危ないかな。
 ……本来はね、こんなに長い期間黒靈は使役できない、途中で散ってしまう。
 そこで対象者に魂を喰らわす。生霊しょうりょうに寄生すれば黒靈は散らない」


「何て奴だ、外道だな。俺の意思を奪う為に俺の魂を使うのか」


 ごめん!そのヒントを旱導師にやったの私。


 死霊は生体に憑依しても、生体の方に感知しようが無いから、術者によっては、やりたい放題なのよ。


 ……うん、術式は分かった。黒三は私の準分体だから、取り込んでしまえば私にも分かる。


 全は死んだから放置でも問題ないけど、折角の黒靈だから全部いただこう、三は分霊させたいし。


「送別会の時に、憑依した黒靈は全部食べとくね、怪しい人は全員参加させて」


 周兄は“分かった”と答えた。

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