武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

よし、久し振りに今日は呑もうか

 周大人はすぐに会ってくれた。
 商談を詰めるのだから、仕事ではあるのだが、やはりわたしの安否が、気になっていたらしい。


 金五十両、運用は一任。利益は折半、損失は泣きだ、分りやすい。
 ただ、わたしの配当の半額は貯蓄してもらい、もう半額はそのまま投資金に回してもらった。


 その旨の契約書を作成し、お互いに署名した。


 ついでに、沙海までの乗船代金を支払い、沙海から天湊までの船の手配依頼書を書いてもらう。


 沙海の支店用だ。沙海で天湊行きの船を探してもらうのだが、本職の人に探してもらうのが早い。
 商船が望ましいが、無ければ仕方ない、旅客船を探してもらう。


 いくらなんでも距離、時間的に、容疑者に過ぎない偽名のわたしを、指名手配などしていないだろう。


 州を跨ぐ諸々の手配の場合、州知事の承認と首都洛都の、それぞれの省庁長官の承認が必要になる。
 この場合だと、治安維持庁か。


 話が飛ぶが、治安維持庁長官の郭价様は、老師の門弟の一人で、幼少時より面識がある。


 例の謀反騒動の時や、敵性士大夫検挙時に世話になった御仁だ。


「胡殿、こうして無事に帰還されたのですから、南遨家での首尾は上々だったと思われますが、よろしければ聞かせてはいただけないでしょうか?
 その、話せる範囲で構いません」


「色々としがらみが有るので、伏せる部分も有りますがそれで良いのなら」


「おお、有り難い。何分、南遨家は武林としても、侠の認識でも、いささか違うので、勇を通じ手探り状態だったのです」


 まあ、そうだろうな。南遨老師は太老師の影響下にあったのだから、武門意識が強いのだろう。
 正直な所、首脳三者共に武門寄りだ。今回の事で多少は意識変化があるだろう。


 高師範に期待だな。


「南遨家は大きく変わりますよ、具体的には、女子部門が開設され、その指導に南遨老師自身が当たるでしょう」


 多分。


 ただ、門下生が集まるかどうかだ。
 極拳の強みは、兎歩に有り、確かに健康面に効果的な基礎動作があるので、他の武術よりは集めやすい。


 だが、女子部となるとどうだろう。


 三連経に達するには、寝食を忘れる程の鍛練が必要で、そもそも女子に武は不要との風潮が根強く存在する。


 折角南遨老師が気力を立たせたのだ、応援したい。


「それは、誠ですか!だとすると南遨家と強いつてを作る機会です。
 胡殿、極拳とはどれくらいの年から始められる物ですか?
 勇は入門が遅くて、参考にならないのです」


 ムッ意外な好感触、南遨老師の人脈を加味していなかったな。


 そう言えば、医師殿が対外的云々と言っていたが、わたしの想像以上に亮順様はここの名士なのかも知れない。


「わたしは六歳から始めました。最初は基本歩法しかしないから、五歳からでも大丈夫でしょう」


「おお、それなら末娘に入門させられますな」


「そういう事ならば、わたしが南遨老師に推薦状を書きますよ、まあ、高師範につての有る大人には、不必要かも知れませんが」


「いえ、是非ともお願いします。
 胡殿は南遨様と縁続きとか…時に南遨家とはどれ程のご縁なのですか?」


 まあそうだ、考えてみたら続柄までは話していなかった。


「亮順様の姪になります。御目にかかるのは今日が初めてですが」


「なんと!……すると洛都の御本家の」


「遨家とは遠縁だったのですが、当代当主、遨京馨様の養子に迎えられたので、南遨家とも縁続きになったのです」


「た、大変御無礼を働きました、この通り謝罪いたします」


 周とやらは、最上位礼の謝罪をしてきた。


 ……これが嫌で、わたしはなるべく身柄は明かしたくないのだ。


 別にわたしは貴人でも何でもない、偉いのは主上に目通り叶う程の功績を上げた、遨家の先人達だ。


 官位に伴う敬意を受けるのは、当主である母さまであって、わたしではない。


 ましてや、わたしは勘当中である。


 ……まあ、そこは黙っておこう。


「周大人、お止めください。わたしは周大人の商取引相手であって、敬意を受ける者ではないですよ、かえって恐縮してしまいます」


 そんなやり取りをしていると、酉の刻鐘が聞こえた。
 周とやらは話しを変えてきた。


 そこら辺は商人だ、わたしに価値を見出だしたのだろう、接待方向に風向きが変わった。


「いかがですか胡殿、少し早い時刻ですが、お食事でも。ここ広州は交易が盛んで、変わった食材や香辛料を使った料理屋が多いのですが、ご案内しても宜しいでしょうか?」


 乗った。やはり地元民のお奨め店が一番だ、文字の壁もある、点心や軽食は堪能したが、本格的な料理はまだだった。


(南遨家では仕合だったから、和気藹々に食事会って訳にはいかなかったしね。
 それより、私も食べたいから、たまに替わってよ)


 そりゃもちろん。


 そうだ、たまには酒にしよう、道中一合たりと呑んでなかったし、今日くらい呑もう。


(そこそこにね、明日もやることがあるし)


 家族会議の結果、全力で接待を受ける事になった。
 内緒にしていたが、わたしはかなり酒好きだ。
 あまり強くないが、あの胃が焼ける感じが好きだ、酔いは余計だ。


 いや、胃が焼けて、ほろ酔いするまでが好きだ。肴も美味しく感じるし。


(いや、肴だけを食べてよ、蟋蟀コオロギ飛蝗バッタや大蟻とか木の根とか、変な雑草とかは絶対食べないでよ、体を借りた時、後味が残っているのよ!)


 なんでよ?蟻は食材だし、普通に美味いだろが。

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